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序章 そのに

 やたらと美形な衛兵に連れられ山の上の方に連行されていた。


 「随分と登るんですねぇ」


 やたらと息が切れる。それもその筈、千メートルを遥かに超す山の上な訳だから。

 普段は平地に住んでる人間には少々辛い高度ではある。

 しばらく黙々と登り続けてると、燦々さんさんと降り注いでいたキツイ日差しが一気に陰った。天空に雲でも出てきたかと見上げてみると、予想だにしない存在が飛んでいた。


 船である。正確に言うと『帆船』である。一見すると木材で出来た帆船が空を飛んでいる。その数はざっと見て四、五十隻ほどであろうか?山のような巨大なモノから全長が数十メートル程度のモノまで様々である。中には帆柱が折れ半ば焼け焦げ半壊したモノまで有ったりする。


 「何だこれは?」


 開いた口が塞がらない。呆然と見てると衛兵の中で一番若いとみられる男が教えてくれた。


 「あぁ、ふぐうでいだなや。いぐざがらもどっでぎだんだろぅ(訳:あぁ、浮空艇ですね。戦いから戻って来たのでしょう)」

 「ん?戦?何処どこかと戦争中なのですか?」

 「んあ?・・・でぎ・・・(訳:あ?・・・出来・・・)」


 と、言いかけたが、リーダー格の男の人睨みで沈黙する


 「ぞのあだりのはなじもふぐめ、おうぎゅうにいっでがらぜつめいがあるだべさ(訳:その辺りの話も含めて、王宮に行ってから説明があります)」


 暫く登るとやたらと開けた空間に出くわした。山の中腹というのに平面のスペースを確保している。喩えるならば飛行場か。幅三百メートルほど長さは千メートル以上白い縄張りのようなもので区画分けされている。先ほどの帆船の大半が着陸してるようだ。


 「あの~・・・此処ここは何でしょうか?」


 

 質問をしてみるも衛兵たちはあれからずっと無言である。何か言葉を返してくれても良さそうなものだが・・・。

 ただっ広い平地の端に窓の数から推測するに三階建ほどの天井の平たい建物が山の中腹に向かい山と融合するような形で存在していた。あれが王宮か?もしかするとあれは玄関口で、山の中を繰り抜いて王宮を形作ってるのかもしれないなぁ・・・と、漠然ばくぜんと思った。

 予想通り、衛兵たちはその建物へと向かう。


 中から薄く緑色に輝く鎧を着込んだ兵士らしき者達が現れ、コレまで連行してきた衛兵と一言二言の言葉をかわし連行の引き継ぎが行われたようだ。

 青い絨毯の敷かれた廊下やら階段やら廊下やらを更に千メートルほど歩かされ、馬鹿でかい金属の様な扉の前で留め置かれた。扉の両脇に控える八人ばかりの青い色の鎧の兵士に身柄を引き渡される。

 何ともまぁ厳重な事で・・・と、半ば呆れつつもやることもないので装備品の観察等をしながら暇を潰し待っていた。更に体感時間で十分位だろうか、ようやく扉の向こうに案内される。


 TVなどでのドキュメンタリー番組等で見たことがある、如何にも『謁見の間』的な空間がそこにはあった。扉から十メートル程度であろうか?意外と奥行がなく、奥に有る玉座と思われる椅子に白銀に輝く鎧を身に纏い、白銀に輝く髪と髭をした30代後半から40代半ば位の壮健そうな超絶美形な男と、その隣りの同じく白銀に輝く髪を後ろに垂らしたコレまた筆舌に尽くしがたい美貌の若い女性の姿が見て取れた。

 恐らくは男が王様で女性は王妃か王女なんだろうなぁ・・・と推測した。しかし、遠目に見ても凄まじい美貌である。ここに居るのがなんだか場違いに感じられる・・・それくらい内心では凹んでいる。何と言う容姿系チートなのだろうか?

 扉から玉座までびっしりと、武官とおぼしき戦士然とした屈強そうな男達が約二十名ばかり控えて居る。ちなみに、王に多少は引けを取るものの、一様いちように美形揃いである。何と言う羞恥プレイであろうか?

 内心でモヤモヤしてると王らしき者が口を開いた。


 「おぉ、おめさがいがいがらのたびびどがや?(訳:おぉ、貴方が異界からの旅人ですか?)」


 アンタもか・・・折角見た目が超絶美形なのに非常に残念だ・・・と、思いつつも表情には出すこと無く何とか耐えた。

 いがい=異界か・・・?やはり此処は元の世界とは違う世界なのか。しかし、何故にそれを知ってるんだ?


 「ふじぎぞうながおをじでるが、せつべいずるべさ(訳:不思議そうな顔をしてるので、説明致します)」


 いい加減訛かげんなまりが酷く理解するのにワンテンポ遅れるのだが、要約するとこんな感じらしい。

 いわく、十年に一度前後に異界からの人間がこの世界に迷い込み色んな技術をもたらしてくれるんだそうだ。そして、新しく着た異界の旅人である私に期待してるとか。主に技術や知識の面で。

 王が異界からの旅人を見たのは私で二人目らしい。運が悪いと浮空島から逸れて森林地帯に真っ逆さま。そのまま命を落とすんだとか。実に危うい話ではある。とりあえず墜落死は免れたのは運が良かった。

 島や船が浮かぶ原理としてはこの世界には『浮空石ふくうせき』と言うものが存在し、それ単体でも浮遊能力があるが、然るべき処置をして魔力を注ぎ込むことで数十倍の能力を引き出すことが出来るんだそうだ。

 以前は沢山の『浮空島』が存在したが、浮空石の乱掘で高度を維持できる浮空島の数が激減し、全世界で10個ほどしか無いそうである。この近くにも要塞化された浮空島が存在してるんだとか。

 あの帆船は『浮空艇ふくうてい』と呼ばれこの世界における一番有効な移動手段でもあり輸送手段でもあり、兵器でも在るんだそうな。なぜ帆船タイプかと言えば、以前の異界人もたらした技術の一つだそうで、それまでは浮かぶ事しか出来ず移動させるにしても使役型飛行系モンスターに牽引させるくらいしか出来なかった『浮空石』に、帆で風を受ける事で移動手段に昇華させ、各種の文明発達に大きく貢献したとか何とか・・・。


 船の形になってるのは、この世界にもある川や湖や海に着水する事が出来るから・・・だそうである。 陸地面積が非常に多くその大部分が未開発の森林地帯に覆われてる為、この浮空島にある様な巨大な駐船スペースを確保する事が出来ず、わずかながら存在してる水場に着水出来る様なな形状を考慮した 結果、現状のような外観に行き着いたんだとか。人間種族は水場付近に都市を拓くのでその関係もあり都合が良いのだとか。


 そしてその森林部分の大半は凶悪なモンスターの棲家となっているか、人間よりも数の多い森の人『エルフ族』の縄張りの為に不用意な開発が出来ない・・・為でもあるらしい。

 この世界の人口比率は・・・人口比は人間種族2割、森の人であるエルフ族3割、巨人種族2割、鳥人種族、獣人種族、小人種族で1割ずつ位らしい。あくまでも人間と意思疎通を図れる種族を対象とした人口比率であり、それ以外の知性はあるがモンスター系統に属する人口比は未確認との事。

 しかし、説明好きな王様である。いや、それだけ異世界人の能力を期待してるのだろうか?そして、自陣営に取り込みたいんだろうかとも思う。今現在、戦争中らしいし。


 

 「大変申し訳ないのですが、以前の世界では私はしがない雇われでしたので、取り立てて知識はありません。御期待には添えないと思うのですが如何致しましょうか?」

 


 嘘をついても始まらないので正直に申告したのだが、一向に信じて貰えない。まぁ、より正確に言うなら『働きたくないござる!』・・・と、言った所だろうか?しかし、そんな事は言えないので何とか言葉を濁しこの場を逃れる方向で色々と発言してみた。

 

 結論。無理でした・・・。


 知識がないなら役に立て・・・と。自国が見つけた以上は私の身柄はこの国の所有に成るらしい。

 『え?これって奴隷じゃね?』と思ったものの、確かに元々の国籍も何もないわけだからなぁ・・・。


そう言う事で有無を言わさず軍艦乗りに仕立てあげられました。

 無能者なので下っ端軍人かと思ったが、かなり小型の軍艦であるトルピードクラスの一隻を預けられることになった。色々な種類の艦船が元の世界の名称なのは異世界人がもたらした知識なんだろうな。なんでも、前回の任務で艇長が索敵任務中に誤って甲板から転落死したそうで、後任に誰を充てるかで悩んでいたらしい。

 軍人は沢山存在するが、人の上に立てる能力のある者が少ないんだとか。


 「しかし軍人か・・・。働きたく無ぇ~よぉ~・・・」


 あの時、街を目指した判断は間違っていたようで今更どうしようもないが、寒さに凍え飢えて死ぬよりかはマシだと無理やり納得してみる。・・・納得できる訳が無ぇ。

 グチグチと後ろ向きな思考を延々と考えながら、割り当てられた艦に向かうのであった。


 侍従長を名乗るやたらと渋めのオッサンに連れられ・・・もとい連行され目にした駐船場にて目にした船は、3本マストで全長30メートルほどか、円柱状の金属製と思しき筒が2本船首からかなり長く伸びている。全高が約20メートル前後、全幅が10メートル位の速力は出そうな船だった。良く見ると船底部分に水中翼のような構造物がある。空中でどの様な役目を果たすのであろうか?・・・幅広のサーフィンボードみたいな感じのやつが複数枚取り付けられ、地上でも問題なく泊めることが出来るようになってるみたいだ。

 まぁ、それは良いとして、なぜ損傷してるのだろうか?王宮に向かうときに見た損傷してる船の一隻だったようで、帆柱は折れ、船体が焼け焦げ穴が開いて骨組みが見えている・・・問いただした所、 指揮官不在のまま戦闘に突入し、あえなく轟沈する寸前まで追い込まれたんだとか・・・っつ~か、船長不在なら副長辺りが代わりに指揮くらい執れよ・・・とは思わなくもないが、戦闘指揮が出来る人間は限りなく少ないのだそうだ。


 船員も死亡やら重傷とやらで乗組員は此処には不在で、今現在この船は乾ドックへの移動待ちだそうだ。損傷は外装のみとの事なので修理は約七日程度で完了するそうである。暫く時間が空くとの事と、この世界の知識を詰め込み指揮官として行動できるように知識を侍従長自ら叩き込んで・・・もとい、教えてくれる事になった。


 このままでは確かに無知極まりなく『いきなり軍艦に叩き込まれるのは幾ら何でもあり得ないだろ!?』・・・と、内心は心配してたので非常に有難い。元の世界では貯金残高が大して残ってないため 元の世界に戻る気もあんまりないし、あのブラックな会社よりかはナンボかマシだろうと思ったのも、また事実ではある・・・。結局は甘い期待でしかなかった訳だが、異世界に飛ばされ、訳も判らないままに色々と押し付けられ、思考が麻痺してたこの時の私には予想だに出来なかった訳である。

 

 この異常すぎる状況下で正常な判断とか普通無理だろう・・・と、逃げ道を作ってみる。


 まぁ、世の中成るようにしか成らない訳だし、深く考えても仕方のない事でもあるので、侍従長に連れられ王宮へと戻ったのであった。




 この世界に着てから絶望したことがある。


 飯が不味まずいのだ!この世のものと思えないくらいに不味い!!


 基本的な味覚の違いなのだろうが、異世界人には食の関係では非常に厳しいと断言をせざるを得ない訳だ・・・先人たちはどのように乗り切ったのであろうか?非常に気になる所ではある。


 最初は無能力者の私に対しての嫌がらせの類かと思ったものだ・・・だが、他のタンピヤ人と一緒に食事をしたら、皆が残飯のような味の食事に舌鼓をうっていた・・・あまりの絶望に逃げ出そうとしたのも無理も無いとは思わないか?


 あ、この浮空島は『浮空都市タンピヤ』と言うらしい。幸い公用文字がローマ字に良く似た文字であったため、色々な正式名称が把握でき一安心できた。

 ここの人達の話し言葉、一応意味は通じるけど正確な名称が不明なのが死ぬほど辛い。ダンビヤって、似て非なるものじゃん。


 この世界と元の世界の最大の違いは『魔法』の概念だな。『浮空石』も大概トンデモナイが、魔法も有り得ない現象だ。

 魔法のある世界だが、この世界には所謂『魔法使い』と言う者は存在しない。大昔には存在したらしいが、魔法の発動方法が『指先に魔力を集めながら空中に魔方陣を描き、正しく描ければ魔法が発動』だったようで、当然ながら正確に描けないと魔法は不発に終わってしまうという、超高難易度の特殊技術だったそうだ。

 戦闘用の魔法ともなれば一握りのエリートにみに許された超絶技能だったと文献には記されている。戦闘中に激しく動きながら魔方陣を描くなんて普通は無理だよなぁ・・・どんな変態じみた身体性能だったのやら。

 だが過去の異世界人が『最初から魔方陣を描いておいてそれに魔力を込めたら、実は魔法が発動するんじゃね?』的な感じで試してみてそれが実際に発動した事で、魔法は魔力の素養さえ有れば誰でも誰でも行使できる『一般技能』になったそうだ。

 そしてその方式を編み出した異世界人は巨万の富を得た・・・しかし、代償にエリートから普通の人に成り下がった魔法使いたちに惨殺されたとか何とか・・・元エリートたちの気持ちは判らなくもないが理不尽な話ではある。


 一般的に『魔法』を行使する者は「魔法士まほうし」と「魔導士まどうし」の二種類である。主に魔法士が魔力で以って『魔道具まどうぐ』を発動させる事が出来る者、魔導師が『魔導具』を製造できる者・・・である。

 魔道具は『魔具』と簡略されと呼ばれることも多いとか。


 「魔導士」は知識があれば誰でもなれるが「魔法士」は産まれながらの素質が必要。「魔導士」は記憶力と器用のバランスがとれた人間種族が適性が高く数も多いが、魔法士は亜人種の適正が高い。


 魔具は大まかに分けて二種類あり、金属製か紙製かの違いがある。

 金属製はかなり割高だが素材に因っては半永久的に繰り返し使用が可能。

 紙製は1回使い切りだがお値段が非常に安いので状況によって使い分けがされている。

 魔導触媒に使用できる高品質な紙も、実は異世界人がもたらした技術らしい。

 

 このタンピヤ城と言うか山を繰り抜いた要塞だが、非常に空気が淀んでいる。空気が淀んでいる上に蒸し暑い。一応換気用に『大気操作エアーコントロール』の魔方陣を刻んだ魔法筒もあるそうだが、如何いかんせん複雑に入り組んでいて届き切らないときたもんだ・・・が、コレは直ぐに解決した。『大気操作エアーコントロール』の魔導筒と「氷柱撃アイシクルスピア」の魔導筒を組み合わせ冷風機のような装置を開発した。

 勉強会の最中に使用してると、それを見た侍従長が「ご、ごれは・・・!?(訳:こ、これは・・・!?)」とか何とかかしつつ強奪していきやがった。

 後ほど王様に呼び出され『え?何?なんか悪い事をしたかなぁ?』と戦々せんせん恐々きょうきょうとしてると『ごんながんじでやぐだつぢしぎをだのむべさ(訳:この様な感じで役に立つ知識を宜しくお願いしますよ)』とかのお褒めの言葉を頂いた。『え?こんなので良いの?なら『灼熱武器ヒートウェポン』と『大気操作エアーコントロール』で温風ヒーターなんてどうかな?』と提案 すると、それも採用されたようだ。いや、この程度で良いならいくらでも・・・ってか前回の異世界人はどれくらい前に来たんだろうか?余りにも文明レベルが低すぎるような気がしなくもない。


 ちなみに私にも魔法士としての適性はあるそうだ。人並み程度ではあるが・・・。

 教わった通りに集中すると手があわく光っていた。『え?何これキモイ・・・』と思ったものだ。

 この状態で魔方陣に干渉し魔法を行使する。試してみたら足先でも可能なようだ。更に熟達すると、全身どこでも発動出来る様になるとか。

 主に魔法障壁を発動させるための護符を使用する際に必要な技術らしい。足先とか手先とか首とかで魔 力の行使が出来ないようでは肉弾戦は行えないらしい。急いで取得しないとならない技術ではないようなので、暫く放置することにした。 




 優しさの欠片もない侍従長の『勉強会じごくのしごき』も漸く終わる日が来た。

 ちなみに侍従長の名前は『ジョナサン・タンピヤ』と言うらしい。略してジョタンですな。


「知識なんか無くても実地で成るように成るって」


 この言葉が侍従長の教育魂に火をつけたようだ。

 振り返れば面倒すぎる一週間だった。


「これで残飯のような食事ともお別れかぁ」


 と、呟いたら侍従長に睨まれた。いや、でもアレだよ?異世界から来たんだから仕方ないでしょ?的な事でその場を誤魔化した。後で王様に報告されたりするんだろうなぁ・・・と、軽くうつになりつつ浮空艇の引渡し場所に向かった。


 一週間前とは比べるべくもなく、真新しい木材の香りがその場所には立ち込めていた。


「いや~コレが私の浮空艇かぁ」


 と、周囲に聞こえないように呟いたのだが


「いんや、ごれはおうぎゅうのふねだんべ(訳:いや、これは王宮の艇ですよ)」


 と、キッチリ訂正された。どんな耳をしてるのやら。


「ざぁ、ごれに腕を入れるだ(訳:さぁ、これに腕を入れるのです)」

 

 なにやら薄い緑色をした金属板に、有無を言わさず腕を挟まれた。

 ここ一週間で、私の扱いはかなりぞんざいになってしまっている。四六時中一緒に居たため、私の本性はバレてしまってるようだ。

 腕を差し込んで待っていると、バチュン!との音と共に腕に激痛が走る。


「うごわっ!あ~ちちちち」

「ごれでどうろぐはじゅうりょうだべ(訳:これで登録は終了です)」

「え?何これ、痛いんですけど?」

「ずぐにいだくなぐなる(訳:直ぐに痛くは無くなります)」


 腕に焼き付いた登録番号の様なモノ、どうやらコレが登録証のようだ。ってか、焼印的なものか?無茶苦茶してくれる。珠のような肌に跡が残ったらお婿に行けないじゃん!・・・いや、冗談ですけどね?


 ふと気が付くと、革のツナギっぽい服を着た緑色の肌の男と思われる人が直ぐ側に立っていた。

 成る程、彼がエルフ族か。確かに緑色だな・・・と、挨拶しようとすると


「あ~ん?アンタが新しい艇長か?」


 上目遣いにメンチを切ってきている。え?何この目付きの悪いナマモノは?


「精々足を引っ張らない程度に座ってなよ?艇長なんざお飾りなんだからよ。戦闘中にお漏らしとか勘弁してくれよなぁ?」


 完全に舐められてます。

 初対面から余りにも酷い仕打ち・・・侍従長に助けを求めるべく視線を向けるとあさっての方向を向いていた。


「んじゃぁ、あどはまがぜだべ(訳:それでは、後は任せました)」

「え?ちょっと」

「うんうん、はやぐうぢどげるどいいだなやぁ。おめさならでぎる!(訳:うんうん、早く打ち解けると 良いですね。貴方なら出来ます!)」


 一方的に会話を打ち切りその場を去っていく侍従長。え?何コレこの状況。実は壮大な嫌がらせ?

 紹介とかしてくれないの?全部丸投げ?マジで?


 相変わらずエルフ男はガン垂れてきやがってます。

 いや、一応私が責任者なんでしょ?ガツンとやっちゃって良いんだよね?

 そのままスタスタとエルフ男に歩み寄り、震脚と共に顎に掌打を叩きこむ。


「元自宅警備員ナメんなゴラァっ!」


 エルフ男は堪らず倒れこむ。


「オレがこの船の責任者だ。文句があるなら掛かって来いや!」


 脳震盪(脳震盪)を起こしたらしくエルフ男はピクリとも動かない。やはり喧嘩は先手必勝ですな。

後ろからパチパチパチとやる気のなさそうな拍手のような音が聞こえてきた。


「へぇ~自警団みたいなのをやってたんだ?アイツを一撃とはやるじゃん。ただの貧弱そうな坊やとは違うってわけね」


 今度は女性体のエルフのようである。やはり緑色だ。美人なんだが緑色はちょっと・・・。


 エルフ女はスタスタと倒れてるエルフ男に歩み寄り、足首を掴むとそのまま浮空艇の甲板に放り投げる。


「え?マジで?」


 地面から甲板まで5メルトくらいあるのに?なんつ~膂力だよ。


「アタシの名前はサーシャ。サーシャ・ウッドベック。あの情けない男がザード・ウッドベック。中々に遣り手そうな艇長さんで安心したよ。これからヨロシクな」

「あ、こちらこそ宜しくお願いします」


え?同じファミリーネーム?


「あの・・・あのエルフの方は御姉弟か何かで?」

「あぁ、同じ部族の出身なのさ。腐れ縁って奴だね。誰かれ構わず喧嘩売るから困ってるんだよ。ま、解決して良かった。アタシとアイツは砲手担当さね」


 そう言えば、この世界は集落や部族単位で同じ性を名乗るんだっけか?


「他のクルーもそのうち来るだろ。チャチャッと乗った乗った」


 姉御肌なお姉さんである。歳は知らないけども。


「よいしょっと」


 軽くジャンプして甲板の縁に手をかけたと思ったら、そのまま片手で身体を持ち上げやがった。 

 そんな芸当はできないので、普通にハシゴを登る。

 彼女には喧嘩を売ったり買ったりしない事にしよう・・・そう強く思ったのだった。


エルフは基本脳筋です。


『強い肉体には強い魔力が宿る!』んだそうで、四六時中鍛えていたりします。

細マッチョと言う感じでしょうか?


食事を摂らずとも生きていけるので、大半が痩身です。

たまに食事の魅力に取り憑かれた肥満体も居るようですが、概ね美形です。


2012/09 『改訂済み』

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