反撃開始 そのろく
『空賊』幹部の目の前で、かなり大きめの羊皮紙をバサリと広げた。
皇国でも門外不出とされる、『浮空島分布図』だ。当然ながらコレを無断持ち出しした者は極刑に処される程の機密情報である。
「コレが何かはお分かりでしょう。コレを公開する事が私達の誠意だと思って頂きたい」
流石の『空賊』達も、言葉が無い様だ。コレを手に入れたら浮空島を襲い放題になるしな。荒事ダイスキ~な方々には、垂涎の品だろう。
「コチラが皇国領、そしてコチラが帝国領・・・戦況はかなり厳しい状態です。その辺りは『空賊』の方達も掴んで居る事でしょう。帝国や皇国からの脱走兵も多いと聞きますので」
クレインさんの目付きはかなり険しい・・・視線で殺されそうな位に。
「ここが『タンピヤ』そして、ここが奪還予定の『アナピヤ』です。『空賊』の方々への真の報酬は、奪還後の『アナピヤ』と言う事になります。これは私の独断ではありません。皇王の認証も受けて居ります。そしてコレが証拠の割符となります」
俺は懐から、アダマンタイト製の皇国の紋章を象った割符を取り出した。
「クレイン殿は、私が売国奴をやろうとしてるとお思いでしょうが、このまま皇国が蹂躙され、数多の民が血に塗れるよりかは・・・との皇王の判断です」
実際は、説き伏せるのに半日を要したけどな。
「この『アナピヤ』の譲渡と共に、皇国の法を犯し『空賊』となった者達への恩赦も報酬に含まれます。少なくとも、奪還後の『アナピヤ』に住まいし『空賊』達への皇国執政官等からの干渉は一切有りません。独立した民として扱います。獣人国家と似た様な国家体制を築く事も可能でしょう、皇国に対しては逃げ隠れ住む必要性は無くなります。皇国とも実質的な同盟関係も構築される為、対帝国に関しては皇国の助力も得られます」
『空賊』の幹部達は期待感にざわめいて居るが、クレインさんは相変わらず険しい視線を送って着て居る。
・・・これは勘付かれたかな・・・?
「つまりはだ、皇国は『アナピヤ』奪還の報酬として、儂等『空賊』に浮空島の所有権を譲渡する・・・っつ~事で良いのかのぉ?」
「えぇ、貸与では無く譲渡です。しかし、対帝国に関しては、『アナピヤ』奪還後も『歩兵戦力』の供出が絶対条件となりますがね。ぶっちゃけた話、対帝国への共同戦線を張りましょう・・・と、言ったお誘いですよ。それに見合う報酬だとは思いますけどね」
これが現状で出せる最大の報酬だ。元は皇国所属とは言え、現在は帝国領。正直腹は痛まない。このまま座して皇国が滅ぶよりかは何倍も良い結果だ。現『アナピヤ』住人も、帝国の圧政下よりも幾分かマシだろう。希望者には皇国への移住も促しても良いしな。
「『空賊』の方達も、浮空島出身者が大勢居る事でしょう。慣れ親しんだ環境や浮空島でしか育たない植生群、故郷の味に思い馳せる人達も少なからず居る筈です。しかも、『空賊』達の一大補給拠点として機能もしますし、要塞化も可能でしょう。安くない報酬だと思いますけどね」
『空賊』の幹部達は完全に乗り気だが・・・やはり一番の曲者はクレインさんだろうな。相変わらず射殺す様な視線を向けて着て居る。心が弱いとそれだけで失神しそうだ。
「この浮空島の分布図を見る限り・・・『アナピヤ』は皇国にとっての防波堤の位置づけみたいじゃのぉ・・・つまりは儂等にその役目を押し付けるつもりなんじゃないか?」
チッ・・・気付かれたか。まぁ、全くもってその通りなんだよな。『空賊』たちの拠点となれば、皇国がこのまま直で攻め滅ぼされる確率が低くなる。現状が緩和出来るだけでもメッケもんだ。
「それも報酬へのリスクに含まれます。その為の同盟締結・・・と言う事ですから。制空戦なら私達皇国にお任せあれ。但し、対地戦闘は貴方方の協力が必要です」
「コレほどの報酬、儂の一存じゃ決められんのぉ」
「その為の手付金です」
「じゃが、この手付だけじゃ~ちと弱いぞ。どの道、儂等を食い潰そうとしてるのは間違い無いしのぉ」
まぁ、かなり無茶な報酬に見合う無茶な要求だもんな。
「そうですね。私もそう思います」
この辺りは一応は想定内だ。相手がもう少しおバカさんなら楽だったのだが・・・。
「ここからは私の独断となりますが・・・新型機関の情報・・・を追加で如何でしょう?アレを普通の艇に載せるだけでも、戦力は数倍に跳ね上がりますよ?」
今までのが皇国が出せる、一般受けすると思われる報酬。コレこそが真の報酬だ。世界中を飛び回る『空賊』だからこそ、道程の大幅短縮が出来る新型機関の情報は、喉から手が出る程に欲しい筈だ。
「ふむ。お前さんの独断か・・・」
「えぇ、元々は私の考案した推進機関ですからね。皇王へも話は通しやすいですし。『空賊』と同盟関係になれば襲われる事も無くなるでしょう。ならば教えた所で問題は無い。むしろ、教える事で戦力の大幅上昇も狙えますしね」
漸くクレインさんからの、刺す様な視線が止む。アレは正直、寿命が縮まるな。
「ふむ・・・どちらにせよ、儂の一存じゃ決められん。儂も正直、浮空島なぞには興味は無いが・・・新型浮空艇の情報なら欲しいからのぉ。襲撃にはあのチッコイ奴だけでもかなり優位に事が運ぶ」
「私達、皇国には手を出さないのが・・・教えるに当っての最大の条件ですけどね」
やはりスレイの暴走が良い方向に流れたな。アレだけの戦闘能力を見せ付けられれば、当然の流れだろう。
「その辺りは盟主会で決める事に成ろうて。して、返答の期限は何時かのぉ?」
「出来れば1週間以内ですかね?既に攻撃部隊の出撃準備は整って居ます」
「なっ!そりゃ~無理じゃぞ?一番遠い拠点まで、艇で一週間は掛かるからのぉ」
ふむ。ならば『空翔艇』なら2日あれば問題無いな。
「それでしたら、私共が送りますよ。私達の艇なら2日あれば到着します。ソコへ行き着くまでに盟主の方達を拾いつつ行きましょう。そうすれば期限内の返答も貰えそうですし」
「それも無理な話じゃぞ?各拠点の位置を知られてしまう」
「私達も浮空島の位置を教えますしね。それで誤魔化せませんか?」
「その為に儂にアレ見せたのか?」
驚きの表情を浮かべつつクレインさんが問い質して着た。
「さて、どうでしょうか・・・?」
俺はニヤリと笑いつつ答えた。
「がはははっ!中々やりおるわぃ。じゃが、ここでお前さんを殺してしまえば無茶も通ら無くなるのぉ!」
笑うと同時にクレインさんからブアッと、濃密な殺意の様なモノが膨れ上がる。息が詰まり、冷や汗が背中を伝い流れ落ちる。傍らに居るクリスさんでさえ動けない様だ。正直ここから逃げ出したい・・・逃げ出したいがグッと堪え踏み留まる。そして、クレインさんの顔を見返しニコやかに笑いかける。
「ふむ。効いて居ない訳じゃ無さそうじゃが・・・何がお前さんをソコまで皇国に縛り付けて居るのかのぉ・・・?異世界人らしいし、ソコまで義理立てする必要も無かろうに」
別に縛り付けられてる訳じゃ無いんだよな。
「強いて言うならば仲間・・・いや、『家族』の為・・・ですかね?」
息も絶え絶え・・・ってな感じで何とか応える。
「『家族』・・・とな?」
「えぇ、『家族』です。私の一番最初の艇の仲間は『家族』みたいなモノです。当然、今の艇の仲間も同様です。そして、その『家族』は皇国の民です。皇国に属する『家族』の為に命を張るのは当然でしょう?」
家族を殺されたんだ、何としてでも仇は取らないとな・・・。
「ふふふふ・・・がははははっ!良いな、『家族』の為かっ!その考えは儂等『空賊』に通じるわぃ!確かに艇の仲間は『家族』じゃなぁ」
先程迄の息苦しい程の殺意が霧散する。背中や脇がジットリと汗ばんで居るのが自分でも判る。こんな化物の集まりなのか?『空賊』は・・・そりゃ~強い訳だわ。
「えぇ、そうですな。家族の為なら多少の無茶は通さなければならないでしょう?」
クレインさんと少し分かり合えた気がする・・・気がするだけにして置きたいが。
「良し!判った。儂が取り成してやるわぃ」
何とか話は纏まったか・・・一時はどうなる事かと・・・。
「それは助かります。後、新型機関の性能も堪能して下さいませ」
「それも楽しみにして置くわぃ」
「それでは早速、出立の準備をして下さい」
「え?もう動くのか?交渉成立の宴はやらんのか?」
「時間が惜しいので動きましょう。宴は『アナピヤ』奪還後に盛大にやれば良いでしょう」
「残念じゃが仕方ないのぉ。クリスちゃん、道中を宜しく頼むぞぃ?」
完全に誂う様な口調でクリスさんに声を掛けて居る。
「姉上!良い歳してるのですから『ちゃん』付けは止めて下さい・・・」
「『お姉ちゃん』と呼んでくれたら止めても良いがのぉ」
「クッ・・・」
あのクリスさんが完全に弄ばれてるな。クレインさん恐るべし。
何とか話が纏まって良かった。後は、『空賊』全体の賛同を得られるのを願うだけか・・・ま、この拠点だけでも結構な戦力と成るだろうから、どうとでも成りそうな気もするけども。
クレインさん独りだけで制圧とかやらかしそうだしな・・・。あの時の『トロール族』よりも強いプレッシャーって、どんだけだよっつ~ハナシだわな。
『空賊』との同盟、上手く運ぶ事を祈るとしようかね・・・。
今週末の更新が不確かなのでUPしておこうかと思います。
え・・・予約掲載?んな事をするよりも直接掲載の方が気が楽なんですよねぇ。
掲載後の見直しも御座成りに成っちゃいますし。