反撃開始 そのきゅう
遠間に見てもアナピヤの要塞砲は大きく見える。
恐らくは、接近して着た艇を最大射程で叩き伏せ、速度の優位性を発揮される前に此方の戦力を削ごう・・・と、言った所だろうか?
諜報員を潜入させて情報収集をする事が出来れば良かったのだが、諜報員入り放題の皇国とは違い、帝国は徹底した人員管理を敷いて居て諜報員を潜入させる事が出来ない。帝国国民は『トロール族』以外は総て奴隷で在り、奴隷用の腕章って言うか認識番号入りの腕輪を身に着ける事を強制されて居る。毎日の点呼でその腕章がなければ連帯責任となり、その地区の者の総てが処分を受けるシステムだ。更に、見かけない者を密告すると処分の免除を受けられたりするシステムなども完備し、潜入しても密告により立ち所に捕縛されてしまう。その為、帝国の情報は殆ど入手出来無いと言った状況だ。
だが、帝国国内に入らなければ問題ない。
皇国隠密部隊の手の者が付近まで接近し、『遠見』を駆使して探って着た情報に拠れば、400サンチクラスの魔導筒で、それに相応しい威力があるそうだ。
直撃を受ければ、当然の事ながら此方は壊滅する事だろう。だがしかし、動けぬ要塞砲など恐れて居ては意味が無い。拠点攻撃用特殊高速浮空艇・・・それが『オーグル』なのだから。
「敵要塞まで、約22000メルトですわ!」
ユーリスが敵までの距離を目算で読み上げる。この辺りは、記録にあるアナピヤの大きさで判別してる様だ。
良し。そろそろだな。
「各員着席の上、固定ベルトを装着!身体強化系の魔法をありったけ発動だ!一気に突っ切るぞ!」
伝声管に向かいがなり立てる。ソレを合図に、今まで弛緩し切って居た乗組員が次々に着席を始める。
「各員に命ず!死ぬな!意識を保て!意識を保ったまま喰い破れ!以上だ」
さて・・・この艇で一番ひ弱なのは『人間族』の俺なんだよな・・・まぁ、軍人として鍛えてる訳じゃないから当然だしぃ~。・・・言ってて虚しくなるから虚勢を張るのは止めるか・・・。
「フェル!加速終了後、即座に魔法陣の交換。準備が出来次第機関室に報告!」
「了解っすよ~」
「ミレーヌ!フェルからの合図で艇首左舷噴射用魔導筒、並びに艇尾右舷噴射用魔導筒発動!艇を大きく振って最大効果を生み出せ!」
「ジンちゃん、まっかせてよ!」
「攻撃終了後は急速離脱しろ!サーシャさん達の分も残さないと、後で括り殺されるかも知れんからな!」
最後の命令の直後、艇内の各所から笑い声が聞こえて着た。うむ。良い感じに緊張感が抜けて居る。良い傾向だ。
こうした手順を確認して置くのは重要だ。俺が意識を喪失した時の事も考えて置かないとな・・・それ位、危険な行為だからなぁ。
「良し!『シュトルム機関』最大戦速!と、同時に主砲発射!到着目標、敵要塞砲直前!」
俺の命令と共に総ての『シュトルム機関』が発動。莫大な推進力を生み出す。ソレと同時に主砲が『嵐』の魔法を発動する。総推進力よりも主砲の『嵐』の方の威力が高い為、結構な速度で後退を始める。いわば主砲が逆噴射の役割を果たして居ると言う訳だ。
「『トルネー機関』発動!総員、対ショック態勢を採れ!」
『トルネー機関』とは、この世界で『オーグル』のみ搭載していて、その『オーグル』にしても2基しか搭載されて居ない、ミレーヌと共に開発した秘密推進機関である。『竜巻』の魔法を使用し、その推進力は『嵐』の比では無い。『竜巻』の魔法を使用すると特殊な捩れが発生する為、その力をどう逃すか・・・に、苦心した推進機関だ。
『トルネー機関』の推進力が加わる事で徐々に加速を開始する。しかし、その速度は通常の浮空艇並だ。
暫くその速度を維持して居たが、突如、猛加速を開始する。主砲の『嵐』の魔法の効果時間が切れた為だ。
「ぐぐ・・・ぎぎ・・・ぎ・・・」
身体強化系の魔法をフル発動してもこの苦しみ・・・全身が圧迫され、骨が軋み悲鳴を上げる。生身なら間違い無く潰れてしまうな。尤も、ひ弱な俺以外は生き残りそうな気もするがっ!
『魔法投影』に映しだされた景色がすっ飛び、猛加速を超越した超加速により、20000メルトの距離を一気に駆け抜ける。
計算され尽くした推進用魔法の効果時間 (この辺りはミレーヌに丸投げした)が切れ、側面噴射用魔導筒と推進用魔導筒を駆使し(主にミレーヌとその部下が)、その場で720°旋回をしつつ慣性を殺し減速をする。この変態機動により、胃の中の物をぶち撒きそうな気分に成った。予想はしてたが、コレはキツイ。
曲芸的飛行を駆使した結果、敵要塞までの距離が1000メルトを切った。そして、俺の意識は辛うじて保つ事が出来た。胸がムカムカする以上に、肋の辺りが矢鱈と痛いから、骨にヒビでも入ってそうだが。
「フェル!魔法陣の交換は終わったかぁっ!」
声を張り上げると胸が痛い・・・。
「もうちょいッス!」
主砲用魔法陣の交換は、リボルバー状弾倉の様に円形状に納められた魔法陣を、手回し用のハンドルを動かし交換を行う。『竜巻』の魔法の横に『雷撃槍』の魔法陣が並んで配置されてある。手回し式とは言え、エルフ族の筋力なら10秒もあれば交換可能だ。
「交換完了!いつでも行けるっすよ!」
「ミレーヌ!起きてるかぁっ!?」
ミレーヌが寝ていた場合、この作戦は失敗に終わり、我軍は壊滅的打撃を被るだろう。
「誰にモノを言ってるのさ!?ジンちゃんじゃあるまいし!」
う、ウグッ!言ってくれるじゃ~ないか!・・・事実その通りなので言い返せないけども!
敵の要塞砲は、まさか此処まで間合いを詰められるとは思って居なかったらしく、未だ砲口すら此方に向いて居ない。対空砲座も射程外と見え、撃ってくる気配が無い。
今が好機だ!
「・・・良し、主砲発射っっ!ミレーヌも頼むぞっ!」
「ウッス!」
「あいよ~っ!」
敵の要塞砲に先んじて、極太の紫電がアナピヤ要塞に突き刺さった。
あら?あらららら?
いつの間にかお気に入り登録が100を超えちゃってますなぁ。
微妙に増えたり減ったりしてるのが面白いところ。
ユニーク数と比較すると、どれ位の方がお気に入り登録てるのかが判り、なかなか楽しくもある。
登録してる方もしていない方も、何時も着て頂き有り難う御座います。




