棺は2つ
その空港の空はにわかに曇ってきた。雲一つない青空とはなんだったのか。
カイン、並びに数多くの死神や死を司る現実に身を置かぬ者たちが、
かの死相そのもののような旅客機を遠巻きながら囲むように集まっている。高低差はある。
死神たちは飛行機のちょい上くらいの位置で円陣を組むように見守っている。
タラップ車が近づいてきて搭乗口によせて搭乗口が開く。
乗客たちは降りる客、入れ替わりに乗る客、経由地だからか戻ってくる客さまざまだが
その旅客機はその客の乗り降りの度に死相の色を濃くしていっていた。
ゲーデ1(以降ゲ1)「でかい棺桶だな~(バシッ)いってェ!」
ゲーデ2(以降ゲ2)「なんで叩いたカイン!」
カイン(以降カ)「なんとなくだよ。笑いながら言ってんなジジイ」
ゲーデ3(以降ゲ3)「カインのが年上だけどな(笑い」
?「そうイラ立つなカイン、どう思おうがやることは変わらん」
位置的にカイン、ゲ1、ゲ3、ゲ2、マカブル、他で、
カインの反対隣の黒い影の死神が諫めるように言った。
カ「あ、ああ、すいませんアズラル様。つい」
マカブル(以降マ)「お、お前敬語使えるんだな・・・」
この発言に一同笑う。笑いながらも周りへの警戒は緩んでないのはさすがである。
プリンシパリティ(以降プ)「まさかアズラエル様がいらっしゃるとは思いもよりませんでした」
アズラエル(以降ア)「私としては天使のお前がなぜ?と思ったが冥王よりカイン関係の話は
不問でよろしくと言われてるんでそういうことにしておくよ」
かつて黒い粒子の集合体のようなディブグというのがいたがそれとは違う感じで
黒い影でできた大男のような影の姿、死を司る天使の中でも異色の天使アズラエル。
黒い顔のまま微笑みながらプリンシパリティに言うと真顔になり周りに聞こえるように口を開く。
アズラエル(以降ア)「諸君、今回の異例の大仕事だが、無論今こうしているときにも
刻一刻と人は生まれては死を繰り返している。他に向かうものも同じように、
みな人の死をあるがままに終わらせるため在るものである。
鉄の船が黒い棺となる悲運だが我々はただ淡々と彼らの魂を天に還すことに終始すればいい。
間違っても我々の干渉あれば救えそう。とか考えないようにな」
最後の一文はカインを見ながら言っていた。みんなもカインに注目している。
カインはその視線を浴びながら目をつむっていたが深呼吸して
カ「もちろんです。抜かりなく気持ち揺らさず全うします」力強く言った。
ゲ3「どうだかな~?」
ゲーデ3のツッコミで場が和んだあたり、いつのまにか霧に包まれる空港。
囲まれるようにあった旅客機はいつのまにやら死神たちのはるか400メートルは先のほうの
滑走路に移動を開始していた。
マ「いよいよだな」
ゲ2「んー」
プ「カイン、本当に大丈夫?けがとかも治しちゃいけないぞ?」
カ「うっせーな!回復とかできね、あマ、マリアも使わねーよ!」
マリアとはカインの胸元に張り付くように収まっているパールのような光沢に
透き通っている質感をもつ宝石のような石である。その宝石の宿すエネルギーは
カインというもともとは悪魔であるために備わっている妖気ではなく
その対極の聖なる妖気(聖気)でもなく、人間の命そのものの霊気であるという。
カイン以外に取り扱うことができず幾度とカインとその周りに奇跡を起こしてきた宝石である。
ゲ1「わぷわぷ!物的干渉できねーから体が霧みたいになっちゃうよ!」
マ「気にするな。煙くもなかろう」
ゲ2「んー?」
他の死神1「発進位置なのかな?動かなくなりましたね?」
他の死神2「時間はあと1時間以上あります。飛んでから、かあ、まだ動く」
他の死神3「あそこは確かまだ端じゃないぞ。飛行機ってたまに止まったり動いたりするよな」
ゲ2「んー↓」
ア「どうした?さっきからゲーデ?」
ゲ2「いや今回の担当するみんなの回収数とあの飛行機のサイズじゃ
数合うのかな~?と思っちゃって」
カ「数?そういや500は超えてたんだっけ?
となると、んー確かにあのサイズに500も乗ってる気はしないな」
マ「というよりこれもう何も見えないぞ?人間はこの中でも見えているのか?」
ア「最近はハイテクノロジーっていうんじゃろ?人間はそういうの凄いよな~。
それにこの霧はあの山間部からだろう。山神の祝福のつもりなんだろうが
場所としてはたまらんなこれは」
他1「調べたんですがこの空港は開港30年経ってます」
ゲ1「ってことはこの霧もいつも通りって事?なんで今回こうな(事故)るんだろね?」
他1「んー言っておくか。実は先月、ここより南の方角にここよりは小さい空港があるんですが
なんでもテロ行為の予告が来たとかで封鎖されてしまってるんですよね」
近場の死神たちが一様に反応する。
カ「は?テロ?」
プ「まったく人間は・・・」
ゲ3「す・き・だ・ね~!殺し合いが!」
他2「自分はその予告犯の銃殺を担当しましたよ。2週間前かな?アパートに突撃されて
寝起きにそのままにしてろ!って言われたのに枕元の銃を握っちゃってさ。予定通りだったけど」
プ「・・・はぁ」
ア「ということはその空港の封鎖は解除されたってことか?」
他1「あ、いえ予告は今月末だったので警戒のため今月末まで封鎖とのことです」
他3「それでか、ここ最近のこの空港の飛行機の数!」
カ「ん?お前この辺?」
他3「え?ええ、我々(他1と2を指さし)はアズワン神から遣わされて
死の道を見守る死神です。名は賜っておりません生前の名を名乗らせていただいてます」
ア「ほほお元人間か!」
何気に新鮮なのかアズワンズ(他1,2,3)が元人間と聞いて周りの連中が若干遠めの
黒い死相の旅客機から目を彼らにそらした瞬間。
マ「・・・うぉ」
生真面目なのか最も飛行機の近くにいたマカブルは100メートルほど離れたあたりで
まだわちゃわちゃやってる連中に呆れながらもアズワンズの話題がでて
さすがに興味を持ったのか振り返った。その時の声。
マカブエルだけがその時気づいた。わちゃわちゃやってるその隣あたりの霧がもわっと
盛り上がり霧を突き抜けてきたそれは同型くらいの旅客機。
音はしていた。空港なので気にもしていなかったのかまじかに移動してきた
霧を抜けてきたその旅客機の姿を見た死神一同は
一同「・・・これか・・・」
棺と棺、距離にして400メートル・・・410・・・420・・・
マカブルが固まった100メートル先の最初の黒い棺はまだ進行中だった。どんどん離れていく。
そして霧から抜けてきたもう一つの、同じくらいの濃さをにじませた旅客機は
ゆっくりと、ゆっくりと微速で進んでいた。まるで最初の棺の後を追うように・・・。
遅くなりましたが続けます。
これはある実話に基づいたお話から作らせていただきました。