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反撃開始 そのなな

「私にてがわれたお部屋は何方どちらかしら?」

 

 その女性は鈴の鳴る様な声でそうのたまった。


「艇長殿っ!あの美しい女性は一体全体、何処どこ何方様どちらさまっすかぁ~っ!」


 無意味にフェルの鼻息が荒い。


「へぇ~こんな女性がジンちゃんの好みなんだ~」


 ミレーヌ・・・何と言う恐ろしい事をっ!


「こんなに無駄に背が高いなんてわたちへのあてつけかちら?見た目はたちかに良いけども、こんなに背が高いんじゃ、たからの・・・ムグムグ・・・」


 ポーラァァァァッ!駄目だぁ~~~っ!その御方を刺激する様な事を言ってはぁ~っ!!俺は慌ててポーラの口を手で塞ぎ、その場から連れ去る。

 ジタバタと暴れるポーラの身体を抑えこみつつ皆から引き離し、懇願するかの様に耳元にささやく。


「駄目だぁ~あの人を怒らせてはならん。にらむだけで人を殺せるかもしれない鬼人きじんだぞ・・・このふねの全員が皆殺しにされるぞっ!」

「あら?『トロール族』を撃退ちた貴方あなたにちては随分弱気じゃな・・・」


 俺の眼が冗談を言っていない事に気づいたポーラも流石に黙りこむ。 


「そ、そんなにヤバイのかちら?」

「あぁ、ヤバイどころじゃない。アレに比べたら『トロール族』なんざ可愛いモノだ。あの持ち込んで来た武器を見ただろ?」


 その武器とは、3メルト近い鋼鉄製の柄に大人の頭ほどあるトゲ付きの鉄球が着いた、所謂いわゆる『モール』と呼ばれる武器だ。柄がやたらと長いメイス系の武器だと言えば理解は容易いだろうか?外骨格生物である『トロール族』にも非常に効果の高い武器であると思われる。脊椎動物が喰らったら、普通にミンチが出来上がるだろうな。捉えさえすれば『飛翔艇ひしょうてい』すら叩き落すかも知れん。しかも、それを実際にやらかしそうな所が心底恐ろしい。


「普段の軽口は容認してるがあの人外生物には控えてくれ。トロールの前で動けなくなってたポーラじゃ、睨まれただけで死にかねん。俺もやられたが、ハッキリ言って二度とアレの前に立ちたいとは思わん。アレは擬態ぎたいだ。食人植物は見た目の美しさや美味しい匂いで獲物を呼び寄せるだろ?アレと同じだと思った方が良い・・・」

「・・・・・・・・・」


 ゴクリと喉を鳴らしつつ沈黙するポーラ。俺は絶句したポーラを残したまま彼女の元へと舞い戻る・・・胃の痛みに耐えながら。


「あら?ヒョーエ艇長さん。先程の様なか弱そうな女の子が貴方あなたの好みなのかしら?だとしたら悲しいですわ・・・貴方の心にわたくしの入る隙間が無いみたいね・・・」


 彼女の目を見ると、明らかにからかいの光がある。フェル辺りなんかは凄い形相で睨んできているし、ミレーヌやスレイの絶対零度的な視線が死ぬほど痛い。横を見るとクリスさんの表情は絶望に満ちて居る・・・うんうん、クリスさんの気持ちは~~く理解わかりますよ・・・理解りたくは無いけどもな!


「クレイン殿・・・あまりにも行き過ぎたたわむれは御遠慮願いたい。さて、部屋ですが、副長室の隣が来賓室となって居ますので案内しますよ」


 そんな事実は無いが、一応空き部屋ではある。クリスさんが驚愕の表情を向けて着て居るが、ここは見なかった事にして置こう。彼女の面倒はクリスさんに見て貰うとしましょうかねぇ。


「あら?わたくしの名前に『殿どの』なんて付けて呼んでは嫌ですわ。でも、ヒョーエ艇長さんは気が利くのね、その様な所は好感度高いですわよ。その申し出、有り難く受け取って置くわ。この艇の中だと部下が居ないから伸び伸び出来るわねぇ~。それではクリスちゃん、色々と宜しくお願いしますわね」


 飄々ひょうひょうとした物言いに、クリスさんは一瞬鼻白はなじろむが、そこはこの『オーグル』の副長、苦虫を噛み潰した表情のままではるものの彼女を部屋へと案内して行った。その際に『ちゃんは止めて下さい姉上あねうえっ!』『良いじゃない、減るもんじゃ無いのに・・・』『って言うより、その言葉遣いは・・・』とか何とか聞こえて来る。

 うむ。結構、この猫かぶりが本性なのかも知れんな。


 ヤバ過ぎる同乗者を載せ、次の『空賊』の拠点を目指す。なんでも、その拠点にはかつては『剣聖』とまでうたわれた人が盟主をしてるらしい。

 

「シュルツにうのも久しぶりよねぇ・・・」

 

 次なる『空賊』の拠点に着いた所でクレインさんが呟いた。

 今なんか・・・『会う』のニュアンスが可怪おかしかった様な・・・?


「ここの拠点の盟主の方はシュルツさんとおっしゃるのですか?」

「えぇ、そうね。腕は良いのだけれど・・・まぁ、色々と・・・ね」


 一体何の話だろうか?凄まじく気になるのだが・・・。既に各拠点にクレイン殿から念話通信が飛んでる為、今回は攻撃される事も無く寄港する事が出来た。 


「あら?既に待って居るわね・・・かれ


 発着場には独りしか居ない。


「え?あの『草原の小人』がシュルツ殿で・・・?」


 草原の小人が『剣聖』だと?一体どう言う事だ?


 発着場にたたずむ彼は、草原の小人にしては大柄な身体に、身の丈の2倍はありそうな巨大な剣を背負って居る。ざっと見て2メルト前後位のごく有り触れたサイズの両手持ちの大剣だが、草原の小人が持つと巨大なつるぎに見えるから不思議だ。

 一応、乗組員の安全を考え、クリスさんと俺とクレインさんの3人で相対する。


 その『剣聖』様の発した言葉がこんな感じだった。


「キヒヒヒヒィィィ~~ッ!キサマかっ!何やら楽しそうな話を持って来たのハァッ!誰だ?誰を斬れるんだっ!何時いつだっ!何時斬れるんだはぁぁぁぁっっ!!」


 遠目では判らなかったが、近寄るとよだれやら鼻水やらを垂らして、ろくすっぽ風呂にも入って居ない様な、酸っぱい悪臭を垂れ流す御方でした・・・。


「え~~~と・・・クレインさん?・・・彼が『剣聖』様で?」


 なんと言うか・・・酷過ひどすぎじゃね?コレ・・・。


「・・・あ~と・・・シュルツの野郎は最愛の女性を目の前で救えなかったらしくてなぁ・・・それ以来こんな感じらしいのぉ」


 『オーグル』の乗組員の前では淑女しゅくじょっぽい振る舞いをして居たクレインさんだが、『空賊』の拠点の一つと言う事で、『空賊』用の言葉に戻してある様だ。


「その影響で少々壊れちまって、無差別殺人なんぞやらかしおってのぉ・・・各国で永久指名手配を懸けられてるわぃ。今じゃたたかいが生き甲斐みたいな奴じゃよ」

「ま・・・まぁ、戦えるのであれば問題・・・は無い・・・と、して置きましょう」

「この拠点は戦闘狂的な重犯罪者ばかりが群れを成して居る。確かに戦闘能力は『空賊』の中でも随一じゃが・・・儂等わしら恩赦おんしゃを与えるってのは、こう言う奴らをも無罪にしちまうんじゃが・・・その辺りも考えてるのかのぉ?」


 ふむ。まぁ、恩赦を与えるのは問題は無い。


「まぁ、問題ないでしょう。今迄いままでの罪をにするだけで、恩赦後に罪を犯した分までは責任は取れませんので。それに捕らえる事なんて現状でも無理なんですからね。無理な以上、手配されて居ないのと変わらないですよ」

「がははははっ!成る程のぉ。確かにお前さんの言う通りじゃのぉ」


 くだんの『剣聖』様は『クキキキッ!』だとか『クフックフックフフフッ!』とか、引っ切り無しにわらって居る・・・。


「え~と、一つ聞きたいのですが・・・彼を艇に載せても大丈夫でしょうか?」

「儂にゃぁ~何とも言えんのぉ・・・出来れば儂も嫌じゃわぃ。しかしのぉ、腕は掛け値なしに良いんじゃがのぉ・・・良いんじゃが、儂の中でのいたくない奴No1じゃからのぉ」


 クレインさんにこうまで言わせるとは・・・なんと言う狂人っぷり。

 よし、駄目だ。この拠点に盟主の方達を集めよう。


「クレイン殿。予定変更で。この拠点に盟主の方々を集めませんか?」

「おぉ~それは良い事じゃのぉ。そうしてくれると儂も有難い」

「いえいえ、お互い様ですよ」


 そうと決まれば話は早い。だが、この場をどう切り抜けるべきか・・・。


「シュルツ殿!貴方の様なお方を私の艇にお招きするのは少々心苦しく在ります。故に、他の盟主の方々を此方こちらにお連れしますので、しばしお待ち下さいませ」


 そう伝えると、『剣聖』様は急に不機嫌な目付きになった。


「きキキ斬れないのかぁぁ~っ!今、ぐっに斬れないのかぁ~っ!クフヒッ!クフヒフッ!クフヒフヒヘへーッ!」


 そう嗤いつつ膨大な殺意があふれ始める。この圧力プレッシャーはクレインさん以上かっ!


 え?なんかヤバくね?

 そう思いつつクレオンさんの方を見ると、既に『オーグル』へと乗り込もうとして居た。

 え?なっ!ちょっ!マジかよっ!?


「あ~シュルツ殿に斬って頂きたいのは『トロール族』です。私の様な小物ではなく、間違いなく斬り甲斐のある相手だと思いますっ!今暫しお待ち下さいませっっ!!」


 慌てて弁明と言うか説得を試みる。

 俺の言葉にシュルツ殿は先程に倍する圧力プレッシャーを叩きつけて来る。


「が・・・がふ・・・げ・・・」


 余りの凄まじさにマトモに息も出来無い・・・隣を見るとクリスさんでさえ息もえだ・・・これが『剣聖』の実力か・・・。


「クキキキッ!トロールだとっ!それは斬り放題かっ!」


 言葉どころか呼吸もままならない中、うなずく事で同意を示す。


「トロールどもを好き放題ぃぃぃぃぃぃっっっ!!キャハハハッ!たのしみだねぇ~。それまでお前さんは生かして置いてやんよ~っ!ヒャハッ!」 


 腐ってやがる・・・ここに来るのが早すぎたのか・・・。


 膨大な殺意は減るどころかドンドン増して行く・・・その時、いきなり腕を掴まれ、クリスさん共々担ぎあげられた。

 ふと見ると、逃げた筈のクレインさんだ・・・この凶悪な圧力プレッシャー下でも動けるのか・・・流石だな。最愛の弟であるクリスさんのついで・・・の可能性がして、気分は複雑だが・・・。

 そのまま艇内へと担ぎ込まれたが、艇の中でも殺意に因る圧力プレッシャーが充分にヤバイ。急いで伝声管に取り付き急速離脱を告げる。

 十分な距離を取るまで誰も言葉を発しない・・・舵を握るポーラの顔は完全に蒼白だ。『空賊』の盟主クラスがどんなにヤバイ生物ナマモノなのか、身に沁みて理解した様だ。しかもその発した生物は『草原の小人』である。同族の凶悪な程の殺意に、ひしがれて居る様だ。


 『空賊』との同盟・・・本当に正しかったのだろうか?

 今になって少々後悔しつつある・・・しかし、今更後戻りは出来んよなぁ。

 しかし、また・・・この世界、強い奴は天井知らずで強いんだが・・・そりゃ~魔法が発達する訳だわ。一般人じゃ魔法以外で太刀打ちは間違いなく出来ん。

 本当にこの世の中、成る様にしか成らんよなぁ・・・。

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