序章 そのいち
金髪碧眼のモデルのようなスタイルの美男美女達の言葉がこうだった。
「おめさ、いっだいどごがら来ただ?(訳:貴方は一体どこから来たのですか?)」
見た目が見た目だけに軽いショックを覚えたのは言うまでもない。
「ひでぇ訛りだんべぇ(訳:ひどい訛りですね)」
「ふぐもへんでごだなや(訳:服も変ですね)」
「グロいがみにグロいひどみとは珍しいだなやぁ(訳:黒い髪に黒い瞳とは珍しいですね)」
酷いのは私ではなく彼らの方だと思うのだが、いや、訛りが酷い中で訛ってないほうが異端なのかも知れんな・・・と、納得することにした。
そもそもここは何処だろうか?実に風光明媚な土地ではある。空が・・・と、言うか雲が近い。手を伸ばせば掴み取れそうな程までに。
当初は山の上の土地だとばかり思ってたのだが、どうやら違うようだ。
と、言うのも、初めは徒歩で山を降りようとしてたが、目も眩む様な崖に突き当たり、ぐるっとひと回りして元の場所に戻って着た時点で可怪しい事に気づいた。
当初はギニア高地のような特殊な立地なのかと思った。しかし、私が飛んで居た空域にはこの様な特殊な環境は存在しなかったはずなのだが・・・。
気持ちを整理して眼下を望むと、何とも言い難い違和感があった。眼下は一面の緑なのだが少しずつ変化してるようにも見える。
地面が動いてたのだ。
雲が流れて行く事に因る目の錯覚ではなく、明らかに自分の居る場所がゆっくりとではあるが移動して居たのである。
軽くパニックに陥ったのは言うまでもない。ただ、コレは夢なんだな・・・と、自分を納得させ、空腹を覚えたので山の中腹に在る都市の様な建物群を目指したのだが・・・。
そして、住人のあまりの美形揃いに気が引け、恐る恐る声をかけた結果が冒頭の言葉遣いである。
最初は何を言ってるのかが分からなかった。しかし、辛うじて言葉が通じる事に安堵した。やはり、人種が違う場合の言葉の壁は大きい。
「はぁ~ん?おめさ、迷子だべか?大っぎな迷子だなや(訳:おや?貴方は迷子ですか?大きな迷子ですね)」
「はぁ、申し訳ありません」
「まっどれ、いま衛兵さ呼んぶがらよぉ(訳:待ってて下さい。今、衛兵を呼びますので)」
ここは衛兵が居るのか。まぁ、城塞都市風な様式だからなぁ。
「お手数おかけ致します」
「ぎにずんなぁ。ごまっだどぎはおだがいざまだんべぇ(訳:気にしないで下さい。困った時はお互い様です)」
何ともお人好しな人達である。
「腹も減っでるべなやぁ?ごれでもぐっでげんぎだすだぁ(訳:お腹も空いてる事でしょう。コレでも食べて元気を出して下さい)」
と、紫色をした蜜柑のような物体の皮を剥き始めた。果肉の色も紫色である。味は殆ど無く、只々ピリピリと舌が痺れるような食感の不思議な食べ物であった。
「あはははは。グロいグロい(訳:あはははは。黒い黒い)」
と、やたらとにこやかにペタペタと髪に触ってくるのは何だろうか?かろうじて グロい=黒い だとは判るのだが、最初は痛く心に響いた。確かに彼らの様に透き通る様な白い肌に、飴の様な金色の髪に比べたら確かに違うだろうが、グロいのはあんまりじゃね?・・・と。美形のアンタ達に比べたらグロテスクなのは認める!だが同意はできん!
容姿に関しては人並み程度ではあると思っている。学生時代の悪友曰く『お前ってエロゲの主人公みたいだよな。飛び抜けて美形でもなくそれでいて不細工でもない。所謂器用貧乏的な容姿だよな』とか宣ってた。『お前はその主人公に付き纏い、女の子のお零れを与ろうとするチャラ男タイプだよな?』とは返して置いた。その悪友は矢鱈と憤慨してたが。
しかし、黒髪黒目がそこまで珍しいのだろうか? 髪の色に関しては世界的に見ても有り触れた色だと思うのだが。
そして、この人達は背がやたら高い。私よりも頭2つ分は高い、コレでも身長は平均以上なのだが。まるで大人と子供である。
彼らが優しい原因の一つが子供扱いされてる可能性があるな。確かに童顔とはよく言われるがこれでも三十過ぎなのだが・・・と少し凹んだ。
暫くペタペタ触られるがままにして待ってると、西洋風の甲冑を着込んだ金属で補強した木の棒を持った5人の男達がやってくるのが見えた。やはり皆美形である・・・更に凹んだ。
「おめさが迷い子だんべか?(訳:貴方が迷子ですか?)」
彼らのリーダーと思しき牛の角のような突起物の付いた金属製の兜の男が訪ねてきた。
「申し訳ありません。一つお聞きしたいのですが、此処は何処なのでしょうか?」
「はぁ~ん。だしがに酷い訛りだべや(訳:ふむ、確かに酷い訛りですね)」
「はぁ。申し訳ありません」
リーダー格の男はひとしきり頷いた後でこう言った
「ごごは『ふぐうどしダンビヤ』だんべぇ(訳:ここは『浮空都市****』ですよ)」
不遇歳?あぁ、『ふくうとし』ね、成る程。浮空都市と考えるべきか?やはり空に浮いてるのか此処は。ダンビヤ・・・タンピアとかタンヒアの可能性もあるな。まぁ、この辺りはダンビヤで通せば問題なさそうだ。
「りがいでぎたが?ならば、まんずはおうぎゅうに来てもらうべさ(訳:理解できましたか?でしたらまずは王宮まで来て頂きます)」
「王宮ですか?なぜ一介の不審者にすぎない私がその様な場所に?・・・いや、不審者だからこそか。しかし、牢ではなく王宮というのが腑に落ちないですね」
「なぜもなにもきぞくだがらなぁ。ぞう言うぎまりらしいんだわ。ぢがらずぐでれんごうずるごどもでぎるが?どうずるべさ?(訳:何故も何も規則ですので。その様な決まりになって居ます。力尽くで連行する事も可能なのですが?如何致しますか?)」
「痛い思いをするのは嫌ですので従いますよ」
「ぞれはだずがる。ごどもをいだめづげるのは趣味じゃないがらなぁ(訳:それは助かります。子供を痛めつけるのは趣味ではありませんので)」
ふむ、子供扱いされてるのならその方が良さそうだ。少なくとも待遇は良いかも知れん。
私の現地人とのファーストコンタクトはこんな感じであった。
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そもそも、事の発端は趣味で始めたパラグライダーである。
どちらかと言えばブラックな企業で朝から晩まで働き、身体を壊したところで会社から捨てられ、それまでに貯めた資金で気分転換に始めた結果、空の魅力にとりつかれてしまった。
何度も講習に通い、漸く飛べるようになった時から人生が大きく変わった。
元々、子供の頃は飛ぶことに憧れてた。パイロットなんて大それた夢は持ちあわせては居なかったが、空を飛ぶ事には憧れていた。
しかし、社会人になり毎日の仕事に追われる中で、次第に忘れていった夢でもある。夢も希望もなく、ひたすらに働き続ける日々。ビルの屋上から飛び立とうとすら思い詰めた時期もある。
あの時、ビルの屋上からのフライトを思い留まって良かったと心の底から思う。実際に空を飛ぶのは気持ち良い。
初めて重力から解放されたあの瞬間、全ての嫌な事が脳内から綺麗に消え失せた・・・風になると言うか、風と一体化すると言うか、空と同化すると言うか、鳥の気持ちが味わえると言うか・・・、やはり飛ぶ事は『気持ちが良い!』の一言に尽きる。熟練者は数キロ上空まで上昇し、数百キロの距離を飛べると言う。
そこまではできなくとも、数十分間の空の旅は何物にも代え難い快感である。
しかしそれと同時に貯金もガンガン飛んでいく。羽が生えてるかの様に飛んで行く・・・どうしたら良いものか・・・
『働けよ!』・・・と、思うかもしれないが、あんな思いは懲り懲りである。まぁ、最初の就職が酷すぎただけかも知れないが。
そんなこんなでパラグライディングを満喫する日々であったが、運命の日がやってきた。
その日も安全確認後に飛び立ったわけだが、朝から胸騒ぎはしてた。なんとも言えない不安感が胸中を渦巻いてた。が、空を飛べばこの不安も晴れるだろうと思い無視して飛び立った。あの生きながら死んでる毎日に比べたら些細な事のように思えたんだ。
一度空に抱かれると不安は弾け飛んだ。実に素晴らしい、このまま空で死ねたら何と素晴らしいことか・・・と、考えたのが不味かったんだろうな。ふと気が付くと、どんよりとした雲模様になっていた。
おかしいな、ここ数日は晴れるはずなのに・・・と、思いつつも早めのランディングを心掛け滑空してたのだが、変な上昇気流に捕まってしまい一向に高度を下げられない。
まぁいいか・・・と、開き直り空の旅を楽しむ事にした。「世の中成るようにしか成らん。足掻いた所で運命は変えられん」というのが学生時代の恩師の言葉である。今思えば教師の言葉じゃないよな。
のんびり楽しんでたのだが、ふと気が付くと霧が出てきて仲間たちは既に周囲から消え失せ独りで飛んでいた。
高度が判らん、周囲の状況も掴めん、地面や木々に打つかるのだけはゴメンだ・・・と、ひたすら高度を維持することにして天候の回復を待った。
どれ位の時間を飛んで居たであろうか、漸く霧が晴れたと思ったら、乱気流らしきものに巻き込まれ、もみくちゃにされ
「あぁ、こりゃ~墜落死だなこりゃ・・・気がついたら死んでいたってのは楽かも知れんなぁ」と、思いつつ意識を手放した。
ふと気が付くと、見知らぬ山の上の草原に居たわけだ。
装備の点検をした所、ハーネスはボロボロ、翼はグチャグチャで素人には修復不可能。服はボロボロなのに目立った怪我をしてないのが不幸中の幸いだ。仕方なしに一纏めにして樹の根元に縛り付けて、助けを求める為に移動を開始した。
まぁ、とりあえず人家は近かったはずだと気楽に下山してたんだが、記憶にない断崖絶壁に唖然とした。フライトコースにはこんな断崖はなかったはずだからだ。
何処に飛ばされたのかと思ったものだが、腹は減るし喉は乾くしで、助けを呼ぼうにも携帯は圏外で、ただのゴミである。どうにもならないので、ぐるりと崖に沿って移動して見ることにした。
え?遭難時はそこから動かないのが鉄則だって?とにかく腹が空いてたんだ。
尾根を越え草原を突っ切り裂け目を迂回して歩いたが、歩いても歩いても断崖絶壁。一向に下に降りられる様な場所はない。
途中で小川で喉を潤せたが空腹は癒せない。人間、一週間くらいなら水分だけで生きていけるらしいから心配はしてなかったけども、空腹はひたすらに辛い。
丸一日ほど歩いて元の地点と思しき場所に戻ってきて愕然とした・・・此処は一体何処なんだ!?・・・と。
手がかりを探して崖から下を観察してみた。霧の様な白いモノがかかって麓は見えなかったが、日も暮れてきたんで、落ちない場所を選んで野宿をした。
山の上らしいので結構冷え込んだがパラグライダーの翼部分を身体に巻き付け寒さを凌いで夜を明かした。
山の上からの朝日は実に美しかった。空気が澄んでいるというか、実に清々しい目覚めであった・・・空腹で胃袋がキュウキュウと痛んでいたが。
その時、崖下の遙か下方に、広大な森林地帯が広がってるのが見えた。高度を目測で推測すると千メートルくらい。こりゃ~下山もまま成らんな。
昨日は山の方にも白い靄がかかってて判別できなかったが、山の中腹付近に石造りの建造物群が有ることに気付いた。下山がダメならまずは人の居る場所に向かうしかないか・・・と、言う事で建造物群に向かって移動を開始したんだ。
空腹時の山登りは辛い。昨日の強行軍で足も痛い。挫けそうになりながらも何とか第一村人?を発見。高身長の輝く金髪の、透き通るくらい白い肌のお兄さんが畑を耕していた。言葉が通じれば良いなぁ・・・と思いながらも声をかけてみた。
「あの~、申し訳ありません。パラグライダーが壊れてしまって下山できなくなってしまったのですが、電話などを貸して貰えないでしょうか?」
「はぁ~ん?おめさ何を言っでるがや?パラグラいだー?どごにいだんだ?出んわ?どごに出るだ?(訳:はて?貴方は何を仰ってるのですか?パラグラ居ーた?何処に居たのですか?出ないですわ?何処に出るのですか?)」
なんだ?言葉は辛うじて通じるようだが意味不明だ。
「昨晩は一泊してしまいましたし、山の管理者に連絡しないと・・・流石に心配してるでしょうから。もし、電話等があればお貸し願えないでしょうか?」
「おがしぃ?おがしぃのはおめさのごどばづがいだべや。訛りが酷ぐでよぐわがんね(訳:可怪しい?可怪しいのは貴方の言葉遣いですよ。訛りが酷くて良く解りません)」
見た目がこうも美しいのに残念な人だ・・・と、この時は思ったものだ。まさか自分が可怪しいとは露にも思わなかった。
「この近辺に、誰か他には居ませんか?」
と、聞いてみた。
「あ~ん?べんどう忘れだだで、昼をぐいにがえるがらおめさもぐるが?(訳:ふむ?弁当を忘れまして、昼食を食べに戻るのですが貴方も来ますか?)」
「お手数ですがお願い致します」
「あ~ぎにずんな。ごまっだどきはおだがいざまだぁ(訳:何、気にしてはいけません。困った時はお互い様です)」
ふぅ、意思の疎通が何とかはかれるのが幸いか。全く言葉が通じないよりかはマシだな。何処の国の人かは知らないが言葉を習った人が悪かったんだろうな・・・と、失礼な事を考えつつ待っていた。
太陽がほぼ真上になり、お昼くらいの時間になったらしく、美形のお兄さんは移動を開始
「ほら?おらさ家にぐるどええ(訳:ほら、私の家に来ると良いですよ)」
「は。申し訳ないのですがお邪魔致します」
「おめさのごどばはわがりづれぇ。もっど上品な喋りはでぎねぇのが?(訳:貴方の話し方は解りづ辛い。もう少し、上品な話し方は出来ないのですか?)」
「はぁ、申し訳ありません」
「まぁ、いいざ。づいでぎね(訳:まぁ、良いです。着いて来なさい)」
暫くトコトコと着いて行くと、高さが十メートルは有りそうな石造りの城壁が見えでぎだ・・・イカンな、口調が移ってきた。
「あぁ~ぢょっどまで。門番さにはなじをどおずがら(訳:あ、少々お待ち下さい。門番さんに話を通して来ますので)」
「お手数をおかけいたします」
離れて見てるとお兄さんに手招きされた。
「はなじはどおじだ。づいでぐるべさ「話は通しました。着いて来て下さい」」
門は幅三メートル位であろうか。門扉は金属製で所々違う色の金属で補強がされた、非常に重厚な扉な様に見受けられる。開け閉めが大変だろうになぁ・・・と、思う。
街に入って驚いた事がまず一つ。住人の全てが美形揃いである。思わず後ずさってしまった。金銀に煌く髪に透き通った白い肌・・・なんだ?この美形軍団は?なんかの映画の撮影所か?・・・と、思っても仕方ないと思って頂きたい
。
「あぁ~ん?なにじでるだ?」(訳:はて?何をして居られるので?)
「いや、あまりの賑やかさに見とれてしまいました」
「やっば、いながもんだべな。ごのでいどは日常だんべぇ(訳:やはり、田舎者ですね。この程度は日常茶飯事ですよ)」
街の中心部辺りにその家はあった。重厚な石造りの四角い建物だ。基本的に屋根の部分は平らである。
「ほら、こごがおらの家だんべぇ。おぉ~ぃ今げぇっだぞ。飯だぁ飯だぁ。ほら、はやぐはいんな(訳:ほら、ここが私の家です。お~い、今帰りましたよ。食事にして下さい。ほら、早く入りなさい)」
「あ、お邪魔致します」
「まずは飯だ。はなじはそれがらだ(訳:まずは食事ですね。話はそれからにしましょう)」
こうして現地人との初交流?は何とかなったのである。
活字中毒患者が小説始めました・・・的なノリで。
草稿を用意し、肉付けをしていくといった手法で作成されてます。
UPはあまり早くはないですが、宜しくお願い致します。
2012/09『改訂済み』『タンピヤ語の訳の文法は気にしてはいけません』