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第四章

 真理は、冬の街にいた。

 吐く息も白く、凍えるような寒さの静かな夜。

 真理の隣には、彼がいた。

 真理は、お気に入りの白いコートに身を包んで、彼に寄り添うように身を寄せた。

 ――ペアの腕輪なんて、ちょっと照れるなぁ。

 彼が言った。

 まだ幼さの残る、少年の声。

「ふふ、そうだね。…でもうれしい」

 真理は少しはにかんで笑った。

 ――ああ。もしもいつか離ればなれになっても、これがあればお互いを感じられる気がするな。

「嫌だよ、離れるなんて」

 すがりつくように言った真理に、彼は優しく微笑みかけてくれた。

 ――もしも、の話だよ。そんな顔するなって。

 そう言って彼は、真理の髪を撫でた。彼のぬくもりが、穏やかに伝わってくる。

 ――離れても、オレのこと忘れんなよ?

 おどけて言った彼の言葉に、真理は強くうなずいた。

「忘れないよ、絶対」

 すると彼は、リョウは、静かに微笑んで――。


 不意に、目の前の光景が崩れた。

 強い風に吹き散らされる砂のように、景色がさらさらと流れて消えていく。

 なぜか少し哀しげな微笑を浮かべているリョウの姿も。

「リョウ!」

 真理は消えゆくリョウの姿をつなぎ止めるようにその両腕でリョウを抱きしめようとする。

 彼女がつかんだのは虚しい空白だった。

 意識が急に現実に引き戻される。

 真理は、暗い部屋に一人で座っていた。

 彼女が見ていたのは幻。

 彼が隣にいたころの、幸せな、哀しい幻。

 あの時は、リョウと離れることになるなんて思っても見なかった。

 ずっと一緒にいられると思っていた。

 ――離れても、オレのこと忘れんなよ?

 頭の中を、リョウの残した言葉だけが駆け巡る。

「リョウ、……ねぇ、あたしどうすればいいのかわかんないよ!」

 膝を抱えたまま、絞り出すように少女は呟いた。

 暗い部屋の中、少女のすすり泣く声だけが、いつまでも響き続けた。

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