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第2章――新たなる創世へ

ハルは固まった。

次の瞬間、瞳が喜びと信じられない気持ちで大きく見開かれ、現実感のない笑みが広がっていく。

「……よっしゃああああああ!!!」

拳を突き上げ、そのまま興奮で震えながら引き戻す。

レオニダスの両肩を掴み、すでに激しく揺さぶっていた。

「本気か、叔父さん!? 嘘じゃないよな!? これ、もし冗談だったら――」

「本気だ。」レオニダスは落ち着いた声で言い、ハルの勢いで飛んできた唾を顔をそらして避けた。

「……完全に本気だ、坊主。」

ハルは信じられなかった。

アークナイト――それは現実を守護する最精鋭の戦士たち。

マルチバース全体を揺るがす脅威や、世界を越えて侵入してくる存在から防衛するために選ばれた守護者。

それは特権であり、同時に命懸けの仕事。

彼らを選ぶのは「ウォッチャーズ」と呼ばれる古代で謎多き存在。

「ミブツァル・オブ・エイナイム」と呼ばれる次元から全マルチバースを観測し続けている。

ウォッチャーズは志願を受け付けない。

サインアップもできない。

選ばれなければならない。

自ら迎えに来られるか、誰かが推薦し、その上でウォッチャーズの承認を得る必要がある。

「……じゃあ、俺は承認されたってこと?」ハルは声を震わせながら尋ねた。

「ああ、ハル。」レオニダスは頷いた。「俺が推薦を出して、彼らが受け入れた。もちろん試験と評価は必要だが……やる気があるなら、アークナイトになれる。」

「断るわけないだろ!」ハルの目が輝く。「つまり俺、ほぼフルタイムの異世界主人公ってことじゃん! 何人の人間がそれを望んでると思う? 本物のマルチバースヒーローとして雇われて、悪党を倒して、無限の世界を旅して、果てしない可能性を見て、ありとあらゆる次元の美少女と出会えて――」

アズラエルは長〜く瞬きをし、完全に呆れたという視線を送った。

「……坊主、愛してるがな。」レオニダスが割り込む。「これは遊びじゃねぇ。確かに美女も、狂った世界も、楽しいこともある。嘘はつかない。でもこれは危険な仕事だ。命を落とすかもしれない。」

ハルは言葉を止めた。

「特に気を抜けばな。」レオニダスは続けた。「俺の判断だけなら、お前を地球に置いておいたかもしれない。でも……お前の両親がな、これを黙ってたら俺を殺してただろう。」

ハルは静かになる。

「……いいか、坊主。これは現実だ。危険も、重さもある。普通の人間が一生知ることのないものを見て、体験することになる。それでも本気でやりたいなら……俺は止めない。ただし俺に責任を持て。お前を生かして帰らせたい。それが分かるか?」

ハルは部屋を見回し、一枚の写真で視線を止めた。

幼い自分が両親に挟まれて笑っている写真。

母の温かな褐色の肌と優しさに包まれた小さな自分。

父は堂々と立ち、鋭い顎と誇らしげな笑み、そして穏やかな強さを湛えていた。

――父の自信も、その遺伝子も、いつか自分に宿ってほしい。

深く息を吸う。

「……これが夢だ。俺が想像できる唯一の未来。普通の人生なんて俺には似合わない。見えるんだ。魂で感じるんだ。わかってる。」

レオニダスは後頭部をかき、「よし……じゃあ荷物をまとめろ。すぐに出るぞ。」

ハルは力強く頷き、クリスマスの朝の子どものように階段を駆け上がった。

「……どうしたもんか。」レオニダスはため息をつく。「なぁ、アズラエル?」

「少年は若い。」猫は淡々と言った。「夢を抱き、欲し、青春の典型的な望みを持つ。だが彼は両親のように賢く、母のように予知の才があり、父のように信念を持っている。そして年齢の割に成熟している。適応するだろう。望みを叶えるかどうかは『始原』の御心次第だが、セイサクは常に彼と共にある。」

「……そうだな。」レオニダスは頷く。「でもな……お前も自分を抑えなきゃならん。前みたいに守ってやるわけにはいかねぇぞ?」

アズラエルの耳が動き、レオニダスは口を噤んだ。

「つまり……お前は強すぎる。お前が一緒じゃ、やつらはハルを昇格させない。常にお前が守れば、成長できねぇ。」

アズラエルは背筋を伸ばし、目を細めた。「私の責務は彼を守ることだ。」

「俺も同じだ。」レオニダスは柔らかく言う。「だがもし本気でこの道を進むなら……一人で飛ばせなきゃならん。少なくとも、時々はな。」

アズラエルはすぐには答えなかった。横を見て、再び視線を戻す。

「……よかろう。任務は一人で行かせよう。ただし危機を感じた時――本当の危機だ。勝てない相手に直面した時は、必ず介入する。お前にも止められん。」

「……それで十分だ。」

やがてハルが階段を駆け下りてきた。カバンは半分開きっぱなしで、中身はぐちゃぐちゃ。

明らかに落ち着いて詰められる精神状態ではない。

レオニダスが荷物をざっと確認する。

必要なものは全て揃っている。……いや、きっとずっと前から準備していたのだろう。

彼はハルとアズラエルを裏庭へ案内した。

空は澄み渡り、空気は静かだ。

「試験だ、坊主。」

「……試験?」

アズラエルが空を見上げ、目を細める。「見えるか、坊主?」

「……何を?」

「船だ。」

ハルは眉を上げ、叔父を見て笑った。眼鏡を外し、集中する。

最初は見えなかった。だが、感じた。遠くにある懐かしい記憶のような気配。

――そして輪郭がゆらりと現れる。

瞳が黄金色に光り、その中心へ向かうほど淡く、神秘的に輝く。

幽玄で、神聖で、まるで魂を覗き込むようだった。

「……当然見えるさ、叔父さん。」

レオニダスは笑う。「やっぱり特別な目だな。」

空には巨大な船が浮かんでいた。

銀白色の装甲に黄金の紋様が刻まれ、それは生きたルーンのように輝く。

形は刀のようで、先端は空間すら切り裂けそうな鋭さ。

滑らかで継ぎ目がなく、この世界には存在しない造形。

音はなく、ただ静かに――超人にしか聞こえない低い唸りだけがあった。

「『ピンサー』だ。」レオニダスは誇らしげに言う。「俺の愛機だ。最近手に入れたんだが……どうだ?」

ハルは言葉を失う。笑顔が全てを語っていた。

船が降下し、背面のパネルが開く。金属の階段が静かに庭へ伸びる。

レオニダスは振り返り、にやりと笑った。

「行くぞ、坊主……」

――運命へ。

――新たなる創世へ。



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