これから進むべき道 そのご
試作浮空艇の初飛行は這々の体で何とか帰島できた。
肋や背中の骨数本にヒビが入ってたらしく、浮空艇から降りる時に難儀したのは言うまでもない。
ミレーヌに来て貰ってて心底助かった・・・助かったのだが、二人からはとてもとても冷たい視線を浴びせられた。・・・俺の責任になるのか?今回の件は。
早速、詳しい仕様をグラガンのオッサンに問い詰めた。そうすると、やはりと言うか何と言うか・・・久々の仕事なので一切手を抜かず、支払いも間違い無いと言う事で、高級素材を惜しげも無く投入したとの事。
特に推進用魔方陣には、なんと『オリハルコン』を使用したと言うではないか!
これってかなりと言うより、途轍も無く高級素材の筈・・・グラガン氏ってば、実は資産持ちだったのね・・・。
試作機なので、不要になれば、また鋳溶かして最利用するとは言ってたが・・・もし墜落し、素材そのものが失われたらどうするんだ?と、聞いたら、なんでも追跡用の魔方陣を組み込んでいるとの事。
そんな便利な魔法もあるのね。それは非常に使えるな。出来れば帝国には渡したくない技術だからもし墜落した艇が有ったら回収したいと思ってたんだ。
詳しく話を聞くと『追跡者』と言う魔導具があり、2つの魔導具を対にして使用するらしい。片方の魔導具を発動させておくと、3日位なら魔法を維持できるんだとか。後は対になる魔導具で追跡するらしい。実際に見せてもらったが子機が握り拳程度の大きさ、親機が手のひらサイズの方位磁石の様な装置で、親機の矢印状の針が子機の方向を常に指し示してくれると言うモノらしい。色々な角度で試してみたが、確かに試作機の方を常に向いていた。
傍に居たミレーヌにも話を聞くと問題無く造れるとの事。グラガン氏に頼むとぼったくら・・・無駄にお金が掛かかりそうだから、後でミレーヌに依頼するとしよう。勿論グラガン氏よりかは安いが対価はキチンと払うけども。
無線機も、予てより構想を練っていた案をグラガン氏に伝えてみると、早速、試作に取り掛かってくれるとの事。
そして、尤も重要な要件を伝える事にする。単座型浮空艇の性能は予想以上に良好であった為、コレなら問題無く造れそうだと判断した為である。
それは、新生『オーグル』の建造依頼だ。バトルシップ級が建造可能な量の浮空石は確保している。単座型浮空艇の使用浮空石の量は、指の先程度の大きさで現状でも100艇以上は建造可能。十分戦闘力は確保出来るので、そこから少しちょろまか・・・流用しても問題ないだろう。
今現在の艇隊構想は、ドレッドノート級を『シュトルム機関』に換装した空中空母1艇に麾下の単座型浮空艇を最低60艇、最大80艇を搭載。護衛艇として『シュトルム機関』搭載型新型浮空艇を4艇程度を想定している。護衛艇3艇を空中空母の上下と後ろを確保させ、残る1艇が敵を撹乱させる。当然撹乱の役目は新生『オーグル』が務める事になる。直掩用の単座型を総数の何割かに割けば、十分に護りきれる・・・筈だ。
この高速機動艇を中核に、瞬間火力の高い既存のデストロイヤー級を流用する。艇体構造はそのまま利用し改造を加え、邪魔な帆柱と補助翼を取り払い、主動力を『シュトルム機関』に換装し、若干の装甲の追加と艤装の変更を行えば十分に戦える筈だ。
帝国の最新技術である回転式砲塔の追加も行う予定。え?パクリ?真似される奴が悪いのだよ。真似をされない様な仕組みを使わないのが悪いんだ。元の世界の戦争技術も猿真似合戦だったしな。良い技術は自軍に採り入れなければ負けは必至ですけぇのぉ。
砲塔転回用の動力は、自転車の様な足漕ぎ式で良いだろう。
歯車とボールベアリングを組み合わせ、法撃手が仰角と俯角を簡単に調整出来る様にし、照準の合わせを単独で行なって貰う。仰角は手回し式に俯角を足漕ぎ式にするべきかな?
『シュトルム機関』も問題無く動作する事が判り運用は問題ない。
が、次は皇王を納得させないといけない。スポンサーに企画は通したが、実地でプレゼンテーションを行わないと納得して貰えないだろう。かなりの資金と資産の供与をお願いした訳だし。
推進方法は確立したも同然なので、次は武装に関しての試験をしないと成らない。単座型試作浮空艇に組み込む魔方陣は、対地用と言うか対艇用の『岩石弾』と対空用の『雷撃槍』の2つである。
今度は確実に仕様書通りにする事をグラガン氏に強く言い含め、工房を後にする。命が懸かってるしな、いや本気で。
完成は流石に2日後とはいかない様だ。
攻撃用魔方陣の暴発とか暴走をされては敵わないので1週間の期間を充てて貰う。睡眠を充分に摂らずに良い仕事が出来る筈もない。
新型浮空艇への手応えを強く感じられたので、次は王宮直属の工廠へ向かった。
ドレッドノート級の改装と新型浮空艇の建造を指示する為だ。
『オーグル』は少々特殊な装備にする為グラガン氏に頼ったが、全ての新型艇を任せるのは無理だろう。ドレッドノート級を個人の工房に任せるのは不可能だしな。
新生『オーグル』は攻撃型に、護衛艇は対空防御型に其其差異を設ける。
『オーグル』は高速を生かし高火力固定砲メインにし一撃離脱戦術を採り、護衛艇は回転式砲塔を多用し全方位に対応が出来る様にする。
ドレッドノート級は、飛行甲板に当たる部分を攻撃されると待機してる単座型が一掃される可能性もあるので、飛行甲板は内包型にする。単座型は、浮空石のお陰でかなり高性能な垂直離着陸機能を有している為、事実として滑走路は必要無い。カタパルト的なモノは容易に作れるだろうしな。
見た目としては、装甲に覆われた巨大な湯たんぽの横腹から単座型が湧きだしてくる・・・と、言った感じになるだろうな。多少見た目は悪いかも知れないが、対艇対空用の旋回砲塔を載せ易いため火力を底上げ出来、尚且つ防護も硬く、それでいて高速って言う、空母としては有り得ない三拍子を揃える事が可能だろう。
そして新しく編成される事になる艇総てに、連絡用複座型小型浮空艇を搭載する様にする。艇が墜落した場合に備え連絡を取れる様にして置かないとな。
基本的に、滑走路やカタパルトの必要が無いから、どんな艇にも積めるのが良いな。
世の中何が起こるか判らないからなぁ。自分だけは大丈夫!・・・とか、危険な思考だ。備えあれば何とやら・・・だ。
こうして、慌ただしくも充実した、文字通り飛ぶ様な一週間が経過した。




