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第一章【6】

「すこし散らかっていますが、どうぞ」

 

 昼食を終え、白雪の部屋へと招かれる。

 白雪の部屋は大きめのベッドと書斎机、本棚。そして私物と思われる小物がいくつか散見されるくらいで、想像していたよりもずっと簡素なものだ。 

 意外なことに、白雪を含め、三人の少女たちの部屋は俺の部屋よりも狭い。

 というのも、三人はこの屋敷にいつもいるわけではなく、たまに泊まっていくときに部屋が必要になるくらいなので、空いていた客室があてがわれているだけだという。

 

 俺の部屋より狭いということを知った茉姫は、最初すごく文句を言っていたが、『この屋敷のホストはあくまでも蒼斗様であり、お嬢様たちはゲストなのです』と、至極全うな正論を柏木さんがしてくれたおかげで丸く収まったという経緯もある。

 立場上はペットなんだけど、この屋敷においては優位というなんだか混乱する話だが、これも三人が上流の常識を学ぶ機会なのだと柏木さんは言っていた。

 

 中学生でホストとかゲストとか、そこまで考えなきゃいけないなんて上流階級も大変なことがあるんだなと思いつつも、だったらもうちょい俺のこと敬ってもよくね? と思わされなくもないので、やっぱりメスガキはただのメスガキという結論に至った。

 だってこうして今も、メスガキの白雪の相手をさせられているんだから。

 

「白雪の部屋って入ったの初めてだっけ」

「そうですね、いつもはアオ君の部屋か、茉姫ちゃんの部屋ですから」

 

 茉姫の部屋か。

 大量のゲーム機とぬいぐるみばっかりでいつも散らかってるんだよな。

 それに比べて白雪の部屋はキレイなものだ。ちょっと物がなさすぎる気もするが。

 

「恥ずかしいから、あまりジロジロ見ないでください」

「あぁ、悪い。それにしても白雪ってあんまり物を置かないタイプなんだな」

「いえ、ここはそうでもないですが、実家の自室は物が多くて結構困ってるんですよ」

「へぇ、何か集めたりしてるのか?」

 

 思い返してみれば白雪の趣味は聞いたことなかった。

 見た目はかなり清楚系だし基本的には真面目だし、この部屋も本が多いから読書は好きそうだ。

 木陰で詩集とか読んでたら完璧にお嬢様だぞ。いや、お嬢様なんだけどさ。言いたいことはわかるでしょ。

 

「薄い本を少々、ですかね」

「薄い本?」

 

 妙な言い方をするんだな。

 本に薄いも厚いもあるのか? 小説と辞書的な話?

 

「まぁ、それはお気になさらず。それよりも今日はアオ君に相談したいことがあったんです」

 

 そう言って白雪は書斎机の引き出しを開け、原稿用紙の束を取り出した。

 それを俺に手渡してくる。結構な分厚さだ。

 

「これは?」

「お恥ずかしい話ですが、いま自作の小説に挑戦中なんです。それで、男の人の意見がどうしても欲しい部分がありまして……」

「なるほど、それで俺にってことか」

 

 確か白雪は部屋で話がしたいと言っていたが小説を読んでほしかったんだな。乃愛に付き合わされる運動に比べれば全然楽なもんだ。

 と、思っていた時期が俺にもありました。本日二回目。

 

「あのぉ……白雪さん」

「どうかしましたか?」

 

 ベッドに二人で腰掛け、白雪自作の小説を読む。

 白雪の距離がちょっと近いがそこまではいい。

 

「どうかしましたか? じゃない! 何だよこの小説は!?」

「普通のBL小説だと思いますが……何かおかしかったですか?」

「おかしいよ! おかしいところしかないよ!」

 

 なんで男と男がくんずほぐれつしてる小説を読まなきゃいけないんだよ!

 

『おまえのここ、もうこんなに熱くなってるぜ……』

『せんぱいの……せいですよ』

『ふっ可愛いやつめ、今日は寝かさないからな』

『あっ、せんぱい。すごいですっ』

 

「むーーーーーーーーーーりーーーーーーーーー!」

 

 ここってどこだよ! いや分かるけど! 分かるから余計嫌なんだよ!

 背筋に走る悪寒に耐えきれなくなり、俺はついに原稿用紙を放り投げた。

 

「あっ、もう! アオ君、ちゃんと読んでくれないと困ります!」

 

 ぷんぷんと怒りながら、ベッドに散らばる原稿用紙を集める白雪。

 これを最後まで読めと?

 

「メスガキどころか鬼ガキかよ……」

「この作品はですね、大学時代の先輩が卒業したあとのストーリーなんですけど」

「え、説明するの?」 

「先輩が卒業してサラリーマンになって離れ離れになってしまった時、後輩君は気がつくんです。あ、僕は先輩のことが好きだったんだって。で、先輩に会いに行くんですけど断られるのが怖くて告白できないんですよ。で、どうなると思います?」

「めっちゃどうでもいいです」

「そうなんです! 先輩が後輩君の気持ちに気づいてて強く抱きしめてくれるんですよ! お前のこと好きだぜ……って! きゃーきゃー!」

 

 白雪がとても楽しそうにはしゃぐ。

 自分で書いた小説だから内容知ってるはずなのに良くそんなにテンション上がるね。

 

「で、問題はここからなんですよ」

「いやぁ最初から大問題なんだけどね」

「先輩と後輩が初めて夜を明かすシーンなんですけど、どうしてもリアリティがでなくて……その、端的に言うと実際に見たことがないので……」

「そりゃそうだろうよ」

 

 男同士がまぐわってるシーンを見たことがあるほうがよっぽど問題だ。

 白雪は中学生だぞ。駄目に決まってるだろ。

 

「それで、俺にどうしろって言うんだよ。言っておくけど俺はノーマルだぞ」

 

 男に抱かれてこい、とか言われたらどうしよう。その時は地の果てまで逃げようか。

 

「はい、知ってますよ。柏木さんとか使用人をねっとりいやらしい目で見ていますよね。そういえばわたくしを見る目も時々……」

「ガチでやめて! そういう風評被害!」

 

 こちとら男子高校生だからさぁ、もうしょうがないんだよ。いわば本能なんだよ。

 柏木さんって性格はちょっとキツめだけど美人だしおっぱい大きいしいつも良い匂いするし、メイドさんたちも妙に可愛い子ばっかり揃えられてるし、見るなっていうほうがもはや不可能だし、むしろ見ないほうが失礼っていう説もあるよね。

 白雪にしても三人の中では一番大人っぽくて中学生にしては発育もいいし、ついつい観察しちゃうのも仕方ないっていうかなんていうかやばいなんか俺めっちゃ変態っぽい!

 思ったより風評被害じゃないかもしんない!

 

「くす、別にいいんですよ。アオ君も男の子なんですから」

 

 白雪は目を細めて微笑み、そっと手を重ねて体を寄せてくる。

 

「うっ、近い」

「わたくし、どうしても責め側の気持ちを知りたいんです。だから、アオ君にはぜひ受け側になっていただきたくて……」


「それってどういう」

 意味、と聞こうとした瞬間、白雪は俺をベッドに押し倒し、即座に馬乗りになる。

 白雪の長い黒髪が空中をきれいに流れ落ち、そっと俺の頬を撫でた。

 

「こういう意味ですよ」

 

 顔が近い。

 白百合のような甘い香りが鼻をくすぐる。

 白雪の細い指に掴まれた手首がひんやりと冷たかった。

 

「さぁ、アオ君。いっぱい可愛いトコロをみせてください。そしてわたくしだけのモノになってください……」

 

 白雪の透き通るように潤んだ瞳が近づいてくる。

 

「よっこらせっと」

「きゃっ!」

 

 白雪を力任せに押しのけ、悠々と起き上がる。

 中学生の、ましてや女の子の力で俺をどうこうできると思うなよ。

 

「むぅ~! そういうのずるいです!」

「ふっ、何でも思い通りに行くと思うなよ」

 

 人生には上手く行かないこともある。

 わがまま放題なメスガキどもには俺がしっかり教育してやるよ、なんてな。

 

「えいっ、です!」

「おほぉぉおん♪」

 

 思わぬ白雪の反撃に、俺は敢えなく喘いでしまう。

 くそ、今まで白雪がこの機能を使うことはなかったから油断してた。

 

「もう怒りましたよ。言うことを聞かないなら実力行使です」

「まて、落ち着け! 話し合えば分かる!」

「うふふ、分かりません」

「ぎゃぁああああ♪♪♪」

 

 その後、何十回と連続で『お仕置き』をされ、俺はメスガキにメスにされてしまった。

 というのはもちろん冗談だが、白雪は怒らせると一番怖い。

 そんな当たり前のことを身体に刻み込まれた時間だった。

 

「あぁ、とても素晴らしい経験でした。これなら良いシーンが書けそうです。アオ君、本当にありがとうございます」

 

 またお願いしますね。とすごく良い笑顔で言われたときには、二度と白雪に逆らうまいと心に決めた。

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