章間話 飛翔艇指揮官の目線
『オーグル』が敵要塞に痛打を与え、敵を引き付けつつ抜けて着た。上手い具合に敵艇は眼下に良く見える。
「ほぅ、ボウヤも中々やるじゃないか。さて、次はアタシ等の番だね・・・」
そう独り呟くと、通信機を全機への送信にした。
「聞いてるかい?アタシの可愛い子供達!ヒョーエのボウヤが男を見せたんだ!次はアタシ等の番だよ!抜かるんじゃ無いよ?帝国の糞野郎共に眼に物を見せてやる良いチャンスだ。さぁ、蹴散らして来な!」
その命令と共に、上空待機して居た『飛翔艇』の第一波が一気に躍りかかる。
瞬く間にトップスピードに到達すると、各飛翔艇から『岩石弾』の弾が射出される。猛スピードから放たれる重量弾は、浮空艇の外部装甲を容易く貫き内部で破砕する。その衝撃で、空中に在る艇体が大きく傾ぎ、上下に揺さぶられる。
「ハッハァ~ッ!やはりこの艇は凄いね!何か、こう、血が滾るってモンさ!魔力溢れるエルフに生まれて良かったよっ!」
続いて第二波、第三波と波状攻撃を仕掛けて行く。
圧倒的な優位を保つ『飛翔艇』の中でも、ズバ抜けた動きをする一団がある。
その一団の数は15艇程。スカイを含む全員が『鳥人』で構成された突撃部隊『グングニール』だ。
上空から複数の敵艇の間をすり抜けつつ頭から殴り付ける様に攻撃し、反転し上昇しながら敵艇の下腹に攻撃を当てつつ上昇する・・・まるで大海原で獲物の群れに食いつく肉食魚の様だ。
固まって居ると思ったら、素早く散開し攻撃を行い、また見事に集結して狩りを続けて居る。その動きに一片の無駄もなく、編隊飛行の余りの素晴らしさに見惚れてしまう程に。
「あの艇は・・・スカイの奴かっ!?チィッ!やるじゃないかぃ!アタシらも負けちゃ居られないねぇ」
そう思いつつ艇を操るが、やはり『鳥人』に比べると何処かぎこちなさは否めない。
「クッ!生身の戦いなら負けないのにさ!」
攻撃に注視する余り、回避を疎かにする。あっと気がついた時には敵の砲門に魔法の光が灯り、明らかに直撃コースに乗って居た。
「や、殺られるっ!?」
一瞬身を固くし直撃に備えるが、直撃したら速度が高い為、木っ端微塵と成るのは必然だ。しかし、予想して居た衝撃は来ない。
ふっと敵の方を見ると、その艇体に幾つもの『岩石弾』が突き刺さって凹み、穴だらけとなって居た。
「飛翔艇指揮官殿!油断大敵ですな!指揮官殿に死なれては皆が困るである!」
スカイからの通信に、熱くなった頭に冷静さが戻る。
「スカイ!助かったよっ!この礼は必ずするよ」
「フハハハハハッ!期待しないで待ってるである!」
相当に興奮していると思われるスカイの物言いにまたカッと熱くなるが、先ほどの事を思い出し冷静さを取り戻すように努力する。
「冷静に・・・冷静に・・・ボウヤに笑われちまうよ・・・」
落ち着きを取り戻すと、周囲の状況が見えて着た。
落ち着いて周囲を見回すと、明らかに深追いし過ぎて居る艇がチラホラと見受けられた。
自分が指揮官である事を思い出し、慌てて全艇に呼びかけをする。
「深追いはするんじゃないよ!ヒョーエの言葉を忘れたのかぃ!?」
注意を呼びかけたが返って来た返信はあまりにも無謀なものだった。
「姐さん!逃げる様な惨めな奴らに止めを刺してくるだけでさぁ~。速度も火力もコッチが上なんだ、間違い無く沈めてきやすぜ!」
「『鳥人』達に負けたとあっちゃ~『エルフ族』の名が廃るってモンでさぁ~」
「そうそう。サクッと殺ってきますから大丈夫ですよ」
『コイツらはさっきまでのアタシと一緒だ・・・エルフ族の血ってのは厄介なものだね』サーシャはそう思い、ヒョーエの教えが頭を過る。
「深追いは厳禁だ!敵の逃げ道を絶ってどうするのさっ!」
「大丈夫ですよ。目を瞑っていたって当たりゃしないですぜ」
「ハハハハハッ!」
明らかに深追いしすぎて孤立した事に気が付かない『飛翔艇』達。
そこに、待ち伏せするかの様に木々に伏せて居た新たな浮空艇が浮上して来た。
突然の進路妨害に『飛翔艇』の1つが避けきれずに正面衝突を起こし、双方ともに粉微塵に砕け散る。
「クソッ!だから言ったじゃないか!損害を出しちまってボウヤになんて言えば良いんだぃ・・・?」
深追いして居た複数の『飛翔艇』は慌てて散開するも、雨霰と放たれた弾幕に捕らえられ破砕して行く。
「チッ敵の新手だよ!どうやら敵の新型みたいだ!抜かるんじゃ無いよっ!」
その浮空艇は、プロペラ推進なのは変わらないが、対飛翔艇と思われるハリネズミの様に対空砲を備えた艇体をしていた。その余りの弾幕の凄まじさに『飛翔艇』は近寄れず、速度差はあるものの逆に追い立てられる状況になった。
回避をし損ねた数艇が、又も新型に喰われて破砕する。
「チッ!こういう場合はどうするんだっけ・・・?もう少しボウヤの講義を真面目に聞いておくんだったよ・・・」
今更後悔しても後の祭りである。そうこうしている間にも『飛翔艇』は追い詰められていく。
その時、敵の新型に『岩石弾』が着弾し、大きく傾いだ。周囲を見回しても友軍の姿は無い。姿はないが次々に弾着は増えて行き、新型の1艇が耐え切れずに地表に降下して行く。その降下していく艇にも岩石が降り注いで止めを刺す。
「ん?降り注ぐ・・・?」
ハッと気付き、遙か上空に目をやると、複数の『飛翔艇』が敵の射程外から縦に回転するかの様に次々と『岩石弾』を投下して居た。
その総数は15艇程。どうやら『グングニール』の様だ。効果ありと見た為か、更に複数の『飛翔艇』が『グングニール』に追従し高高度攻撃を開始し始めた。
遥か高空からの攻撃に為す術もなく、敵の新型は次々に沈んでいく・・・。
「スカイかぃ?またしても助けられたね!」
「ハハハハハハッ!この程度お安いご用なのである!礼はヒョーエ艇長殿に言って欲しいである。彼から聞いてた戦術ですしな」
その言葉に内心冷や汗を垂らすも、努めて冷静を保った。
「ボウヤには助けられっぱなしだね・・・でも、損害を出しちまったけど大丈夫かねぇ・・・。ナタリアにも叱られそうだし。はぁ・・・どうしたものかねぇ・・・」
「過ぎた事を悔やんでも仕方ないであるな。ヒョーエ艇長殿も言ってたである『世の中、成るようにしか成らない』と、ですな」
「あのボウヤも、前向きなんだか後ろ向き何だか判らない所があるさね」
「全くである。そこが楽しいところであるな」
「あぁ、それはアタシも同意するよ」
そんな会話の間にも、敵の新型は全滅する。
サーシャは全艇へ通信を出した。
「漸く終わったかぃ?損害が出たのは悲しむべき事だが、悲しんでも居られない。暫く別命あるまでは敵の残党を燻り出すよ。決めた通りに探索班と援護班に分かれて敵の捜索。ここで抜かって落とされた奴はアタシが絶対に許さないからね!覚悟しておきなよ!!」
当面の敵を討ち果たし、残るはアナピヤの制圧戦だ。
「ま、後はボウヤが上手くやるんだろうねぇ。『空賊』とボウヤに任せて、空いた時間は身体でも鍛える時間に充てるとしようかね?」
その時、『呑龍』と『オーグル』の間で交わされて居た通信の内容は、サーシャには知る由もなかったのだが。
ひ、日付が変わるまでにUP・・・出来た・・・かな?
これはサーシャさんの目線ですが、スカイの目線もUPしたい所。
まぁ、数日後位に・・・。




