番外編
番外編①「角のレシピ」——紙・墨・孔具・塩印のDIY
春の倉に、薄い光。棚には乾いた亜麻と桑皮、端には割れた桶、壁には古い風箱。
——角は生えるものじゃない。仕込むものだ。
「角太の紙、教えて」と若耳が三人。ギータが御者台の上からニヤリと笑う。
「角は拳。拳は握手のため。殴るのは違反だけ。——ではレシピ」
紙:角に骨を入れる
繊維の選定
- 桑:7/亜麻:3。桑は粘、亜麻は張。
- 回復紙には藁を少し(笑線で踏む子に優しい)。
灰汁
- 白灰(炭規格“白”)を鍋で煮出し、粉の息で二十以下。
- 喪越の家へ納める紙は灰汁弱(匂いを立てない)。
叩解
- 木槌で短長短×二十。繊維がほぐれ—絡む寸前で止める。
- **“ほぐ絡”**の音が出たら勝ち。
漉く
- 桶に薄塩水を一杯。繊維を泳がせ渦を作る。
- 桁で掬い、縁を軽く叩いて水目を揃える。斜光灯で透かすと小さな節が斜めに走るはず。
角仕込み
- 乾く前に麻ひもを枠に沿わせ、角に二度押し。
- 仕上げに薄い膠を角のみ塗る。角は固く、面は柔らかく。
乾燥
- 風通しの風穴側で、無音窓を開け、短短長+小チで焼台の火を管理。
- 乾き始めたら反して角を撫でる。——角は触で育つ。
「角を舐めるなよ」とサト婆さん。若耳がほんとに舐めて怒られた。笑は仕様。
墨:角に声を入れる
膠:鹿膠を鍋で溶き、香珠のごく薄い粒を一つ(匂い=出典)。
煤:水灯の煤、白布符用は松煙を少し混ぜて柔。
塩一掴み:塩印と合わせたときの滲みを制御。
練り:短短長×三で練り、最後に小チ。
試筆:条の小チを打って、乾く音が短なら合格。長なら水が多い。
孔具:紙に風道を開ける
針:鯨骨の芯に鈴糸を巻き、柄は角木。
型:丸小/丸大/楕円の三型。楕円はチのため。
孔打ち:短=丸小一、長=丸大一、チ=楕円一。
孔鳴:机下の風箱で軽く送風、孔が拍で鳴れば人歌。
整音:孔縁を黒檀棒で一撫で。機歌はここで破綻する(均質が剥がれる)。
塩印:偽を滲ませ、名を残す
印泥:塩水を布に含ませ、赤土と墨を少々。
印:錨+帆+橋印、小印に継と為。
押し:短短長の三段押し。角→面→角の順。
検:斜光灯で見ると、角だけがわずかに白く滲む。これが生印の証。
「角は拳、墨は声、孔は風、印は塩」とギータ。
若耳が紙を揺らすと、角がチと鳴った。汚い字は、強い。字が紙に乗ると、紙は人になる。
番外編②「子ども条——小チと笑線で回すミニ条」
広場の端、子ども用の低い掲示台が立った。上段は白紙、下段は色の札。
——条は子どもにも噛める。小さく、甘すぎず、笑を混ぜる。
「子ども条の約束、三つだけ」わたくしは板に大書する。
一:嘘をつかない(でも間違えて良い)
二:怒ったら“無音窓”へ十呼吸
三:最後は小チで握手
サト婆さんが目を細める。「婆も混ざるから四つ目——喪越の家の前では走らない」
赤丸で喪越を描き、小脈のマークを添えた。
ミニ条・本文
第一条:かしこい手順
短短長+小チではじめ。
言いたいことは一つずつ。“一口一拍”。
二口重なったら、笑線でじゃんけん。勝ったほうが先。負けたほうは無音窓へ十呼吸。
第二条:貸し借りは丸い石
白い丸石=一分。
借りるときは石を相手の手にぽんと乗せ、小チ。
返すときは石を角棚の皿へ。返角の代わりに返石。
遅拍は白円カード一枚を出して**「あとで」。あとでが二回続いたら大人へ相談**。
第三条:見つけたら“事情”に描く
壊れた玩具、泣き顔、落ちた帽子。
——事情は罰じゃない。絵でいい。
絵の隅に小さな字で名を書き、小チを押す。
第四条:喪越
喪の家の前では、短長長(禁)を避けるため、足拍=短長短で歩く。
白布符が見えたら、声を小さくして、帽子を一度下げる。
——これで通れる。跨ぐ、じゃない。
第五条:おしまい
眠の時間になったら、基準拍塔の小鈴がチ。
みんなで小チを一打して解散。
約束を破ったら?笑線でやりなおし。
運用の道具
笑線(こども版):縄を波形に。角の所に白点、谷に茶点。
返石皿:木の皿に小さな孔。石を落とすとコロン=短, コロロン=長。
無音窓:布のフード。中は薄暗く、十呼吸の数え札(短短長で一枚ずつ裏返す)。
事情板:チョークと炭筆。汚い線歓迎。強い。
初運用
朝、子ども条の前に列。
羊の角の玩具の持ち主を巡って、二人が同時に叫ぶ。
——一口一拍に違反。笑線へ。
波の上でじゃんけん、勝ったほうが先に事情を描く。負けたほうは無音窓へ。
十呼吸のあと、戻った子が白円カードを一枚出して遅拍を宣言。
返石皿にコロンと石が落ち、皿の孔鳴が可愛い音で返す。
「名を書ける?」
小さな手が震えながら、汚い字で三文字。
汚い字は、強い。絵に名が宿り、玩具は事情に抱えられた。
昼、喪越。白布符の前を、子どもたちが足拍=短長短で歩く。
——走らない。跳ねない。けれど歌はある。
婆さんが窓影から小さく手を振り、小鈴がチ。
夕方、おしまいの小チ。
返石皿は空に近く、笑線の縄は土色で汚れ、無音窓の布は子の息で少し湿っている。
湿りは生活の証。土は仕様。
こどもKPI(お楽しみ版)
返石 回収率:96%(石の迷子、翌朝発見率 +0.9)
無音窓 十呼吸成就:91%(途中で出ちゃう 9%→笑線で再挑戦)
喪越 足拍遵守:98%(帽子お辞儀 成功 +0.95)
事情板 記入:絵 143/字 71(汚い字歓迎率 100%)
満足度:+0.99(小チ連打の楽しさ +1.00)
ギータが締める。「見出しは“小チで世界は回る”。大人条が重たくなったら、ここへ戻る。」
ノアは返石皿を撫で、「水も石も、落ちる音で仲直りだ」と言った。
サト婆さんは無音窓の布を干し、「黙は罰じゃない。息継ぎだよ」と笑った。




