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辺境開発公社・悪役令嬢課――断罪されたので国を黒字化します  作者: 妙原奇天


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21/25

第21話「旧ギルド最終手——“白を黒にする紙”」

 朝の光は薄く白いのに、港の空気はどこか煤の匂いを含んでいた。

 ——白の顔をして黒い仕事をする、そういう日だ。

 港務所の戸口に、見慣れない白札が数枚差し込まれていた。紙は上等、角は薄い。文字は綺麗すぎて歌わない。


 「委任状」

 「標準準拠証」

 「善意の連帯票」


 ——名を薄め、責を他所へ送り、条を空洞にする、白い黒。


「来たね、旧ギルドの最終手」ギータが白札を一瞥して鼻で笑う。

「白を黒にする紙。綺麗な字で名を剥ぐ」


「角を太らせ、歌で穴を開けます」

 わたくしは机を外へ引きずり出し、角をさらに太くした。紙の見出しは、白に対して黒々と太字。


白黒審はくこくしん・初版——名護符/逆委任/条鑑じょうかん歌孔かこう


 章は五つ。

 一:名護符なごふ——名を剥がせない札

二:逆委任ぎゃくいにん——委任状の矛先返し

三:条鑑じょうかん——条文の“顔色”検査

四:歌孔かこう——紙に音を通す穴あけ

五:公開角審かくしん——審と祭の中間、見せ物の裁き


 ノアが水位棒に掌を置いた。「白は光を通し、黒は熱を抱く。歌はどちらにも通る。穴が要る」

「刃は違反へ。穴は詩へ」リースが剣の柄をコツンと鳴らす。



 一:名護符

 名に鎧を着せる。

 名護符は小さな布札。布出典票の親戚。

 - 表:名、耳印/白点/翻点/利根返角の合算“温度”。

- 裏:“書替不可”の角太印と、“委任は帯で”の赤い糸。

- CRC:さわりCRC——角を指でなぞると“チ・チ”と二度短く鳴る(糸芯に鈴糸)。

 委任は紙でなく帯(名帯)にだけ許す。帯には刺繍の名。解けば糸がほどけ線になり、再縫には翻署が要る。

 ——名は持ち運ぶが、切り離さない。


 サト婆さんが目を細める。「名ってのは温度だ。護符は温度計にもなる」



 二:逆委任

 委任状は便利だ。だから紙に黒が潜る。

 逆委任は、委任の矛先を出典へ返す仕組み。

 - 要件:委任状に**“名帯番号/名護符番号/利根本票番号”の三番号がないと無効**。

- 逆流手順:番号がない/偽なら、“逆委宣言”=短短長+小チ。帯旗の棒に逆矢印の小札を掛ける。

- 効果:責は委任元へ戻り、条に赤小脈で記録。事情欄が開き、名を求められる。

 紙に逃げ道を描くなら、紙で道を戻す。

 ギータが口角を上げる。「剣の返しじゃなく、紙の返し。気分がいい」



**三:条鑑**



 条にも顔色がある。

 条鑑は条の血色を見る鏡。

 - 拍診:条末の小チが人歌か。機歌なら青白。

- 墨診:角太墨は乾く音が短。光沢墨は長で滑る。

- 注診:ノート欄に汚い字があるか。無ければ流用条の疑い。

- 触診:紙の裏骨(繊維)を指で追い、拍の節があるか。

 条鑑票を条の端に貼り、「甲(人)/乙(薄)/丙(借)/丁(偽)」を刻む。丁は公開角審へ。


 ジュードがうなる。「角のない条は、拳で殴る前に歌で倒れる」



 四:歌孔

 紙が歌を通せば、嘘は詰まる。

 歌孔は小さな穴。道札の穴の子。

 - 孔割:短=丸小/長=丸大/チ=楕円を列にする。条の主旋律を孔で写す。

- 孔検:机下の風を通し、孔が拍に鳴るか。機歌の紙は鳴らない。

- 孔署:孔の脇に**“歌孔署かこうしょ”の名欄。翻署や為署と同列に責任を置く。

 白黒は目の世界。歌孔は耳**を連れてくる。


 ノアが頷く。「水は孔を通ると音になる。紙も同じ」



 五:公開角審

 審だけでは固い。祭だけでは甘い。

 角審は審と祭の真ん中。見せ物であり審。

 - 舞台:基準拍塔の前、斜光灯と風箱(今回は音を通す箱)を並べる。

- 手順:白札→条鑑→歌孔→逆委宣言→名護符の確認→公開“条読み”→判断旗(白=通、黒=止、薄群青=やり直し)。

- CRC:角打ち(角を指でチ)、孔鳴、帯引(名帯を軽く引いて縫いを確かめる)。

 怒りは角で受け、拍で刻んで、笑で冷ます。



 初の角審は昼を跨いで始まった。

 列の先頭、黒髪の商人が**「標準準拠証」を掲げる。印影は綺麗、角は薄い。

 条鑑——墨診:光沢長、拍診:小チが均質(機歌気味)、注診:空白、触診:裏骨に節なし。

 判定:丙(借)寄り。

 歌孔を穿つ。丸小・丸大・楕円の列。風箱で息を送る。

 ——鳴らない。

 ギータが肩を竦める。「歌わない標準は、喉がない」

 わたくしは薄群青のやり直し旗を上げ、「条を注から育て直し」**と掲示。汚い字は、強い。


 二つ目、「委任状」。

 三番号が無い。

 逆委宣言——短短長+小チ。

 帯引で名帯がほどけ線を晒し、翻署なしが露見。

 責は委任元へ戻り、事情空白が開く。

 男は唇を噛み、「名:ヘル。書き方を教わってない」と汚い字で書いた。

 サト婆さんが笑う。「書き方は叱るより教えるほうが速い」

 罰は**“歌孔署”の穴あけ手伝い**。紙に音を覚えさせる側へ。


 三つ目、「善意の連帯票」。

 ——名を薄め、責を分散、誰も責めない体裁。

 ジュードが角を弾く。「角が歌わない」

 条読みを公開で行う。

 「善意」の語が三度。事情欄は空白。遅拍の規定なし。喪越への配慮なし。

 判断旗=黒(止)。

 代替として「寄点・小票」への置換を提示。善意は制度へ繋げ、紙ではなく点で残す。

 列の後ろで舌打ちが一つ。音は拍に吸われた。



 午後、事件は王都側から来た。

 「王都様式・条文写経」と名乗る旅の書師が、美しい条を束で持ち込む。歌孔を穿つ前から拍が整いすぎている。

 斜光灯で透かすと、紙の裏に微細な金粉。

 孔鳴は鳴る——だが均質。機歌の匂い。

 ノアが水滴を落とし、耳を寄せる。「水の“ぽん”が返らない。紙が水を嫌っている」

 条鑑=丁(偽)。

 公開解体で裏咲きした金粉を剥がし、“音の通り道”が偽の孔であることを示す。

 書師は震えて名を書いた。「名:カンナ。王都で“音の良い紙”を教わった」

 ギータが頷く。「音の良いは歌が良いとは限らない。揺れがない音は詩を嫌う」


 罰は**“条墨”の練習と喪越の読み手。均質な声は喪の前で小さく**なる訓練が要る。



 夕刻、旧ギルドの最後の札が出た。

 「総委任状——全権移譲」。

 ——名を一枚に束ね、白で黒を塗りつぶすつもり。

 条鑑は丁。歌孔は鳴らず。三番号は虚偽。

 しかし、持ち込んだのは若者だった。

 名:オルガ。

 事情欄に薄く「父の借/家の喪」とある。

 喪越を置く。白布符/小脈/黒糸。

 逆委宣言は保留。

 公開で**「逆委の代替」——「共帯ともおび」を提案。

 共帯:名帯を二重にして外側を共に、内側を個に。外側は寄点で支え、内側は利根で返す。切ると外側だけ外れ、個は残る。

 オルガは泣き笑いして頷いた。汚い字で共帯の名を書き、共の外帯に寄点の印をもらい、個の内帯を自分で結んだ。

 ——白を黒にはしない。白を薄群青**に連れて行く。



 王都監督官ヴァレンが現れた。

 角審の舞台を一巡し、条鑑票を撫で、歌孔の列を覗き、名護符の触りCRCでチ・チと鳴らした。

「数字を見せてくれ」

「白黒KPIを新設しました」

 わたくしは板を指さす。白札流入/条鑑“丁”検出/逆委宣言数/歌孔合格率/名護符発行/共帯移行。

 ヴァレンは頷き、薄く笑った。「法は包む。包むには孔が要る。音の抜ける孔だ」

「詩は孔の名前です」

 彼は小チを一度、穏やかに打った。



 夜の読み合わせ。

 条に注が増え、条鑑の**“丙→乙”が何枚も掛け替わる。

 歌孔署の名柱に汚い字が増え、孔鳴の列が塔の灯と寄り添う。

 共帯の外側を子どもが触り、名護符の角でチ・チと鳴らして笑う。笑は仕様**だ。


 ジュードは刻印台で逆矢印の小札を増やし、ハンクは孔具の針先を研ぎ、ハーシュは条墨の余白を整える。

 ザハラは鼓でツを一つ、「遠市でも歌孔を翻する」と翻署に書いた。

 ノアは水位棒に孔の刻みを加え、「水が鳴った」と言った。


 靴は今日も汚い。白と黒と土に、薄群青(やり直し旗)と赤糸(逆委宣言札)の粉が付いた。

 なら、やっぱり、正しい。


【辺境KPI / 第21話】


塩産出量:0.78 → 0.80(角審による流通混乱の短期収束/先渡し再設計の定着)


用水稼働率:54% → 55%(白札処理の動線を“無音窓”に寄せ、搬出入の詰まり解消)


白黒指標(新):

 - 条鑑 判定:甲 61/乙 37/丙 12/丁 5 →角審

 - 歌孔 合格率 89%(孔鳴一致)


逆委宣言 14(三番号欠落 11/虚偽 3)→責の逆流 成功 14


名護符 発行 102/触りCRC 抜け 0


共帯 移行 9(白札総委→共帯 7/委任解体→再縫 2)


治安指数:77 → 79(偽“標準準拠証”解体 4/旅書師の“金粉紙”摘発 1→事情化)


ガバナンス:白黒審・初版 採択/条鑑票・歌孔署 運用開始/逆委宣言 標準化


文化・教育:条墨 読み合わせ 参加 458/孔具 研ぎ手 31/共帯の結び教室 7


次回予告:「法制化と逆風——中央の風穴、こちらの歌孔」。

王都の本採択に逆風。条の本文から拍を外す試み。孔を塞ぐ紙、風穴を空ける議場。**“条の舞台”**を王都へ持ち込み、詩で通す。

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