戦闘開始 そのじゅう
今だ!今しかチャンスは無いっ!ターニャの想いは兎も角、トロールの態勢を崩してくれた事に関しては感謝する!血肉はやれないケドもっ!
俺はトロールの脇を素早く駆け抜けミレーヌの下に向かい『槍』を受け取る。
そして その『槍』の一本の穂先をトロールに向け手に魔力を篭める。
「喰らえっ!名付けて『竜巻投槍』バージョン1ッ!!」
手に魔力を籠め、槍の石突き部分に逆向きに取り付けた『竜巻』の魔導筒を発動させた。その瞬間、槍が高速回転をしつつトロール目掛けて飛翔し、胸板に突き立った!
しかし、離すタイミングが少し遅れ、掌の皮が摩擦で火傷の様な状態になる。
『バージョン1』の槍の穂先は錐の先端の様にモノを抉り取り易い様に加工され、硬いモノでも比較的容易に、穴を開け易くはなっている。
それでも鋼の硬さを誇るトロールの表皮を貫くには強度が足りないのか、激しい火花を散らしている。
「ぐけキャッ!無駄ダッ!」
『竜巻投槍』はトロールの装甲を貫けず、腕の一振りで簡単に圧し折られた。『竜巻』の魔法が発動した槍の残骸は、艇の内壁に突き刺さり、そのままめり込んで行った。
「駄目か・・・ならば『竜巻投槍』バージョン2っ!!」
『バージョン2』は槍の先端をドリル状に加工してある。素材はバージョン1と同等なので穂先の強度自体は変わらない。
今度も激しく火花を散らしトロールのお腹の表皮を削っていく。ドリルの刃が半ばまで食い込み、トロールの青味がかった血液が少し流れ落ちた所で、金属組織が耐え切れず穂先が欠け折れた。
折れた槍は床を突き抜け姿を消していった。
トロールは身体に刺さったドリルの刃を抜こうとするが、表皮を巻き込む様に刺さって居る為、抜こうにも抜けないようだ。
「我の皮膚ヲ貫くとわっ!侮ったわっ!」
やはり鋼の硬度じゃ鋼の装甲には打ち勝てないか・・・。ならば次だ!
「喰らえっ!『竜巻投槍』バージョン3っ!」
『バージョン3』はバージョン1と穂先の形状は同じだが、材質がミスリルに変更されている。コストが掛かるので実用的では無いのが難点か?
バージョン3はトロールの堅牢な装甲を物ともせず脇腹に刺さり、火花を散らしつつ抉り容易く貫通!トロールの血肉を背中から撒き散らしつつ、そのままオーグルの艇体をも貫き、何処かへ飛び去っていった。
「ヘッ!ようやく一矢報えたか!ほら、脆弱な化物!こっちだ着いて来な!俺の身体が欲しいんだろぅ?ターニャ!『後は頼んだ』ぞ」
そう挑発しつつ、天井に空いてる大穴から2本の槍を支えにして上甲板へ登る。
「たかダか人間風情が生意気な口ヲっ!」
知性は有るものの、かなりの脳筋だと見ていたが、まさかここまで単純とは正直思わなかった。
まぁ、予想道理に事が進んで居るので悪くは無いが・・・。
そうして、かなりの風が吹き荒ぶ中、俺は上甲板でトロールと対峙している。
見張り台から離れ、空を滑空して居たスレイが、コチラを見て叫んだ。
「主殿っ!今、助太刀に参るでござるっ!!」
「スレイ、来るな!いくらお前でもコイツはどうにも成らん!大丈夫だ、死にゃ~しねぇよ。お前の主の出来る姿を見せてやんよっ!」
「主殿ぉ~っ!」
さて、スレイにはそう啖呵を切ったものの、どうやって『引っ掛けて』やるかな。
取り敢えず、挑発しつつ隙を伺うか・・・。
「トロールってのは脳味噌がスカスカなんじゃないのか?軍師様ってのが居ないと、戦争すら出来なさそうだよな?」
先ずは軽いジャブってトコか?
「グギぎぎギギッ!言わセテ置ケばっ!!」
トロールは棍棒を振り上げ甲板に叩き付ける。木片が散らばり此方にも飛んでくる。目に入らないように腕でガードしつつ更に挑発を続ける。
「ヤレヤレ、艇を失ったのも、冷静さを欠いたからだろ?半ば自分の責任なのに俺達のせいにされてもなぁ・・・無能はこれだから困るぜ・・・」
大袈裟に肩を竦めつつ言い放つ。
「グガガガがッ!ギがントス様に認めらレシこノ我ヲ侮辱スルかっ!?」
憤怒のあまりか、トロールの表皮から『ギチギチ』と音がしている。
「認められてるねぇ・・・新型の浮空艇を与えられたのは、実は厄介払いの為だったりしてな?余りの無能っぷりにギガントスとやらも呆れ返ったんじゃないのか?」
目を軽く閉じ、呆れ顔で軽く首を左右に振りながら『ダメだこりゃ』みたいな感じの溜め息と共に追撃をする。
「グギッ!キ、貴様等最早どウでモ良い!!こノ場で叩キ潰シてクレるわ!!」
トロールは棍棒を大きく振りかぶり、襲い掛かってきた。だが此方も帆柱を盾に逃げ回る。
片腕を失ってるにも関わらず普段以上の力を篭めた為、棍棒を叩きつけた後に大きく体勢を崩す。
ここだぁっ!
『竜巻投槍』のバージョン4とバージョン5は双方の槍を丈夫な鎖で繋いである。
本来の使い方としては上甲板の上から敵の浮空艇目掛けて魔導筒を発動させ、帆柱や帆桁を引き千切るのが目的だ。槍としての機能よりも丈夫さと推進力を重視した作りになっている。
俺はトロールの懐に潜り込むと、両手に握った槍の魔導筒を同時に起動させる。
凄まじい推進力を得た2本の槍は、トロールの腕を巻き込み回転しつつ、飛び立とうとしていた。
発動から数秒で最大加速を得て、トロールを甲板から引き剥がそうとする。
悪足掻きに巻き込まれ身体を掴まれない様に、魔導筒を発動させた直後には既にはトロールの脚を蹴飛ばし素早くその場から離れている。
「あ~ばよ~っ!異世界の軍師とやらによ~ろしぃくなぁ~っ!」
俺は出来うる限り、にこやか且つ朗らかにそう言い放った。
「グギギぎゃッ!貴様の顔は絶対に忘レん!!世界の果てマでモ追イかケて必ずや叩キ殺シテやるっ!!」
この場さえ凌げばどうとでもなる。二度と遭う事も無いだろうよ。
「おぅ!愉しみに待ってるぜ~。脳味噌空っぽ~のお~間抜~けさぁ~ん!」
トロールは『グげギャグげギャ!』と、騒がしく喚きながら空の彼方へ消えて行った。
奴が間抜けで助かった。強い緊張から解放され、安堵の為に身体から力が抜けそうになる。
「主殿!ご無事でござるか!?」
スレイが心配そうに傍に降りてきた。
「心配掛けてスマンな。大丈夫だ・・・大丈夫だぞ」
と、スレイに正面から膝を着くかの様に抱きつく。
「あ、主殿っ!?何でござ・・・るか?」
スレイはガタガタと震える俺の身体に気づいたようだ。
「スマン。正直、ブルっちまった・・・暫くこのままで居させてくれ」
自分よりも遥かに強い仲間たちが目の前で粉砕されたんだ・・・普通の人間である俺が勝てたのは、あくまでも魔道具のお陰だ。
「脚がガクガクする・・・肩を貸してくれると有り難い。早く状況の確認をしないとな」
「承ったでござる。それにしてもトロールを撃退するとは・・・流石は主殿でござる!」
「情けなくも震えているけどな」
「某も正直震えてたでござる・・・アレには勝てる見込みが全くござらん」
「あぁ、同感だ。もう一度やれと言われても、二度とやりたくない!それより指揮所に戻るぞ。このまま肩を貸してくれ」
「お安い御用でござる」
何とか撃退できたか・・・次が無い事を祈ろう。
今は皆の安否が心配だ。艇の損傷具合も気になる。
やる事は山積みだが、今こうして生きて居る事に感謝だな・・・。
数字にルビを打つ方法が判明
記号である『~』等、語尾を伸ばす表現を使うと駄目っぽい。
奥が深いな。
ヒントを与えてくれたmesotes様には、感謝感謝です。
この場も借りて御礼申し上げます。
誠に有り難う御座いました。




