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年始の訪問

初投稿です!

「こんにちはー!」

呼び鈴を押して声をかける。

「あぁ〜い、どうぞー」

扉の奥から返事があり、引き戸を開けると

和男さんがいつものゆっくりとした足取りで玄関まで迎えに来てくれた。

「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」

「今年も-」は病棟ではなかなか言わなかったなと思いながら和男さんと挨拶を交わす。

 和男さんは玄関の床に置かれていた配食弁当を取ろうとかがみ、バランスを崩しそうになる。私は玄関のたたきから弁当を差し出した。


「年末年始はご家族でどこか行かれましたか?」

体温計を渡しながら和男さんに尋ねる。

和男さんは私の担当利用者の一人で、息子夫婦と孫、ひ孫と4世代世帯暮らしだ。

「行ったよ。初詣行った」

「そこの八幡社ですか?」

「いや、日之神宮。一日に行った」

「ええ、すごいですね。私も四日に行きましたけど、まだすごい混んでましたよ」

日之神宮は県下1番の大きな神社で、お正月は大勢の参拝客で賑わう。

一日ともなれば、人だかりで身動きも取れないくらいだ。

和男さんは80代後半。足取りもかなりゆっくりで日之神宮の初詣は大変だろう。

「文子さんも行ったんですか?」

文子さんは和男さんの妻で、同じくうちの訪問看護を利用している。

「行ったよ。二人で杖つきながらよたよたな。」

身動きできない人波の中、砂利の参道を杖をついて歩く二人の姿を頑張って思い浮かべようとするが、やはり想像がつかなかった。

「すごいですね。無事行けてよかったです。」


 血圧はばっちり。不整脈も浮腫もない。

 次にお薬のカレンダーセット、爪切りを済ませる。新年らしく丁寧に切り揃えて満足した。


 翌日は文子さんの訪問。珍しくお嫁さんが在宅していた。介護施設で働いているお嫁さんは年始は仕事で、ようやくお休みがもらえたらしい。

 お嫁さんが家事をしながら慌ただしく顔を出して挨拶をしてくださった。

「おばあちゃん、デイサービスが正月休みだったから、さらにボケボケですけど…よろしくお願いします!」

 文子さんは少し認知症がある。

 えぇ、どんな感じなんだろうと思いつつ、文子さんのバイタル測定をしていく。


「お正月はいかがでしたか」

「さあ、どうだったかな」

「日之神宮に初詣に行ったって伺いましたよ」

「あれ、行ったっけな」

文子さんはテレビを観ながらぼやっとした感じの笑顔で答える。

年始のビッグイベントも記憶の彼方らしい。

「昨日は久しぶりのデイサービス、いかがでしたか?」

「そうだったけな、行ったっけな」

なるほど、確かにボケボケしている。


「今朝は朝ごはん召し上がりましたか」

「えーと…あ饅頭食ったわ。」

「え、おばあちゃんどこの饅頭食べたの?」

お嫁さんがキッチンから顔を出して尋ねる。

「仏さんに供えてあったやつ」

お嫁さんが仏壇前に行き、お供えの饅頭箱を確認した。

「ほんとだ、一つ減ってるわ…」

文子さん、こういう所はちゃっかりしている。文子さんは糖尿病があるので甘いものには要注意だ。

「おばあちゃん、おまんじゅう一個までだよ」とのお嫁さん言葉に、文子さんが「はいはい〜」とぼんやりした返事を返す。


 デイサービスの連絡帳を確認すると、先月より2キロ以上体重が増えていた。

 お嫁さんによると、お正月中に色々つまんでいた痕跡があったそうだ。

 こりゃあ次回受診時にHbA1c上がりそうだな…と苦笑する。


 お正月休みが終わり、デイサービスや普段通りの生活リズムが戻り、認知機能も体重も元に戻っていきますようにと願いながらお宅を後にする。

 玄関前の公園からは、冬休みも残りわずかとなった小学生の遊ぶ声が聞こえた。

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