これから進むべき道 そのいち
今回、皇国が被った最終的な損害は、バトルシップ級 3艇 クルーザー級 7艇 デストロイヤー級 10艇 トルピード級 13艇 と言った『全滅』と言っても過言ではない損害である。嘗ては第12軍団まで在った『神聖タンピヤ皇国』の浮空艇隊だが、敗戦が続き現在は第7軍にまで数を減らしている。そのうちの第4軍が事実上の全滅である。その為、更に戦局は厳しくなるだろう。
付近の友軍をかき集めての今回の作戦だった為、付近の空域に友軍は僅かばかりしか居ない事になる。
その為『タンピヤ』への帰途は、緊張につぐ緊張の連続であった。
夜間中心に高度1万メルト上空を寒さに震えつつ雲に紛れて飛び、昼間には森林地帯直上を草葉で偽装しつつ飛ぶ・・・と言った有様だった。
手痛い敗北を喫した以上、私達の立場は『敗残兵』となる。逃げる時には何よりも『士気』の心配が必要である。進退窮まり逃亡するのであれば『まだ』問題はない。最悪なのが仲間を売る行為だ。仲間を売り、自分だけは助かろうとする奴が一番性質が悪い。
なので補給に街などに立ち寄る事は非常に危険だ。退却時には脇目も振らずに目的地まで急行しなければならない。そして、指揮官は、バラバラになりがちな部下を叱咤激励し、動かさなければならない。
まぁ、尤も、今回は『お客さん』なので、その辺りを考えるのは私の役目ではない。ナタリア艇長に丸投げするのも悪くはないが、一応は元指揮官である〈今現在もか?〉なので助言や補佐は必要なんだけどね。『オーグル』の人員を纏めないといけないし。何もやらなくて良い様に見えて結構忙しい毎日であった。
例えばこんな感じである。
「に・・・じゃにゃかった、艇長さん、お腹空いたにゃ~飯の時間はまだかぃにゃ~?」
「もう、ターニャさん?お昼御飯はさっき食べたでしょ?夕御飯まで我慢しなさい」
「嫌にゃ~お腹空いたにゃ~」
「私を艇長と呼ぶと肩書きがナタリア艇長と被るので名前を付けて呼んで下さい。後、私を肉とか呼んじゃ駄目ですよ」
「ヒョエー艇長さんってばイケズにゃんだから~。一噛りさせてくれたら我慢するにゃ~」
「あ、そろそろ『スレイプル』の人達との会合の時間だな。では失礼」
「うにゃ~~っ!お腹空いたにゃ~っ!」
だとか
「艇長さんっ!ここの人達って酷いんスよっ!」
「おや?どうしたんですか?イジメとかでもやられましたか・・・?居候ですし、多少の事は目を瞑って下さい」
「場合によっちゃ、イジメ以上ッスよっ」
「一体何が有ったのですか?」
「聴いて下さいよ~ここの人達に『スネックヘッド』を普及させようと頑張ったんスけど・・・アイツら、オイラん事を汚物を見てる様な目付きで接して来るようになったっス。正直、針の筵ッスよ。どうにか成りやせんか?」
「普及を諦めたらどうですか?」
「いくら艇長さんでも、これだきゃ~譲れませんぜっ!『スネックヘッド』は俺の生き様ぁっ!存在の総てだぜぇっ!」
「あ~すみません。そういえばナタリアさんに呼ばれてたんですよ。一応、『スネックヘッド』の普及も、それとなくしておきますね」
「マジっすかっ!ついでに艇長さんもやってみませんかぃ?二人なら捗りそうだし!」
「あ、急ぐので申し訳ないです」
だとか
「おぉ、艇長殿、捜してたである」
「スカイ、どうしました?」
「うむ。それがであるな・・・」
「歯切れが悪いですね?」
「居候の身でこの様な事は心苦しいのであるが・・・」
「なんです?」
「もっと速度は出せないのであるかっ!?」
「・・・は?」
「今現在、拙者達は退却中であるのは間違いないであるか?」
「ええ、その筈ですが」
「どうして、こう、もっと速度を出さないのであるか?退屈で仕方ないである!あの時のような急降下攻撃の様な速度を味わった以上、『トルピード級』程度の速度では燃え無いのである!」
「『スレイプル』も損傷を受けてますからね。『タンピヤ』に戻るまでは辛抱です。戻れさえすれば速度が出るものを提供しますよ」
「本当であるかっ!期待してるであるっ!」
「楽しみにしてて下さい」
だとか
「お?ヒョーエ!探してたんだよ~」
「あ、ナタリア艇長?どうされましたか?」
「アタイの事は『ナタリア』で良いよ。アタイも『ヒョーエ』って呼ぶからさ。お相子だろ?」
「あ、そうですか。では『ナタリアさん』で」
「うぅん。まぁいっか・・・それで」
「それで本題はなんでしょう?」
「あぁっそうそう。ヒョーエん所のポーラかぃ?草原の小人の」
「はぁ・・・皆まで言わずとも判ります。あの毒舌の事ですか?」
「そうなんだよ・・・アレ、どうにかなんないかぃ?精神的に打ちのめされた部下が大勢出てるんだよ」
「あ~その~何です・・・彼女は『オーグル』に於いては、影の女帝として君臨してたみたいですし、私程度では何も出来ません」
「んじゃ、サーシャに言うべきかね?」
「サーシャさんでも無理だと思います。彼女も泣かされてましたから。皇王でも無理なんじゃないですかね?」
「マジかぃ・・・」
「えぇ、私もその場に居ましたから。言い負かせれる様に努力してみたらどうですか」
「当然試してみた奴は居るさ・・・だけど、心に傷を負っちまってねぇ・・・うちの艇じゃクールで通してた奴なんだけど、完膚無きまでに打ちのめされたらしい」
「それは・・・なんと言うか・・・その・・・申し訳ないです」
「まぁ、戦闘とかは極力避ける予定だからね。そっか・・・無理か・・・分かったよ。ポーラの事はなるべく触らないようにする」
「あ、彼女には美味しい食べ物を与えておけば静かになりますよ」
「それは良い情報だね。助かるよっ!」
「いえ、どう致しまして」
だとかが、毎日の様に有るわけで・・・まぁ、変な意味で士気は下がっていないだけマシなのかも知れないと、前向きに捉える事にする他は無いな。
しかし、何と言っても問題なのは、スカイの奴じゃ無いが、速度が出せずに遅い事である。損害が酷く速度を出せない為、進撃時には10日余りで戦場に到着したのだが、タンピヤに到着するまで14日もの期間が必要であった。
タンピヤ到着後、『浮空都市アナピヤ』は完全に帝国の手に陥ち、逃げ遅れた一般市民に大勢の犠牲者が出た事を伝えられた・・・。
遅くなり申し訳ありません。冒頭部分、入れ違いがありましたので軽く修正。これで話の流れが正常になったと思われる今日この頃です。