戦闘開始 そのなな
応急修理や休息を取りつつ『浮空都市アナピヤ』に急行する。
損傷して居る為に全速を出せず、友軍艇にかなり先行されてしまった。
周囲を見れば、似たような状況の艇が何隻か見える。損傷を受けてても逃げないってのは、勇敢なのか愚行なのか・・・ま、他人の事はどうこう言えないか・・・。
その時、スレイからの報告があった。
「『アナピヤ』確認したでござる!ござるが・・・見た事もない艇が飛んでるでござる!数は20前後でござる!」
見た事もない艇だと?人間族の目じゃではここからは確認出来ない。
「スレイ!その船の特徴は?」
「帆が無いのに速いでござる!機動性も非常に高いようでござる!アレは一体何でござるか・・・何かが回ってるような・・・判らないでござる・・・」
帆がない?回る?何だ・・・?
「友軍艇、敵と接触したでござる!」
「友軍と敵の状況は!?」
「ダメでござる・・・速さも機動性も勝ててないでござる・・・」
敵の新兵器か?早く目視できる距離に到達してくれ・・・。
「敵が1艇、こっちに来るでござる」
好都合か危機的状況か・・・新兵器相手にこの艇で戦えるのか・・・。
「敵の法撃がくるでござるっ!」
見ると『雷撃槍』と思われる4条の紫電光が、友軍のデストロイヤー級に突き刺さった。威力はそれほど高くないようだが、4発総てが命中。命中率が半端なく高いようだ。
ここまで来ると、敵の新型艇のおおまかな姿を確認できた。
トルピード級よりも少し小さい位の涙滴状型艇体に艇の対角線上に大きめの4つのプロペラを持ち、艇体の上下に連装型旋回式砲塔を持っているようだ。異常な命中率は砲塔そのものが狙いを付けられる為か。
しかし、プロペラだと?一体動力源はなんだ?この世界の科学レベルで実現できるものなのか?技術レベルで可能とするならば蒸気機関か・・・しかし、いくら浮空石があるとはいえ、燃費も悪いしかなりの重量になると思うのだが。
「ポーラ!軸線合わせろ!法撃だ!ぶち当てろ!」
「あいさ~」
「了解だっ!」
「あいよっ!」
『オーグル』の個人練度は高い。法撃音と共に『雷撃槍』は確実に命中した!・・・が、目立った損傷は与えられないようだ。
「なんだあれ・・・?確かに直撃したよな・・・?」
「あぁ、間違い無く当たったはずさ」
「化け物め・・・」
考えられるのは魔導金属の装甲板で覆ったって所か。しかし、相当な厚みだと思うのだが。アーマード級よりも装甲が上で、しかも速く、攻撃命中率が高いとか、なんつ~化物だよ。
「ヤバイ!前言撤回!急速反転だ!あんなのに勝てるかっつ~の!操帆室!総帆だ!とりあえず風下に逃げるぞ!それと共に高度も上昇10000!少し寒いかも知れんが耐えてくれ!」
帆柱が損傷し、使えない帆が有るのが悔やまれる。
火力が通じず、機動力でも勝てないって・・・そりゃ無理すぎだよな。
「『スレイプル』に発念だ!相手が悪い。ここは悔しいが退くぞ!生きてりゃ再戦のチャンスもある!伝えてくれ!」
「了解ですわ」
明らかにこの世界にゃ似つかわしくないテクノロジーだが・・・一体どこから?そういや、前回の異世界人は何処に居るんだ?10年に1人くらいならば寿命はまだまだ先のはず。
「この中で、前回この世界に着たと思われる異世界人の行方を知るものは居ないか!?」
駄目元で聞いてみる。
操帆室から返答があった。
「私が知っています」
「クリスさん!?」
「艇長殿の前任者と言うか、前回の異世界人は帝国に居ます」
マジかよ?
「異世界人は帝国にて傭兵王の参謀的な地位に居ます」
この世界の牧歌的な戦争には有り得ない戦術や戦略だと思えば・・・元の世界の知識で構築されてるのなら判らなくもない・・・か。
「クリスさん、それは確かですか?」
「ええ、間違いありません。故郷を追われた時、『ギガントス』の傍に黒髪の男が居たのは確認済みです」
だとすると『アナピヤ』は間違い無く陥ちたな。俺なら二重三重の包囲網で確実に狙う。・・・こりゃどうにもできんな。こんな小さな半分壊れかけた浮空艇じゃ、軍隊を操れる奴には太刀打ちできん。10年程度の歳月でここまで差が開くとは・・・無念なり。
とは言っても、皇国じゃ『異世界人』ってだけじゃ何も出来ないからなぁ。どうしたものか。
思索に耽って居たら、スレイの言葉に我に返った。
「敵浮空艇が猛追してくるでござる!振り切れそうにないでござるぅっ!」
「急速降下で振り切れ!操帆室、急いで縮帆を!ミーシャ!縮帆後に降下角度50°だ!各員急げ!」
ヤバイな。どうする?降下角度は限界を超えるだろうし、どうしたら良いのだろうか・・・。しかし、後部に魔導筒が無いのはこういう時に困るな。今までは最速だったからケツに着かれる事は無かったが、速度で圧倒されたらどうにもできんな。
「ミレーヌッ!例の試作品は幾つ有る?」
「アレは・・・一応5本のみ・・・長いから独りで全部持ってくるのは無理だよ?それに・・・制御できるか判らない、出来れば使いたくはないなぁ」
「念の為に持ってきてくれ!ユーリス、ターニャも頼む、ミレーヌの補佐を!」
「仕方ないなぁ・・・気は進まないけども・・・」
「了解」
「何にゃ?美味しい物かにゃ?」
「美味しい物なら後で奢ってやる!頼んだぞ!」
「ホントかにゃ!?アタシも頑張るにゃ~っ!」
どうすれば逃げられるか・・・。
「縮帆完了しました!」
「良し!降下開始!ミーシャ頼んだぞ!」
「あい」
「スレイ、振り落とされるなよ!?」
「承知したでござる!」
「資材室!急降下開始する。何かに掴まってろっ!」
と言い終わらない位で急降下開始。ミーシャさんってば激しいんだから・・・って、言うよりも制御が不完全ってか、未熟なんだな。
後ろを表示する『魔法投影』て敵浮空艇を確認すると、少し離せたような気がする。降下による増速には限界があるからそれまでに諦めてくれると良いのだが。
あ、忘れてた。
「ミーシャ!高度3000に到達したら読み上げろ!」
「あい。了解だべ」
ヤバイヤバイ、逃げる事を最優先で指示を忘れてたな。