戦闘開始 そのに
「敵艇、総帆展帆開始である!」
「さぁ!敵がお出でになるよ!各員の奮闘を期待する!」
こんな感じで行ったり来たりを繰り返しながら敵が戦線離脱を行うまで繰り返すんだそうだ。ハッキリ言って無駄以外の何物でもない。
「高度9000まで上昇!魔方陣は『岩石弾』に交換!各員、急ぎ準備せよ!」
こんな茶番に付き合っては居られん。確実に敵を潰さないと戦闘員を奴隷で賄えられる帝国に勝てるわけがない。消耗戦など以ての外だ!
「ぼ、ボウヤ?一体どうしたんだい?」
「こんな無意味なやり取りは、今この瞬間を持って終了とする!目的は敵の殲滅!法撃手!忙しくなるぞ!」
「な!?無意味って、どういう事だい?返答次第じゃいくらボウヤでもただじゃ済まさないよ!」
「言葉の通りだ。消耗戦なぞやってられん!ユーリス!高度9000だ!聞こえなかったのか!?」
「りょ、了解!」
「勝手は許さないよ!」
「この艇の艇長は俺だ!皆はどう思う!?このまま消耗戦に突入し被害を出すか、それとも敵を食い破るかだ!」
暫し皆の反応を待つ。
「チッ!手前は気に食わねえが、その意見には賛成だ!サーシャにゃ悪ぃが勝たなきゃ話になんねぇな!」
「ハッハ~ッ!姐さんに逆らうとは艇長もヤりますねぇ~っ!何をするかは知らないっスけど、面白そうだっ!」
エルフ2人は賛同をしてくれた。
「こちら操帆室。私達も艇長に従いますよ。我らに勝利を!」
「あたちはどちらでも良いと思うのね。数の多い方に賛成するわね」
操艇に必要な人間は此方に着いた。さて、サーシャさんはどう出るかな?
「・・・クッソ~ッ!ボウヤが何をしたいかは判らないけど、勝てるんだろうね!?」
「やってみないと分からん」
「まぁ良い!指揮権を譲るよ」
「戦隊長『トライコーン』より入念ですわ!『貴艇は何処に行くのか?戦線離脱するような損傷は見えないが?』以上ですわ!」
小煩いオッサンだな。
「こう発念を『馬鹿騒ぎにはうんざりだ。敵を頭から叩くから押さえ込むのは任せた!』以上だ」
「え・・・」
「聞こえなかったのか?」
「いえ、発念致しますわ!」
今の戦場は高度4000程度で推移している。高度9000ともなれば倍以上だ。加速力は問題無く得られるはずだ。
「高度9000に到達!」
上空は流石に冷えるな。
「一度旋回、その後に突入ポイントを探る!」
敵と味方の位置を確認しつつ一番動きが停滞するポイント、回頭中を狙う事にする。大体の回頭位置は把握済みだ。もう一度敵味方が交差し、お互いに損害が発生する。
此処ぞと言う位置で突入指示を出す。
「良し!降下角50°だ!各員安全索を装着を抜かるなよ!操帆室、縮帆し突入に備えるぞ!スカイ!望み通りの速度が出るぞ!振り落とされんなよ?」
「そうなのであるか?楽しみなのである!」
「か、角度が50°だって!?ほぼ垂直じゃないか!?」
「あ、あたちは操艇する自信ないのよ」
さて、問題は艇の強度が持つかどうかだ。空中分解とかゴメンだぞ。
「問題があるなら俺がやる。ポーラは指揮官席に!早く!」
「そうね任せるのね」
ポーラと持ち場を交代する。
「俺の合図と共に法撃指示をたのむな」
「判ったのね。任せると良いのね」
操帆室より待っていた言葉が返って来る。
「縮帆完了しました」
「良し!ユーリス!突入開始だ!高度1000毎に読み上げろ!」
それまで維持されていた浮空石の能力が切れると同時に、艇がかなりの急角度に落下し始める。それに伴い高度が瞬く間に下がっていく。
「高度8000!」
「良し!法撃開始だ」
元の世界に居た時にやっていた空戦系のゲームで、一番好きなのは急降下爆撃機だった。シュトゥーカ最高!R閣下に栄光あれっ!!
「法撃手!法撃開始なのね!」
「了解っ!」
「アイサ~ッ!」
『ゴポンッ!ゴポンッ!』と言う音と共に『岩石弾』が立て続けに発射される。『岩石弾』は召喚系実弾魔法でほぼ球形の岩の塊を撃ち出すと言ったモノだ。空気の抵抗を受ける分、速度が落ちやすく直線性が乏しいという欠点がある。だが、魔法障壁の影響を一切受けないと言う事で対バトルシップ級などに用いられる魔法である。
「フ~ヒヒヒヒヒィッヒヒヒヒィ~~~ッ!!」
「ヒ~~ヒャハハハッハハハハァ~~~ッ!!」
エルフ2人は、連続で魔力を行使する事に酔い痴れ、言動がオカシクなりつつ有る。髪型をモヒカンにし、世紀末的なトゲ付きの肩当てを装備させたら、とてもとても似合いそうな感じの狂気に彩られた容貌である。
ザードは目を血走らせ口の端から舌がダラリと垂れ下がり、ヨダレを垂らしている。フェルーナンは両目から血を流し鼻血を垂らしている。両手の拳を金属製の魔法制御盤に叩きつけるように魔法を発動してる為、拳の皮膚が裂け血が飛び散っている。・・・そんなに叩き付けなくても発動するはずなんですけどね?
・・・しかしフェルの奴、目から血とかってなんかやばくね?伝声管からは『最高である!最高の速度であぁ~~~~るぅ~~~っ!』等と言うスカイの声も聞こえてくる。この艇・・・色々な意味でヤバイな。
その間にも『高度7000!』『高度6000!』と読みあげられていく。乱射され続ける『岩石弾』は空気の抵抗を受け高速回転をし、ある程度拡散しながら速度を得て落下していく。
「降下角70°に設定!更に追撃を行う!」
「っ!?り、了解っ!」
さらに厳しい進入角にユーリスが恐怖に引きつったような声を出す。逆らおうとする気は起きないようだ。自由落下に近い速度の為、重力から解放され身体が背中方向へ浮き始める。安全索があるので大丈夫だが、それでも足元がが覚束ない。
落下速度がさらに上がり、艇体から『ガタガタ』『キシキシ』『メキメキ』と言った悲鳴が聞こえ始め、艇体の構成材が『ブゥ~~~ン』と言う音と共に小刻みに振動し始めた。艇首にある超重量の魔導筒に加え、元の世界の急爆でも引き起こしが難しい角度だ。だがこちらの世界には浮空石というインチキ臭い物質がある。
俺は舵輪を左右に振り、『岩石弾』を拡散していく。敵は正面の友軍に気を取られ、未だこちらには気づいていない模様。よし、良い感じだ。
「高度5000!」
そろそろ引き起こさないと不味いかもな。
「良し!法撃中止!艇を水平に引き起こせ!」
合図を出すと共に面舵を切り右手に抜ける。凄まじいGが掛かり、身体が床に押し付けられるような感覚が襲ってくる。
「このままの勢いと共に敵の背後を取るぞ!取舵を切る!各員に姿勢制御を!」
「各員踏ん張るのね!」
「高度は依然降下中!3000を切りましたっ!」
その時、スカイから報告が来た。
「敵艇に法撃が弾着である!敵艇12中、9艇に直撃!大破6、中破3である!」
30発近い量の岩石散弾だ、命中が予想よりも少ないもののそれなりの効果が得られたようだ。狙うは一撃必殺であったが仕方ない。自分の目で与えた損害を確認したいが、残念ながらここからは確認できない。
「高度は依然降下中!2000を切りましたぁっ!」
ユーリスの声は悲痛な叫びに変わりつつ有る。その時、ガクンッと艇が減速し降下が止まる。
「引き起こしの衝撃により、第三帆柱破損である」
スカイから報告が来る。
「被害状況を報告するのね!」
すかさずポーラも指示を飛ばす。
「操帆室、索具に被害有り。修理を開始する。ミレーヌ殿に連絡を!」
「こちら下層船室!アチコチに亀裂あり!取り敢えずは問題なし!」
「医務室にゃ!棚から色々こぼれ落ちて大変にゃ!頭をブツけてコブが出来たにゃ!責任を取るにゃ~っ!」
「チッ!フェルのやつが魔力切れでぶっ倒れちまってるよ。まだまだ鍛えてやらないとね!」
見ると、フェルーナンが力なく倒れ伏している。両目、両耳、鼻から出血しグッタリとしている。魔力喪失症は切れた毛細血管以外は治療する事は出来ず、自然回復を待つしか無い。
「ターニャさん、至急指揮所に来ると良いのね」
「面倒だけど仕方にゃいにゃ」
慌ただしく事態の収拾に努めていく。引き起こしの後に追撃する予定が、予想以上の衝撃により操艇に影響が出てしまい、敵の姿を見失いつつ有る。
「与えた損害に比べてうちの被害は少ないようだねぇ。ま、やりかたは邪道だけど、合格ってトコかねぇ」
邪道も何も勝てば良いんだ。うむ。やはり急降下爆撃は最強だな。
「戦隊長より入念『やってくれたな糞ガキどもが!こっちは敵を殲滅しつつ有り。遣り方は気に食わねえが認めてやるよ!』以上です」
「あのクソ親父も素直じゃないねぇ」
サーシャさん、貴女もソックリですよ?
フェルーナンが運びだされ、替りの法撃手はサーシャさんが務める事に成った。
「やっぱここは良いねぇ。心がウキウキするよ!」
やはり脳筋は指揮よりも戦いがお好きのようです。
「ポーラ、交代しようか?」
「そうね、お願いするのね。あたちは指揮とか向かないのね」
「あんな感じで操艇を頼む。次があればね」
「仕方無いのね。素人とに負ける訳には行かないのね」
また指揮に復帰すると共に問題を片付けていく。
「良し!戦隊に復帰をする。スカイ!友軍の現在方向は?」
「2時の方向である。友軍の大破艇は4艇追加である」
友軍は20艇中8艇が離脱か・・・未だ戦力はそれなりに残ってるな。後は敵のデストロイヤー級の数次第だな。
「戦隊長に発念!これからの行動は如何や?」
「発念します」
さて、どう出るか?
「戦隊長より入念!『オーグルが先程使用した戦術にて、敵の戦列を叩く!』以上です!」
うわ、早速パクりか!?しかし、思考が柔軟なのは良い事だ。
「よし、聴いての通りだ。攻撃を仕掛ける。何か問題はあるか?」
各所に聞いてみる。
「こちら操帆室、索具の修理完了。第三帆柱及び帆は使用不能。他は問題無し」
「こちら資材室、各所の損傷が激しすぎて次は分解するかもしれない。それだけは頭に入れておいて。そもそも、あんな無茶な動きに対応できる艇なんて無いよ」
「医務室にゃ。後で片付けを手伝うにゃ。一人じゃ無理にゃ~!」
「こちら見張りである。先程の様な速度が出るであるか?楽しみにしてるである!」
一部おかしなのが居るが概ね問題無いようだ。船体の損傷は突入角度を調整すれば何とかなるかもな。
「良し!各員、戦隊長に続くぞ!」
長い一日は未だ終わらない。