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ある病院内の風景

作者: けいご

 毎週、隣町まで歩いて行くのが楽しみだった。今日も健太郎は真夏の陽射しを受けて行きし30分掛けてその病院に行くのだった。季節は夏。気温35度超の日々が続く毎日だった。地球温暖化が言われて久しい。まだ8月だと言うのに夕方になると蜩が鳴き始めるという異常気象だった。

 グーグルマップのクチコミの評価を見て行き始めた心療内科。以前通院していたメンタルクリニックは主治医が患者の目を見て話さないので、嫌になってしまった。

 やっぱり、と健太郎は思った。グーグルマップの評価は伊達じゃない。だってこの隣町の心療内科の先生はしっかりと患者の目を見て話す。そこに健太郎は好感を持った。

 さて、と院内の椅子に腰掛けて今日の診察に備える健太郎。カウンターの向こうでは受付の女性二人が電話対応やら精算やらで忙しくしている。そういう時の健太郎はスマホの画面を見ながら聞き耳を立てている。

 「ほう、この客(患者)は○○円の精算か」

 「この客(患者)はマイナ保険証を使っているのか」

 はたまた、電話で事情を話したらしい患者が慌てて院内に駆け込んでくるときもある。

 「先ほど電話した○○という者ですが」

 それに受付の女性が受け答えする。

 「お待ちしておりました」

 院内にはどこか落ち着くジャズ風の音楽が控えめにかかっている。毎週同じ曜日に来ていると同じ顔ぶれを度々見ることになる。健太郎はすっかり同じ人だと認識しているが、あっちもこちらを同じように認識しているのかふと疑問に思ったりもした。

 診察時間は一人およそ10分くらいだろうか。しかし人によってはもっとかかってる時もあるように思う。そういう意味では少し院内に着いてから診察まで待たされるところがこの心療内科の短所といえば短所だった。しかしわがままは言ってられない。健太郎にとっては少しでも話を聞いてくれるだけで有り難かった。

 「○○さん、どうぞ~」

 自分の名前が呼ばれた。さて、と重い腰を浮かせて健太郎はこの一週間の近況を話すべく診察室に足を動かすのだった。ほとんど自分のことなど他人に話したりしない彼にとってこの診察の時間はとても貴重なものだった。

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