これから進むべき道 そのに
タンピヤへ帰島後、真っ先に向かったのが王宮である。目的は、現状を打破する為の直談判だ。
異世界人とは言え、コレと言ったスキルを保持していない私は、どちらかと言えば『期待外れ』な存在だと言う事は強く認識している。だが、この世界で生きていく以上、現状に甘んじるのは以ての外。この世界に着て得られた『家族』を殺された以上は、このまま黙って居られる程、聖人君子じゃない。目を抉った者の目はやはり抉らなければ成らないだろう。報復は何も生まない・・・とは良く聞くが、それは大事なモノを奪われた事の無い奴の妄言だ。報復は報復を呼ぶって?報復の連鎖とかは仕方ないんじゃないかな?人が人らしく生きるには必要だと強く思うね。
なので、このままヤラレっ放しで良いのか?各浮空島にはタンピヤの血族が居たのではないのか?と、滾々と諭した結果、漸く頷いてくれた。まぁ、実際渋られたのは、バトルシップ級を建造出来るだけの浮空石の提供と、皇都に無駄に余ってるドレッドノート級1艇を提供しろっ!・・・ってな所だとは思うのだが、まぁ、受け入れられたので問題はない。
コチラの被害としては、矢鱈と訛ったタンピヤ人の言語を解読しつつ、解り易く伝える為に、知恵熱的な症状が現れた事か?
皇王を説き伏せるのに丸一日、そして寝込んだのが丸二日・・・非常に難敵であった・・・場合によってはトロールよりもだ。
だが、これで『マトモに戦える戦力』を構築する事が可能になった。
最大の問題は、まだその新兵器が青写真の段階だと言う事である!
あははは、まだ構想の段階で、実現するにはもう暫く掛かりそうなんだよなぁ・・・ま。何とかするしか無いべさ。
そこでやって来たのが、ここ『浮空都市タンピヤ』に、ほんの数人のみ住まう大地の小人である『グラガン・ドワンブル』の工房だ。工房はタンピヤの中央に聳える山の天頂付近にあり、王宮の入り口とは反対側になる。それにしても非常に辺鄙な所である。そんなにも他人が嫌いなのか?・・・と、勘繰りたくなるのは仕方が無いのではなかろうか?
今回の伝手はサーシャさん。なんでも古い馴染みらしい。サーシャさんはザードの弔いの為、ウッドベックへと帰省している。30数年振りの帰省だと言う事だ。
「申し訳ありません。ここはエルファーディアで1番の腕を持つ魔道士である、グラガン殿の工房だと聞いてきたのですが」
エルファーディアで1番・・・の件はサーシャさんの入れ知恵である。なんでも、こう言うと機嫌が良くなるんだとか。
本当にここは営業してるの?と言う位に矢鱈と整然としている工房の奥から、如何にも『頑固親父』的な樽型体型のオッサンが出てきた。そのグラガン氏は見た目から、とてもとても偏屈そうに見え・・・こりゃ~前途は多難だと思ったものだ。
そんなオッサンの第一声がこんな感じだった。
「いやぁ~良く来たねぇ~。僕に用事だって?このエルファーディア1の魔道士たる僕の所に来るなんて、君は見る目が有る!何でも言って、ズバッと解決しちゃうからね~」
何と言うか、メチャメチャ口調の軽いオッサンだった。威厳なんて欠片も無い。正直、本気で心配になってきた。なんせ、あのサーシャさんの紹介であるからして不安要素がバリバリにある。
だが、他に頼る術も無い為、仕方なく簡単な設計図の様なモノを手渡し、どの様な構想が有り、どんなモノが造りたいのか説明した所、話しは一気に進む事と相成った 。
「へぇ~何コレ?個人用の浮空艇?用途は?戦闘用?推進力は?はぁ、成る程、確かにこれなら法には抵触はするけどギリギリ大丈夫だね。うん。面白そうだね。早速取り掛かるよ。何せ個人のお客さんは半年ぶりだからね。腕が鳴るよ」
え?半年ぶり?ここは整然としてるんじゃなく、ただ単に仕事がなくて汚れ様が無いだけか・・・。
「どれ位の期間が必要ですか?」
まぁ、1ヶ月もあれば実現は可能だろう。
「うぅ~ん、コレがア~してこうなるし、それにここ最近は天気も良いからね~。道具の手入れは欠かしてないから今からでも始められるよ?うん、そうしよう、早速取り掛かるべきだと思う。そうだね納期は明後日でどうかな?」
ブフッ!いくらなんでも早すぎるだろ?本気で大丈夫なのか?試運転は俺が乗るんだが・・・。
「あ?その目は信用してないね?この大きさのならそんなに時間は掛からないよ。精々(せいぜい)全高が3メルト、全長が5メルト程度でしょ?30メルトを超す魔導筒も3日もあれば作れちゃうんだよ?」
んな金属製のただの筒と一緒にして貰ってもなぁ・・・。
「まぁ、任せてよ。バッチリ仕上げてみせるからね~。いやぁ~正に腕の見せ所だね。因みに支払いが王宮持ちだけど、これは大量生産の可能性はあるのかな?」
「えぇ、もし巧く行けばその積りですが」
「おぉ~って事は、また暫く働かなくても生きていけそうだね。うん、頑張るよ。あ、今から工房に篭るけど良~い?」
「あ、そうですか?宜しくお願い致します。また2日後に様子を見に来ますね」
「うんうん、任せてよ!いやぁ~楽しそうなお仕事だね~」
しかし、何と言うか軽いオッサンである。彼が変わってるのか、それとも大地の小人が総じてあんな感じなのか・・・まぁ、草原の小人も色々なタイプが居るしな。彼が特別だと思いたい。
そうして、心配の2日が経過した。グラガン氏はあんな事を言ってたが、実際はフレームだけでも出来てれば問題ないかな・・・的なノリで向かってみた。
今回は暇を持て余していたスレイミーとミレーヌもセットである。何だかんだと言って、この2人と行動を共にする事が多くなっている。
「そのグラガン殿とやらは信用出来るのでござるか?」
「正直、全く判らん。ミレーヌは聴いた事はあるか?評判とか噂とか」
「え?その筋では有名な人だよ。メチャメチャ仕事が速くて精確だって。でも、気に入った仕事以外は頑として了承しないとかって話も聞いてるよ。ジンちゃんの話を聞いた限りじゃ、かなり乗り気だったみたいだけど・・・今回のって、例のアレでしょ?」
「あぁ、そうだ。単座型戦闘用高速浮空艇だ。まぁ、魔方陣だけならミレーヌに任せられるが、流石に浮空艇そのものは厳しいだろ?」
「うん、僕は内装や改造がメインだからね。特殊な改造とかなら任せてよ」
「あぁ、その時にはお願いするよ」
などと会話をしながら工房へ向かった。
「すみませ~ん。2日ほど前に仕事を依頼した者ですが」
あ、そう言えば、名乗って無かった気もするな。余りにも話しが巧く纏まったんで、スッカリ忘れてたや。
返答が無いので、もう一度呼び掛けようとした所、奥から1人の女性が出てきた。
見事な樽型体型である。どうやら大地の小人の様だ。
「あら~良く来たザ~マスッ!話しは聞いてるザマスよっ!なかなか楽しい仕事を持ち込んできてくれて感謝ザ~マスっ!インスピレーションがドンドン湧いてきたザマスのよ。お礼はアタシの熱~~~い抱擁と濃厚な接吻あ~たりでどうザマスか!?」
やたらとキンキンと脳に響く声で、その女性・・・は捲し立てた。
って言うか、普通はお断りだろう。
普段は良い子なミレーヌは、余程苦手なタイプなのかモロに顔に出ている。
見られると機嫌を悪くしそうなのでミレーヌを隠すように立ち位置を変えつつ、抱き着こうとするジェスチャーを押し留め、本題に入る。
「頼んでいた仕事は、どの辺りまで進捗致しましたか?」
オバちゃんと親密になる為に来た訳じゃないしな。
「アラ?接吻は要らないの?残念だわぁ~。ま、良いザマスね、こっちに来るザマス!」
え~と、進捗具合は・・・?
有無を言わさぬ態度でサクサクと奥へと進んでいくオバちゃん。そういや、また名乗ってないな・・・小人の類は、他人の話しを聞けないタイプが多いのかな?
薄暗い通路を奥へと進み階段を登る。
そうすると、一気に目の前が明るくなり一瞬戸惑った。
空気の流れからどうやら外、と言うか屋上に出たようだ。
そこには、赤銅色に輝く、設計図よりも多少独創性を加えた、小型の浮空艇の姿が在った。