反撃開始 そのに
観艦式より一週間、全戦隊の出撃準備が整った。
皇国首脳部は浮空島アナピヤの奪還を決意。その矢面に立つのは当然の如く新設された『飛翔艇母艦』を中核とする部隊だ。名称を『第一機動艇隊』と良い、第二、第三の建造計画も・・・有るにはあるが、建造費の捻出に難儀して居るらしく、今現在は白紙も同然である。
だが、『第一機動艇隊」は航空戦力は確かに充実してるモノの、占領部隊には少し難がある。相手の地上戦力の主力は、強力且つ堅牢無比な『トロール族』だからだ。確かに『爆ト弾』は強力だが、連射が利かないと言った課題もある。備えを三重にした三段撃ち、若しくは四重にした釣瓶撃ちで間断無く撃ち据えれば行けそうな気もするが、そう言った備えは側面攻撃に弱い。市街地での乱戦になった場合蹴散らされる可能性がある。地上戦力の確保の為、俺は今、ある場所へ足を運んで居る。
「え~と、スレイ、ここらで間違い無いのか?」
「主殿、某の記憶を疑うでござるか?」
「いや、そう言う訳じゃないけどなぁ・・・な~んにも無いぜ」
「うぬぅ・・・確かに何もないでござるが゛・・・。あの時見た地図ではココら辺で間違いないでござるよ」
「ふむぅ・・・暫く捜索してみるか」
何を捜して居るのかと言えば、『空賊』の拠点である。『空賊』とはその名の通り空の盗賊で、コレが侮れない位の戦力を有して居る。空の賊とは言え、出自は様々で、そのまま犯罪を犯して逃亡した者や政治犯、迫害を受けて逃げ込んだ者、税金を支払うのが嫌で自由気儘に生きる道を選んだ者・・・など、様々である。当然、元の職業も様々で、人が人らしく暮らして行くのに不自由の無い生活が出来るらしい。確かに多少荒っぽい者の比率は大きいモノの、無差別に商船を襲ったり等の犯罪行為は滅多に無く、その標的は主に軍用艇だったりする。帝国や皇国の討伐隊を何度も撃退して居る、空の古強者だ。
スレイミーはミレーヌと共に『空賊』に捕まり使役されて居た過去がある。ミレーヌは雑務に、スレイは見張り兼航法士として・・・だ。その際に地図らしきモノを見た事があるらしい。その記憶を頼りに飛んで居る訳だが・・・一向に何も見えない空の上である。
「『オーグル』で来たのは間違いだったか?だが、旧式艇じゃ~囲まれたらヤバイしなぁ」
新型浮空艇『空翔艇』の中では一番最後に完成した『オーグル』。その為、習熟訓練も兼ねての今回の作戦である。作戦期間は丁度一週間、移動に2日を要し、帰りも2日掛かるとすれば、捜索&交渉期間は3日と言う事に成る。
作戦といっても、『空賊』を滅ぼすのが目的ではない。味方に引き込むのが目的である。中には犯罪者も含まれては居るが、本質は行き場を失った人々である。一種の駆け込み寺の様な存在を滅ぼしてしまうと、テロなどの過激行為が頻発する恐れが有る。退路を断つのは得策ではない。っつ~か、俺も戦争をやめて逃げたい位だよ・・・でも、そ~も行かないよなぁ・・・。
「某が『飛翔艇』で見てきても良いでござるよ?」
『オーグル』にも一応『飛翔艇』は積まれてある。連絡用としての1艇だ。連絡用ではあるが攻撃も可能なスレイ専用艇で、『ミスリル銀』を不断に使用した豪勢な作りだ。因みに本来の色は翠色だが、飛翔艇団の団長であるサーシャさんやスカイ達の『飛翔艇』は、通常の仕様に毛が生えた程度の性能しか有していない為、横槍が入るのは間違い無いだろう。その為、主にサーシャさん達への偽装用として、一般的な『飛翔艇』と同じく艇体は『蒼色』に染め上げてある。
「それは最後の手段にして置きたい。不測の事態が起きてスレイを喪う訳にはいかないからな。ま、猶予は後2日在る訳だ。焦らずに捜すぞ」
最新型である『空翔艇』には、様々な新機能が盛り沢山である。その最も足るモノが『飛行物体探知機』所謂『レーダー』である。『動体感知』の魔法を使用する。武術の達人が使用する『気配』の概念を魔法化したモノらしく、基本的には個人用魔法である。浮空艇にこの魔法を適用したのは今回が初めてで、コレの搭載により見張り要員の負担が軽減し、空気抵抗の増大と成る『見張り塔』を不要とする事が出来、高速飛行を可能にした訳だ。それまでの見張り要員であった『鳥人』達は、総て飛翔艇搭乗員として抜擢されて居る。
ただ、この『レーダー』、精度の方はイマイチで、大きな物しか判別が出来ない。その為、大まかな物体を『レーダー』で探知し、視認は目視確認に頼らざるを得ない。その上、個人用魔法を浮空艇規模で使用しなければならない為に、この魔法を使用する者は多大な精神集中を必要とされ、肉体的にも魔法の素養的にも、高能力者以外はとてもではないが勤まらない。この非常に厳しい部署を担当するのが『獣人族』の中でも有数の能力を誇る『猫人』で、名前をタマリン・ウッドベック、16歳。『オーグル』最年少で愛称は『タマちゃん』。まだまだ可愛らしさを残した風貌ではあるが、一応は男の子である。故ザード・ウッドベックの替りとしてサーシャさんが故郷から連れて来た。
故郷に居る親友の末の息子らしく、世にで出たいと主張する彼を持て余した両親から預けられ、断るに断れず連れてきたと言う事だ。常に死の危険が付き纏う『飛翔艇』には載せる事にサーシャさんは難渋を示し、俺の艇で預かる事となった。正直、高性能で信頼の置ける人を捜すのは大変なので助かったとも言える。
元々このポジションには、ユーリィとユーリスの双子が就く予定であったが、2人の能力では消耗が激しく、もう2人追加して4交代制でやって貰おうとしてたが、彼の参入により3交代でローテーションを組めそうなので大助かりと成った訳である。今度、サーシャさんには上物の酒でも差し入れしないとな。
「タマ!反応は無いか?」
「今のところは無いですにゃん」
「頼むぞ」
「任せてくださいにゃん」
暴走食欲魔人であるターニャとは違い、非常に素直で勤勉な『猫人』である。アレとは全然違うんだが・・・アレは親の教育ミスなのかなぁ・・・?
完全に物見遊山気分で捜索をして居たが、タマから報告があった。
「あ、何か反応があるにゃん!・・・これは魔法・・・かにゃん?」
その報告の一瞬後に『雷撃槍』と思われる魔法が3条、ほぼ真下から『オーグル』目掛けて撃ち上がって来た。魔法弾は主翼部分に直撃したが、この程度の魔法なら無効化出来る。
「主翼を狙ってきたか・・・良い腕してやがるぜ。タマ!?敵の大まかな位置は?」
「『オーグル』より5時の方角にゃん。地図に書き込むにゃん」
そう言いつつ、この周辺の地図を紙に書き写していく。
「この辺りから反応があったにゃん」
地図を俺の方に差し出した。『動体感知』の発動中は身体的負担が増大するので、俺の方から地図を受け取りに行く。
「ふむ・・・この辺りか・・・」
『魔法投影』で確認すると、巨大な樹が連なって居る一角だ。よくよく見てみると巨大樹の枝に住居らしきものがくっついて居る。枝とかも、もしかしたら艇の発着場を兼ねてるのかも知れんな。
この『空翔艇』が通常の『浮空艇』とは違う事を見せてやるとするか。
「総員、着席の上、身体をベルトで固定!180度回頭を行うぞ!機関室!用意は良いか!?」
『空翔艇』の動力制御は『浮空艇』とは違い指揮所では行わない。全ての機構がドレッドノート級と同じく隔壁で区切られ、動力室等は単独で動いて居る。例え指揮所が全滅したとしても、動力室の判断で逃げる事を可能とする為で熟練者の人的損害を少しでも軽減する為だ。緊急時に備え動力室にも『魔法投影』の魔法が発動する様に成って居る。
「こちら機関室!回頭は問題無いよ!『オーグル』の性能を魅せつける良い機会だね、ジンちゃん!」
機関長はミレーヌが務めて居る。ミレーヌはグラガンの後継者と言う位置づけの為、『オーグル』に・・・と言うよりも、皇国にはミレーヌは欠かせない存在と成って居る。指揮所に配置したりなんかして巻き添えで死なせる訳にはいかないからな。
「良し!180度回頭直後に主砲を発射だ!狙いは巨大樹を掠らせる様にだ!フェル!準備は出来てるか?」
フェルーナンは『スネックヘッド』の普及に満足したのか、『飛翔艇』には載らず『オーグル』残留を希望した。多少未熟な面もあるが、その魔力は頼りになり、俺としても助かって居る。だが、ソコの所の本音を聞いてみると実際は『姐さんのシゴキにはもうウンザリっすよ・・・プライベートにまで干渉して来るんスよ・・・休日?ナニソレ?何て言う食べ物っスか?・・・ハァ・・・姐さんから開放されて『オーグル』でのんびりしたいっス』・・・と、言うモノだった。サーシャさんには聞かせられない内容であった。
「イヤッハ~ッ!この巨大砲、ブチかましたくてウズウズしてたっすよ!一発ドデカイ奴をブチかましましょうや!」
フェルの奴も相変わらずで俺も安心である。『オーグル』残留の申請書を提出してきた時のアイツの目は死んでたからなぁ・・・何はともあれ元気になって良かったと思う。
「ポーラ!艇首側面噴射用魔導筒発動と共に面舵一杯だ!姿勢制御を抜かるなよ!?」
ポーラは相変わらず『オーグル』での正操舵手だ。現在は舵輪では無くハンドルに似た操縦桿を操作して居る。エアシリンダーと歯車を組み合わせてあり、軽い力でも容易に操艇可能。上下左右への機動を容易にして居る。
「全く、誰にモノを言ってるのかちら?こんな簡単なモノ、アタチには物足らなさ過ぎてアクビが出ちゃうわね」
とか言いつつ『んあ~』とか言う声が聞こえて来る。ここからじゃ後頭部しか見えないが、恐らく本当に欠伸をして居るんだろう。
「良し!180度回頭!」
「あいさ~」
俺の合図と共に、凄まじい横Gが身体に掛かり、それと同時に巨大な『オーグル』の艇体がその場で180度回頭を行う。
「主砲発射!」
「待ってましたぁ~!ヒャハッッ!!」
フェルの掛け声と言うか奇声と同時に艇首魔導砲が、巨大な紫電の柱を巨大樹を掠める様に解き放つ。
凄まじい閃光とバリバリと言う音と共に数キロ先まで『雷撃槍』が到達する。
「降伏勧告の信号旗を掲げろ!ポーラ、このまま巨大樹の周囲を旋回しろ。反応があるまで手出し禁止。再度攻撃を受けたら側面魔導筒を一斉斉射!」
巨大樹の周囲を3周ばかり周回すると、巨大樹から降伏を指し示す信号旗が掲げられた。
「良し、スレイ!先行して援護してくれ!」
「主殿、待ってたでござる」
「油断はするなよ?お前を喪うなんて嫌だからな?」
「・・・ハッ、必ずや無事に帰還してみせるでござるっ!」
こうして皇国は『空賊』達との交渉を開始出来たのであった。
編集に手間取っちゃった。
疲労の余りに手が動かないんでやんの(笑




