反撃開始 そのはち
あぁ~・・・総てを投げ捨てて元の世界に帰りたい・・・それが叶わないなら誰も居ない所へ逃避行と洒落こみたい・・・それが今の俺の正直な気分だ。
あれから『空賊』の拠点を回り、盟主達を回収して来たのだが・・・何?この奇人変人大集合的な顔ぶれは・・・?
二重人格者のクレインさんが一番マトモなのね・・・。
その代表格は、オツムが逝っちゃってる元『剣聖』シュルツ・ホークウッド。
「クヒャヒャヒャヒャッ!良いじゃね~か斬らせろよぉ!大丈夫、痛くしねぇいからよぉ~」
そう言っては誰彼構わず絡んで居る。特にクレインさん中心に。あ~何だかんだと言っても、クレインさんは『剣聖』に好かれてるのかね?好かれる方向性は違うみたいだが。
そして、この大広間の隅っこで体育座りをして居る、白いジャージの様な特殊な服装に白い仮面を着けた年齢不詳の女性。
クレインさんに聞いた所、今の刻印型魔法陣が普及する以前からの魔法の遣い手で、真の意味での魔法使いである『大魔法使い』の称号持ち。魔法での肉体操作で600年以上の齢を重ねた結果、精神に変調をきたし引き篭もりのニートとなってしまった『大魔法使い』レニヨン・サーガルウス。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ここに来る前から一言も喋らず、意思の疎通が図れないが、一応は自分の足で歩いて居たから耳が聴こえない訳では無さそうだ。
そして、その壁際に座る『大魔法使い』を口説いて居る、やたらと痩身な赤髪の軽薄そうな男、自称『世界一のモテ男』イソラル・ホームテップ。
因みに、うちの女性乗組員達からは相手にすらされなかったと言う事実がある・・・いや、実力はあるんだろうけども、アレは無いな。
「おぉ~相変わらずレニヨンちゃんは存在が美しい~その仮面の下は更に美しいんでしょうねぇ。このボクに見せてくれないかぃ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「あぁ~そんな連れない事は言いっこ無しよ。キミとボクとで官能的な夜を過ごさないかぃ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
何と言うか、空回り感がハンパ無ぇんだが・・・。しかし、レニヨンさんは聞こえない位に小声なだけで、実は会話してたりするのかね?
大広間の中央には、並べられた料理を只管に胃袋に収める筋肉隆々な巨漢が居る。
顔中の刀傷がむさ苦しい顔に彩りを添えて、山賊の頭領・・・この場合は『空賊』の頭領だな・・・的な存在感バリバリの男である。
「もぐもぐ、ガツガツ、ハグハグ、クッチャクッチャ、ゴキュッゴキュッ」
凄い形相で、料理が親の仇とでも言わんばかりに只管食べ続けて居る。この拠点の炊事担当者が引っ切り無しに料理を運んで着て居るが、瞬く間に消えて行く。
異次元胃袋の持ち主である5人の盟主達の総元締め、自称『覇王』ガレアス・アーモナルド。
一体この様な状況で、どう話を進めれば良いのやら・・・誰かタチケテ~~ッッ!
暫く後、ガレアス氏は優に10数人前を平らげ落ち着いたのか、漸く此方に意識を向けて来た。
「おぅ。オメエさんが(もぐもぐ)俺達を呼び寄せた(クッチャクッチャ)張本人って訳だな(ゴクッゴクッ)」
他人と話す時くらいは料理から離れろよ!ってか、それだけ食って何故にそんなにマッチョを維持出来るんだ?普通は肥えるだろ?ガマガエルの如く!
「ハッ!ヒョーエ・ジンナイと申します。以後、御見知り置きの程を・・・」
「おぅ、それは良いんだがよ(ハグハグ)浮空島を喰える・・・もとい浮空島を譲って(もぐもぐ)貰えるってのは本当か?(プハァ~)」
「えぇ、間違い有りません。浮空島にしか無い美味しい食べ物も沢山在りますからね。それらも含め貴方方に進呈致します。条件は皇国との同盟関係。確かに難しい条件ですが、それに見合うモノは有ると思います」
ガレアス氏が『空賊』の元締めみたいだし、この人を説き伏せたら実質的に協力を取り付けたも同然だろうな。どうやって攻めたら良いのやら・・・。
「おぅ、良いぜ」
・・・・・・は?今なんと?
「良いぜ、俺達『空賊』は皇国に協力するぜ。良いな!オメエ達!」
「全く、何時も通りアッサリしとるのぉ。我らが親父殿は」
「クキキキキキッ!斬れるならどうだって良いさぁ~」
「浮空島の女の子を口説き放題に成るんだろ?今の拠点は男ばかりでむさ苦しいんだよね~もちろんOKだよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
最後が良く分からないが、一応は了承を取り付けたのか?こんなにアッサリしてて良いのかなぁ?まぁ、俺としては大歓迎だが。
「浮空島しか育たないって言うドラグル豆・・・ありゃ~美味かった。王族しか喰えないって言うクラマルの実も楽しみだよな。ぐひゃひゃひゃひゃっ!イマから涎が止まらんわぃっ!」
あ~食欲が総てを凌駕するお方なのね・・・ターニャと気が合いそうだな。ターニャを紹介して、その代わりに腕の良い治療士でも譲り受けようかな?
あの狂乱の盟主会から4日後、再びこの地に舞い戻って着た。初陣にして敗戦の地、アナピヤ戦線へ。
皇国第一機動艇隊の総ての艇がこの地に在り、そして遥か前方には、帝国に因る要塞化が推し進められる『浮空島アナピヤ』が幽かに見える・・・。
漸く此処まで陣容を揃えた。後は奪還するのみ・・・だ。
『空賊』達は、俺達が制空権を確保した後に到着する事と成って居る。彼らは未だ旧式艇だから、新型艇である帝国の浮空艇を相手には出来ないだろうしな。白兵戦力がいくら強力でも、載った艇を落とされたんじゃ意味が無いからな。
『空賊』戦力は、丸のまま浮空島に乗り込ませないと意味が無い。
さて、『飛翔艇』の運用はサーシャさんたちに任せて後は自分の仕事をするまでだ。戦術は叩き込んだが・・・エルフの血が騒がない事を祈るとしよう。
今こそ前回の借りを返さないとな。