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エピローグ【1】メスガキと誓うチャペル

「あなたはここにいる者を健やかなる時も病める時も、富める時も貧しき時も、夫として愛し、敬い、慈しむ事を誓いマスカ?」

「もちろん誓うわ!」

「はい、誓います」

「乃愛も誓うよー!」

 

 外国人神父から促される誓いの言葉に、白いウェディングドレスを身にまとった茉姫、白雪、乃愛は元気よく答える。

 

「えー、オマエはどうだロリコン野郎、誓うか? イエス、オア、イエス?」

「ち、誓います……」

 

 俺の時だけ適当で投げやりな神父。

 っていうか今、ロリコン野郎って言わなかった? あと、イエスしか選択肢がないじゃねぇか。

 

「それでは新婦に指輪をはめてくださーい。ハメるっつってもそっちじゃねぇぞ、HAHAHA!」

「なんだこの下ネタ神父は!! 今すぐ退場させろ!!」

 

 周りのスタッフに抗議をするも続行の合図。

 

「くっそ! 分かったよ! やればいいんだろ、やれば!」

「こちらをどうぞ」

 

 シスター服に身を包んだ柏木さんが三人分の指輪を俺に差し出してくる。

 

「か、柏木さんまで……」

「エキストラ出演です」

「蒼斗、指輪はまだ?」

「待ち遠しいですー」

「そわそわ、そわそわ!」

「分かった、分かったって」

 

 三人からの早く早くコールが鳴り止まないので、仕方なく三人の左手を取り、薬指へと指輪をはめていく。

 

「わー!」

「素敵です!」

「きれーい」

 

 各々、指輪のはめられた手をかざしてはしゃいでいる。

 やっぱり指輪って女子は好きなものなんだろうか。

 男の俺には分からない心情だ。

 

「じゃあ次は……お待ちかねのキッスターーーーイムッ!」

「待ちかねてねぇ! そんな進行聞いてないけどぉ!?」

 

 なんか暴走してないかこのエセ神父! スタッフゥ! スタッフゥー!

 スタッフに懇願の視線を送るも目を伏せて首を振るばかり。

 

「あぁ、神父の彼。この会社の社長なんです。誰も逆らえません」

「社会の闇ッ!!!」

「それより、お嬢様たちがキス顔でお待ちですよ。待ちぼうけも可哀想なので早めにしてあげて下さい」

「っっ……!」

 

 目の前には茉姫、白雪、乃愛が目を瞑って並んでいた。

 長いまつげがふるりと震え、化粧をして明るく艷やかな唇が、重なるときを待ちわびている。

 

「蒼斗ぉ、早くぅ……」

「アオ君、お願いします……」

「アオ兄ぃ、ちゅー」

 

 えぇっと、誰からすれば……ってそうじゃなくて! 

 こんな大勢の前でキスするなんて無理に決まってるだろ!

 

「あ……うぅ……」

「はい、カーーーーーット! リハ、オッケーでーす! 一旦休憩入りまーす!」

 

 俺がまごまごしているうちに撮影スタッフからストップが入る。

 あれだけ静粛だったチャペルが一斉にガヤガヤと騒がしくなり、カメラマンや美術スタッフが慌ただしく駆け回りはじめた。



「はぁ……助かった」

 

 なぜ、俺たちがこんな結婚式ごっこをしているのかというと、静流さんがオーナーを務める結婚式場のプロモーション撮影に駆り出されたからだった。

 子供の頃に憧れていたウェディングを今。みたいなコンセプトらしく、茉姫たちが子役としてオファーを受けた……までは良いんだけど。

 

「なんで俺まで出ないといけないんだよっ!」

「あら、お相手が私たちではご不満かしら?」

「うふふ、アオ君のタキシード姿も素敵ですよ」

「アオ兄ぃかっこいいー!」

「褒められてもちっとも嬉しくねぇー!」

 

 最初は茉姫たちと年相応の男の子モデルを起用する予定だったらしいのに、茉姫たちが俺じゃなきゃ嫌だと駄々をこねた結果、こうして俺がタキシードを着て新郎役をやらされる羽目になってしまった。

 とはいえ、無人島バカンスの用意を色々してもらった手前、母親三人のお願いは断りづらいのも事実。

 あれ、もしかして、借りを作っちゃいけない相手に借りちゃいました?

 

「それにしても、あのままキスしてくれても良かったのに。蒼斗の意気地なし」

「わたくしはキスは本番まで大事にとっておきたいですね」

「でもでもチューしたら子供できちゃうんだよね! うーん、でもアオ兄ぃとなら良いや!」

 

 良くないっ! 良くないですよ乃愛さん! チューで子供はできないけれども!

 無人島バカンスから帰ってからというもの、三人のベッタリ具合が日に日に増してきている。

 気がする、ではなく確実に増している。

 以前までは、屋敷に個別に訪れることなんてなかったのに、時間があれば一人でも来るようになったし、むしろ、そういうときほど甘え方が過激になってきたのだ。

 確かに、罵られたり、お仕置きされたり、そういうことは減ってきているので『脱メスガキ』が達成されつつあるのを喜ぶべきなのかもしれない。

 

 まぁ、何かあれば柏木さんが何とかしてくれるか……。

 チラッっと柏木さんに目線を送ると、何も言っていないはずなのに無言の圧力と共に睨み返された。

 し、シスターにメンチ切られた……こわっ。

 

「おー、やってるやってる、やっほー」

「みなさん、撮影の調子はいかがですか?」

「ええなぁ、みんなドレス似合うとるやん。ウチもまた着たくなるなぁ」

「げっ、ややこしくなりそうなのが来た」

「ぬはは、アオ兄ぃさん、声に出てしまっとるで~」

 

 チャペルにやってきたのは母親三人衆。

 依頼主の静流さんはともかく、他の二人は何をしに来たのだろうか。

 どうせややこしくしていくだけだから、切実に帰ってほしい。

 まさか、無人島での出来事を知られていないよな……?

 

「ママ、どう? 大人っぽい?」

「うんうん、良い感じだよ~。そのまま結婚しちゃいなよ」

「そうなったら旦那連中は全員泣き崩れるやろな、めっちゃ楽しそうや、んふふ」

「お父さん泣いちゃうの? 可哀想」

「そんなもの、既成事実さえ作ってしまえば後はどうとでもなります」

「既成事実ですか? それはどんな風に……」

「それはですね、白雪……」

「娘になんてこと言い出すんだアンタらは!」

 

 特に静流さん! 白雪たちはまだ中学生なんだぞ! 俺だって高校生だぞ!

 

「とかいって、娘らにとんでもないことしてくれたのは、アオ兄ぃさんじゃないですかぁ」

 

 ニマニマと嫌らしい顔で肩を組んでくる燈花さん。

 絡み方がヤクザだこの人は。

 

「ななな、なんのことでしょうかねぇ……?」

 

 背中から汗がぶわっと吹き出す。

 ま、まさかね……?

 

「無人島であったことは一部始終見させていただきましたよ。当然ですけれど安全のために常にカメラで監視していましたから」

「なん……だって……!?」

 

 つまり、あの全裸で抱き合う大問題のシーンを、奈々穂さんたちにバッチリガッチリ見られてしまったということだ。

 間違いなくデータも保持されている。

 奈々穂さんたちに完全に弱みを握られてしまった事実に視界が揺らぐ。

 な、なんてこった。絶対に弱みを握られてはいけない人種に弱みを握られてしまった……。

 

「蒼斗くんは責任取ってくれるよね! 男として!」

 

 奈々穂さんにいい笑顔で肩を掴まれる。

 

「せ、戦略的撤退ぁあああああああああい!!」

 

 これ以上ここにいては状況が悪くなるばかり、ならば逃げるのみ!

 乃愛を背中に乗せ、茉姫と白雪の手を取って走り出す。

 

「ち、ちょっと蒼斗! どこいくのよ!」

「あ、もしかしてハネムーンですか?」

「アオ兄ぃとだったら乃愛どこでも行くよー!」

 

 急がば回れ、逃げるが勝ち! 

 でもどうすればいいか何も考えてないから、

 

「なんとかして柏木さぁん!」

「はぁ……仕方ありませんね。では奥様たちから身を隠せる場所をご用意いたします」

 

 いつの間にか隣を並走していた柏木さんが、一足先にチャペルを飛び出していく。

 足はやっ! でもやっぱり頼りになるぜ! 柏木さん大好き!

 

「アオ君、電話が鳴ってるみたいですけど」

「なんだってんだ! こんな時に!」

 

 スマホの画面には千砂から電話を知らせる表示。

 出たくなかったが今は一刻を争うのでさっさと通話ボタンを押す。

 

「蒼斗!! なんで結婚式場にいるの!? 誰と結婚したの!? まさかあの中学生の三人の誰か!? それとも美人メイド!? 応えてよ! あお……」

 

 ピッ。

 うん。何も聞かなかったことにしよう。

 

「逃げるぞ!」

「まったく、仕方ないわね」

「うふふ、愛の逃避行です~」

「いけいけー!」

 

 スタッフたちの驚いた顔を横目にチャペルを駆け抜ける。

 花嫁を三人も連れて、走っている姿はさぞ滑稽だろう。でもこれが俺の現状で現実だ。

 しかし、けして悪いものではなかった。

 

 そういえば、なんとなく首輪はまだ外していない。

 これはもう繋いでおくべきペットの証明ではなく。

 伊集院茉姫。

 九条白雪。

 近衛乃愛。

 このどうしようもなく生意気なメスガキたちとの繋がりを示す証で、俺がこの場所にいたいと思う証になったのだから。


~終わり~



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