表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/68

戦闘開始 そのいち

異世界に飛ばされ理不尽な職場で働くことに成りました。


敵と相対し、得られるモノは、そして喪うモノは何なのか?

世の中、綺麗事だけでは生きられない。

出航から十日前後を掛け、ようやく主戦場付近へ到達した。

 国境付近では、皇国と帝国の小競り合いは日常的に続いている。

 浮空石と言う存在がある以上『撃墜』とか『撃沈』と言うのは殆ど無く、例え乗組員が全員死亡したと言えども、緩やかに降下していく程度で墜落はしない。

 その為、小競り合い程度ではお互いの戦力は大して変動もなく、人の命ばかりが散っていく。

 

「ようやく戦場に着いたね。旗艦に『発念はつねん』指示を仰ぐよ!」


 『発念はつねん』とは魔法で行う通信みたいなものである。送信が『発念はつねん』受信が『入念にゅうねん』と良い、見た目はまるっきり、紙コップを使った糸電話。主な材質は金属製で、コップの底に魔方陣を貼り付け魔力を通す事で送受信を行う。魔方陣を入れ替えることで送信先を切り替えられる。

 ・・・この世界、絶対に科学は発達しないよな・・・。科学系の技術や理論の総てを異世界に依存するだけの事はある。魔法で物理法則が簡単にがる世界だもんなぁ。

 

「旗艦より入念!『戦線に合流後に戦隊を組み敵のトルピード級を排除、そののちに再編成し状況を見る!』・・・との事です」

「了解と伝えてくれ。さぁ~いよいよ忙しくなるよ!ボウヤ、戦闘指揮は未経験だろ?取り敢えず最初はアタシがやるから良く覚えなよ!」

「りょ~かぃ」

「もっと気合の篭った返事はできないのかねぇ・・・」

「まぁ、見学させて頂きますよ」


 喧嘩くらいならそれなりに経験あるし場数も踏んでるが、集団戦闘なんてネトゲの中でしか経験ないもんな。

 何だかんだでこの職場にも慣れないといけないもんなぁ。

 合流まで緊張しつつも暇な時間が流れる。

 と、そこに、今日の見張り番であるスカイマークから報告があった。


「北東の方角に友軍である!距離約12000!高低差は上方に約2000!」


 『魔法投影マジックスクリーン』に投影されてる映像を見てみるが、遥か遠くにゴマ粒ほどの大きさのふねの群れが見えた。

 一体どんな視力をしてるんだか・・・雲もそれなりにあるというのに。これが鳥人とりひとの能力か。


「進路を北東に取れ。高度は6000に上昇」

「あいさー」

「了解だよ」


 友軍に近づくにつれ、その規模が明らかになる。

 バトルシップクラス3 クルーザークラス8 デストロイヤークラス12 トルピードクラス19 と、かなりの大所帯だ。南西方向には巨大な浮空島『アナピヤ』が微かに見える。

 『アナピヤ』を帝国から防衛するというのが今回の任務だ。

 そのままトルピード級の戦隊に合流する。

 4艇で小戦隊を組み敵のトルピード級を排除し、その後に戦列艇同士の撃ち合いを始めるのが、この世界の一般的な戦闘らしい。

 トルピード級は敵の大型艇を沈める事が可能なので真っ先に排除するんだとか。

 友軍のふねを見ると、あちこちに応急修理の後が伺え、かなりの激戦を生き抜いてる事が判る。

 今回の任務の戦隊長を務めるトルピード級『トライコーン』から入念があった。


「今回の戦隊指揮を采る事に成った第4軍所属『トライコーン』艇長、ガルシア・アクラングだ!お前らの生命は俺が預かった。意義の有る死を望むぜ!」


 え?死ぬこと前提?マジですか?


 『トライコーン』は3本の魔導筒まどうつつを備え、高火力タイプに仕上げられてるようだ。他の友軍艇も同一なモノは殆ど無く、帆柱の数や帆の形状が違ったりと多少の差異が有るようだ。


「ガルシアのとっつぁん!まだ生きてたのかぃ?」

「誰です?」

「軍歴50年位になる糞オヤジさ。アタシも昔はドヤされたもんだよ。暫く前にクルーザー級に行ってた筈なんだが・・・また軍団長でもぶん殴っちまって左遷でもされたかねぇ・・・。昔は死神なんて言われてた時代もあるんだよ」

「なんか、俺のために死んでくれ!・・・みたいな事を言ってましたね・・・主に味方に対しての死神なんじゃ?」

「トルピード級同士の戦いはやたらと被害がでかいからねぇ。今回も無事に生きて帰れるかは分からないからね。ま、ボウヤの言葉じゃないが、成るようにしか成らないよ」

「そんなに生還率が低いのですか?」

「トルピード級の魔導筒は平均が90サンチだよ?バトルシップ級にすら穴が空くんだ。んなもん直撃食らったらどうにも成らないさ」

「つまり、当たらなければどうと言う事はない訳ですね?」

「ま、そうなんだけどね。アタシらの腕と敵さんの腕次第ってことかね」


 まぁ、そんな所か。気付かれないように一撃を加え、一気に殲滅出来れば言う事は無いんだろうな。

 雲に紛れつつ急降下攻撃とか・・・?しかし、雷撃機の様なふねで急降下爆撃は可能なのかね?

 どうすれば安全で確実に敵を撃ち破れるか・・・。

 そんな事を提案すると却下された。正々堂々と正面からり合うのがはななんだとか・・・正直、脳筋共の考える事は意味が判らん。

 元の世界で言う中世の『騎士道』みたいなものか?・・・とは思ったものの、試行錯誤を繰り返して生き残るのは戦闘の必須項目だろうに。

 色々と思考を巡らせてると見張りのスカイから報告があった。


「8時の方向に敵である!風上から急襲できそうである!」


 運良く風上から風下へ襲い掛かれそうだ。

 敵さんは風上に進む為に高度が高い。対してこちらは風下に進むため幾らかは高度が低い。元の世界の空戦では高い位置に居たほうが有利だが、この世界ではどうなんだ?

 

「さぁ~て、野郎ども!戦闘準備は良いかぃっ!?」

 

 サーシャさんが伝声管に向かって吠える!


『あたちは女なのですけどね。サーシャさんは男と女の見分けが付かない程の脳筋なのね?いやになっちゃうのね・・・』等と、少し前方からブツブツと呟いているのが聞こえてくる。一応、戦闘直前なので多少の遠慮はしてくれてるようだ。


 サーシャさんは少し冷や汗を垂らしつつも戦闘前で気分が高揚してるのか落ち込む事は無く『者共ものども!心の準備は出来たかぃっ!?突っ込むよぉっ!』 と、さり気なく言い直していた。

 あの娘を敵に回すとろくな事がないもんな・・・。私も些細な言い間違いに気をつけるとしよう。


 背後から風を受けつつ浮空艇は速度を増していく。よくよく観察していると、敵のふねは舳先が下を向いている、対してコチラは上だ。速度はコチラが圧倒的に上だが敵は覆い被さるように突っ込んでくる。どちらが有利不利とかは無さそうだ。ずはサーシャさんの腕前を拝見・・・ってトコですかね。

 伝声管から『うはははは!速い!速いのである!』とかって声が聞こえてくる。スカイの奴はかなり御満悦だ。

 段々と敵の姿が視認出来るようになってきた。敵のトルピード級の数は16。コチラよりも4程度少ないだけだ。スカイから報告が入る。


「敵との距離が約2000である!間も無く射程に入るのである!」

「良し!初撃は『雷撃槍サンダースピア』2連!その後に『火球ファイアーボール』を撃てるだけだ!さぁ、法撃ほうげき準備に入んな!」


 浮空艇は各艇に因って多少の差異があり、我らが『オーグル』は他の艇よりも射程が長いらしい。遠くから撃つのは良くて奇襲がダメとか良く判らない話ではある。


「距離約1500である!」

「良し!法撃開始!」


 サーシャさんの合図と共に、法撃担当のエルフ2名が手に魔力を込めて魔法制御盤に『ガツン!』と拳を叩きつける。それとほぼ同時に『キュィ~~~ン!パリパリパリパリ!』と言う音と共に魔力チャージが始まる。約4秒程度のチャージの後『キュボンッ!』と言う耳をつんざく音と共に、太い紫色の光に白い雷光を纏った『雷撃槍サンダースピア』が敵の艇に向かいほとばしる!

 が、敵の艇を僅かに逸れ、命中とはならない。しかし、その威力は凄まじく、紫電の掠めた敵の艇体は焦げが生じてるのが見える。


「チィッ!第2射目、法撃開始!」


 この頃になると、友軍からも敵からも法撃が始まる。敵味方共に紫電が飛びかい損傷を受ける船が出てくる。


「友軍艇『スレイグル』損傷甚大である!戦線離脱であるな!」


 左舷を見ると、帆と艇体が炎上し艇体を黒く焦がしつつある浮空艇が急速降下を始めていた。


「『スレイグル』より入念ですわ!『我、指揮所に甚大な被害有り。操艇不能』以上ですわ!」

「チィッ!直撃かぃ!?不運だね!『スレイグル』の分までやっちまうよ!」

「敵艇2、炎上中である!」


 見ると敵の艇も燃えている。少しずつ数の暴力が発揮されつつ有るようで、暫く法撃の応酬があり敵との距離が近づきすれ違う。トルピード級は舷側に魔導筒まどうつつが積まれていない為、近寄りすぎると撃てないといった欠点がある。

 この間にも敵は合計4艇、友軍は3艇の被害が出て戦線を離脱していった。

 

「さぁっ!ここからが腕の見せ所だ!急速反転後に『火球ファイアーボール』を敵さんのケツにお見舞いしてやんな!面舵だ、右に切り返すよ、無様に倒れるんじゃないよ!操帆室!ジャイビングを抜かるんじゃないよ!?」

「あいさー!」

「承知致してますとも!」


 各所から返答が来る。風下から風上へと切り返すのはかなりの腕が問われるそうだ。逆に風上から風下に切り返すのは浮空艇は横転する事が皆無なため、比較的容易なんだとか。 

 つまりは現状では、旋回性能の高い小型の浮空艇の場合は、風下も風上も初期位置での不利は少ないって事だな。風上は先手を取れる優位はあるが、与える打撃が少なかった場合、反撃も容易にされてしまうって事か。大型艇だとまた違ってくるんだろうけども。


「敵艇、回頭を終わるである!」


 今回は敵の操船技術に軍配が上がったようだ。友軍は半数が回頭中だ。


「気に食わないが消耗戦になりそうだね」


 唇をペロリと舐めながらサーシャさんは心底楽しそうにそう言った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ