戦闘開始 そのろく
「敵に気づかれたである!」
目標を見ると回避行動を取りつつ有るようだ。
だが遅い!
「ユーリス!降下角度30°に変更!ポーラ!逃すんじゃないぞっ!」
「り、了解っ!」
「あいさ~っ!」
角度が浅いと弾かれるかも知れんが、逃すよりかは良い。
・・・まてよ?弾かれる事が前提なら動きを封じた方が良いな。
「法撃手!魔方陣は『氷槍』に変更!交換にどれ位かかる!?」
「はぁ?変更かよっ!?
「10秒は欲しいところだね!」
「任せたっ!」
攻撃できて3~4回ってトコか。まぁ、このまま『岩石弾』を撃つよりかはマシだろう。
「ポーラ!狙いは敵の『舵』だ!当てられるか!?」
「誰にモノを言ってるのかちら?難ちい事じゃないのね」
「それも任せたっ!頼りにしてるぜ!」
「あいさ~!」
「魔方陣交換完了だよっ!」
「面倒な事をさせやがるっ!」
「スマンッ!助かった」
さすが熟練者、ここまで速い交換をしてくれるとはな!これなら数を稼げられる。
「法撃開始!目標、敵バトルシップ後方部!凍りつかせてやれっ!」
「了解っ!」
「あいよっ!」
『氷槍』による魔法弾の速度は『岩石弾』よりも速く『雷撃槍』よりかは遅い。他の魔法より見た目の派手さはないが、命中した箇所を凍らせるといった能力を持つ。見た目と共に直接的な効果が薄いため、一般的には使われない魔方陣ではある。普通に燃やしたり、焦がしたり、破砕した方が強いからなのだが、魔法も使い方次第で戦術の幅は拡がる。
この瞬間には倒せなくても、友軍が存在してるならば集中法火で倒す事も出来るだろう。・・・まぁ、ぶっちゃけ、自力での撃破を諦めた訳だが。
「魔法弾が敵に命中しつつあるな」
見ると、『舵』に当たってるのは3分の1と言った所か。左右で対になっている『舵』のうち、左舷側は凍結化に成功。右舷側も白っぽくは成ってるが、凍結には至っていない。
「ポーラ!、目標は右舷の舵だ。頼むぞ!」
「あいさ~!って、難ちい事をサラッと言ってくれるのね」
「難しいが出来ない訳じゃないだろ?」
「艇長さんって本当に口だけは達者なのね。ユーリスさん、もう少ち角度を上げてくれるかちら?更に追撃をかけるのね」
「ユーリス!聞いた通りだ!上昇角5°くらいだ!」
「り、了解っ!」
ユーリスは『くらいって何だよくらいって。ハッキリ指示してくれないと困るのに・・・』などとブツブツ言ってるが聞こえなかった事にしておいてやる。
更に追撃を加え、右舷の『舵』も凍りついたように見える。中途半端に固定されたためか、ユックリとだが右に旋回しているようだ。
そろそろ限界かな?
「ポーラ!面舵だ!敵さんの真上に逃げこむぞ!ユーリス!高度上昇4000だ!敵の法撃範囲から抜けるぞ!」
「あいさ~!」
「了解!」
うぬ?ユーリスの精神状態が愚痴を零せるまでには回復したとは思ってたが、吃音も無くなってきたようだ。まぁ、また生意気な口を利くようなら、お仕置きも考えておかないとな。
その時、スカイから報告があった。
「『スレイプル』と『コブラン』目標のバトルシップ級であるが、命中弾を多量に受けて大破である!あちらは速くて羨ましいのである!」
「スカイ!敵の状況は?」
「見たところ、航行不能になるくらいの損害である!」
「2艇の状況は!?」
「『スレイプル』は離脱したである!『コブラン』は降下中!このままでは間に合わないのであるっ!」
『コブラン』の艇長はジョージか?功を焦ったか憎しみが先行し判断をミスったか・・・引き起こしてくれよ・・・。
「『コブラン』より入念ですわ!『浮空石操作者が降下に耐えられず意識を喪失した。このまま敵に・・』入念途絶えましたわっ!」
「『コブラン』敵バトルシップに突っ込んだである!見事な最後であるっ!」
その瞬間、金属と金属を擦り合わせるような耳を劈く轟音が聞こえてきた。その音と共に、金属や木材の破片が周囲に飛び散る。衝撃でバトルシップ級の中央付近に大穴が穿たれ、破片が底部より地面に噴出している。
「クソッ!なんてこったっ!」
「敵バトルシップ級、完全沈黙である!」
そりゃそうだろうよ。あれだけの速度と質量の物体が直撃したら無事な奴は誰も居ないだろう・・・。
「友軍浮空艇、総てに発念だ!残存する敵を掃討するぞ!ここで散った友軍の弔いと思え!以上だ」
「了解ですわっ!」
状況は悪い方向に転がるな。俺の不運属性が原因か?
「『スレイプル』に発念!舵が凍ったバトルシップ級をやるぞ!『コブラン』の無念は俺達が晴らそう!以上だ」
手負いから仕留めて行かないとな。
「『スレイプル』から入念ですわ!『コブラン』は残念だった。だがアタイらは未だ生きている!敵目標は了解した。共に戦える事を光栄に思うっ!以上ですわ」
よし、身動きの出来ない大型艦など的も同然。一気に粉砕してやるか。
「魔方陣を『雷撃槍』に交換。遠距離から削り取っていくぞ!」
「ハッ!悪くねぇな。了解だ」
「了解だよっ!」
「ポーラ、取舵だ。敵を粉砕できる位置に付いて高度を維持。ユーリス、高度を1000まで落とすぞ。常に敵を正面に捉え続けろ!」
「あいさ~」
「了解!」
「操帆室、帆は畳んだままで良い」
「了解」
この辺りになって、遠巻きに様子を眺めていた友軍艇がようやく戦場に到着。弱った敵を斬り刻み始めた。自らの保身を図りアッサリと友軍を見捨てた奴等だ。逃げなかっただけマシと思うしか無いか。
残ったバトルシップ級2艇とクルーザー級1艇が瞬く間に損傷していく。
ようやく終わるな・・・と、気を抜いたのだが、その時『浮空都市アナピヤ』より入念があった。
「『浮空都市アナピヤ』より入念ですわ!『今現在、我々は敵の攻撃を受けている。至急救援を請う!』以上ですわっ!」
な、なんだと!?機動部隊を丸々を使った囮か、もしくは二面攻撃か・・・?
慌てて伝声管を通じて艇内に叫ぶ。
「各部署に通達!『浮空都市アナピヤ』が敵の攻撃を受けている。至急援護に向かいたいが現状では難しい!各員はどう思う?行くべきか退くべきか・・・判断材料が欲しい!」
この状況は完全に予想外だ。まさか本丸を直接狙われるとは。
「ミレーユ!このまま戦闘継続は可能だと思うか?」
「僕としてはこのまま戦いたい!帝国に蹂躙される悲しみは良く知ってるから!・・・だけど、現状じゃかなり厳しい。とてもじゃないけど戦闘は無理だと思う・・・」
戦闘が出来る程、損傷は軽くない・・・か、最悪、艇は持ちそうにないか。
「法撃手!残り魔力はどうだ?」
「あぁん?まだまだ大丈夫に決まってるだろがっ!」
「アタシ等を誰だと思ってるんだい?」
そういう二人も、ザードは鼻血を出し、サーシャさんは目が充血しきっている。二人共に限界は近そうだ。
「操帆室!索具と帆の損傷はどうだ?修理の必要性は?」
「ミレーヌ殿とスレイミー殿が着てくだされば応急修理は可能です。できれば、このまま暫く縮帆して頂けると嬉しいです!」
何とか行けるか?
「ユーリス!未だ魔力は持ちそうか?」
「ゴメン、流石に限界かも・・・」
「よし、ユーリィと交代しろ!」
念話担当者は誰にするか・・・。悩んでるとミーシャが主張してきた。
「あ、あだすが浮空石の制御をやるべさ!任せてくだっせ!」
「ミーシャか・・・出来るか?」
「任せてくだっせ!」
ふむ。任せてみるか。
「要求は厳しいぞ!行けるか!?」
「あい。頑張るべさ」
「よし、浮空石制御はミーシャに交代、ユーリィは現状維持だ!よろしく頼むぞ!スカイ!『アナピヤ』の方角は!?」
「10時の方向である!風は2時の方向から吹いてるである」
風に乗る事は出来そうだな。
「スカイもスレイと交代だ!スカイはそのまま応急修理に!」
「拙者はまだまだ大丈夫である!いけるである!」
「もしかすると長期戦になるかも知れん。戦闘中の交代は無理だ!従ってくれ」
全く我侭な奴だ。
「操帆室!スレイは居るか?」
「主殿!如何なされたでござる?」
「スカイが交代する事をゴネている。スレイが直接行ってくれ」
「承知したでござる!」
あっちはアレで良いだろうな。
「良し!進路は『アナピヤ』!手の空いてる者は艇体の応急修理の手伝いと簡単な食事を各担当者に配布してくれ!」
まだまだ休息は無理か・・・忙しくなりそうだ。