これから進むべき道 そのなな
第一号試作機の試験より、一ヶ月が経過した。
その間にも『飛翔艇母艦』の艤装は着々と終了に近づいている。それと共に『飛翔艇』の数も揃ってきた。かなり能力が劣る訓練用に予備も含め10艇、フル装備な実戦配備用に45艇となっている。
計算では後一ヶ月で全飛翔艇が揃う事になる。総数は飛翔艇母艦X1 飛翔艇X80 デストロイヤー改X10艇 新型浮空艇『空翔艇』X4艇 となる。この内、デストロイヤー改の換装は既に終了し、タンピヤの秘密ドックに格納されている。
皇国が新型浮空艇を開発した・・・との情報は、既に帝国にも知れ渡っている。その為、帝国からの諜報員がタンピヤにて暗躍している・・・と、言った状況だ。その為の訓練用飛翔艇だ。能力の劣るコイツを見られた所で大した事にはならない。流石に訓練用とは言え、訓練生に紛れた諜報員に持ち逃げされたらヤバイので自爆装置付きにしてある。一定時間に解除の魔法を使わないと木端微塵に砕け散ると言うモノで、当然この事は訓練生は知らない。
訓練生の選定もかなり厳しく行なっている。
新型個人用戦闘浮空艇の乗員募集には、実に5000名もの応募が殺到した。飛翔艇の乗員は80名だから、実に62倍もの競争率ではある。尤も、補欠要員も必要なので、飛翔艇80に対し正規乗員100名、補欠要員として50名、合計150名程度は必要だろう。飛翔艇の増産は行われているので、搭乗員も増やさなければならないだろうし。
しかし、募集するに当たり問題も山積しているのも事実だ。真摯な気持ちで対帝国に・・・と、申し込んだ者も多いだろうが、皇国以外の国からの諜報員も多分に含まれていたと思われる。その為、書類審査の段階で出自が不明な者は片っ端からハネられる事になった。そして、身体能力の観点から余程特殊な戦歴を持っていない限り『人間族』は除外された。理由としては『操艇能力が足らない為』である。搭乗員を選んだ種族は主に『獣人族』、『エルフ族』、『草原の小人族』、『鳥人』より選ばれる事になった。飛翔艇乗組員『飛翔士』への適性は、『鳥人』『草原の小人』『エルフ族』『獣人族』の順に適正が高い事も判明した。
『鳥人』は持って生まれた高い動体視力に加え、遠くを見て獲物を捉える能力に卓越してる為、非常に有能な『飛翔士』と成り得る様だ。しかし『鳥人』は『手』を持たない種族の為に『鳥人専用機』と言う少し特殊な飛翔艇を造らなければならなかった。操縦桿の代わりに首輪にワイヤーを繋いだものを使用し、頭を上下左右に動かす事で『飛翔艇』を操作する。通常の『飛翔艇』よりも特殊な装置を積まなければならない為、通常よりも2割程製造コストが必要となる。しかし、コストを補って余り有る能力を発揮出来る上、エルフとは違い非常に勤勉で任務に忠実な為、問題とはなって居ない。
次に適正が高いのが『草原の小人』である。真面目で勤勉、任務にも忠実でどんな時にでも冷静沈着さを発揮し、非常に安定した能力を発揮する事が判明している。
『エルフ族』は魔法適性や運動能力は『鳥人』や『草原の小人』を遥かに凌駕するモノの、かなり頭に血が上りやすく猪突猛進で、一度頭に血が上ると任務を放棄し目標に吶喊する事も屡々・・・勝ってる時にはそれでも良いが、負けてきた時に玉砕覚悟で突っ込む為、運用が非常に難しい。退く事を知らない兵程、運用の難しいモノは無いと思う。
最後に『獣人』は、魔力や身体能力で言えば4種族の中でも最高峰、他を寄せ付けない能力を有して居るが・・・何分、気紛れで全く安定しない。下手に『獣人』を『飛翔艇』に載せちゃったりしたら、そのまま持ち逃げするのは間違いない位に自由気儘な性格をしている。
この星の人口割合を考えたら、補充の容易な『エルフ族』が間違いないのだが、性格に難有り。かと言って有能な『鳥人』や『草原の小人』は総数が少ない。この辺りも考慮し、『飛翔士』の選別は非常に難航した。しかも、実績が有り裏切らない事が絶対条件である。この新技術を帝国に真似されたら、戦術や戦略の差で、皇国の滅亡へのシナリオが更に進行する事になるだろう。
そして5000人の中から書類審査と身体能力検査を突破した500名が此処に居る。因みに、試作型飛翔艇での身体の各部の骨折やら何やらは、『筋肉量増強』『骨密度上昇』の魔方陣を飛行服に組み込む事でアッサリ解消した・・・たまに忘れそうになるが、この世界には『魔法』が存在するんだよな・・・。
「248番は駄目だねっ!249番は及第点、250番も駄目だね。全く、碌な奴が居ないね」
そうボヤいて居るのは旧オーグル副長である『エルフ族』のサーシャさんだ。飛翔艇にも高い適性を示し、長い軍属経験から退き時も知って居る。その高い能力を発揮し、飛翔艇指揮官に抜擢させて貰った。
「うむ。253番の動きは良いであるな。将来有望である」
そう言いながら目で追って居るのが『鳥人』のスカイマーク。『鳥人』で在るが故の高い適性能力に加え、極度のスピード狂でもある彼は、『飛翔艇』の魅力にハマってしまい、最早中毒と言った所だろうか。役職は飛翔艇攻撃隊隊長としている。速度が出せる『飛翔艇』の虜と成った為、かなりの猪突猛進タイプかと思いきや「死んだら二度と飛翔艇に乗れなくなるのである。そんな事は願い下げなのであるっ!」等と言って居たので、暴走はしないと思う・・・いや、思いたい。
「私も載る事が出来れば応募したのですが・・・この時ばかりは私の巨躯を呪いましたよ」
そう愚痴て居るのは『オーガ族』のクリストファーさん。流石に2メルトの巨体を収める様な特注品は無理でした。それに、彼は『新生オーグル』での副長に抜擢させて貰った。彼の知識と沈着冷静さは非常に頼りになる。
「アタシの直属の部下になるボウヤ達だからね。しっかり見極めないとさ」
そう言いながら手元の個人資料に目を通しているのは、元『スレイプル』の艇長『エルフ族』のナタリアさんだ。彼女のどんな状況にもメゲナイ不屈の精神を高く買い『飛翔艇母艦』の艇長に就いて貰う事にした。『スレイプル』には人員の欠損が無かった為、指揮所のメンバーには代わりは無く勤めて貰う事にして居る。ナタリアさん曰く「トルピード級のアタシがドレッドノート級に匹敵する浮空艇の艇長だって?ヒョーエも物好きだねぇ。ま、やるからには徹底的に!ってのがアタシのモットーだからね。期待に添える様にやらせて貰うだけさ!」等と頼もしい事を言って居た。
今、飛翔艇を飛ばして居るのは候補者達である。最初から操れる者は殆ど居なくて、最低は確保したい予定の80名を大きく割りこむ事になりそうだ。
「操るのが難ちいと噂が広まれば、応募ちてくるのも腕に覚えがある高性能者が多く集まる事でちょうね。今回の合格者は50名程度でも良いかも知れないわね。全く、世の中には無能者が溢れて居るのね。でも、ここに居るメンバーは『それなり』に出来る方々なのはアタチも認めるわね」
と、かなり辛口な事を言ってるのは『草原の小人』であるポーラである。彼女は『新生オーグル』での操舵手への配属が決まって居る。ってか、彼女を受け入れてくれる艇は何処にも有りませんでした・・・。
此処には居ないが、スレイミー、ミレーヌ、フェルーナン、そして双子の『草原の小人』であるユーリスとユーリイ、最後に『猫人』のターニャの6人も『新生オーグル』の乗員だ。スレイとミレーヌはグラガン氏の所でお手伝い中、ユーリィとユーリスは新型通信機の運用試験中、フェルーナンは新兵の教育中・・・そしてターニャは自堕落な生活を送って居る。
『空翔艇』の乗員は20名前後となる予定なので、近衛兵から有能な人間を引きぬくか、新たに募集をする予定だ。
やらなければならない事は沢山有り、非常に大変な毎日である。
編集の最中に寝落ちてた・・・。
明日の夜までにはもう少しUPしますが、確約は出来ません。