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日陰の者は闇と踊る  作者: 黒ノ時計
第一章 〜異世界召喚〜
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集団的神隠し事件

 授業終了のチャイムが鳴った後、僕と姫神は先生に呼び出されて授業に参加しなかった理由を職員室で聴取されることになった。姫神が最後の最後まで「虐められていた僕を介抱していた」という言い訳を貫いていたのだが……。


「どうせ、それを言い訳に授業をサボったのだろう。怒らないから、認めなさい。そうすれば、罰則として今日の授業で出た宿題に課題をプラスして許そう。それとも、日陰流は嘘を吐くのがお得意の流派なのか?」


 当然、先生も僕たちが日陰流の門下生であることは知っている。だからこそ、それを盾に僕たちの方に非があること認めさせようとしたのだろう。


 しかし、それは姫神にとっては逆効果だということを僕も含めて知ることになる。


「日陰流は、そんな流派ではないですよ。私たちはあくまでも、表面上は誠実を貫く。あなたの方こそ、虐めなんかを放っておいて授業をして、おまけに生徒の擁護もしないとは何事ですか?」


「いや、虐めなんてない。この学校に、そんなものがあるはずがない」


「では、彼が水浸しにされたのはどうしてですか?」


「彼が自分で、バケツの水を被ったのだろう? そうなんだろう?」


 もう面倒だったので頷こうとしたのだけど、姫神に手で静止された。それをやってはいけないと、彼女の力強くも凛々しい黒目が物語っていた。


「僕は、西城と遠藤にやられました。自分でなど、やりません」


「なっ、君は……!」


「先生、自分の立場を守るために他者に嘘を吐かせる方が最低だと思いませんか?」


 刃のように切れ味の鋭い姫神の言葉がとどめとなり、今回はお咎めなしということになった。ただ、今回の一件でも分かるように、教師陣の方でも僕という犯罪者に味方しないようにという触れが出回っているという事実が分かったと思う。


 帰りの廊下、ホームルームが始まる前の落ち着かなさを抑えられない学生たちの声が各教室から聞こえる中、僕たち二人の足音が調和をかき乱す。姫神は僕の足音に自分の音を重ねるように、ぴったりと隣にくっついて歩いていた。


「ありがとう。また、助けられた」


「どういたしまして。あのままだったら、奏多は自分が悪いって認めそうだったから」


「その方が楽かなって思ったんだよ。課題をすれば許してくれるならって」


「うーん……。これは忠告だけど、それは辞めた方がいいよ。自分が悪くてもいいなんて一度でも思ったら、きっと癖になる。何をされても、何も感じなくなっちゃうよ。そうしたら、奏多の言っていた大きな責任とか、大義名分を背負えなくなるよ。明確な意思を持てって言ってたんでしょ、師範も。なら、自分の意思を大事にしなきゃ」


「……」


 僕を擁護して、教えまで教授してくれたのはお爺ちゃん以外だと彼女が初めてだ。とても良い友人を持つことが出来て、幸せなのかもしれない。


「さっさと教室に戻って、今日も道場で稽古だよ。もちろん、相手してくれるよね?」


「……喜んで」


「よっし!」


 余程嬉しかったのか、大きくガッツポーズをして浮足立って前を歩いていく。僕も遅れないように、少しだけ足の回転を速めて。


 教室に戻ると、喧噪を生み出していた数々の口が塞がり僕たち二人へと刺々しい視線が向けられる。今まで別々の方向に音を飛ばし合っていたのに、どうしてこんな時だけ団結力が高いのか謎だったが、西城が僕と視線を合わせるや否や手を叩き始めた。


「帰れ! 帰れ! 帰れ!」


「「「帰れ! 帰れ! 帰れ!」」」


 まるで示し合わせていたかのように、帰れコールはあっという間に教室全体に蔓延した。クラスのカースト上位を占める陽キャラも、内気で普段は意見を同調させてばかりの陰キャラも、意見を主張しないような人たちまで揃ってのバッシングだった。


 姫神は堪えられなかったのか口を開きかけていたが、僕は肩を叩いてそれを制止した。これ以上、彼らに物を言っても無駄なことだし、そんなことよりも彼らの言うことに従っておいた方がいい。


 やはり、僕は世間に出ること自体が間違っていたのだとおかげで気づかされた。道場を続け、師範にお願いしてどこかに戦場でも用意してもらおう。


 そうすれば、少なくとも人殺しと批判されることはなくなる。せめて、敵兵を打倒した英雄くらいに呼ばれれば神様もきっとこの罪を許してくれるのではなかろうか。


 もはや荷物も必要ない、このまま家に帰ろう。


 そう思い踵を返し、彼女も僕の後について来ようとした。帰れコールがいよいよテンポを増していき、盛り上がりも最高潮になろうとしていたとき、異変に気が付いた。


「あ、あれ……。扉が、開かない?」


「そんなバカな。貸してみろ」


 姫神も同様に扉を開けようとしたが、何故か開かない。まるで、この空間そのものが固定されてしまったかのようにビクともしなかったのだ。


 姫神は扉に向かって美脚を利用した回し蹴りを食らわせるも、扉を破壊することはできなかった。


「何だ、これは……。この扉など、いつもなら破壊するくらい造作もないはず……」


「おい、何してんだ! さっさと出やがれ!」


「そうですよ! 犯罪者とその一味は、ここにいる資格なんてないですよ!」


「そうだ、そうだ!」


「私たちの学校生活を脅かさないで!」


「出て行けよ!」


 そうしたいのは山々だったが、どうしても出ることができない。なら、窓から出ることを試そうかと考えていたそのときだ。


 教室の床全体を覆うように丸い方陣と複雑な文字が描き出された。それらは白く、どんどん輝きを増していく。


「な、何だこりゃ!」


「嫌! 助けて!」


「誰か何とかしてくださいよ!」


「姫神!」


「奏多! 私から離れるな!」


 最後、僕は姫神に抱きしめられたのを最後に記憶が途切れた。


 そして、この集団的神隠し事件こそが僕たちの異世界生活の始まりになった事件でもあったのだ。

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