これから進むべき道 そのじゅう
「兵法とは、元の世界で古代から連綿と続く、対人間用心理学の集大成の様なモノだ。古代の知識と言う事で『古い知識は役に立たないんじゃないか?』と思うかも知れないが、人間心理と言うモノは、高々数千年程度じゃ大して進歩しない。故に今現在でも充分に通用する事を覚えて置く様に!」
元の世界でも、兵法を軽んじる輩は大勢居たが、実際は覚えて置いて損はしないんだよな。中学生くらいから対人間用心理学、通称『兵法』を身に着けて置けば、実に有用だ。
「兵法の世界では『戦わずして勝つ』と言うのが常識として存在するが、今現在の状況は既にその域を遥かに超過して居る。その為、戦いに関する事を諸君等に教えようかと思う」
『飛翔士』候補生達は、一応俺が『飛翔艇』の開発者の言葉と言う事で、熱心には聞いて居るが、頭に入って居るかどうかは定かではない。
此処は特殊兵種練兵所内にある、大講堂だ。盗聴を防ぐ為、壁は分厚く窓は無い。だが空調系や照明系魔法を組み込んで有る為、それ程には閉塞感は無い。
この第一講堂は300人近い人数を収容する事が出来、大学の教室を思わせる階段状の席が並ぶ。講師が一番低い場所に位置して居るのもソックリだ。まぁ、此処を造る際にかなり助言はしたけどもな。
通常の声量だと、かなり大声を出す必要があるが、『音声拡大』の魔法に因り、それ程大声を出さなくとも、隅々まで行き渡る様にはしてある。効果時間があまり長くないので、何度も使用する必要が有るのが難点か?
「兵法の極意は『実』と『虚』を織り交ぜる事を最上とする。所謂詐欺師の手管だな。如何に相手に悟られず騙し切るか・・・だ。それが卑怯とは思うな。先に殺らねばこっちが敵に殺られるんだ。徹底的に騙し抜け!但し、理想と現実は全く違う。理想を追い求める余りに現実を見失う事の無い様に、それだけは留意して頂きたい」
『飛翔士』としての幹部連中、サーシャさんやスカイ、ナタリアさんやクリス、新設護衛艇団やデストロイヤー改の艇長達と言った『直接指揮を執る立場の人間』も同席して居る。直情径行なエルフの面々は『騙すのは卑怯だねぇ・・・』的な、非常に分かり易い表情をして居る。
「例えばだ、敵の陣容はコチラよりも多く自軍が少数の場合、まともに攻撃を仕掛けたのでは幾らコチラが高性能とは言え被害も少なくない数が出るだろう。そこで態と恐れて居るかの様に遠巻きに様子を伺い、相手が焦れる、若しくはコチラを見縊り突出して来た敵から叩く!これを基本としろ。『勇気』と『蛮勇』は全くの別物だ。如何にコチラの被害を少なくし敵に大打撃を与えるか・・・を熟慮しろ!」
無理な行動ほど、自軍を危険に曝す要因は無いからな。良い格好を見せたい・・・その感情は兵士として一番不要なモノだ。
「但し、敵がコチラより劣って居る場合は力の差を見せつけ粉砕しろ!しかし、その場合は油断はするな。誘い込まれて居るだけかもし知れないからだ!無駄に誘い込まれて被害を増やす事の無い様に、指揮官は情勢把握に努める様に!」
囮部隊の有用性は凄まじく高いからなぁ・・・俺もあの時はしてやられたぜ。
「戦力比が同数の場合は慎重に行動し、無理無茶無策な行動は慎む様に。今現在は、恐らくこちらの方が優位性を保てて居るだろう。だが、過信は禁物だ」
クリスや候補生達は非常に熱心にメモを取ってくれて居る。サーシャさんやナタリアさんはフンフンと頷くだけで頭に入れて居るかどうかは定かではない。
「戦場では『威力偵察』と言うモノの効果も非常に高い。帝国では既に導入されて居る戦術だが、皇国では用いられて居ない様に思える」
その時サーシャさんが気怠そうに手を挙げ質問してきた。
「威力偵察ってのはなんだい?」
一応聞いては居るのかね?
「うむ。通常の情報の取得を目的とし、敵に悟られぬように行動する『偵察』とは違い、『威力偵察』とは敵と戦闘を交える事に因り敵状を探る行動の事だ。敵兵器の能力を探ったり、直接攻撃を仕掛け、敵の陣容を探り、情報を得る事などを目的とする戦術だ。目的に因り行動内容は当然違って来る。そのまま大規模戦闘に突入する可能性も有る為、簡単に敵に喰い破られないだけの戦力を投入するのが基本だな」
サーシャさんは『なるほどねぇ・・・』と一応納得はしてくれた様だ。
「アナピヤ攻防戦に参加した者は気付いたかも知れないが、敵の主力だと思い友軍が攻撃した敵の戦隊が、実は偵察部隊であった・・・と、言う事だな。あの時にコチラの戦力を測られ、その後、新型浮空艇隊に因る主力を防衛目標に投入され散々に打ち破られた訳だ」
あの時はまんまと騙された・・・俺もまだまだ未熟だな。
「この場合は敵戦隊が囮としての役割も果たして居た。友軍の主力はそれにまんまと騙され、アナピヤより引き離された挙句に戦力を分断され、各個撃破の憂き目にあった・・・と、言う訳だな。アナピヤへの被害を考えず、アナピヤ守備隊や防空要塞と共闘してれば守り切れた可能性も否定はしない」
ナタリアさんは『クッ!そうだったのかぃ・・・』と、心底悔しそうな表情をして居る。
「『空翔艇』や『飛翔艇』は非常に足が速い。その為単独でも偵察は可能だが、追撃される事を考慮し、交戦可能な戦力を付随させるのも指揮官の能力とされる訳だ」
サーシャさん辺りは『え?単独偵察って駄目なのかぃ?』的な表情をして居る。まぁ、状況次第なんだけどな。
「先程も例を挙げたが、『囮』と言うのは非常に効果が大きい。しかもその『囮』が旨味があれば有る程に敵も食い付きが良い。例えば『飛翔艇母艦』を囮に使い敵の主力を誘き寄せ、イザ、コチラを攻撃しようと意識を集中させたその瞬間に生じる隙に、背後や側面、上方や下方から急襲する。生物的な本能として、何かに意識を集中した瞬間は前しか見えなくなる為、非常に効果は大きい」
スカイは『うむ。鳥人である拙者には良く判るである。獲物を捉える時には良く使う手管である』と、頻りに頷いて居る。鳥人は流石にメモ等を取れないので聞いて居るだけだ。
「そして、戦場に於いて最も重要な事を教える!」
この言葉に講堂内は、シン・・・と静まり返る。ゴクリと音を立て唾を飲み込む音さえ聴こえる程だ。
「戦場に於いて最も重要な事は、勝てぬと分かった瞬間に逃げる事だ!」
講堂内は『え~マジかよ?そんな情けない事で勝てるかよ!』的なムードに支配され、ザワザワと騒がしくなる。
「諸君等はなにか勘違いをして居る様だな?逃げる事は無様では無い!勝算のない戦いに徒に兵力を投入し、個別撃破される事程、馬鹿らしいモノは無い!諸君等はここまでの操艇技術を身に付けるのは容易であったか?違うだろう?身を削る様な訓練を載り越え今此処に存在して居るはずだ。『飛翔艇』は誰でも載れる様な簡単なノリモノか?違うだろう?特殊技能を有した者でないと乗りこなせないシロモノだ。俺は開発者だが、その開発者ですら持て余すシロモノだ。諸君等の替えはそう簡単には得られ無いのだ!」
その言葉で講堂は静まり返った。
「そうだ。一人前の兵士と成るにはそれだけの労力と時間を必要とする。無駄に死なれては戦力の補充に時間が掛かる。如何に生き延びて再戦を果たし敵を打ち破るか・・・これも兵士として最も重要な素質だ。諸君等には、『勇気』と『蛮勇』は全くの別物だと言う事を覚えて置いて欲しい!以上だ!」
こうして、戦場の心構えを教え込む、第一回目の講義は終了したのであった。
しばらく更新が滞りがちでしたので今日もUP。
明日までには外伝的なモノをUPしたい今日この頃です。
果たして更新出来るのでしょうかっ!?
え?そんな事知らんがな?!って?(笑