分水嶺 そのに
意気衝天とした第一陣は、城門前の防壁に陣取る帝国軍と激突した。
なんつ~か・・・シュルツ殿の働きが凄まじい。巨大な剣を振り回すのではなく『振り回される』事を軸に体術を組み合わせた、非常に異質な剣術を用いて居る様だ。巨大な剣を遠心力を用いて振り回し、斬り込んで刃先が止まると共に蹴りや当身を見舞う。そして蹴りの反動を利用しまた剣を振るう・・・その繰り返しなのだが、豪剣かと思えば精妙な剣でもある・・・剛柔一体とはこの事か。自らに飛び込んで来る魔法も、実体弾型は全て回避し、魔法力型は魔法障壁で無効化する・・・この見極めも絶妙の極みに到達して居る。あのアホづ・・・個性的な容姿からは想像も出来ないが、流石に『剣聖』を名乗って居ただけは在りますなぁ。
そんな『剣聖』殿に負けず劣らず、配下の戦闘狂達も恐ろしく強い。腕が吹き飛んだ位では勢いは止まらず、血溜まりに倒れ伏して尚敵の足に食らいつく・・・と言う様なイカレっぷりだ。それに対し帝国の戦意は下がりっぱなしで、抑える事は全く出来て居ない。撃ち倒しても撃ち倒しても向かって来る、謂わばゾンビの様な敵兵達だもんなぁ。それでいて動きは俊敏で着実に命を狙って来る・・・帝国兵に同情するよ。
城門前の帝国兵が約3000程度で在ったが、『オーグル』が支援する間も無く『空賊』の先陣が撃破した模様。帝国側の被害はほぼ全滅、『トロール族』が守備隊の中に居なかったってのもあるだろうが、『空賊』の戦闘能力が突出して居た結果だ。『空賊』の損害は1割程度であろうか?倒れ伏した大半が第二陣の魔法士部隊が救済した模様。うぬぅ・・・今思えばこの為の布陣だった様だな。頭部直撃や即死した者以外は総て治療された様だ。『空賊』戦力はコチラの予想以上に強いな。
そして、戦闘狂達は城門前で待機中。幾ら戦闘狂達でも、高さが20メルト近くある城壁と、30メルトには届きそうな城門を打ち破る事は出来ず、現在は再編中。
さて、漸く『オーグル』の見せ場ってトコだな!
「良ぉ~し、予定通り主砲で城門をふっ飛ばすぞ!フェルッ!?用意は出来てるか?」
「モチのロンでさぁ~。コイツをぶっ飛ばすのが楽しみなんスよっ!」
フェルの奴とは本当に気が合うな。精神年齢が近いんだろうな。
「ヨッシャ~ッ!主砲発っ・・・」
そう言い掛けた時に、タマから報告が有った。
「じょ、城門付近に強大な魔法反応だにゃんっ!こんな規模の魔法にゃんて、見た事も聞いた事も無いにゃんっっ!!」
は?魔法だと・・・?あ、まさかレニヨン殿か!?
「城門付近に巨大な魔法陣出現ですわっ!」
ユーリィの報告で城門付近を観てみると、巨大な魔法陣を中心に、大小様々な魔法陣が多重展開されつつあった。
「魔法陣って多重展開とか出来るんスね・・・言い伝えとかでは聞いてたっスけど(ゴクリッ)・・・眼にするのは初めてっスよ・・・」
フェルの奴が生唾を飲み込みつつ、心底驚嘆したかの様に呟いて居た。
魔法にかけてはスペシャリストの『エルフ族』ですら口伝のみとは・・・。
「上空より巨大な質量の物体が飛来中・・・にゃんっ!?」
タマの声で我に返り上空を映し出す『魔法投影』を見てみると、巨大な燃え盛る火の玉がコチラに向かって落下して着て居た。
こ・・・これはアレか?ファンタジー世界での禁じ手魔法の一つである所の『メテオ』とかの隕石落下魔法か?しかもあの大きさとかマジかよっ!浮空島そのモノを吹き飛ばす気か?ってか、友軍諸共に焼き払うツモリか?そんなに人間社会に恨みでも有ったのかね?あのヒッキーは!?
「そ、総員、対ショック態勢を!ポーラァァっ!艇首を城門に対して垂直に取れっっ!」
かなり声が引き攣って裏返るがそんな事を気にしてる場合じゃない。ヤバイ、アレはヤバイ!
『メテオ』らしき火の玉を確認してから数秒程度であろうか?時間にしては僅かな時間だが体感的には非常に長く感じられた時間が経過し、巨大な火の玉が城門に直撃をする。
しかし、予想して居た衝撃波も爆熱もコチラには届かない。巨大な魔法陣を取り囲んで居る大小様々な魔法陣が爆圧を完全に封じ込めて居る様だ。封じ込められた爆圧は真上に噴き上げて居る。その噴き上げられた瓦礫やら爆熱は、城門の真上に出現して居る巨大な魔法陣の中に吸い込まれて行く・・・。
「しょ・・・召喚系と結界系と転移系魔法の同時使用っスか・・・こ、これが『大魔法使い』の称号持ち・・・っスかぁ・・・。正直、っパネェっスわ・・・」
あの衝撃波やら瓦礫やらは何処に転移させてるんだ?まさか宇宙空間とか無いよな?な?な?
その答えは直ぐに判明した。要塞化された街に、凄まじい加速度を得た瓦礫が降り注ぎ始めたからだ。街の上空を見ると巨大な魔法陣が出現し、そこから瓦礫を噴出させて居た。音速を遥かに超える瓦礫は、要塞と化した街並みを容易に破壊し蹂躙して行く・・・。
「ギャ~~~~~ッ!!街がぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!なんつぅ~事をををををををっ!」
今度は衝撃の余りに声が裏返る! あのヒッキー魔法使いは碌な事をしやがらねぇな!何の為の白兵戦での占領なんだよっ!施設に傷を付けたくないからじゃ~んっ!んな事したら、修繕費に幾ら掛かると・・・クッ、この辺りの費用は総て『空賊』持ちだな!
余りの強大な魔法に指揮所が沸きかえって居る中、色々な衝撃的事実に独り萎えまくって居るとユーリィから報告があった。
「艇長!レニヨン様から通信ですわっ!」
え~様付けかよ・・・。魔法士として感じ入るモノが有ったみたいね・・・。かと言って繫がない訳にも行かないよな。しかし、なぜ俺の所に?ナタリアさんに繋ぐのが筋じゃね?
「あぁ、繋いでくれ」
「了解ですわっ!」
あぁ・・・胃が痛ひ・・・。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
おや?
「あ~ユーリィ、繋いでも良いぞ?」
「え?繋いでますわよ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
あ~そうだ。無口か何かだっけな・・・そういや・・・。って、何の為に繋いだんだ?アイツはぁっ!
「あ~申し訳ない。レニヨン様の副官のグレイスだ。レニヨン様のお言葉を翻訳させて頂く」
翻訳ってなんなんだか。
「5年振りに魔法を使って疲れたので艇に戻って寝る。今回の報酬は貴方の手料理ね?報酬が無い場合は貴方の艇にさっきの魔法を撃ち込むわよ?・・・以上だ」
ブッ!!なんじゃ~そりゃぁ~。しかも、何故に俺なんだ?
「む。スマンな。レニヨン様はああ言うお方なのでな。まぁ宜しく頼む」
ここで断わ・・・れたら苦労はしないよなぁ。
「リ、リョウカイデス。ゴキタイニソエルカハワカリマセンガ・・・」
「いや、快い返事で助かるよ。うむ。それでは又の機会にな。異世界の識者よ」
いや、まぁ・・・どうにでもしてくれ・・・。
「あっ!!」
今度は何だ?
「どうした?フェル・・・?」
「オイラ達の見せ場を完全に奪われちまいましたっス・・・」
「あっ・・・」
はぁ・・・なんてこったぃ・・・。コイツらに支援は必要なのだろうか?『オーグル』の存在意義が希薄に・・・。
余り引き伸ばすと『数日後』に成らなくなりそうなのでUPしておきます。
いや~眠い・・・誰か時間を分けて下さい。