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辺境開発公社・悪役令嬢課――断罪されたので国を黒字化します  作者: 妙原奇天


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24/25

第24話「白と黒と土(終)」

 朝の光は薄い白。夜の名残は細い黒。靴の裏は昨日のままの土。

 ——終わりは、いつもこの三色から始まる。


 王都からの本採択文が港務所に届いた。封蝋は厚く、角は今日は少しだけ太い。

 表紙には、「平均出合・本文採択」、「黒匣・二重CRC 標準」、「救値=生重」、「小チ 記号の明記」、そして小さく**「歌孔署:掲示要件」**。

 詩は本文に残った。孔は塞がれなかった。風は一本、通り続ける。


「終幕の段取り、やろうか」

 ギータが御者台から飛び降りる。

「白は読ませ、黒は刃へ、土は匂いへ。——見出しは“白と黒と土”。角は遠慮なく太く」


 わたくしは机を外へ出し、角をさらに太くした。紙の見出しは三段重ね、最後の段は白(規格)、真ん中は黒(違反の刃)、一番下は**土(生活)**の色で縁取る。


「終幕・運用書——白の掲示/黒の封/土の祝」


 章は三つ。

 一:白の掲示——本文・注・“注継”・孔署の最終配列

二:黒の封——違反の“最後手順”と刃の向け先

三:土の祝——笑線と湯と拍の合わせ、名の最後の“全小チ”



 一:白の掲示

 掲示板を張り替える。本文を最上段、ノートを並段、“注継”の小票を下段に帯状で。

 歌孔は本文の見出しに縫い込み、孔署の名柱を左に立てる。小チの位置は赤丸。

 条鑑票は余白へ移し、汚い字の“注継”を太く許す。

 利根板、拍為板、共船票、海道札、白黒審、名継——全部の角を一枚ずつ撫で、孔鳴を確かめる。

 黒匣の封は錨+帆+橋印、塩印が乾いた白に薄く滲む。

 風穴幕は畳んで保管。ただし窓の鎧戸を二枚、あえて外したまま。風の通り道は仕様になった。


 ジュードが刻印台で最後の**“本文採択”の印を彫り、ハンクが斜光灯のガラスを磨き、ハーシュが孔具の針を一本、新しく箱に収めた。

 サト婆さんは赤丸を指で叩き、「小チは子でも打てる。——これが本文**の顔だ」と笑った。



 二:黒の封

 旧ギルドの最後の影は、予想通り静かに来た。

 港の裏手、倉の隙間に**“空名”の白札。孔は空き、条は美しい。金粉紙の匂い。

 貼った連中はもう逃げた。逃げ足は、紙より速い。

 わたくしは逆委宣言**の小札を掲げ、短短長+小チ。三番号の照合は空振り。

 封の手順に入る。


 最後手順:

 1. 歌孔穿ち(孔が鳴らなければ偽の疑い濃厚)

2. 斜光灯検(裏の水目が均質なら機歌)

3. 触りCRC(チ・チが出なければ撤去)。

4. 事情空白に名を書く欄を残し、空名であることを明記。

5. 黒封——黒糸一本で隅を縫い、黒印(刃の向け先)を小さく押す。

 黒印は人ではなく手口へ向く。——金粉紙/緞帳紙/静殺し粉。刃は違反へ。

 リースが兵を引き、倉の裏手に薄黒の札を一枚。「終封——機歌・金粉紙・撤去」。

 通りがかりの若者が立ち止まる。「名をください」と、彼のほうから言った。

 彼は汚い字で一行、「名:セリ。貼れと言われたけど、孔が鳴らないのが怖かった」と書いた。

 事情は詩に変わる。怒りは最初の燃料になる。燃料は灯に化ける。



 三:土の祝

 終幕の祭は、笑線から始める。

 連結祭の仕様をひと回りひねり、利根の返角紐、共船の寄せ旗、名継の継角鈴、拍為の拍幅板、全部を一本の動線に通す。

 水灯は二芯、火入れCRCは短短長+チ、湯はぽん二返で確認。

 喪越の黙を一度置き、長長短+小チで条の前置きを読んでから、笑線へ。


 笑線は今日は波形ではなく、円環。

 白(規格)を示す白点、黒(刃)を示す黒三角、土(生活)を示す茶の点を線上に撒き、踏み方で小さな職を割り振る。

 ——白を踏んだ子は掲示の読み手、黒を踏んだ若者は角打ちの係、土を踏んだ婆は湯印の確認。

 笑は仕様。人を役へ連れて行く連絡線だ。


 広場の中央で、基準拍塔の足に黒匣を置く。人歌/灯脈が二重で流れ、塔の鈴が小脈で寄り添う。

 海道札は白線で光り、橋印の錨は小さく歌い、為署の名柱は汚い字で満員。

 条は高い位置で風に揺れ、歌孔が孔鳴で薄く返事をする。

 返角の紐は継角に束ね替わり、鈴があちこちでチリと鳴る。

 湯権の札は薄茶でやわらかく光り、免湯旗は白茶でやさしく揺れる。


 サト婆さんが、最後の**“耳の学校”を若耳に譲った。

 ザハラは翻署に「喪越・祭版」を汚い字で追記し、鼓の縁でツをひとつ。

 ミナ女主人は香味“強”を弱に割った粥を配り、鼻印を静の段で押す。

 ベンは湯壺を、ラスクは小瓶を、トーベンは触接を、カイは水位棒を、ハンクは孔具を、ハーシュは拍為板**を見て回る。

 ジュードは刻印台の前で、最後の角をもう一段深く彫った。角は拳。拳は握手のためにある。



 王都監督官ヴァレンが来た。靴は今日も少し濡れている。

 彼は条の赤丸に指を置き、小チを一度だけ鳴らした。

「数字を」

「終幕KPIを持ってきました」

 板には、本文遵守率、黒匣“甲合”比率、救値・生重の適用率、歌孔掲示率、名継の完了数、影手口の摘発→事情化、そして住民満足が並ぶ。

 ヴァレンは静かに頷く。「本文は音を持って残った。——それでいい。法は包む。現場は鳴る」

 彼はわたくしを見て、小さく笑い、「詩で殴れ。湯で抱け。紙で残せ」とだけ言った。


「歌で数えます」

 わたくしは答え、机の角を最後に撫でた。角は、もう丸太のように太い。



 最後の“事件”は、事件というより告白だった。

 旧ギルドの生き残り、名をロフ。

 最初の風箱の若者。彼が列の端に立っていた。

 「名を、薄くしてくれ」

 名継の儀を縮小版で行う。薄字宣言、名護符写し、返角束ね。

事情欄に**「粉で人を集めたかった。喪が怖かった。笑が手順だと知らなかった」**

 わたくしは**“注継”の欄を開き、「笑は手順」の注**を渡す。

 ロフは汚い字で受け取った。汚い字は、強い。強い字は、揺れを持ち、人歌になる。



 全小チ

 夕刻、白は薄金に、黒は藍に、土はしっとり濃く。

 基準拍塔が短長短で眠の前置きを打ち、喪越の黙を一度置き、全員で小チを一打。

 子の小さな指、婆のしわのある指、兵の固い指、商の角に慣れた指、鼓番の皮で鍛えた指、翻署の汚い字の指、監督官の濡れた指。

 全部が、同じ小チで並ぶ。

 音は小さい。けれど揺れは豊かだ。人歌は、小さくて、強い。


 ギータが御者台から叫ぶ。「見出し:白と黒と土!」

 ノアは水位棒の刻みを数え、「水はここまで来た」と呟く。

 リースは剣の柄をコツン、「刃は違反へ。——今日は刃、いらない」と肩を落とした。

 ザハラは鼓でツを一つ、確認拍を返した。

 サト婆さんは耳に手を当て、「聞こえるよ」と笑った。


 夜の白が踊る。黒は刃を収める。土は靴で歌う。

 ——なら、やっぱり、正しい。


【辺境KPI / 第24話(終)】


塩産出量:0.81 → 0.82(運用安定/“土の祝”で作業再配分スムーズ)


用水稼働率:56% → 57%(夜間石床→昼間湯壺の熱回収、拍で平準化)


法・運用:

 - 本文遵守率 97%(小チ明記/喪越前置)


黒匣 検認:“甲合” 88%/“乙半・丙半” 11%/“丁不” 1%→現地再審


救値=生重 適用 100%(上限超→寄点移管 3)


歌孔 掲示率 95%(議場・庁舎 掲示要件 満たす)


信用・市場:


利根票 流通 本票 131/分票 402/橋票 33


拍為板 平常率 94%/音位“丁”(機歌) 検出 0


共船宣言 5/割り前 遅拍解消率 93%/寄点 累計 201


白黒審・継承:


白札 撤去 7(金粉紙 3/緞帳紙 2/静殺し粉 2)→事情化 7


名護符 移行 完了 102/共帯 再縫 63/返角→継角 317角→106継角


空名 解体 完了 19(仮継→白 本採択 12)


住民満足度:+0.99(“土の祝” 参加 1,287/全小チ 体験 1,151/条読み上げ満足 +0.94)


治安指数:80 → 82(影手口 鎮静/違反の刃 出番 極小)


終章のあとがき(紙の余白に小さく)


 白は規格。光を通す。

 黒は刃。違反へ向く。

土は生活。匂いを持つ。

 詩で殴り、湯で抱え、歌で数え、紙で残し、名で温める。

 最後の小チは、いつでも誰でも打てる。

 いつかまた、白と黒と土の靴で、あなたがここを歩くとき——小チをひとつ、お願いします。

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