第五章【10】
「という、一連の流れでございました、っと」
森に少し入ったところで俺は虎センパイの背中から降りる。
そして、喜びにすかさずガッツポーズ&ガッツポーズ。
「いよっっし!! 完璧ッ! むちゃくちゃカッコ良かったぞ俺ェ!!」
アクション映画ばりのアクションをバッチリ決めたのだから自画自賛も致し方ない。
だってかっこよかったもん。あのスライディングとか痺れるぅ~!
「あー、奈々穂さんたちに撮影もお願いしとけば良かったなぁ」
『若人。喜ぶのも良いがまだ気を抜くなよ』
虎センパイは優雅に腰を下ろして、自分の身体を丁寧にグルーミングしている。
先程の鬼気迫る気迫はどこへやら、すっかり休憩モードだ。
「あ、そうっすね。あいつらのところに戻ってからが本番ですもんね。センパイ、本当にありがとうございました。これ、お礼のマタタビです」
『うむ。我は最後の仕事をする故、若人は行くが良い』
受け取ったマタタビの枝を、さっそくガジガジしている虎センパイに見送られ、俺は茉姫たちのもとへと急ぐ。
俺を探しに森の中に入られては厄介だ。
「お、ちゃんとオロオロしてるな」
虎センパイの雄叫びが終わってから飛び出す予定なので、まずは茂みの影から三人の様子を窺う。
「大丈夫、アイツなら大丈夫だから。ね?」
どうやら、白雪と乃愛はシクシクと泣いているようで、それを茉姫が慰めているという図らしい。
茉姫は普段強気なだけに、こういうときは損な役回りだな。
可哀想だからあとでめちゃくちゃに泣かせてやろう。
『グォォオオオオオオオオオオオオアアアアオオオオオオ!!!』
突如、森に響き渡る雄叫び。驚いた鳥が一斉に空へと羽ばたいた。
これは虎センパイの断末魔。という設定。
俺が見事虎を仕留めた。という設定だ。
そんなこととはつゆ知らず、茉姫たちはハッと顔を上げて森の方を見やる。
「今のってあの虎の……?」
「ま、まさか、アオ兄ぃ……」
「そ、そんな! 嫌です!」
虎の雄叫びを聞き、嫌な予感が三人の中に渦巻いているようだ。
そして、三人が今にも森へと走り出しそうな緊迫感が最高潮に達した瞬間を見計らい、俺は茂みから飛び出した。
「いやぁ、悪い悪い。ちょっと手間取っちまったよ……ん? どうした?」
何食わぬ顔で、なんでもない風に茉姫たちに近づく。
「ハハ、何だお前ら、酷い顔してるぞ」
「アオ兄ぃ! おかえり! おかえり!」
「アオ君! おかえりなさいっ!」
乃愛と白雪が涙で顔をくしゃくしゃにしながら抱きついてくる。
乃愛たちをひとしきりあやしてやった後、こちらに寄ってくるでもなく、ただ近くで下を向いている茉姫に話しかけてやる。
「茉姫も悪かったな、心配させたか?」
「べ、別に! 心配なんて……」
「二人が飛び出さないように見ててくれたんだろ。ありがとうな」
そう言って茉姫の頭をぽんぽんと撫でてやる。
「……あ、蒼斗ぉ……ばかぁ……」
すると、茉姫はぽろぽろと涙を零しながら泣き始めてしまった。
「はは、バカは無いだろ」
「うん、ごめんなさぁい……良かったよぉ、蒼斗ぉ……」
勝っっっっっっっっっっっっっった!!! 完・全・勝・利!!!
メスガキどもを見事に全員泣かせてやったぞぉ、ふははははァ!!
この計画を立ててからこの瞬間が訪れるのをどれだけ夢見たことか!
いや、俺がこいつらのペットに、奴隷になった時からずっとだ。それが遂に叶ったのだ!
本当は今すぐにでもネタバレして小躍りしたいくらいだが、もうちょっと、あとちょっとだけで良いからこの気持ちいい状態を味わいたい。味わい尽くしたい。
柏木さんが来るまではまだ時間があることだし、あと少しだけサバイバルごっこを続けよう。
……今なら俺の中で密かに温めていた計画が実行できるかもしれない。