これから進むべき道 そのはち
漸く3艇の『空翔艇』が完成した。『オーグル』は少し特殊な事と個人工房に因る造船の為、少々遅れ気味だ。ただし、その分性能は折り紙つきである。皇国首脳部にバレたら間違いなく処刑される様な機構もミレーヌと一緒に仕込んで置いた。当然グラガン氏は知らない・・・筈だ。
『飛翔艇母艦』を護衛する『空翔艇』、通称護衛艇は推進用後部魔導筒を5基、ブレーキ用の逆噴射用前部魔導筒を2基搭載して居る。5基の推進用魔導筒により音速に限りなく近い速度で航行する事が可能。ジェット旅客機並の速度は出せる筈だ。『飛翔艇母艦』の直庵が主任務になるので、ずば抜けた速度は必要無い。
それに対し、敵陣に突撃を行う『オーグル』は、推進用後部魔導筒8基+秘密推進器2基、逆噴射用魔導筒3基、高機動用側面噴射用魔導筒4基を搭載し、戦場を縦横無尽に駆け回る事が可能・・・な性能と強度を与えてある。ただ、通常だと搭乗員が耐えられないので、『飛翔艇』を上回る身体的魔法補助を必要とし、尚且つ、対G座席に身体を固定し着席した状態での運用となる。その為、戦闘時にやられた際の退船は基本的に不可能。殺るか殺られるか・・・と言った、非常に扱いの難しい艇となって居る。
護衛艇の基本的な形状は、水などの2リットル入りペットボトルを想像すると理解し易い。このペットボトルに幅広極厚の三角翼で翼端を切り欠いた形〈所謂クリップトデルタ翼 〉と垂直尾翼を有し、安定性を重視してある。武装に関しては、護衛艇は2連装50サンチ短砲身旋回式砲塔を前面上部に2門、前面下部に2門、側面左右上部に4門、側面左右下部に4門、後方上部に2門、後方下部に2門と、合計24門もの砲塔を有し、完全にハリネズミ状態である。
それに対し『オーグル』の基本形状はボルドータイプのワインボトルをイメージすると良い感じだ。少し扁平にしたワインボトルに姿勢制御用の後退翼と水平垂直尾翼が付いて居ると言った外観だ。主力となる武装は、トルピード級以上の長砲身で、ミスリル製60サンチ長砲身固定式魔導筒1門を艇首から後方に位置している動力室まで『空翔艇』を貫く様に配置して居る。砲身がミスリル製、刻まれた魔方陣がアダマンタイト製で、長砲身である事を加味した威力は、通常のトルピード級の5倍近い威力となって居る。通常の60サンチ砲の5倍の威力、実に300サンチの魔導筒に匹敵する貫徹能力を実現して居る。・・・は、波動砲に憧れて居る訳じゃ無いんだからねっっ!・・・と、言うのは冗談だが、波動砲と確実に違うのは、こっちは魔法発動と同時に発射出来るので比較的連射が利くと言う利点がある・・・威力はアレに比べて遥かに劣るけどもな!
その他にもミスリル製6連装10サンチ短砲身限定旋回式砲塔を空気抵抗を考え埋没式にしたモノを側面上部と下部に2門ずつ、後方上部と下部に1門ずつと、一応は弾幕を張る事が可能。主砲と同様高価な素材を使用してるので能力は5倍となっている。元が10サンチでも、能力的には短砲身50サンチ6連装砲に匹敵する火力を有して居る。
『飛翔艇母艦』の外観は『空飛ぶ湯たんぽ』若しくは『歪な空飛ぶ円盤』だが、飛行甲板が露出して居ない為、外装部全てに武装を載せる事が可能となって居る。使用して居る攻撃用魔導筒は護衛艇同様2連装50サンチ短砲身旋回式砲塔であり、上部に全域に50門、下部全域にに50門、計100門もの砲塔を備え、空中要塞的な概要となって居る。・・・居るのだが、余りにも桁外れな艤装の為、竣工が長引いて居る。『飛翔艇母艦』は皇国の威信そのモノだか何だか知らないが、皇王も目立ちたがり屋ではある。自分が載る訳でも無かろうに。
現在の新設部隊の進捗状況は一部は芳しくはないものの、概ね順調である。
『飛翔艇』は隊員募集も一区切りを終え、サーシャさん達『飛翔士』の幹部連中が鬼のシゴキを開始して居るらしい。練兵場からは怒鳴り声と悲鳴が絶え間なく響いて来るんだとか・・・。
完成した護衛艇の搭乗員は習熟訓練が開始された。だが、『オーグル』は未だに造船途中である。
その辺りの理由も含め、ほぼ毎日の様にグラガン氏の工房に足を運んで居る。ぶっちゃけ、暇なんですよね・・・。
「あ、そこの工具を渡して下さい。いや~納期は大幅に過ぎていまからね~。皆さん頑張って下さいね」
気さくなオッサンのグラガン氏はそう言って急かしている。かなり状況は逼迫してる筈だが、普段と変わらない態度が尚更恐ろしい。何を考えてるのかが読めない所とかが。
普段は奥さんと二人で切り盛りしている工房らしいが、今は30人からの技師がこの工房で働いて居る。彼らは普段、農家やら商家やらでお勤めしてるらしいが、緊急時になったらコネを利用して掻き集めるんだそうだ。
『技術を多少なりとも教えたからお前らは俺の弟子な?でも普段の給料を払う気はないから自給自足で生活しろよな?だが俺が困った時は協力するように!何故と言われたらお前らは俺の弟子だからだ!』
緊急に雇われてる技師達は、上記みたいな事をグラガン氏から言われたそうだ。何と言う労働奴隷達であろうか。実はかなりの腹黒人間だったり?
「あ、納期は遅れてるけど順調だよ。完璧に仕上げるからもう少し待ってチョ~ダイな」
グラガン氏はこっちの顔を見るなりそう拝み倒している。いや、まぁ、キチンと造ってくれれば文句は無いんですけどね。しかし、納期が遅れてるのに順調とはどう言う事だ?良く判らん表現を使うオッサンだ。
「情報の漏洩だけは気をつけて下さいよ?帝国に漏れたら総ては泡と消えてしまうんですから」
「あ~帝国に占有されちゃうと、僕もノンビリと生きていけなくなるからね。皇国の自由主義バンザイッ!君達も情報漏洩は厳禁ですよ~」
技師達は作業をしつつも、胡乱なモノを見る様な目付きでグラガン氏に視線を送っている。その容貌からは『このお調子者め!』的な感情が見え隠れして居る。
あ~もしかして、腹黒の上に二面性の在る性格なのかな?お金を払う相手には低姿勢だったりするのかもなぁ。
このまま任せても大丈夫なのだろうか?貴重な情報をお金に替えたりはしないのだろうか?グラガン氏を知れば知る程、不安ばかりが募って行く毎日である。いっその事、サクッと暗殺しちまうか?だが、腕前は優秀なんだよなぁ・・・だからこそ不安でもある訳だが。
ミレーヌも最近はグラガン氏の工房に入り浸り、弟子扱いをされ始めて居る。
あ、そっか、ミレーヌが技術を吸収しちまえばこのオッサンは不要だよなぁ・・・とも思ったりもして。
遅くなりましたっ!
今週は比較的仕事がのんびりしてる為、執筆(文字入力?)を行いたいと思います。
編集後の公開は・・・確約致しかねますので、御了承下さいませっ!