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辺境開発公社・悪役令嬢課――断罪されたので国を黒字化します  作者: 妙原奇天


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18/25

第18話「紙は海を渡る、音で数える」

 潮の匂いに、見知らぬ金属の薄い甘さが混じった。

 港務所の台の上に、他王国の硬貨が小山になっている。銀に見えて銀じゃない。紙片に見えて紙じゃない。

 ——外貨が、海ごと流れ込んできた。


「換金の列、伸びっぱなし」ハーシュが額の汗を袖でぬぐう。

「“王都と遠市の値付けは拍で読めるのに、外は耳が滑る”ってさ」


「耳を滑らせない仕組みを出します」

 わたくしは机を外へ引きずり出し、角をさらに太くした。紙の表面は潮で気持ちよく重い。見出しは長く、海風に負けない。


換手かんて規格・初版——拍為はくがえ/外貨CRC/偽金“音位”」


 章は四つ。

 一:拍為はくがえ——為替を“拍”で刻む

 二:外貨CRCこいん・ペイパ——音と透かしの確認拍

 三:橋印拡張(海路版)——“海道札”と翻署FX

 四:公開“両替見世物”と偽金対策——音位おんいの等級/斜光・塩印


 ギータが鼻を鳴らす。「“為替を拍で?”」

「値は言葉、為は翻訳。翻訳には拍が必要です」


 ノアは水位棒に沿って指を滑らせ、「海は脈が長い。確認拍を二度に増やすといい」と言った。



 一:拍為はくがえ

 板に大書する。

 基準拍をそうCRCへ。

 - 辺境基準:短短長 + チ(一度目)/灯脈(二度目)

 - 外貨基準:トン・カッ・トン + ツ(一度目)/紙透かし(二度目)

 通貨レートは**“拍幅”で表す。

 - 一拍幅=白小瓶一。

 - 辺境銅一枚=0.6拍幅、遠市鼓銀=2.8拍幅、海沿い他国の“薄銀”=?(検査待ち)。

 変動は“”で示す。±一小チ以内は平常**、二超で**“静”を挟む。

 掲示は“拍為板はくがえばん”。灯の脈と連動し、確認拍が抜けると板の角が赤**で光る。


 サト婆さんが笑う。「耳がわかれば、目も手も追いつく」

 ジュードが木槌を回し、「拍幅の板、角を厚く。偽の拍は角に負ける」



 二:外貨CRC

 こいん(硬貨)は音、ペイパ(紙片)は透。

 こいんCRC:

 - “なる”——板の上で一指弾。澄/鈍/嘘。

- “く”——二指で挟みねじり。薄銀は泣かない、真銀は細く啼く。

- “で”——縁を撫でて段を見る。段なしは偽の疑い。

 ペイパCRC:

- “かし”——斜光しゃこうで見る。水目が拍のリズムに並ぶものは正規。

- “なる”——紙弾のチ。繊維混の角太は短く鳴る。

- “ぐ”——塩水を指先に付け軽く撫でる。正規は香が出典を語り、偽は沈む。

 結果を音位おんいで等級化。甲(澄)/乙(並)/丙(鈍)/丁(嘘)。

 “丁”は即“切”。公開で事情を紙に。名を求める。


 ハンクが目を輝かせた。「斜光灯、作る。角度は四十五固定。影拍も見える」



 三:橋印拡張(海路版)

 海道札かいどうふだを道札に増設。

 - 表:潮路図/風筋/寄港の名。

- 裏:拍為の記録(灯脈で刻むバー)。

- 橋印は錨の小印、翻署FXは**“がえ”の字**。

 STT-FX(Song Translation Table – Forex)を掲示。

 - 短=トン、長=カッ、チ=ツは共通。

- 禁則:長短長は他国の喪に近い合図につき禁止、代替は短短長。

 翻の旗の端に小チ(翻CRC)を縫い、外貨の翻訳者は**“為署がえしょ”**として名を残す。


 ギータが口上を作る。「見出しは“為替は翻訳、名は橋”」



 四:公開“両替見世物”

 天幕に長机、斜光灯、拍為板、基準拍塔。

 列の先頭は、海沿い他国の女商人。名はサーラ。

「薄銀を鼓銀に替えたい。拍幅は?」

 ハーシュがこいんCRCを順に通す。鳴は鈍、啼かず、段が浅い。音位=丙。

 拍為板が灯脈で小赤。

 わたくしは短短長+チ、サーラはトン・カッ・トン+ツ。

「丙は拍幅が薄い。“静”を一拍置き、分を減らして受ける。事情を空白に——“港の薄銀、今年は粗い”」

 サーラは肩を竦め、「名は残す」とだけ言って署名した。汚い字は、強い。


 次は紙束を抱えた若者。

「“青猟券”、遠市でも通用」

 斜光灯で透かす。水目の拍がずれている。紙弾のチが長い。香は沈む。

 ——丁。

 リースが**“切”を一拍。人垣が静かに割れる。

「名をください」

 若者は唇を噛んで、「名:エド。海沿いで“現金化早い”って……」

「事情の空白へ。罰は灯と“斜光灯”磨き**。紙は見本として吊るします」

 群衆の怒りは一拍で笑いへ。見せ物にすると、噂は道具になる。



 午後、事件が来た。

 港の荷から**“鐘銀しょうぎん”が出た。見た目は完璧。鳴は澄**、段も正しい。

 なのに、拍為板の灯脈が赤で警告を出す。

 ——音が良すぎる。

 ジュードが指で弾き直し、「歌わない音だ」と眉をひそめた。

 ノアが水を一滴、銀の縁に落とし、耳を寄せる。「啼き方が均質。人の音じゃない」


「音位の下に**“りつ”を足す」わたくしは即興で書く。

 音位:甲/乙/丙/丁

 律:人歌じんか石歌せっか機歌きか

 鐘銀は音位=甲**、律=機歌。——偽。

 機歌は音が正しすぎる。確認拍の微妙な揺れがない。

 機歌は刃向けの対象。公開解体へ。

 ハンクが小さな切り溝を銀の縁に入れた。中から鉛、上に銀膜。

 角が歌い、偽は沈む。


 港の柱の陰で、若い男が肩をすくめていた。

「名をください」

「……名:シド。鐘銀で拍を早くしたかった」

「早い拍は喪の親戚。事情を空白へ。罰は**“拍為板”の更新手伝い**」

 汚い字は、強い。強い字は揺れを持っている。揺れは人歌だ。



 海道札での初渡。

 渡為一便は薄銀→鼓銀、青猟券→香珠券、鼓番翻署付き。

 橋印に錨、為署にザハラの汚い字。

 STT-FXで短短長+チ⇄トン・カッ・トン+ツ、灯脈で二重CRC。

 途中、風食丘で砂声袋が再び見つかる。音を吸い、確認拍を曖昧にする古い手。

 若耳が指弾二回で翻CRCを通し、婆さんが無音窓を挟んで十呼吸。確認は戻る。

 ——確認が戻ると、利も為も戻る。


 遠市商館の前で両替見世物・第二幕。

 鼓銀の**“啼”と香珠券の“透”を並べ、音位/律を掲示。

 商館長は相変わらず口を尖らせていたが、機歌の鐘銀が割れて鉛が出るや、眉がわずかに落ちた。

 ザハラが鼓でツをひとつ。「“機歌”**、覚えた」



 夕刻、港の風が落ち、拍為板の灯が平常で脈打つ。

 両替見世物で集めた偽金/偽券は、見本として天幕に吊るされた。角太の札が横に事情を語る。

 甲・人歌の正規は歌う。丁・機歌の偽は怒らない。怒らない音は、詩を嫌う。


 監督官ヴァレンが、斜光灯の影を跨いで現れた。

「外貨の数字を見せてくれ」

「為替KPIを新設しました」

 板には拍幅変動、外貨CRC合格率、音位“丁”摘発、律=機歌検知、翻署FX精度。

 ヴァレンは頷き、灯脈のリズムに合わせてチを一度。「鐘銀の機歌、いい学びだ。王都でも**“律”**を導入する」


「詩は規格の隙を埋めます」

「知っている」



 終盤、海商組合からCRが飛んできた。

 CR-FX-01:音位判別の手順(鳴/啼/撫の順)

 CR-FX-02:機歌検出の**“均質度”基準(再鳴の差が小なら機歌**)

CR-FX-03:斜光灯角度は四十五±一、光源は水灯二芯

CR-FX-04:塩印——塩水を微量含ませた印泥で為署を押す。偽券は滲む。

 ハンクが笑う。「塩は通貨にも友だちだな」


 ギータは御者台から声を張った。

「見出しは“紙は海を渡る、音で数える”。——角は分厚いまま!」



 夜。

 基準拍塔が短短長+チ、灯脈で確認。

 拍為板は平常、外貨CRCの札には甲・乙が多く並ぶ。丙は控え、丁は見本として吊るされる。

海道札の潮路図は白線で光り、橋印の錨が小さく歌う。

 子どもが斜光灯を磨き、婆さんが耳印“軽”を掲げ、若耳が為署の字を練習する。

 ——汚い字は、強い。強い字は通貨になる。


 ノアが触索に指を置き、「水は歌で量れる。金も歌で量れる」と言う。

「歌は信用の音訳です」

「信用は名の温度」

 彼は小さく笑って、チをひとつ。確認拍は、海にも効く。


 リースが剣の柄をコツン。「夜番、両替路の**“切”は二拍。丁・機歌は即封**」

 ジュードは刻印台で錨の角を深く彫り、ハーシュは**“拍為板”の脇に“為署”**の名札柱を増やした。

 ギータは帳面を閉じ、「角の手触り、今日は潮でいい具合」と笑う。


 靴は今日も汚い。白と黒と土に、銀粉(鐘銀の破片)と塩の粉が付いた。

 なら、やっぱり、正しい。


【辺境KPI / 第18話】


塩産出量:0.79 → 0.79(為替導入の混乱最小化/物流平常)


用水稼働率:53% → 53%(変化なし/港門の両替待機を“静”で緩和)


為替指標(新):

 - 拍為板 平常率 93%(±一小チ以内)

 - 外貨CRC 合格率 88%(こいん:91%/ペイパ:84%)

 - 音位“丁”摘発 11(律=機歌 7)→事情化 11

 - 翻署FX 精度 +0.91(二重CRC一致)


治安指数:74 → 75(鐘銀摘発/青猟券偽排除/影帯→名帯 継続)


ガバナンス:STT-FX 採択/海道札 運用開始/CR-FX-01〜04 採択


市場指標:薄銀→鼓銀 両替 147件/香珠券 導入店 23/為署 名札柱 登録 39


文化・教育:斜光灯 磨き手 26/音位・律 読み合わせ参加 201


次回予告:「共船ともぶねの約定——海の損失を“歌”で割る」。海難、沈み、遅れ。保ち合いと平均出合。**“損の歌”と“寄せの旗”**で、誰も一人で沈まない仕組みを作る。

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