章間話 魔法実験の果てに
出航から一週間。何事も無く戦場への移動は終わりを迎えつつ有る。
最前線に赴く直前に、一つ前の浮空島『アナピヤ』付近にて投錨し、鋭気を養う事に。
新しい可能性を求め・・・と言うのは建前で、好奇心を満たし暇潰しを兼ねた、魔法実験を行うことにした。
「ねぇ?本当にやるの」
「ミレーヌは心配性だなぁ。治療符も沢山用意してるし、怪我をしたらミレーヌが治してくれるんでしょ?」
「そりゃまぁ治せるけど、ターちゃん程には巧くないよ?本気で危険だと思うけどなぁ」
何の話をしてるかと言えば、新しい魔道具の可能性を求めた実験である。
事の発端は、風系の魔法って『大気操作』の他に何か使える魔法は無いかな?と、言うものであり、色々聴きだした所、かなり強力な風の魔法に『嵐』の魔法と『竜巻』の魔法があるとの事。
「『嵐』の魔法は危険指定魔法に、『竜巻』の魔法は禁止指定魔法に指定されてるんだよ?危険すぎて制御できないから」
「威力はあるんだな?」
「浮空艇には使えないと思うよ。艇体を壊しかねないもん。本来この2つの魔法は、魔方陣を地面において行使する魔法だよ。共に自然現象を具現化した魔法だから制御とか無理だし・・・」
「制御できないモノだからこそ、挑戦する価値があるとは思わないか?」
「うぅ~~ん・・・言ってることは分からなくもないけど・・・危険だと思うけどなぁ。一応は研究はされたけど誰も制御できなかった魔法だからなぁ」
ふむ。かなり強力そうである。新しい技術を得る為なら多少の危険は仕方ないしな。
「ミレーヌはその2つは扱えないのか?」
「あ、馬鹿にしてるでしょ?こう見えても魔方陣関係は一通り扱えるんだよ?・・・って、その手には乗らないよ。エルフ達じゃあるまいし」
乗りかけたじゃん・・・とは言わないでおいてやろう。
「んじゃ、取り敢えずは扱えるんだな?んじゃ、明日までに頼んでも良いかな?」
「僕は一応止めたからね?どうなっても知らないよ?」
「大丈夫大丈夫、どんな事になっても自己責任で」
「仕方ないなぁ・・・んじゃ、サイズはどうする」
「危険ならそんなに大きいサイズはヤバイだろ。10サンチくらいで宜しく」
「りょ~か~ぃ、んじゃ、また明日くらいにね」
「おぅ、よろしく頼むわ」
と、ここまでが昨日の会話。今現在は、出航から一週間程が過ぎ、乗組員の疲労も蓄積してきた為、浮空島の一つ『アナピヤ』付近で鋭気を養う為に縮帆し投錨中。艇が動かないので実験にはもってこいだ。
流石に艇の中じゃ万が一が危険なので甲板に出てきている。甲板の上は時折突風が吹いてきて危険なので、転落防止用の安全索に身体を結びつけて置く。
ミレーユも、何だかんだ言いながらもキチンと用意してくれるなんて・・・本当に人付き合いの良い、最高にイカした奴だぜ!
今、手元には口径10サンチの魔導筒が2本有る。片方は危険魔法、もう片方は禁止魔法とやらに属してるらしい。
どれくらい威力があるのか楽しみだぜ・・・。
「さて、まずは『嵐』の魔導筒から始動してみるかね・・・って、なんでそんなに遠くに居るんだ?」
「いや・・・だって・・・危険だからね・・・ねぇ、本当に止めない?」
「ま、もし本当に危険だとしてもだ、世の中成るようにしか成らないさ」
「ジンちゃんってば、前向きなのか後ろ向きなのか本当に判らない人だよね」
「ははは、褒めても何も出ないぞ?」
「褒めてないってば・・・」
全く、ミレーヌは心配性でイカンな。まぁ、魔道士は安全第一らしいしな。仕方ないか。
危険だ危険だと五月蝿いので、魔導筒を両手で抑え、お腹の前でしっかり保持しガッチリと固定をする。これなら容易に押さえ込めるだろう。
「よし!実験を開始するぞ~」
「気をつけてね~」
観客はミレーヌと見張り台の上で監視任務に付いているスレイミーの二人だけだ。
手に意識を集め、魔力を手に集中する様にイメージをする・・・少しして手が淡く光り始める。
よし、魔法発動。
次の瞬間、凄まじい力が両手に加わりスッポ抜けた。スッポ抜けた先には当然の事ながらお腹がある。
ボグシャァッッッ!!と言う音と共にお腹へと魔法筒が突き刺さる!
「ゲフゥオオッゴォッ!」
「ジ、ジンちゃんっ!」
魔導筒は未だ勢い衰えず、お腹にダメージを加え続けている。
「オグゲゲゲヶヘェッ!」
肺の中から空気が押し出され変な声が出る。余りの激痛に思考が乱れ身動きひとつ取れない・・・ジワリジワリと身体が押し流される。ヤバい息が出来ん!ってか、景色がスローモーションに見える・・・走馬灯的なアレか?
口から魂が抜けかけてると、見張りをしていたスレイミーが急降下しつつ体当たりをしてくれた。その衝撃で魔導筒も弾き飛ばされる。身体から外れた魔導筒は、一度甲板で跳ね返りそのままの勢いで空の彼方へと飛んでいった。
「あ、主殿!大丈夫でござるか?」
「グゲゲ・・・ゲフゥ・・・ゴボッ・・・」
声を出そうとするがまともに言葉にならない。
「ミ、ミレーヌ殿!『治療符』を早くでござる!」
「ああああ・・だから言ったのにっ!内蔵がやられてるかもしれない!」
「・・・・・・」
ミレーヌが慌てながらも『治療符』をお腹に貼って治癒魔法をかけてくれた。お陰でたちどころに快癒。
「よ、予想外に威力があったな・・・」
「主殿!無茶がすぎるでござる!・・・一体何をしてるでござるか?」
「だから危険だって言ったじゃないかぁっ!」
「スレイ助かったよ。来てくれて本当に助かった、有り難う。ミレーヌも治療を有難うな。助かったよ」
お花畑が垣間見えたぞ。確かに危険指定魔法だわ。まさかスッポ抜けるとわねぇ。治療の甲斐あってか、今は痛みすら既に無い。
「良し。気を取り直して『竜巻』の方も試してみよう」
「良し。じゃないでしょっ!馬鹿でしょっ!頭の先から爪先まで馬鹿が詰まってるんでしょっ!?死に掛けておきながら更に危険な魔法を!?馬鹿も大概にしようよっ!?」
「ははははは、ミレーヌったら言うことがキツイなぁ。大丈夫だよ。ミレーヌの治療の腕は良いし、今回は危なくなったらスレイが速攻で助けてくれそうだしね」
「あ、主殿・・・褒めてくれたのは嬉しいでござる・・・嬉しいでござるが・・・主殿を批判する気はないでござるが、この度ばかりはミレーヌ殿に賛成でござる。無茶も大概にするでござるよ」
「せっかくミレーヌが魔方陣を刻んでくれたのに、このまま使わないなんてミレーヌに申し訳が立たないよ」
「いや、僕の事は気にしなくても良いからっ!安全第一だよっ!」
「いやいや、大丈夫大丈夫。今度はもっと巧くやるからさ。ほらっ、離れた離れた」
ミレーヌは『馬鹿だ・・・骨の髄まで馬鹿が詰まった馬鹿が居る・・・』とか呟いてるし、スレイは『主殿ぉ・・・』と呆れた様子だ。ま、世の中成るようにしか成らないってのは真理だぜ?たまたま運が悪かっただけさ~。
「よし、今度は万全を期していくぞ。中途半端に支えてたからスッポ抜けたんだよ。完全に腕をくっつけて肘をお腹に当てて踏ん張れば大丈夫。よし、いくぞ~」
また集中し魔力を手に集めて発動。
次の瞬間、予想以上の力が身体に掛かる。しかも今度は魔導筒が凄まじい勢いで回転をし始めた。回転に因る摩擦熱で手の表面が焼かれていく。
「あちゃあちゃちゃちゃちゃっ!」
手を離すとさっきの二の舞なので離すに離せない。加わる力は限界を超えても更に増大する。
ボキャァッ!と、いう音と共に腕の骨が砕けて皮膚を突き破る。支えが無くなった魔導筒はその勢いのまま胸に突き刺さる。
ボキゴキゴキッ!と言う音と共に肋も背骨も粉砕し、折れた骨が背中から飛び出て血が吹き出す。更に勢い余った身体をボロ雑巾のように甲板の外に弾き飛ばしていく。安全索のお陰で落下はしないが宙吊り状態になる。魔導筒は今回も自由を求めて何処かへ飛んでいったようだ。
衝撃が余りにも強いと、意外と意識がハッキリするものなんだね・・・即死って良く言うけど、本当に即、死んだりはしないのな・・・やはり、脳が無事かどうかで分岐は別れる様だ。
「あああああ主殿!」
「ジンちゃんっ!」
二人は慌てて甲板の縁から覗きこむ。幸いにも身体を支えるワイヤーには損傷はないようだ。身体に力が入らず、声を出すどころか身動き一つもできない。
「二人の力じゃ引き上げるのは無理。サーちゃんを呼んできて!」
「サーシャ殿でござるな。任せるでござる」
スレイは文字通り飛ぶように艇内へと飛び込んでいく。その間にもミレーヌは治療符の準備を始める。
「だから言ったのに・・・馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿・・・」
宙ぶらりの状態で永遠とも言える様な長い時間が過ぎた様に感じたが、実際はそれほど長い時間ではなかったようだ。
スレイに引っ張られるようにして呼ばれたサーシャが駆けつけてきた。
「一体何を遊んでるんだい?ボウヤは何処へ?」
「そこから宙吊りに!速く引き上げて!このままじゃ死んじゃうかもっ!乱暴は駄目だよ!優しくね!」
「宙吊りくらいで死ぬわけ無いだろ・・・よいしょっと」
流石はサーシャである。いとも簡単にワイヤーをたぐり寄せる。
「うわっ!一体、何をしたらこんな怪我になるんだい。トロールに殴られた様な怪我じゃないかぃ?」
「そこに寝かせて!早く!」
「あいよ・・・まったく、このボウヤにも困ったものだね」
「あああ主殿・・・あああ主殿・・・」
右往左往するスレイミー、呆れ返ってるサーシャ、素早く診察するミレーヌ・・・三者三様の行動であった。
「怪我が酷すぎるっ!僕の力じゃ治しきれない・・・ターちゃんを・・・ターちゃんを早く呼んで来てっ!!」
「そこまでの怪我かぃ!?んじゃ、アタシが呼んでくるよっ!」
待て・・・アイツはダメだ・・・と、言いたいが声すら出せない。
サーシャは一足飛びに階段を駆け下り医務室へと向かう。しかし、医務室は鍵がかかってるようだ。
「あの馬鹿また寝てやがるのかい!」
サーシャは勢いのまま戸を蹴破り、診察用ベッドで寝ていたターニャを担いで来た道を引き返す。
サーシャの背中でターニャが喚く。
「にゃ、何にゃ?何事にゃ?」
「アンタの仕事だよ!」
「にゃ?食事の時間かにゃ?」
「アンタはそれしか無いのか?医者の仕事だよ!」
「戦闘以外の治療はミレーヌで良いんじゃ無いかにゃ?」
「それが無理だから呼んだんだよ!」
そうこうしてるうちに甲板の目的地に着いた。
「にゃにゃ?これは・・・」
「ターちゃん早く治療を!僕の手には負えないんだ!」
「美味しそうな匂いだにゃぁ・・・」
「へ?」
「アンタ、何を言ってるんだい?」
深刻な怪我はミレーヌが治したが、依然重傷のままである。激痛に耐えながらそれを見た!・・・こっちを見ながら舌舐めずりしてるターニャの姿を!
「にゃふぅ・・・テイチョーもようやく身体を捧げる気ににゃったよ~ねぇ・・・いただきま~」
ターニャは傍に座ったかと思うと、俺の腕を取りあんぐりと口を開けて居る。
ひぃっ!このままじゃターニャに齧られ食べられるっ!その時、ヒュッと風切音が聞こえ、顔の傍を鋭い何かが通り過ぎた。
うひっ!今、頬を鉤爪がかすめたぞ!?
「某が主殿には手を出させぬでござる!」
「にゃ?邪魔をするにゃにゃ!こんなチャンスは二度と無いにゃ!『鳥人』風情が『猫人』に勝てると思ってるのかにゃ!?」
「某が身に変えても主殿は守り通すでござる!」
「へぇ~ボウヤはモテるじゃないか」
「そ、そんな場合じゃないでしょ!二人共何してるのさ!」
あの~痛いんですけど・・・治すなら早く治して欲しいな・・・。
「ふんっ!にゃ。アタシはテイチョーの事を愛してるにゃ!愛するモノの総てが欲しいと心から思うにゃ!邪魔をするにゃらお前から始末してやるにゃっ!」
「某は主殿に全てを捧げるでござる!主殿が飢え死にしそうならこの身を炎に投じる所存!奪い尽くす愛と捧げ尽くす愛!どちらが強いか勝負でござる!」
二人共に重いです。そんな重すぎる愛は受け止められかねますよ?ってか、私の意向は無視なんですか?
「ふむ。あの二人を手玉に取るとはねぇ。ボウヤもやるじゃないか。アタシもボウヤは気に入ってるし、アタシも名乗りを挙げとこうかねぇ」
「挙げなくて良いです!ってか、二人共何やってるの!ジンちゃんがこのままじゃ死んじゃうよ!」
さすがはミレーヌ、もっと言ってやれ!サーシャさん、貴女はこの場が面白くなればそれで良いだけでしょ?呪われてしまえ!
「あ、美味しい匂いに釣られて忘れてたにゃ」
「そ、某は忘れていた訳ではござらんぞ・・・あ、主殿を守ろうとして・・・ゴニョゴニョ」
スレイも熱くなりやすいタイプだからなぁ・・・普段は冷静なのに何だろうな?まぁ、慕ってくれるのは嬉しいけども。
「んじゃチャチャッと治すにゃ。面倒にゃ~」
ターニャが手に魔力集めていく。凄まじい光量だ。身体のあちこちに貼った中位治療魔法『再生』が発動する。瞬く間に痛みが消え肉体が再生していく。
ミレーヌが匙を投げた怪我があっと言う間に快癒していく。そこは治療士として適性が高い『猫人』。治癒術に関しては凄まじい能力を誇るだけの事はある。
それは良いとして、皮膚から飛び出した骨がニュプニュプ音を立てながら身体の中へ戻っていくのだが・・・これは、どんな原理で治癒してるんだ?
「なる程。禁止にされるわけだわ。10サンチであれなら、浮空艇で下手に放つと艇がバラバラになっちまうな」
「なる程。じゃない!この馬鹿!」
「ミレーヌ、そんなに怒るなよ。ホラ、何とかなったじゃないか」
俺は両手を広げて無事をアピールした。したのだが、納得できなかったようだ。
「何とかしたんだこの馬鹿っ!本気で死んじゃうかと思ったんだぞ・・・」
「やれやれ、こんなとこで痴話喧嘩かぃ?ボウヤも手が広いねぇ。ミレーヌのボウヤにまで手を出すとはね」
「にゃ?そうなのかにゃ?」
「あ、主殿?そうなのでござるか?」
え?何?この流れ・・・?・・・サーシャは以前に泣かされた事を、相当恨んでるようだな・・・。
「ミ、ミレーヌ?いつもの君らしくないなぁ・・・こう、なんというか、ほら、・・いつもの元気はどうしたんだぃ?」
俺は慌てて話の方向を変えようとしてみたが、ミレーヌは堪え切れなかったのか、ポタポタと涙を流し始めた。
流石にサーシャも茶化してる場合じゃないことに気づいたのか、軽口はそれ以上言わなかった。
「本気で・・・本気で心配したんだぞ・・・」
「いや、でも、俺はお情けで艇長になったようなものだし?タンピヤじゃ新しい技術を開発するための道具みたいな扱いだったし?艇長としてなら俺の代わりなんて幾らでも居るさ」
努めて明るく事実をぶっちゃけてみた。
「代わりなんて居ない。初めてだったんだ・・・」
ミレーヌはポツリと小さく呟いた。
「え?初めて?」
「ボウヤ・・・まさか・・・本当に手を付け・・・?」
サーシャは隙有らば茶化してくるなぁ。あとで酒に毒でも盛るか?
「初めてだったんだ。この艇で僕の相手を普通にしてくれるのは。他のみんなは僕が必要な時だけ『お前の助けが要るんだ』とか『お前の力が必要なんだ』と言ってくれるけど、不要になったらソレっきり・・・本当に僕を必要としてくれる人なんて、この艇に乗り込んで5年間、僕の隣には誰も居なかったんだよ・・・」
サーシャは心当たりがあるのか苦い顔をしている。ざまぁ~みろ。茶化した罰だ。地獄に落ちろ!
「ヒョーエだけだったんだよ?初めて会った時に僕が言った言葉覚えてる?『また来てね~』って。本当は期待してなかったけど。脚繁に通ってくれたのは本当に嬉しかった。馬鹿ばかりしてる馬鹿だけど嬉しかったんだ」
うぬ?ミレーヌが名前で呼ぶとは珍しい。でも、まぁ、あれだ、ゴメン。俺も最初はかなり打算が絡んでたんだ・・・。
しかし、馬鹿馬鹿と酷いよ・・・ミレーヌ。まぁ、自分でも馬鹿とは思うけどもさ。
「だから心から心配して当然じゃないか!僕の親しい人は5年前に帝国の奴らに皆殺しにされちゃった・・・もうあんな想いは懲り懲りなんだ!」
「某とミレーヌ殿は『傭兵王ギガントス』に一番最初に襲われ奪われた『浮空都市サルピヤ』の生き残りでござる・・・」
そうだったのか・・・。
「親しい人が目の前で死ぬのはもう嫌なんだ・・・」
「某も頭領の下知に従ったとは言え、同胞を見捨てて逃げたも同然でござる・・・不甲斐無い事、甚だしいでござる・・・」
うぬぅ、スレイの忠義はその辺りに由来してるのか。
「あ~その、なんだ。ミレーヌさん、正直スマンかった。」
「あ~何にゃ?その死ぬようにゃ事に 成った原因は何にゃ?」
俺はターニャに今回のあらましをざっと説明する。
「馬鹿にゃ!凄まじい馬鹿がここに居るにゃ!危険指定にゃらまだしも、禁止魔法に手を出すにゃんて凄まじい馬鹿にゃ!キング・オブ馬鹿にゃ!」
「禁止魔法って使用するだけでも厳罰のアレだろ?ボウヤも思い切ったことするねぇ」
「え?マジで?厳罰ってどんな事に?」
それは初耳だ。
「良くて十数年の強制労働にゃ。普通なら拷問付きの禁錮10年は堅いにゃ。それくらい危険な魔法にゃ」
「主殿が牢屋送りにでござるか?そ、その時は某もご一緒するでござる。安心するでござる」
え?マジか?そんなに危険なの?まぁ、あの威力だもんなぁ。でも、今現在も監獄に入れられ、強制労働させられてるみたいなものですよ?
ミレーヌはまだ嗚咽を堪らえられないようだ。
暫くソっとして置くしか無いな・・・。
「え~と、戦争中の実験だから無罪放免とかになったりは・・・しないかな?」
「アタシ達が触れ回らなければ大丈夫だろ?」
「某は主殿を護るためなら口を閉ざすでござるよ」
「にゃははは。口止め料が欲しいにゃ。テイチョーの着てるその血染めのシャツで手を打つにゃ」
「うむ。シャツくらいくれてやる。どのみちもう着れないし」
「にゃはっ!やったにゃ。大事に味わうにゃ~!」
味わうと言うのが気になるが、俺にはゴミだからな。どう使おうが問題無いだろう。
その場でシャツを脱いでターニャに渡す。うむ。凍えるかの様に寒いな。
「にゃっにゃにゃっにゃにゃ~ん♪にゃっにゃにゃっにゃにゃ~ん♪」
ターニャは嬉しそうに去っていった・・・『にゃふふふ』・・・とか笑ってたりする。
「んじゃ、アタシは上物の酒でも貰うとしましょうかね?このアナピヤで売ってる一番高い奴」
「もってけドロボー。こんちくしょう!」
「あはははは、毎度ありぃ~。楽しみにしてるよ」
その場にはスレイと俺とミレーヌが取り残された。
ミレーヌの正面に回りこんで話しかけた。
「あ~その、ミレーヌさん?心配掛けてごめんなさい」
声を掛けたが、そっぽを向かれる。
また正面に向う。
「ごめんなさい。許してください。もう無茶はしません。なんでも言う事を聞きます。えぇ、どんな事でも無条件で受け入れます!」
またそっぽを向かれる。だが、返答があった。
「本当にどんな事でも?」
胸の辺りに手を置いて応える。
「おぅ!どんな事でもだ!俺の命に懸けて約束する!」
「信用出来ない」
「ウヌ?ならばどうすれば信用してくれる?」
「僕の事を『さん』を付けて呼ぶような奴は信用出来ない」
そう言えば、前にも言ってたよな。
「そっか、そうだよな。名前で呼べって言ってたもんな。ミレーヌ。本当にゴメンな」
「なら、命令する。また僕の所に遊びに来る事!」
何か可愛い事を言うなぁ・・・。
「え?そんなんで良いの?その程度なら問題無く遊びに行くさ」
「後は無茶をしない事・・・・と、言いたいけど、無理だろうね・・・馬鹿だから」
「馬鹿とは酷いな。技術の発展のためには多少の犠牲はつき物だ。それが技術革新を推し進めてきたんですよ?」
「だから、僕とスレイちゃんの目の届かない範囲では無茶をしない事!」
「某もでござるか?」
「当然だよ。二人でこの馬鹿を止めよう。僕一人じゃ絶対に止まらないから」
「某も力及ぶかは判らぬでござるが、力を貸すでござるよ」
「ひでぇなぁ、二人共。ま、その時は全力で止めてくれよな。なんせ、俺は馬鹿だからそう簡単には止まらんぜ」
まぁ、機嫌が直って良かった。
「イザという時はこの身に代えても止めるでござるよ。覚悟するでござる!」
スレイ、お前は俺よりも遥かに強いんだから楽勝だろう。
「し、しかし寒いな・・・へ、ヘックショ~ぃと、くらぁ」
「上半身裸なんて変態みたいだよね?もしかして僕は今、貞操の危機?手篭めにされちゃったりするの?」
「ははは、面白い冗談だ。男を襲う趣味は俺には無ぇ~よ」
いくら見た目が可愛いからと言ってもねぇ。男相手は絶対に無いな。
「そ、某の羽毛を使うでござるか?」
「お?良いねぇ。んじゃ、下に戻るまで少し借りるとするかな」
「え、そのいや、冗談でござったが・・・」
「スレイが嫌なら我慢するから別にいいよ」
「嫌ではござらん!あ、主殿の為ならばこの身を預けようぞ!」
「ジンちゃんって、結構コマシの才能あるよね・・・」
スレイの言葉に甘えさせて貰い、翼を体の前で交差するようにしてスレイの身体をおんぶする。
「おぉ~温い温い。真冬の見張り台で寒さに耐えられるだけはあるな」
「某も主殿を暖められて光栄でござる!」
「それ、暖かそうだね。寒い時は僕もお願いしても良いかな?」
「某もミレーヌ殿になら大歓迎でござるよ」
俺達三人は雑談しながら艇内へ入っていった。
見張りを交代しようと思ったのか、それともスレイとの時間を過ごそうと思ったのか、指揮所の辺りでスカイと出会した。
俺に覆い被さるスレイを見て、スカイの奴がとてもとても微妙な顔をしていた・・・のは言うまでもない。
この世界、自然を操る魔法は殆ど制御できません (雷撃など、範囲の狭いものは何とか可能)。
ですので、大抵は自爆テロ的な使い方しか出来ません。
自力で魔方陣を描けてた時代は、自分を基点として正面に魔法が発動するため、それはそれは効果があったそうですが、今は扱える人が皆無です (現代でもAT車全盛の時代にMT車を愛する人達が居るように、何事も例外は存在しますが)
2012/09 『改定済み』