反撃開始 そのじゅう
極太の紫電が要塞に突き刺さり、艇首を振る事で効果範囲を拡大する。
付近の敵浮空艇や友軍には、巨大な雷の剣が、要塞を切り裂いて居る様に映って居る事だろう。
魔法制御された稲妻の温度は自然界の稲妻に匹敵する数万度に達し、自然界の稲妻が一瞬なのに対し、魔法制御の稲妻は比較的長時間を保つ事が出来る。その為、金属などを容易く溶融させる事が可能。当然、要塞砲の構成金属や操作する人がその温度に耐えられる筈も無く、紫電光を浴びた砲塔群は沈黙する。
「良し、敵の最大脅威は排除した。一時離脱し友軍と合流、態勢を整えた後、再突入をするぞ!」
流石に幾ら主砲が強くとも、ただの1艇で敵を駆逐出来る筈もない。動いて居る敵に線の攻撃を当てる事の難しさは、トルピード級で経験済み。ここは逃げの一手だな。
この一撃で『オーグル』の性能は見せ付けたので、正直この戦いには参加しなくても良いのだが・・・まぁ、そうも行かないだろうな。浮空島制圧戦には、ガンバードとして参加しないといけないだろうし。
防衛拠点への攻撃を許した帝国の浮空艇が、コチラが1艇のみと見るやワラワラと集結しつつ有る。間抜けな事に、伏兵として配置されて居たと思われる浮空艇までもが、地上から浮かび上がって着て居る様だ。
「速力最大戦速!地上600メルトまで降下しつつ離脱する!敵の一番分厚い箇所を突っ切る。対空砲座ぁ!適当に魔法をバラ撒け!派手に行けよっ派手になっっ!」
敵浮空艇を地上付近まで引き付けてしまえば、友軍の『飛翔艇』が狙い易くなる。多少の被弾は覚悟の上だ。その為の魔法障壁なんだしな。
敵の一番分厚い箇所は、パッと見でも30艇以上は存在する。皇国が戦えるだけの戦力を揃えて居たここ数ヶ月で、帝国もかなりの戦備増強を図った様だ。
「行け行け行け行けぇ~~~っっっ!」
空の戦いは、より高い位置を制した者が勝利する。帝国軍と『オーグル』は有利不利の立場にある。だが、此方は戦いを仕掛けて居る訳じゃない。ただ、素通りしようとしてるだけだ。
高位から覆い被さる様に帝国軍が突入して来る。この辺りは流石と褒めるべきか?ドンピシャで此方を仕留められるタイミングだ。
だが甘い!
「『トルネー機関』発動!切り抜けたら高度5000メルトまで上昇!切り返して再突入を行うぞ!」
再び超加速を行い、敵浮空艇群の真下をすり抜ける。勘の良い幾つかの敵艇は、魔法を凄まじい精確さで放って着た。どうやらコチラを真似たらしく『岩石弾』の魔法を放って着て居る様だ。『オーグル』の艇体から『ガンガン』とか『ゴスッゴスッ』等と言った音が聞こえて来る。貫通はして居ないみたいだが、気分の良い音ではないのは確かだ。もしかしたら外殻に歪が生じたかも知れん。『トルネー機関』の使用は、外殻のチェックが終わるまで暫くは無理かも知れんな。空中分解なんぞ起こした日にゃ~アッサリ沈みかねん。
敵の群れを抜ける際には、コチラの魔法も敵の艇に炸裂する。派手さを重視して『火球』の魔法メインの為、大した損害は与えられて居ない様だ。だが、目眩ましにはなったとは思う。魔法の応酬が幾度と無く繰り返され、その間にも『オーグル』の被弾は増えて行く。被弾音は心臓に悪い事この上無いな・・・。しかし、速力に差が有り過ぎる為、追撃を受ける事が無いのが救いだな。
圧倒的な速度にモノを言わせ、分厚い敵の包囲網をなんとか切り抜けた後に、上昇を開始する。
・・・うぬぅ。肋の調子が更に悪い・・・。
「ターニャ!コチラ指揮所。怪我人発生!至急指揮所まで来てくれ」
一段落した所でターニャを呼び出す。情けないが痛みを我慢するより治した方が早い。指揮所のメンバーは『誰が怪我をしたんだ?』的な表情で周囲を見渡したりして居る。
『オーグル』の現在位置は、アナピヤから約7000メルト付近に居る。遠目に『飛翔艇』が突入したのが見て取れる。『オーグル』が囮となり高度差を稼ぎだし、支援された形となった『飛翔艇』は、圧倒的な速度と数の暴力を発揮し、帝国の浮空艇が次々に破砕され炎上して堕ちて行く・・・一方的な戦いが展開されて居る。帝国が掴んだと思われる『飛翔艇』の性能は『練習機』の性能の為、事前に掴んだ情報以上の性能差に翻弄されて居る事だろう。
「怪我人は何処にゃ?怪我をする様にゃ戦闘じゃ無かった気がするけどにゃ?」
うぬ・・お前ら規格外とは違うのだよ!規格外とわっ!!
「あ~スマン。俺だ。ちと胸に痛み・・・がな」
俺の言葉にターニャは蔑んだような視線を向けて着た。
「はぁ・・・また艇長さんかにゃ?本当にひ弱にゃんだからにゃぁ・・・そんなひ弱でダメダメな艇長さんは、アタシに一噛りさせても良いと思うにゃ?」
ドサクサに紛れて何を言ってるんだコイツは?
「んな戯言は良いから治療を頼む。マジで痛いんだわ」
「はぁ~ミレーヌが機関長とやらににゃってから、アタシの仕事は増えまくりにゃ~。こんにゃに忙しいんだから噛らせてくれても良いと思うにゃ?」
んな小首を傾げながら言われても・・・クッソ~無駄に可愛いのが始末に負えん!キコエナイ、キコエナイ・・・アイツの戯言はキコエナ~イ。
俺が両耳を手で塞ぎ、口を大きく開け、目を閉じて首を左右にプルプルと振って居ると『ブツブツ』と何やら愚痴を垂れながらも治療をしてくれた。本当に働くのが嫌いな奴だよな。腕は良いんだけどなぁ・・・だからこそ心底惜しいと思う。
一時戦線を離脱した『オーグル』がマッタリとした時間を過ごす中でも、戦況は刻一刻と推移して居る。
再突入を行うまでもなく、遠目にも制空戦はほぼ終了したと見える。後は残党狩りを行いアナピヤ制圧戦に移行するだけだな。
「圧倒的ではないか。我軍は・・・」
独り指揮所で呟く。
ふむ。どんなに圧倒的でも損害が出てない訳は無いよな。被害状況の確認でもするかね。
「こちら『オーグル』戦隊長殿に繋いでくれ」
通信先は『浮空艇母艦呑龍』艇長のナタリアさんだ。一応は俺の上官と言う立場には成って居る。
暫く待たされた後、漸く目当てのお方に繋がった。矢鱈と怒号が飛び交い騒がしいが一応は会話は可能みたいだ。
「ヒョーエかぃ?さっきの突入は見事だったよ。流石アタイの見込んだ男なだけはあるね。でも、かなり被弾してた様だけど大丈夫だったかぃ?」
声がなんとなく優しい様な気もする。バックサラウンドに怒号が飛び交っていなければ、親しい間柄の日常の風景として成立して居ただろう。
「かなり騒がしいが、どうしたのですか?そちらの被害はどうなってます?」
少しの沈黙の後に返答があった。
「『飛翔艇』に損害だよ。はぁ・・・アレほど無理はダメだと念を押したのに・・・しかも墜ちたのは皆がアタシ等『エルフ族』だよ・・・ヒョーエの危惧した通りに成っちまったねぇ・・・。それに引き替え『鳥人』の優秀な事!嫉妬しちまう位に優秀だね。天性の狩人ってのは伊達じゃないねぇ」
ゲッ!『飛翔艇』がやられちまったのか・・・だからアレほど言ったのに。やられたモノは仕方ない・・・が、やるせないのもまた事実だ。
しかし、やはり『鳥人』は空の覇者たる能力を有してるのな。このまま『鳥人』が順調に評価を積み重ねれば、スレイとの約束も果たせそうだ。・・・俺のチカラじゃ無いから約束を果たしたかどうかは不明だけどもな。
「そ、それで損害数はどれ位になりましたか?」
聞きたくはないが、聞かない訳にもいかないだろうなぁ・・・。
「数は14艇。全体の1割近い損耗さね・・・え?何?チョット待っておくれ・・・」
うぬぅ・・・状況が悪いのか?
「クッ!どうやらもう1艇追加みたいだね・・・状況を見るに、頭に血が上って深追いした挙句、直撃を受けたって奴らが殆どさ。情けないったらありゃしないよっ!」
お、俺に怒鳴られてもなぁ・・・。
「他への損害は出ていますか?」
単座型の『飛翔艇』だからそんな過ちも起こる訳で・・・他の艇なら大丈夫・・・と、信じたい所ではある。
「アタイの母艦と「空翔艇』の被害は皆無さ。ここまで敵は来られないからね。後はデストロイヤー改に多少被害が出てる程度かね。アイツらは旧式艇に改造を施しただけだから仕方ない所だけどもね」
「被害の程度は?」
「『スレイヤード』が大破。向こう1ヶ月は戦線離脱だね。『ラキシス』『グレイシス』が中破。修理に1週間ってとこかね。『ティグル』『ヴァフィール』『ノルワール』が小破ってとこだね。小破は簡単な部品交換で直ぐに戦線復帰可能だね」
うぬぅ・・・やはり無傷で勝利って訳にも行かないか・・・。損耗は2割って所か、何とか許容範囲内か・・・。
しかし『エルフ族』の猪突猛進さは遺伝子レベルでどうにも成らないのな。アレほど叩き込んだはずなのになぁ・・・。
「それでは『空賊』達に連絡を。アナピヤを制圧しに行きましょう。『飛翔艇』は上空援護としてもう一働きして貰いましょう」
「了解だよ!ま、アイツらが到着するまで、ウチの子等にも暫し休息を与えてやらないとね。はぁ・・・ヒョーエと話せて良かったよ。んじゃ、また連絡をヨロシクね!」
「あいよぉ~ん」
制空戦は何とか勝利できたか・・・後は制圧戦かぁ・・・また大量の損害が発生しそうだな・・・。あぁ、胃が痛い。胃薬って、この世界にも存在するのかね?
制空戦がアッサリしているのは、章間の外伝的なお話に戦闘の詳細を出そうと思っているからです。
一応、ヒョーエ君の物語なので、その辺りのケジメは付けないとねぇ。
尚、外伝は、日曜日の日付が変わるまでにはUPしたいけど・・・コレばかりは。時間があれば・・・UP致しまするぅ。