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日陰の者は闇と踊る  作者: 黒ノ時計
第二章 〜王城生活〜
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スキルの隠れギミック

 次の日、僕は早朝六時に目覚めると着替えて訓練場に向かった。訓練の内容はグラウンド五十周、腕立て、腹筋、背筋、剣の構えを確認するための素振り、それぞれを二百回ずつ、体を柔らかくするストレッチも忘れない。


 訓練のメニューは、昨日に百周走ったときの疲れ具合から逆算して、自分が一時間以内に消化できるものに留めた。元の身体能力が上昇したおかげか、前世と比較して体への負担も大きくかけられるようになったのは僥倖だった。


 これによって、自分を更に高めることができるのだから。


「ふう、これで一通り消化できたか。少し時間をオーバーしたけど、暫くはこのメニューで様子を見ようかな」


「お疲れ様です、カナタ様。こちら、タオルとお水をご用意いたしました」


「ありがとう、メアリー。でも、本当に良かったの? 僕に最後まで付き合う必要はなかったと思うけれど」


「いいえ、主君のお世話をするのがメイドの務めですから。モモカ様は自室でトレーニングなさっていますし、全て予めご用意しておりますのでご安心を」


「そうだよね。姫神の場合、持久力は元々あまりないから早朝ランニングをするよりも筋トレや瞑想をして集中力や気を高める方が訓練になるからね」


 姫神は一言で言えば、燃費が凄く悪いのが戦い方の特徴だ。一足一刀の間合いに入れば確実に相手を倒せる神速の太刀は、瞬発力はあれど持久戦にはあまり向かない。


 なので、短い時間で全力を発揮し尽くすトレーニングの方が彼女には合っているのだ。とはいえ、それでも常人とは鍛え方が違うため持久力がないの基準は僕やお爺ちゃん目線になるのを忘れてはならない。


 彼女から飲み物とフカフカのタオルを受け取り、一息吐かせてもらった。やっぱり、訓練後に飲む水は一気に潤いが喉に染み渡るので非常に心地が良くて癖になるな。


「それにしても、モモカ様も、カナタ様も凄いですね。こんな朝早くから各々自主トレーニングをなさるなんて。元居た世界でも、これが普通だったのですか?」


「まあ、そうだね。僕たちは日陰流っていう流派の門下生だったから、訓練をサボったら師範が黙ってないんだ。月一くらいで筋肉とか、身体能力のチェックをされるからすぐにバレるし」


「サボったら罰則などがあるのですか?」


「あるよ。一ヶ月くらい猛獣がうじゃうじゃ生息している森に放り込まれたり、無人島に流されたりとかね」


「うわ、えげつない……。それを良しとしているカナタ様も凄いですけど」


 若干引き気味に顔面へ青い線を走らせるが、誰だってこんなことを聞いたら「うわっ」ってなるよね。実際、僕も一度破ったときは本当に北極に放り出されることになるとは思わなかったし。


「まあ、罰則自体は怖いけれど、訓練をサボらないのは僕自身のためだよ。日々、ちゃんと鍛えていればいざとなった時に色々と便利でしょ。例えば、魔王討伐のために異世界に召喚されたときとか」


「それ、普通は絶対にないようなケースかと思いますけど」


「でも、呼ばれたでしょ?」


「確かに、その通りですね」


 互いに笑いながらその後も談笑を続け、もうすぐ朝食の時間になる頃には一度部屋に戻った。彼女も朝食を迎えるための支度を済ませるために一度別れたので、今は部屋に一人っきりだ。


「さて、ここからどうするかだよな」


 ベッドに自分の身を投げ入れ、天井と睨めっこをしながら一人呟く。考えているのは勿論、昨日に秀樹に殺されかけた事態についてだ。


 イリヤ……いや、イリヤさんが止めてくれなかったら僕はあの場で死んでいたかもしれなかった。イリヤさんには感謝しないといけないけれど、今考えるべきは自身の安全である。


 彼女が目を光らせている間は秀樹たちも表立って行動には移せないと思うが、もしかしたら今日にでも事故に見せかけて……なんていう事態になる可能性もある。一ヶ月を迎えればここを離れられるが、それまでは自分の身は自分で守らないといけない。


「それには、スキルを活用できるようになるのが絶対の条件になるはずだ」


 僕がスキルを持っているなら、他の人も少なからず三つ以上のスキルは有しているだろう。『解析鑑定』、『言語理解』、それから職業の適正に合わせた未知のスキルの数々だ。


 相手が有能なスキルを持っていたら……例えば、知らなければ即死させられるようなものだったら僕自身の身体能力だけで対処できるとは限らない。ならば、『解析鑑定』と『陰法術』を上手く使いこなして生き延びなければならない。


「『陰法術』」


 スキル名を呟くと、僕自身の陰が蠢き形を自在に変えてくれた。しかし、それ以上のことは今のところだと何もできない。


 そんなはずはないのだ。食事の席のときにナイフを拾ったのも、秀樹の攻撃から身を守ったのも陰の力なのだから。


「なら、どうして上手く扱えないんだ? 陰を変形するだけでは物足りない……?」


 僕は暫く考えて、今度は『解析鑑定』について色々と試してみることにした。


「まずは……。日陰奏多を『解析鑑定』」


名前:日陰奏多 年齢:17歳

レベル:1

攻撃力:63

防御力:48

素早さ:57

持久力:60

魔力 :126

スキル

『言語理解』、『解析鑑定』、『陰法術』

天職『陰術師』


「レベルは上がっていないのに基礎ステータスに変化がある……ということは?」


 やはり、ステータスに関しては自身の身体能力を参考にしているようだ。恐らく、昨日と今朝のトレーニングによって変化が生じたのだろう。


 では、対象をスキルにした場合はどうだろうか? ステータスプレートに書かれていること以上の情報は得られるのだろうか?


「次は、『解析鑑定』を『解析鑑定』」


『解析鑑定』:視界に入る対象の状態を看破することができる。また、直接手で触れて発動することによって、更に詳細な情報を得ることができる。


 どうやら、『解析鑑定』を用いるとより詳しいことを知ることができるらしい。つまり、このスキルはステータスプレートの上位互換に当たるというわけだ。


「にしても、詳細情報? どういうことだ?」


 僕は試しに、自分の体に触れながら『解析鑑定』を使ってみる。すると……。


「な、何だこれは……!?」


名前:日陰奏多 年齢:17歳

レベル:1

攻撃力:63

防御力:48

素早さ:57

持久力:60

魔力 :126

スキル

『言語理解』、『解析鑑定』、『陰法術』

天職『陰術師』

状態異常:非常に健康

パーティーメンバー:一人

プロフィール

 日陰奏多。この世界に呼ばれた勇者の一人にして、陰術師の天職を持つ者。生れは1999年の……幼少期は引っ込み思案で友達が少なく……その後父親殺しとなり……。


「待て! ストップ、ストップ!」


 僕が中断の命令を出すと、頭に流され続けた情報がシャットアウトされた。酷い頭痛だ、二日酔いの経験はないけれど、きっとこんな感じなのだろうってくらい頭がぐわんぐわんする。


「どうやら、その物体の歴史とかの詳細を知れるみたいだ。けれど、こんな膨大な情報量を処理することなんてできない……。出力をもっと調整できないのか?」


 試しに、自分に触れながら「生年月日」に限定して使ってみる。


 日陰奏多、1999年6月2日生まれ。


「……知りたい情報を絞れば、一応はコントロールも可能なのか。けれど、物の詳細を知るには直接の手の平で触れる必要があると。そういうことか」


 試しに、自分が寝ているベッドを手の平で触れながら鑑定してみると……。


 王室御用達のベッド

 状態異常:非常にフカフカ


「そりゃ、どうもありがとう」


 とまあ、こんな感じらしい。『解析鑑定』の使い方は、何となく理解できたので良しとしよう。


「お次はお待ちかねだ。スキル『陰法術』を『解析鑑定』」


陰法術:自身の陰の形を自在に操ることができる。また、魔力を媒介にすることで陰を増やしたり、実態を持たせることも可能となる。魔力が続く限り陰の実態を保てるため、本体から切り離しての運用も可能となる。


「魔力を媒介に……。つまり、魔力を操れるようになればいいのか。じゃあ、頼りっぱなしで悪いけれど、自分自身を手の平で触れながら……。僕の魔力を『解析鑑定』」


 すると、自分の胸の中心辺りで魔力が滞っているのが感覚的に分かった。ナイフを拾ったり、秀樹の攻撃を防いだ時は栓を外して炭酸を吹き出させたみたいな感じで、流れが滞っているから今は使えないということらしい。


「ということは、体内の気の流れを操作するのと同じような感覚だと思うから……」


 僕は集中して胸に滞った魔力を解すようなイメージをし続けると、両手の指先に流れていき、徐々に足先へと循環していく。


 今はまだ大まかだけれど、全身の血管を意識してその中を通すように魔力を流せば……。


「ん……。何かできるようになった気がする。日陰奏多のステータスを『解析鑑定』」


名前:日陰奏多 年齢:17歳

レベル:1

攻撃力:63

防御力:48

素早さ:57

持久力:60

魔力 :126

スキル

『言語理解』、『解析鑑定』、『陰法術』、『魔力操作』

天職『陰術師』

状態異常:非常に健康

パーティーメンバー:一人


「お、『魔力操作』が新しく追加されたか。というか、スキルには習得条件とかがあるんだよな。それも、もしかしたら……。日陰奏多の習得可能なスキルとその条件を『解析鑑定』」


 引き続き、僕は自身に触れながらそれを唱えると、ゲームのスクロールバーみたいなものが目の前に現れた。


取得可能なスキル一覧

『剣術』、『体術』、『縮地』……。


 ずっとスクロールすると延々と続きそうだったので途中で手を止めたけれど、どうやら簡単に習得できるものからほぼ習得不可能なものまであるようだ。例えば、今習得した『魔力操作』に加えて『剣術』と『縮地』は……。


『魔力操作』:魔力を自在に操れるようになること。

『剣術』:剣を一万回以上振るう。

『縮地』:百メートルを一秒以内に完走する。


 といった感じだ。『剣術』は割とすぐに習得できそうだけれど、『縮地』に関してはステータス次第では可能かもしれないが今の僕では絶対に不可能なので諦めておく。


 因みに、スキルを習得した状態とそうでない状態では明確な違いがあることも『解析鑑定』のスキルが教えてくれた。どうやら、『魔力操作』習得前ではかなり集中力を割かないと魔力操作ができないが、『魔力操作』を習得すれば繊細な魔力操作まであまり何も考えなくてもできるようになる。


 要は、ゲームで言うところのオートメーションシステムみたいなものだろう。戦いのときに無駄な集中力を使わなくて済むというなら、その方が都合が良いに決まっている。


「あと、試すべきは……。ステータスの隠蔽、改竄が可能なのかどうかだ」


 僕はその後もあれこれとやっていたのだけれど、途中でメアリーが「朝食の支度ができました」と呼びに来たのでキリの良いところで切り上げた。メアリーについて朝食の席に向かうため廊下に出たが、彼女は姫神の部屋には向かわずそのまま食堂へ行こうとしたので思わず引き留めた。


「姫神は? 呼ばなくていいのか?」


「モモカ様なら、先に朝食の席に行かれました。申し上げにくいのですが、その……。今は、一人にしてほしいとのことでして」


「……? そう、なんだ」


 昨日の訓練の後に何かあったのだろうか? 夕食の席の時までは元気だった気がするんだけれど……。


 いつも助けてくれるし力になりたいとは思うが、本人が一人になりたいならその限りじゃない。もう少し時間を置いてから、事情をじっくり聞いてみよう。


 こっちに来てからほぼずっと隣にいたはずの人がいないという空虚感をどこかに感じながら、メアリーを連れて食堂へと向かうのだった。

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