これから進むべき道 そのよん
え~と、あのオッサン、初動作用の魔方陣の素材に、一体何を使ったのやら。計算の数倍もの負荷が魔方陣に魔力を流した途端に身体に掛ってきた。
息が詰まる様な衝撃と共に景色がすっ飛んで行く。行くと言うか逝くと言うか・・・余りの衝撃に、一瞬、目の前に星が煌めいた感さえある。
背中を固定する様に配置されている姿勢制御用の緩衝材が無ければ、一瞬の内に操縦席から引き剥がされ、アッという間に操艇不能に陥って居た事だろう。備えあれば何とやら・・・ですな。設計図に組み込んで置いて、心から安堵したのは言うまでもない。
この世界、今までの基本行動が風まかせだった為か、所謂『速度計』なるモノは発達して居ない。一応、発明されては居るが余り正確なモノでは無いし、こんな高速には対応されて居ないだろう。逆に『高度計』は凄まじく発達して居る。
『浮空石』と言う物質が有るので、その気になれば宇宙空間へも到達出来るからなのだが・・・過去にも何度かその様な試みが為されたらしいのだが、その都度、全てが失敗に終わって居る。生身で宇宙空間に行くのは自殺行為だし、行けたとしてもこの世界にも『大気』と言うモノがある以上、宇宙に行くまでに様々な難問が立ち塞がり、仮に到達したとしても、戻って来る時にも行く時と同じ様な問題が生じるだろう。
しかし、あのオッサン、予算が王宮持ちと言う事で高価な素材とかを惜しげも無く注ぎ込んだんじゃあるまいな・・・?と、言う考えが脳裏を過る。
ま、俺の金でも無いしな・・・と、言う事で納得もする。
だが、コチラの設計以上の性能が発揮されてるとなると、このまま主推進用魔方陣を起動させて良いモノだろうか?
技術者としての腕が良いのは結構な事だが、仕様書を無視するのは止めて頂きたいものである。
これだから天才系は始末に負えん。
この試作型個人用浮空艇は全周囲モニターを採用している。
俺の身が置かれてる状況を端的に言ってしまうと、空中に浮かぶ構造体に生身で乗ってるかの様な感覚である。
外殻に因って護られてるってのは意識としては有るが、体感的には空飛ぶバイクに跨ってる様なモノだ。
かなりの高所の為、当然、そこには恐怖もある。
だが、五感が閉鎖空間で封じられて居るからだろうか?ゲーム機の様でもあるが、音や風圧と言ったモノが無い為、非現実的だ。
この辺りも改良の余地があるだろう。音が無い世界では自らの危機にすら気付けない可能性も過分にある。
音が聴こえる事で恐怖を感じる事もあるだろうが、全く聴こえないのも問題だ。耳栓をしてバイクに乗る様なモノだしな。中耳炎を患った時に乗った事があるが、あの時は片耳だけだったが非常に恐怖を感じたものだった。
もう一つ問題がある。全周囲モニターなのは良いのだが、真後ろが見れないという欠陥がある。幾つかの鏡を使用し、死角を無くすようにしないと、折角の全周囲モニターが死んでると思う。この辺りはバイクと同じか・・・基本的に単座の予定なので、独りで全てを熟せないといけないからなぁ。
まだまだ改良の余地は残ってるな。
そして、この全周囲モニターなのだが・・・まぁ、実際に飛んでるのだが『飛んでる感』が非常に強く視覚的には爽快感さえ有る。だが聴覚を封じるのは問題が有りそうだ。正直、音無しフライトシミュレーターをやってるような感覚か?
一頻り空の散歩を楽しんだ後は、機体の性能検査に移る。
機能上、方向舵は少し大きく頑丈めに設計してある・・・いや、設計はした筈だが、実際にはどうなってるか微妙なところだ。
当初の構想から、かなりの高速一撃離脱戦闘を推定している為、高い翼面荷重を必要としていてその為の方向舵の強化である。ぶっちゃけ、上昇下降なんざ、浮空石で微調整を行いながら機動しても問題無いんだけど、左右だけはそうも行かないからなぁ。
上昇性能は出力がかなり上回っている為か、凄まじく良好である。下降性能も艇体の構造と強度のバランスが凄まじく頑強で、操作してても問題は無い。
しかし、出力が膨大過ぎて過敏に反応するのが難点か?もう少し遊びを作らないと、この手の乗り物に不慣れなこの世界の人間が乗り熟すのは難しいかも知れん。
速度が出てる為、縦Gや横Gが半端無いが、この世界の鍛えられた人間なら耐えられない程でもない・・・。が、耐Gスーツ位は開発した方が良いかも知れんな。ブラックアウトは鍛え様が無いからなぁ。ブラックアウトに耐えられない様な非力な者を載せなければ良いって話だが、今は僅かな戦力でも欲しいところだし。考える必要はありそうだ。
旋回性能も素晴らしく高い。尤も、速度がバカ高い為、実際の旋回半径は凄まじく大きくなってそうだが・・・比較するものが周囲に無い為、判別不可能だ。
試作機ながら、当初の目標性能は十分に出ている様に感じられる・・・これなら帝国のプロペラ浮空艇に速度の面でもコストの面でも十分に渡り合える。
帆船の世界にプロペラ機を持ち込んできた帝国の異世界人に目に物を見せてやるぜ。まぁ、プロペラ機を相手にジェット機の様なモノで対峙しようってな時点で俺も同類だろうが。
このままでも十分に性能はあるのだが、主推進用魔導筒の性能を試したいと言う思いがウズウズしてきた。
やはり、性能は存分に試したく成るじゃない。
・・・と、その時は思ったモノだ・・・。
「どぇぇぇわああぁぁぁぁぁ~~~~っっ!!」
主推進用魔方陣に魔力を注ぎ込んだ後、俺は凄まじく後悔をした。
何?この加速?身体中の骨が軋むんだけども?
オカシイ。明らかにオカシイ・・・。仕様上こんな速度は出ない筈だ。あのオッサン、一体どんな素材の魔方陣を組み込んだんだ?
余りの加速Gにより背中の緩衝材に身体が押し付けられ、肺から空気が押し出され、呼吸困難に喘ぐ。
周囲の景色がすっ飛ぶどころじゃない位に後方へ流れて行く。
このままじゃヤバイが、一度魔力の流れた魔方陣を止める方法なんて知らないし、有るのかさえ疑わしい所だが。
え~と、『嵐』の魔法の効果時間はどれ位だったっけ・・・?と、必死で記憶を手繰り寄せようとするが、思考が定まらない。
そんな中、艇体の速度はグングン上昇しこのままだと音速突破もあり得るな・・・しかし、艇体は持つのか?構造上は問題無い筈だが。
うぬ?今、何かに打つかった様な激しい音が!?一瞬モニターに映しだされたのはベイパーコーンか?音速突破か、それに限りなく近い速度って訳か・・・。
暫く耐えていると、漸く加速が収まってきた様だ・・・。
そして、ここに来て新たな問題点が浮上した!
ここは何処だ?
加速に耐える事を重視しすぎて、現在地を見失ってしまった。完全に迷子である。どうやって帰還しようか・・・。
え~っと、出発時の太陽の向きがアッチだったから、コッチに飛べば問題ない筈だが・・・果たして大丈夫なのだろうか?
航法図も搭載した方が良いな。後は無線機も。今現在の方式だと交換に手間取るからなぁ・・・こんな狭苦しい中で交換なんて、取り落としたら目も当てられん。一応、新型無線機の構想は練ってはある。実現出来れば良いのだが。
試行錯誤をしつつ艇体の構築に頭を悩ませながら、何とか帰島したのであった。
遅くなりました。申し訳ありません。原稿は出来てますがUP時の編集の時間が取れなくて・・・。
それでも週末なので更新です。
さて、編集はしてるけど変な表現がないかチェックしないとね。




