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辺境開発公社・悪役令嬢課――断罪されたので国を黒字化します  作者: 妙原奇天


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23/25

第23話「名の継承——薄れる字と太る角」

 雪の名残が畦に細く残り、朝の息はまだ白い。

 掲示板の前で、誰かの字が薄くなっていた。

 耳印、白点、翻点、返角——どれにも名前はあるのに、本人の手がゆっくり遠のいている字。

 名は、急に消えない。薄くなる。薄くなったら、移す。


「引退の季節だね」

 ギータが御者台の帳面をぱたんと倒し、遠くの港を見た。

「名ってやつは資産で詩で道具で癖だ。継承には角が要る」


「薄字から太角へ。やります」

 わたくしは机を外へ出し、角をさらに太くする。紙の表面が春の湿りでほどよく重く、見出しは円柱のように立った。


名継なつ・初版——名護符の移し替え/共帯の解体と再縫/返角の束ね替え/条注の“息継ぎ”」


 章は五つ。

 一:名護符・移し替え儀(薄字→太角)

 二:共帯(外帯・内帯)の解体/再縫——“糸の事情”

三:返角へんかく束ね替え——“音の家系図”

四:条注の息継ぎ——“ノート継”と“空名からな”の埋め方

五:公開継承審——笑いを入れて、喪を跨ぐ


 ノアが水位棒を撫でた。「名は水に似る。容器で形が変わるが、温度で性格が出る」

「刃は違反へ。名は抱える」とリース。剣の柄がコツンといつもの拍。



 一:名護符・移し替え儀

 名護符はそのままでは剥がせない。だから**“移し替え”を作る。

 手順:

 1. 薄字宣言——当人の小チ**。「名、薄くそうろう」を短長短で言う。

2. 温度測り——耳印/白点/翻点/返角の合算温度を読み、ぬくあつで出す。

3. 名護符写し——触りCRCチ・チを確認後、鈴糸を外し赤糸を通す。赤糸は「移行」の印。

4. 受継者名刻——受け継ぐ名が汚い字で刻む。汚い字は、強い。

5. 再鈴——鈴糸を新しい護符へ通し、チ・チが受継側の指で鳴るか検証。

 禁則:“喪”の家では白布符の下で行い、喪拍(短長長)は禁。代わりに喪越の小脈。

 記録:名継票を発行。名護符番号/名帯番号/返角束番号を連ね、橋印の横に**“継”**の小印。


 サト婆さんがうなずいた。「鳴る護符は人が入ってる。鈴が震えなきゃ名じゃない」



 二:共帯の解体/再縫

 共帯は、外帯=共、内帯=個。

 解体は外帯だけを外す。ほどけ線が現れ、糸の事情を書く欄が出てくる。

 再縫は新たな共(外帯)を“寄点”で支え直し、内帯(個)を名護符と利根で結び直す。

 — 糸の事情:「外帯:育児で休」「内帯:夜拍継続」のように生活を詩にする欄。

 — 縫合CRC:“チ・ツ”(辺境→遠市)を二度。翻署も残す。

 帯の喪越:外帯を外すときは黒糸一本。二本は喪に触れすぎ。


 ジュードが針を掲げる。「縫い目の角、今日は深くする。影が潜れない」



 三:返角束ね替え

 掲示板の下に吊ってきた返角の紐。——音の家系図だ。

 束ね替えは**“返角→継角”へ。

 返角(これまでの返済の角)を三角ずつ束ねて“継角”にする。

 継角には名護符番号を焼印し、小さな鈴を一つ。鈴は過去が鳴る音。

 式:継角=返角×(拍利健全度)。拍利が上限3内で回っていれば等倍**、逸脱があれば減。

 見本:「ミナ女主人→“継角”四、名護符#A12」/「ベン→“継角”一、名護符#C7」

 ——角が家を歩く。音が名を支える。


 ハーシュが糸を渡す。「返角の音が気持ちいい。鈴じゃなくて角が鳴る」



 四:条注の息継ぎ

 条に注はある。注に息継ぎを作る。

 “注継ちゅうつぎ”票を条末に貼り、誰がどの注をいつ受け継ぐかを書き、小チで承諾する。

 “空名からな”——旧ギルドが置いていった名のない条や責のない署名。

 埋め方:

 - 歌孔を穿ち、孔鳴が無ならからな。

- 空白へ事情を書ける者に**“注継”を渡す。汚い字歓迎。

- 小脈で読上げ、喪越を置く(空名には喪の陰がつきやすい)。

 記録:空名→注継→名の三段を角太**で刻む。


 ザハラが翻署に書く。「翻にも**“注継”いる。鼓の癖は注**に残る」



 五:公開継承審

 ——審と祭の真ん中。笑と黙を半分ずつ。

 舞台:基準拍塔/風箱/斜光灯/縫台/角棚。

 進行:

 1. 薄字宣言(当人の小チ)

2. 名護符写し(触りCRC=チ・チ)

3. 共帯の外帯解体→再縫(縫合CRC=チ→ツ)

4. 返角束ね替え(継角に小鈴)

5. 条注の“注継”読み上げ(長長短+小チ、喪越が要るときは小脈)

6. 笑線を一回渡る(笑は仕様)。

 判断旗:白=継承完了、薄群青=再読、黒=止(喪の影や影拍が混じった場合)。


 リースが兵の列を動かす。「黒が出たときだけ刃。あとは糸と鈴」



 初の名継は、意外な人から始まった。

 サト婆さんだ。

 「耳の学校、若耳がもう婆候補だ。名を薄にする。薄は消じゃないよ」と笑った。

 薄字宣言の小チは、何故だか胸に効く音だった。


 温度測りは熱。働き耳→婆候補の印がずらり。

 名護符写しの鈴糸が一度鳴らず、会場が一瞬止まる。

 ——揺れは人だ。

 針目を半目ずらし、指の汗を紙に移すとチ・チが戻った。

 受継者は三人。若耳のナイ、笑線係のロコ、湯屋のキサラ。汚い字が並び、強くなった。


 共帯は外帯を一度外し、「夜拍→昼講」の糸の事情を残して再縫。

 返角は二十四角が**“継角”八へ束ねられ、小鈴が鳴ると広場の子どもが真似して笑った。

 条注は「喪越・老人会版」を注継**。喪の家へ行く歌が小脈で生まれた。


 判断旗=白。

 ギータが御者台の高さから宣言した。「見出し:薄れる字は逃げじゃない、太る角の準備だ」



 二つ目は遠市の鼓番から。

 ザハラが鼓を抱え、「鼓の癖は注に残す。名は薄にする」と短く言う。

 翻署の汚い字はいつ見ても強い。

 名護符写しは一発でチ・チ。縫合CRCはツがよく響く。

返角の継角が鼓皮に当たってコロと鳴り、鼓番の若い者が頬を染めた。

 判断旗=白。翻の旗の端に**小さな“継”**が縫われる。



 事件は、三つ目で来た。

 旧ギルドが残した**“空名”の店名を、若者が拾って名乗った。

 札は美しい**、歌孔は鳴る、——だが均質。機歌の匂いが薄くする。

 条鑑=乙→要再読。

 公開“空名解体”。

 斜光灯で透かすと、紙の裏に金粉が薄く撒かれていた。王都の旅書師の手。

 若者の目が泳ぐ。「名:セト。父が昔、その店の皿だけ持って帰った。名は無かったけど、皿は残ってた」

 注継の欄を開き、皿の出典を布出典と同じ様式で書かせる。

 共帯の外帯は**“皿の借”を寄点で支える欄に。

 名護符は“仮継”で薄群青**。黒ではない。皿は物語。物語は名を育てる。

 会場の笑いが仕様どおりに流れ、薄群青→白の道が見えた。



 夕刻、名継の列は静かに短くなり、角棚の上に**“継角”が積まれた。

 返角の紐から外された角が、新しい鈴と共に家を変える。

 条の注には汚い字の“注継”が増え、空名の穴に名前**が生まれていく。


 監督官ヴァレンが現れ、名継票の束をめくる。

「数字を」

「継承KPIを立てました」

 板には名護符移行率、共帯再縫完了、返角→継角変換、注継採択、空名解体。

 彼は頷き、「退く名に礼を。入る名に手順を。条へ**“注継”**の段を入れる」と書付けを残す。

 小チが一度、柔らかかった。



 夜の“名の祝”

 白布符を半分だけ降ろし、喪越の小脈で灯を弱める。

 笑線をひとつ渡り、基準拍塔が短長短で眠を告げる前に、小さな舞。

 継角の鈴が、あちこちでチリと鳴る。

 薄字の人は肩を落として笑い、太角を受けた人は背筋を伸ばす。

 名は筋。筋は笑いでよく伸びる。

 ——笑は仕様だ。


 ギータが御者台の影から叫ぶ。「見出しは“名は薄り、角は太る”。——気持ちよく眠れ!」

 ノアは水位棒に**“継”**の刻みを一本増やし、「水は上から下、名は前から後ろ」と呟いた。

 サト婆さんは若耳の頭を二つ撫でて、小チをそっと打った。確認拍は、やさしい。


 靴は今日も汚い。白と黒と土に、赤糸(移行)と細い鈴粉(継角)の光が付いた。

 なら、やっぱり、正しい。


【辺境KPI / 第23話】


塩産出量:0.80 → 0.81(名継で役割交代スムーズ/作業ロス減)


用水稼働率:55% → 56%(共帯再縫で昼講→夜拍の切替安定)


継承指標(新):

 - 名護符 移行 68(触りCRC 抜け 1 →再鈴で復帰)


共帯 再縫 41(糸の事情 記入率 96%)


返角→継角 212角→71継角(拍利健全度 等倍 87%)


条“注継” 採択 53(空名→注継→名 連鎖 19)


空名 解体 7(金粉紙 2→事情化/皿出典 承認 3/保留 2)


治安指数:79 → 80(継承儀式の公開で紛議減/旧ギルド“空名”流用 鎮静)


ガバナンス:名継・初版 採択/“注継” 条追補/継角 鈴 標準化


文化・教育:共帯の結び教室 11/歌孔・注継 読み合わせ 参加 533/返角の紐 展示 好評 +0.92


次回予告:「白と黒と土(終)」。

終幕——白(規格と光)、黒(違反へ向かう刃)、土(生活と匂い)。王都の本文が降り、旧ギルドの最後の影が薄れ、名は角に宿る。詩で殴り、湯で抱え、歌で数え、紙で残す。最後の小チを、全員で。

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