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辺境開発公社・悪役令嬢課――断罪されたので国を黒字化します  作者: 妙原奇天


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第15話「祭は手順、笑いは仕様」

 遠市との連結祭をやる。

 夜の白を踊らせ、歌を渡し、旗を見せ、税の川を飾る。

 ——火、粉、群衆、音。混ざり方を間違えれば、祭は牙をむく。

 だから設計する。祭も規格で包む。


「題名はこうだね」

 わたくしは角をさらに太くした紙を掲げた。


「祭運用仕様・初版——拍/翻/静/税の安全層」


 章立ては五つ。

 一:動線どうせん——一方通行と入替点、無音窓の配置。

二:——水灯採用/火入れCRC/火見張り。

三:——湿手順しつと静の閾値/折り混ぜの公開。

四:おん——基準拍塔/STTの祭版(鼓拍並立)/確認拍の見える化。

五:群衆ぐん——圧縮防止/「笑」導入(笑印/笑線)/**きり**の緊急停止。


 ギータが頬杖をついて笑う。「“い・ひ・こ・お・ぐ”か。あんた、覚えやすい順番にしとくの上手いね」

「詩で殴るのは、音節の勝利です」

 ジュードが眉を上げる。「笑が章に入ってるぞ」

「笑は推奨ではなく手順にします。——人は笑うと歩幅が合う。圧縮がほどける」



 一:動線

 地図に矢印を描き、一方通行で扇形の回遊を作る。

 入替点は三ヶ所。星旗(休)で切り替え、白円(静)で粉を落とす。

 無音窓は広場の四隅。十呼吸の黙。子ども旗係を置く。

 ノアが指で風筋をなぞる。「曲がり角に休、開けに笑。風は笑いを嫌がらない」


 二:火

 松明は禁止。水灯(浅皿の水+油芯)は**“火のCRC”付き。点灯:短短長+チ、消灯:長長短+チ。

 火見張りは耳の学校の婆候補を芯に三列交代**。触接(接地)を水灯列に。

 リースが兵の配置図に読点を打つ。「火は道に沿って歩かせる。横断はしない」


 三:粉

 工房の出店は湿手順しつ採用。粗塩水で掃き、粉の息は三十を越えたら白円(静)。

 折り混ぜ実演は**“短・長・短”**の公開。触接は腰紐で。

 サト婆さんが言う。「静は見せ物にし。怖さは笑いで割る」


 四:音

 広場の中心に基準拍塔を立てる。塔の中に鈴と水太鼓。

 基準は短短長+チ(辺境)/トン・トン・カッ+ツ(遠市)。塔は二刀で刻む。

 STT(祭版)を掲示。短長長=喪は禁、代替は長長短。

 ザハラ率いる鼓番が東側、夜拍隊が西側。確認拍は塔の灯と連動して光る。


 五:群衆

 圧縮防止に笑線。地面に白い線を波形で引き、線の上だけ跳ねて進む遊びを挟む。

 笑印は小さな木札。笑線を渡ったら白点に笑の点を付与。

 きりは緊急停止。黒三角旗+連打チチ。全出店、火を即消、粉は湿へ、動線は逆流禁止。

 「切は誰でも出せる」。わたくしは太字で書いた。「名はあとでいい」



 CRが飛び交う。

 ハーシュがCR-08を持ってくる。「水灯の油量上限。『指で縁をなぞって濡れが残る量』を基準に」

 ミナ女主人がCR-09。「香味実演は**“弱”のみ**。強は祭後の予約に回す」

 ザハラがCR-10。「鼓番の“喪”拍に触れない翻譜の貼出し」

 ヴァレンがCR-11。「税旗の簡易掲示(祭価は統一低段)。免旗は浮遊可(御者台の上)」

 ——角太の束が机に積まれる。角は拳、だけど握手のためにある。



 夕刻、連結祭は始まった。

 道歌が広場に入ってくる。翻の旗が淡く揺れ、税旗と免旗が色を添える。

基準拍塔が短短長+チ/トン・トン・カッ+ツを交互に刻む。塔の灯がチ/ツでひときわ明るく脈打つ。

 笑線では子どもが跳ね、婆さんが拍を外して笑い、笑いが拍に吸われていく。

 ——笑は仕様だった。圧縮が、緩む。


 水灯の列は控えめで、美しい。塩皿の水が光を抱え、夜の白が踊る。

 ギータが御者台から声を張る。「見出しは“夜の白、踊る規格”!」

 ハンクが紙を配りながら、角で風を切った。「偽は爪で折れる。本物は指で歌う。祭でも同じだ」



 ——事件は、笑いの端から来た。

 旧ギルドが持ち込んだ風箱。箱の口から粉を押し出す仕掛け。香草粉を舞い上げ、水灯に寄せるつもりだ。

 さらに西側では、逆拍の鼓が鳴り始める。短長長に似せた**“喪”**の影。

 混線の芽が、ふたつ。


「静!」

 サト婆さんが白円を掲げる。粉の息が四十五を越える前に湿手順へ。

 ノアが触接の結びを増し締め、湿布を投げ、風箱の口へ粗塩水を噴霧。粉は重くなり、落ちる。

 リースは切(黒三角)を一拍だけ出して火列を即消、“逆流禁止”の兵を配置。

 ——切は刃だが、一拍。止めすぎない。


 東側、逆拍の鼓に対して、基準拍塔がSTTで**“喪”禁止を光で示す。

 塔の灯が長長短で三度強く脈打ち、確認拍のチ/ツが空に跳ねた。

 ザハラが鼓番に合図し、トン・トン・カッ+ツを基準に重ねる。

 ——基準は、やさしい。強くない。やさしい基準に群衆は寄る。

 逆拍は居心地を失い、やがて喪**の影だけ残して消えた。


 風箱のほうは、もう一手。

 ジュードが箱の裏に回り、道外/税外の空白のように、箱に**「事情」の札を貼る。

 「事情:香草が売れず。見物を集めたかった。名:ロフ」

 ロフは若者で、目は泳いでいたが、名を書けた。汚い字は、強い。

 ギータが規格外買い取りへ回し、罰は灯と笑線の整備**。笑は仕事にもなる。



 中盤、祭は安定相に入った。

 笑線で笑印が増え、白点/歌点/耳印/翻点に笑点が加わる。

 水灯は火入れCRCが抜け0。粉の息は三十以下を保ち、静は宣言者が子ども・婆さん・兵で均等。

 納税歌は統一低段で税旗が軽い色に揃い、免旗は御者台の上で涼やかに揺れた。

 基準拍塔の根元に無音窓。十呼吸の黙に人が座り、立つときに確認拍をひとつ打つ。

 ——黙も、音だ。手順に入れれば、味方になる。


 監督官ヴァレンは、塔の灯を見上げたまま言った。

「詩で殴る、ときみは言う。——今夜は、詩で抱えるだな」

「抱えるは、詩の重心です。刃は違反にだけ向けます」

 彼は小さく笑い、チをひとつだけ打った。期限は、今夜だけ忘れてよい顔だった。



 終盤、踊り。

 塩皿の水面に白い線を描いて、道歌の穴模様を映す。

 短短長で波、短長短で輪、長長短で扇。

 人の列が笑線を踏み、水灯が脈を打ち、鼓拍と拍が交互に確認拍で合図を送り合う。

 夜の白は確かに踊った。香りは十呼吸ののちに戻り、名は旗に揺れた。


 ザハラが囁く。「喪の拍を守ってくれて、礼を言う」

「喪は詩の骨。骨は折らない」

 彼女は鼓を撫で、ツをひとつ。確認拍。

 サト婆さんは若耳の肩を叩き、笑印を押してやった。

「笑は疲れの薬だよ」



 片付けまでが手順。

 切の旗で一斉消灯、静で粉落とし、税は翌朝計算。

 橋印の便名は渡祭一〜三にまとめ、STTは祭版→常版へ差し戻し。CR-08〜11は採択。

 逸脱空白には、つぎのように並んだ。

 「風箱:湿で停止。名:ロフ」

「逆拍:基準拍塔で吸収。翻署:ザハラ」

「水灯:油量上限“指濡れ”適用。名:ハーシュ」

「笑線:人が溜まりやすい角→波を浅く。名:トーベン」


 ギータが御者台で帳面をぱんと閉じる。

「見出しは“笑いは手順、祭は設計”」

 ハンクは角の手触りを名残惜しそうに撫でた。「角、もう丸太だな」

 リースが剣の柄をコツン。「祭明け夜番、静と切の旗、二倍で回す」

 ノアは基準拍塔の足元で触接を外しながら言う。「水灯の脈、良かった」


 わたくしは手帳を閉じ、空気を胸に入れる。

 塩の匂い、香草、油、紙、木、そしてちいさな鈴。

 ——どれも、拍に合う匂いだ。


【辺境KPI / 第15話】


塩産出量:0.77 → 0.77(祭日運用で生産横ばい/事故ゼロ)


用水稼働率:51% → 51%(変化なし/基準拍塔の導入で搬出入の同調)


安全層指標:火入れCRC 抜け0/粉の息>30 対処100%/静遵守 98%/切(緊急停止)適用 2→適正復帰


住民満足度:+0.93(連結祭 参加 1,103/笑線通過 816/笑印 付与 742)


治安指数:68 → 70(風箱摘発 1→事情化/逆拍無力化 1/喪拍保護)


供給鎖指標:渡祭便 3/橋印 焼印完了 3/STT(祭版)遵守率 97%


財務指標:祭価・統一低段 適用店 100%/免旗(浮遊) 採用 32/寄付点 使用率 58%


文化指標(新):笑点 累計 742/基準拍塔 満足度 +0.88


次回予告:「冬支度は“蓄”の設計——塩と熱と名」。冷たい季節、塩は保存の筋肉、熱は時間の通貨。熱の道歌を作り、薪と湯を名で連結する。旧ギルドは“暖簾のれん売り”で攻める。角太の帳場で、受けて立つ。

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