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第一章【3】

 これも全然慣れないんだよなぁ。

 居心地の悪さに思わず身をよじってしまう。

 

 彼女たちはこの屋敷にいる使用人たちだ。屋敷に遊びにくる茉姫たちの世話はもちろん、ここに住んでいる俺の世話なんかも全てやってくれている。

 そして、それを統括するのがメイド長である柏木さんなのだ。

 

 これはここに住むことが決まったあとに知ったことだが、茉姫たち三人組はこの屋敷に住んでいるわけではないようで、普段はそれぞれの実家の方で暮らしているということだった。

 柏木さんに「もしかしてひとつ屋根の下で女子中学生と暮らせるとでも思っていましたか?」と汚物を見るかのような真顔で言われたので全力で否定しておいた。

 でも実はちょっと思っていたのは墓場までもっていこう。

 

 ようするに、この屋敷は俺専用に用意されたもので、柏木さんはじめ、このメイドたちも俺のためだけにいるのだ。

 何だか超金持ちにでもなった気分になってしまうが、これはあくまで茉姫たちのペットだからということを忘れてはならない。

 

「三人は?」

 

 メイドの一人に尋ねる。

 

「はい、お嬢様たちは応接間でお待ちで「おっそおおおおおおおおおおおおおおおい!!」

 メイドの言葉途中にバーーン! と屋敷のぶ厚い扉が勢いよく開けられる。

 やれやれ、これだからメスガキは落ち着きがなくて困る。

 

「わよっ! 蒼斗!」

 

 そこにはあの日初めて会ったときと同じように、わがままツインテール少女、伊集院茉姫いじゅういん まひめが、どや顔で仁王立ちしていた。

 

「おかえりなさい、アオ君」

「おかえりアオ兄ぃ!」

 

 遅れて顔を出したのは、Sっ気が抑えきれない黒髪少女の九条白雪くじょう しらゆき

 ショートボブの無邪気元気やる気っ子、近衛乃愛このえ のあだ。

 

 ちなみにこの三人はみな親戚同士らしい。

 茉姫と乃愛がイトコで、白雪がハトコだったか。

 幼い頃からずっと一緒にいる姉妹みたいなものだと言っていた。

 未だに信じられないことだが、この中学生の金持ちのお嬢様たち三人が、俺の飼い主の少女たちなのだ。

 

 そして俺がこいつらのペットに成り下がった原因は、こいつらの親にある。

 元はと言えば俺を売った親父とお袋が最大の原因なのだがそれは今は置いておこう。

 

 どうやら茉姫の親たちが『上流階級の人間は下流階級の人間を誰よりも上手く扱えなければならない』とかいう馬鹿げた教育方針を掲げているらしく、中学生になった娘たちにペットをプレゼントするくらいの気軽さで一人のしがない男子高校生、天城蒼斗があてがわれたのだ。

 と、柏木さんから説明された。

 

 つまり、俺は金持ちの教育教材の一つに過ぎないということかもしれないが、対価として与えられた屋敷での暮らしはやばいレベルで快適だ。

 身の回りの世話はメイドが全てやってくれるし、飯は美味いし、最高の生活と言っても良いかも知れない。その点は良かったと思う。

 面倒な三人の相手をしなければいけないということを除けば、だが。

 

「ただいま、白雪、乃愛」

「って私だけ無視するな!」

「お前はおかえりの一言もなかっただろうが」

 

 人は挨拶に始まり、挨拶に終わるのだ。

 そんなことも知らないツインテールにかける言葉などあってたまるか。

 

「うるさいわね! ご主人さまに口答えするペットにはお仕置きよ!」

 

 茉姫はポケットから取り出したスマートフォン端末をポチポチ操作する。

 

「おま、それは反則っあひゃぁあん♪」

 

 俺の首に電流走る!

 そしておよそ男子高校生が出して良いものではないいやらしい喘ぎ声が漏れ出た。

 自分のことながらはっきりいって気持ち悪い。

 

「くぅ……今すぐ、今すぐに死にたい」

 

 俺は俺の喘ぎ声を聞かされるという最大の屈辱に膝をついて涙した。

 

 これはこの首輪に備え付けられた機能の一つ。首に微弱な電流を流すことで首の凝りを一瞬でをほぐすというスペシャルな機能なのだが……いかんせん気持ちよすぎた。

 その結果、喘ぎ声が絶対に我慢できないという恐ろしい機能になってしまったのだ。

 それを面白がった三人が遠隔操作で『お仕置き』と称して使ってくるのだからたちが悪い。

 

「はふぅ、アオ君とってもかわいいですぅ」

「ふん、今度から口の利き方に気をつけなさい」

 

 うっとりと身体をくねらせる白雪と得意げに笑う茉姫。

 くそ、このメスガキどもが。いつかお前らにこの首輪をつけてめちゃくちゃ辱めてやるからな。ウソみたいに肩こりが消えて無くなるからびっくりするぞ、マジで。

 

「ねーねーアオ兄ぃ、はやく遊ぼーよー」

 

 俺の喘ぎ声に一切興味を示さない乃愛に遊びを催促されたところで、はたと思い出す。

 

「そういえば、お前ら今日は学校じゃなかったのか? 俺の久しぶりの楽しい嬉しいハッピー学園生活が邪魔されたんだけど」

 

 しかもマン島TTレースばりに高速で走る柏木さんのバイクに乗せられて三途の川を疾走してきたんですけど。

 

「えっとねー、今日は面白くなさそうだから帰ってきちゃった」

 

 乃愛があっけらかんと笑う。

 

「いや、そんな理由で帰ってきたら駄目でしょ」

「わたくしたちの学校は生徒の自主性に重きをおいていますので、授業を受けるのも帰るのも自由なんですよ」

「いやいや、自由すぎでしょ。だってお前ら中学生じゃん」

「いいのよ。勉強なんて家でしてるんだから。マンツーマンの家庭教師のほうがずっと分かりやすいし効率的だわ」

「そういえば面白い先生の授業以外はあまり受けてませんね」

「乃愛は体育はちゃんと出るよ! あとはずっとお茶してるけど」

 

 うわー、金持ち発言キター、義務教育仕事しろ。

 

「だったら自分ちに帰ればよかっただろ。別に毎日のようにここに来る必要ないじゃん。せっかくお前らが学校にいくようになってくれたってのにさぁ」

 

 俺がこの屋敷に来てから一週間。

 三人は新しいおもちゃを手に入れた子供のようにはしゃぎ、俺は夜となく昼となくひたすら遊びに付き合わされ続けた。

 三人もいるものだから休む暇もなく、そのおかげで学校にすら行けなかったのだ。

 

 俺も最初は学校休めてラッキーなんて軽く考えていたのだが、朝起きて寝るまで誰かの相手をし続けるハードでブラックな労働環境にすっかり音を上げてしまった。

 柏木さんが三人をたしなめてくれなかったら今頃どうなっていたか。

 女子中学生たちと遊びまくって過労死とか不名誉すぎるだろ。


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