章間話 諜報活動
皇国隠密部隊。
俺が皇王の許可を得て設立した秘密部隊だ。主にタンピヤに巣食う敵国や友好国の諜報員を監視し、排除するのが主任務だ。主な構成員は、対帝国戦にて捕虜となった後、戦闘奴隷の境遇に嫌気が差し皇国に亡命を希望した者達。その中でも、自由を求めつつも上昇志向が強く、権威に縋らなければ生きて行けない者達。ある意味、性格破綻者達だ。
普段は市井にて生活して居るが、その実は情報を集める為の擬態に過ぎない。自国内に潜ませる『草』的な存在だ。構成員は様々で、凡そ諜報員には向かないと思われる『オーガ族』も構成員として所属して居たりもする。
俺は前々から怪しいと睨んで居る、2人の技師の調査を依頼している。
工房『自由への扉』の工房主、グラガン・ドワンブルとその妻であるサラブル・ドワンブル夫妻だ。
容疑は他国への国家機密の漏洩疑惑。主に皇国の柱となり得る『シュトルム機関』の機密情報の売却だ。
今までに調べた情報からは、真っ黒との報告が着て居る。幸いなのは、情報を売った後・・・では無く売る直前だ・・・と、言う事だろう。
交渉相手は帝国ではなく、亜人種の共和制国家『ブルーミー共和国』の皇国駐在大使だ。駐在大使は役目柄『飛翔艇』を目にする事もあり、その秘密を探る為、本国より密命を受けて居るらしい。
グラガンは、値段の吊り上げ交渉の真っ最中で、情報を売り払った暁には大金と共に『ブルーミー共和国』の特権階級としての地位が確約されて居るとの事。
確かに『帝国への情報の漏洩』はして居ないが、充分に背任行為である。しかも、『オーグル』の完成を長引かせ交渉をし易くして居る・・・との情報も得られて居る。
グラガンの持つ魔導士としての技術の大半はミレーヌが吸収し尽くした後だ。ついでに言えば、とても有能なミレーヌを直弟子として『ブルーミー共和国』に連れていく腹積もりらしい。技術を吸収したミレーヌを働かせ、自分は遊んで暮らすのが連れて行く目的・・・だとの調べはついて居る。
完全に黙認出来る事ではない。『シュトルム機関』だけなら情状情酌量の余地もあるが、ミレーヌを労働奴隷に仕立て上げようかってのは見過ごせん。
ミレーヌは俺のモノだっ!・・・いや、その、なんだ・・・。あ~、もとい・・・大切な親友が不幸に成るかも知れないのに見過ごしたりたりなんか出来るかよ!ってんだ。
そうして俺は隠密部隊のモノに連れられ、グラガンと駐在大使の密約現場に乗り込んで来たって訳だ。アレほど念を押したにも関わらず裏切られた訳だから自分の手でケリを付けないと・・・な。
現在は真夜中、場所は魔法に因る街灯の明かりも届かない倉庫街。密談には最適だ。当然、闇に隠れる俺達にも優位に働く。
「場所は此処で間違いないのか?」
「はい、間違い有りまちぇん。複数の場所を巡回的に利用していまちゅ。今迄の例からちゅると、間違い無いかと思いまちゅ」
彼は獣人族の一種である『鼠人』で、身長は『草原の小人』よりも小さく、最大身長が70サンチほど。素早さと身軽さに長け、隠密行動に優れて居る。
歳は40との事で・・・オッサン的な年齢の野太い声の男が放つ語尾が気になる所だが・・・種族的特性らしいので気にし・・・ない様に努めて居る。いや、有能なんですよ?本当に。
その時、上空警備をしていた『鳥人』が殆ど音を立てる事も無く、傍に舞い降りて来た。
「目標接近中でございます。北東の方角、距離800メルトに『大地の小人』2名、南西の方角、距離1400メルトに『犬人』1名、『オーガ族』2名でございます」
彼女は『鳥人』の中でも夜の眷属である梟に良く似た『鳥人』だ。元の世界でも、暗闇で音も無く獲物を捉える優秀なハンターだったが、この世界の梟も変わり無い様だ。この世界、『鳥人』は何故か猛禽類しか居ない。他の種は駆逐されて絶滅してしまったのだろうか?
「ありがとう。引き続き上空警戒を頼む」
「承ってございます」
そう返答すると同時に、巧く風を捉えたのか『ファサッ』と、微かな音を立てる程度で空に舞い上がって行った。
梟の柔らかそうな首元の羽毛・・・何時かモフってみたくもある。そう悩ましい表情で妄想に耽って居ると不意に肩を3度ほど軽く叩かれた。
目標接近の合図だ。『暗視』『遠見』の魔法を掛けて視野を確保する。『暗視』は暗闇を見通す目を与えてくれ、『遠見』は最大で20倍率拡大をしてくれる。目を見開くと拡大、目を細めると縮小、2倍率毎に調整可能で、10段階まで調整出来る。慣れる迄、そんな微調整はとてもじゃないが出来ないが。
「うむ。間違いない。グラガンのオッサンだな。本当に此処に来るとは・・・流石に良い腕してるな?」
「褒めても何も出ないでちゅよ?」
「出すのはコッチだ。ま、報酬を出すのは俺じゃないがな。この調子で頼むぜ?」
小声でヒソヒソと会話をしつつ、お互いが顔を見合わせつつニンマリと笑う。
「さ、仕事の時間だ。駐在大使との交渉の現場を押さえないとな」
そう言いつつ、更に周囲に警戒をする。
グラガンのオッサンより暫く遅れて駐在大使らしき者も現場に到着する。2名の『オーガ族』は護衛か何かだろう。夜間の上『暗視』を使用しても鎧の材質までは分からないが、光沢から何らかの金属鎧だと推測される。武器は身長程の長さを持つ、材質不明の棒である。
此処からは『人間族』には会話は聞こえない為『聞き耳』の魔法を発動する。この世界の魔法は、魔方陣を発動させるだけなので呪文等を必要とせず、非常に隠密行動向きである。
「今宵こそわ良い返事を聞かせて貰うわん」
・・・やっぱり『犬人』の語尾は『わん』なのな・・・なんつ~か、お約束だなぁ。タンピヤには『犬人』が居なかったからなぁ・・・。
「はっは~。慌てる何とやらは貰いが少ないって言うよ?んで、条件の変更はあるかな?」
相変わらず軽い口調のオッサンだ。隣のオバサンは油断なく構えて居る。あのザマスオバサン・・・実はかなりの遣い手だったり?
「条件わ、以前掲示した通りだわん。かなりの高待遇だと思うわん」
「もう少し上乗せしてくれたら何でも喋っちゃうよ~『飛翔艇』だけじゃなく『空翔艇』の秘密もね」
な・・・あのオッサン、駄目過ぎだろ?
「ソコまでの秘密を暴露しても大丈夫なのかわん?命を狙われても知らないわん」
「こう見えても僕達は強いよ?何だったら僕達二人で、ソコのオーガ諸共に実力行使で交渉して見せようか?」
此処からは表情を確認出来ないが、頬の筋肉の釣り上がり方から推測すると挑発的な笑みを浮かべて居る様だ。
その言葉と共に、『犬人』の後ろに控えて居た『オーガ族』から圧倒的な威圧感が溢れだす。
「へ~やる気なんだ?格の違いを教えてあげるよ?」
その言葉と共に、ザマスオバサンが一瞬で間合いを詰め、『犬人』の左に位置して居た『オーガ族』の胸板に、棍棒らしきモノを打ち据える。
『ゴツンッ』と言う硬い床に硬いモノを落とした様な音と共に、『オーガ族』の身体が10メルト程吹き飛ぶ。それっきり吹き飛ばされた『オーガ族』が動かなくなる。
「がぁっ!よくもっっ!!」
もう一人の『オーガ族』がグラガンに金属棒で殴りかかるも、それを片手でアッサリ受け止める。
「ふ~ん、こんなモノなんだ?もう少し鍛えた方が良いよ?」
渾身の一撃をアッサリ受け止められ、驚愕しつつも蹴りでグラガンを吹き飛ばそうとする。しかし、それも片足を上げただけで止められる。蹴った『オーガ族』の方が痛がって居る位だ。
「ツマンナイね。護衛はもう少し遣える奴を選んだ方が良いよ?」
そう言い放つと、掴んだ棒をアッサリともぎ取り、反対に『オーガ族』を袈裟懸けに打ち据えた。鎧が陥没し前のめりに崩れ落ちる。吹き飛んだ『オーガ族』同様、それっきり動かなくなる。
「さて、この情報に幾らの値段を付けるかなぁ~?」
見た目はムサイオッサンだが、口調はまるっきりイタズラ好きの子供みたいな感じである。
「い・・・言い値で良いわんっ!」
「それだけじゃ足らないザマスね~オリハルコンの採掘権・・・それくらいの価値はあると思うザマスよ?」
「それわ、私の一存じゃ決められないわんっ!」
「ここで決めなくても約束してくれれば良いんだよ?破った場合は直々にお礼をしに行くだけだから」
これがコイツらの本性か・・・確かに依頼なんかそうそう頼まないわな・・・。余りにもヤバすぎる。
「ぎゃわんっ!」
突然の悲鳴に良く見ると、『犬人』の片腕を捻り上げ、後ろ手にガッチリと極めて居る。
「さ~どうする?死なない程度に痛めつけようか?大丈夫。死にかけたら治してあげるから」
「キァゥゥゥゥ~ンっ!」
あ~そろそろ頃合いかな?駐在大使に恩を売るには丁度良い展開だ。状況的に、悪いのはドワンブル夫婦で、大使は被害者って感じに持っていけそうだな。
懐から細い魔導筒を取り出すと、後方上空に向かって、『雷撃槍』を放つ。かなり細い為、光の糸の様にも見える。
それを合図として、ドワンブル夫妻の周囲に『照明弾』の魔法が放たれる。
『照明弾』の魔法は発動と同時に一定距離を飛び、その場で滞空し続ける光の玉を放つ魔法で、飛距離と光の強さは魔方陣の大きさに比例する。
ここまでが攻撃の第一段階。
「誰だっ?」
ドワンブル夫妻は周辺の警戒を始めるが、当然コチラは名乗る気はない。
『シュゴッ!』という音と共に超高速で飛来した細長い物体が、ザマスオバサン、サラブルの身体に突き刺さる。突き刺さると同時に『爆裂』の魔法が発動、盛大な爆炎と共にその身体を吹き飛ばす。
「サラブルッ!誰だ?姿を見せろっ!」
その言葉に返答する気はない。倒れ伏したサラブルの身体に、2発目、3発目の物体が突き刺さり止めを刺す。
この飛行物体は、ミレーヌと共に開発した『長距離狙撃用対ト爆裂弾』通称『爆ト弾』で、推進用に『竜巻』の魔法を使用し、弾頭には『爆裂』の魔方陣を外向きに刻んである。この『爆ト弾』はパンツァーファウストに似た軸から発射され、弾体には螺旋の溝が刻まれていて射出と同時に高速回転しつつ対象に突き刺さり、対象者が防御用に魔力を集めた瞬間、対象者の魔力を使用し『爆裂』の魔法が炸裂する。対象者が強ければ強いほど高い威力を発揮する、対トロール族用射撃兵器だ。
「クッ!」
グラガンは、サラブルが血塗れで事切れたのを確認すると、迷いも見せずに逃げようと踵を返した。
しかし、その背中に『爆ト弾』が突き刺さり爆発する。
「グガァッ!」
衝撃で吹き飛ばされるも、防御と強化魔法で全身を固めて居るのか、致命傷とはなって居ない様だ。
「クソックソックソ~~ッ!一体誰だ!姿を見せやがれっ!」
大声で喚くもコチラから返すつもりはない。止めを刺す為に、合図の『雷撃槍』を再度放つ。ソレを合図に、4発の『爆ト弾』がほぼ同時にグラガンの身体を炎と爆風に包み込む。
「グ・・・が・・・」
ここまで攻撃を受けてもまだ息がある様だ。流石は自称エルファーディアNo1の腕を持つ魔導士だ。あらゆる魔導具で身を護って居たとみえる。身体能力的には『トロール族』と同等か下手をするとソレ以上だったのかも知れん。
無情にも更に4発の『爆ト弾』がグラガンの身体に突き刺さり爆発する。ここまで撃ち込まれると流石に沈黙する。更に用心の為、2発ずつの『爆ト弾』を撃ち込み、爆発しない事を確認する。
「良し、仕上げだな」
懐から『火球』の魔導筒を取り出し空へ放つ。ソレを合図に『照明弾』の範囲内に黒尽くめの大小様々な種族が姿を現す。その数は20人。
「初めまして。ブルーミー駐在大使殿ですな?」
駐在大使は目の前で起きた惨状に、完全に萎縮して居る。
「あ、申し遅れました。私はタンピヤ皇国、皇国隠密部隊長官を務めさせて頂いて居るモノです。駐在大使殿に狼藉を働く不逞の輩は、私共が殲滅致しました。駐在大使殿に怪我が無く安堵しています。それではコレにて失礼させて頂きます」
質問や口答えを許さぬよう、一気呵成に言い切った。
駐在大使は、いきなり周囲を囲んだ怪しい連中が皇国の人間と知り、恐怖に固まって居る様だ。
「この者達は国家機密漏洩罪の疑いが濃厚でして・・・既に死んでるようですが、ついでに身柄を拘束させて頂きます。『駐在大使殿に何もなくて本当に良かったですよ』」
さり気なく釘を差して置く。
「それでは、縁があればまた会いましょう。ま、尤も、今回の様な『縁』は無い方が良いんですけどね?」
ニヤリと笑いつつ放ったその言葉に駐在大使は震え上がり、過呼吸の為か呼吸困難に陥って居る。
「良し。撤収するぞ!そこの『生ゴミ』の回収を忘れるな?」
俺の言葉と共に、元エルファーディアNo1の魔導士夫妻は頭陀袋に詰められていく。
「対象の息の根は止まってるみたいでちゅ。安全の為、首は切り離して置いたでちゅ」
「御苦労。大使の護衛はどうだ?」
「駄目でちゅね。完全に死んでまちゅ」
「個人でトロール並の戦闘力か・・・正面から当たらなくて良かったな」
「本当でちゅね。少なくとも、この作戦に参加した者は裏切る気は無くちゅでちょうね」
「そう思うか?」
「まっぴら御免でちゅ」
うむ。まぁ、敵にも味方にも良いデモンストレーションにはなっただろうな。これで最大懸案が片付いたな。
駐在大使が襲われたのは僥倖であった。お陰でミレーヌへの説明が楽になる。
後は『オーグル』を完成させるだけだな。ま、何とかなるだろう。
明日までに・・・が、明日一杯に・・なっちゃった。
ま、休日中にUP出来たから良しとしましょうかね?
投稿後に見直せば見直すほど誤字がぁぁぁぁ~・・・ガフッ。




