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A-1  作者: 小野協
2/2

杞憂とA-1

『玲奈、杞憂、時間があまりなさそうなの。お別れの挨拶は短くなりそうね!

 玲奈、貴方は立派になったわ。私も驚くくらいね。もう私が居なくても大丈夫。

 ・・・ではなさそうね、きっと。それでも頑張って。貴方ならもっと上にいけるわ。

 杞憂、貴方にはA-1を託すわ。きっとこれをきいて「ふざけるな」とか言ってるんでしょうね!

 それでもあなたしか居ないわ。お願い。それと入れ忘れがあるの。ふふっ。うっかりしてたわ。

 A-1。ごめんね。名前つけてあげられそうもないわ。

 でもきっと杞憂がいい名前を考えてくれるはず!

 2人ともありがとう。とっても愛してたわ。さようなら。』





パソコンから流れていたボイスメッセージが終わった。

ここは杞憂きゆう博士の研究室。

部屋には杞憂博士、玲奈と呼ばれていたかしわ博士、A-1が居る。





「まっ・・・間宮博士がっ・・・ この、アンドロイ・・ドをっ」

玲奈が泣きじゃくりながら杞憂にうったえる。

杞憂が落ち着いて切り返す。

「・・・・・間宮の死因は?」

「じゅっう・・・・銃殺ですっ」

「銃殺・・・。」

銃殺。あまりにも現実的な言葉だった。

「何者による犯行だ?」

「そっ・・・捜査中で・・・す」

間宮の助手だった玲奈は、間宮の死を確認し、すぐに杞憂のもとに来た。

間宮の最後の発明を渡すために。





「それで。」

杞憂がA-1を胡散臭そうに見た。

「何故連れてきた?」

玲奈が驚いて顔を上げる。

「なっ・・何言ってるんですか?!今のっ・・・聴いてたでしょう?!」

「勿論。」

「じゃあっ・・・何っを・・・!」

「・・・間宮の部下の君は、このボイスメッセージのままにこいつを連れてきたってわけか?」

「そうですよ!絶対に引き取っていただきます」

玲奈がびしょびしょの顔を白衣の袖で拭き、杞憂を睨み付けた。

「俺は引き取るつもりは無、」




バシッ。





杞憂の眼鏡が床に落ちる。

A-1が少し迷った後、拾い上げた。

「・・・ふざけないで下さい。貴方が私をどう思っていようと知りません」

玲奈の声が震えた。杞憂が玲奈を冷たく見る。

「でもっ、間宮博士のっ・・・お願いなんです!!杞憂博士は間宮博士が居なくなったら、

 もうっ・・・」

A-1が持っている眼鏡を杞憂が受け取りかけなおす。

「杞憂博士はずるいです!素直じゃないです!大馬鹿です!」

大きなカバンを机にのせると、玲奈はドアを荒々しく閉め出て行った。





「大馬鹿って・・・。間宮は柏にどういう教育をしているんだ。」

痛む頬をおさえながら杞憂がつぶやいた。

・・・いつもそうだ。自分は人に冷たい。人をろくに見もせず心を閉ざしている。

そんな杞憂を怒鳴りつけたのが間宮だった。

それから杞憂は間宮にだけ本当の自分を出せた。

そんな間宮が、死んだ。

素直じゃない?そうかもしれないな。

間宮が死んだときいても、全然悲しくないように偽っている。





ふいにA-1が大きな布を差し出した。

「・・・・?」

「涙を拭いてください。」

「なみだ・・・?」

無意識だった。無意識のうちに杞憂の頬に涙がながれていた。

A-1をまじまじと見つめる。

一見、白いTシャツを来た18~20くらいの青年だ。

「・・・・A-1?」

「はい。」

呼んだ後、正気に戻る。

アンドロイドの型名を呼ぶのに感情をこめた自分が恥ずかしくなった。

「・・・っ。そんなところの布を使うな。」

A-1が持っているのは先ほどはずしたカーテンだった。

少しだけ笑ってしまった気がした。間宮にしか見せなかった笑顔を間宮が残したものに

晒してしまった気がする。





それにしても、意識するとA-1の完成度に驚く。

近くでみても人間そのものだ。話しても違和感のある発音は全く無い。

動きもロボットのそれとは思えない。

ただ、表情がない。

「・・・」

誰よりも人間らしかった間宮が、アンドロイドに表情をつけないはずが無い。

感情すら作ろうとしていたのだから。

不意に玲奈が置いていったカバンが目に入った。

カバンを開ける。するとそこには、厳重に包装されたメモリーカードがあった。

1枚ではない。3枚だ。

「・・・・カードの挿入口は?」

「胸元です。」

Tシャツを脱がせると1部分だけ開くところがあった。

開くと挿入口がある。

「どのカードが何処と、決まっているのか?」

「いえ。ありません」

杞憂は3枚全部を入れ、またTシャツを着せた。





「A-1。間宮が死んで、お前は悲しくは無いのか?」

「悲しい・・・先ほどまでは感情のメモリーが入っていませんでした。

 それで今入れても・・・。間宮博士とは本当に短い間話しただけでした。

 なので悲しい、という感情はありません。ですが何故だか大きな喪失感があります。

 間宮博士が、僕に母親だといったからでしょうか。」

そういってA-1が切なく困ったように笑った。

「・・・・・!」

やはりあの3枚のカードのうち1枚が表情のメモリーだったようだ。

そしてもう1枚が感情。

「成功したんだな。」

「はい?」

「・・・独り言だ。」

「お前にメモリーは何枚入るんだ?」

「4枚です。すでにすべて入っています。」

「機能は?」

「基本言語・・・話す機能です。、表情、感情、それともう1枚は間宮博士が必要だと思った

 ものや基本言語以外の言語、・・・等です。分かりやすくは説明が難しいです」

「そうか。さっきのボイスメッセージは聞いていたか?」

「いいえ。勝手に視聴していいものかと思い聞いていません。」

「・・・・じゃあ入れ忘れは分からないな?」

「入れ忘れ。たしかあのとき間宮博士も言っていました。入れ忘れがあると。

 メモリーの編集用のパソコンを持ってくると言って・・・それで。」

「・・・編集用のパソコンを使うってことは間宮が独自に情報をいれていたメモリーか・・・」








(杞憂博士、ちゃんと面倒見てくれるかな・・・)

杞憂の研究室から自分の部屋に戻りながら、玲奈は心配になっていた。

ここは沢山のジャンルの博士が居て、独自に研究を進めていく研究所である。

間宮の研究室は杞憂の研究室の真上だ。

間宮の助手の玲奈の部屋は間宮の研究室の横にあった。

優秀な博士の部屋ほど大きく、間宮の部屋は研究所内でも指を折る大きさだ。

その間宮の助手であった自分が誇らしかった。





博士は研究室の奥に自室があるが、助手は大体博士の研究室のとなりに自室を持っていた。

間宮が死んだと聞いて、悲しみのあまり感情的になったが、落ち着いた。

杞憂は無愛想だし無感情とまで言われて研究所内では評判は悪いが、ずっと間宮の近くに居たから玲奈は知っている。あのひとは不器用なだけだと。

ただ自分には間宮のように杞憂の不器用な心を解く技術が無いのだ。

いや、間宮博士にしかないのかもしれない。




間宮のボイスメッセージを思い出す。

『-----頑張って。貴方ならもっと上までいけるわ。---』

いつまでも悲しんでいても仕方が無い。

助手の自分にできることは、犯人をみつけだし、そしてA-1を守ることだ。

「そういえば・・・」

『----入れ忘れがあるの。ふふっ。うっかりしてたわ-----』

(間宮博士、入れ忘れが何かもうっかり言ってない・・・・)

「・・・・っ」

笑いがこぼれる。さすが間宮博士ね!

間宮博士のふふっという笑い声が聞こえた気がした。







「そのまま間宮博士は撃たれました。僕のせいなんでしょうか。」

「・・・・!」

A-1が悲しそうに顔をゆがめる。

「・・・違う。それは違う。」

「・・・」

「お前のせいじゃない。そうやって自分のせいにするな!」

・・・何をしてるんだ?自分は。杞憂は驚いた。

どうして人工知能のことを慰めている?人にもほとんどしたことが無いのに。

「ですが、」

「うるさい!もう2度と俺の前でそんなことを言うな。」

「・・・はい。すいませんでした。」

A-1が笑う。困ったような表情ではなく、心から笑ったように見える。






「・・・・・名前。」

「はい?」

「俺がお前を引き取ることになった。間宮に名前をつけろと言われた。

 だから考えなければいけない。」

「・・・・・」

そっぽを向いて話す杞憂。

「はい!お願いします!」

A-1がそっぽを向いている杞憂に返事をした。








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