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プロローグ【3】

「ってまてまてまてまて! 俺はどうなる!?」

 

 手も足も縛られた状態でなにをどう休憩しろというのか。鬼かお前ら!

 

「はぁ? 知らないわよそんなこと。アンタがさっさと私たちのペットになれば終わる話でしょ」

「いやいや、散々断っただろ。もういい加減家に帰してくれよ。お前らがなんでこんなことしてるのか分からないけど、こんなことして普通許されないからな?」

 

 俺が誘拐されたと知れば親が警察に連絡するはずだ。そしてすぐにこの場所がバレて、こいつらは全員捕まるかも知れない。

 子供だからそれが分かってないんだろう多分。

 

「今すぐ解放してくれれば通報しないでやるから、な?」

 

 そうだ。俺は寛大な心を持ってこいつらのイタズラを許してやろう。

 若気の至り。中二病。

 なに不自由のない生活を送っているがゆえに自分の全能感を御しきれないその傲慢さを。

 

「ばっっっっっっかじゃないの! 私に説教するなんて百億年早いのよ、ざぁこ!」

「んだこのメスガキめ! もう絶対許してやらないからな! ばーかばーか!」

「なによ!!」

「なんだよ!!」

「蒼斗様」

「なんッ……え? なんで俺の名前知ってるの?」

 

 売り言葉に買い言葉。

 ヒートアップする俺と茉姫のやりとりに口を挟んできたのはメイドさんだった。

 しかも知っているはずのない俺の名前を呼ぶものだからビクッと反応してしまう。

 

「私どもが蒼斗様をお連れしたのは偶然ではありません」

「ってことは俺、狙われて連れ去られたってこと?」

「はい。結論から申しますと、蒼斗様は本日よりこの屋敷に住んでいただき、あわせてお嬢様たちの奴隷……いえ、ペット……んん、遊び相手になっていただきます。あぁ、申し遅れました、私、蒼斗様のお世話をさせていただきますメイド長の柏木彼方かしわぎ かなたと申します。以後お見知りおきを」

 

 今ぼかしたけど奴隷とかペットとか確実に酷いこと言ったよね。というか多分だけど人間として扱われない感じだよね。

 あと勝手に自己紹介してそれっぽくまとめようとしないでくれますかね?

 

「だから、それが嫌だって言ってるんだよ!」

「本当にそうですか?」

 

 思わせぶりな態度をとる柏木さん。何が言いたい。

 

「お金持ちの女の子三人に飼われて合法的にキャッキャウフフできるんですよ? 断る理由があるんですか?」

「あるよ! めちゃくちゃあるよ! それに喜んで同意したら、俺ただのロリコン変態野郎じゃん!」

「お嬢様たちは中学生ですので、蒼斗様との年齢差を考えてもロリコンではないかと」

 

え、あいつら中学生だったのか。大人っぽい白雪はともかく、茉姫と乃愛なんて小学生くらいにしか見えないが……。

 

「まぁ、キャッキャウフフという冗談はともかく」

「冗談かよ。まったく笑えねぇ」

「蒼斗様はご両親にお金で売られた結果、ここに連れてこられましたのでそもそも拒否権がありません」

「それは冗談って言って! マジで笑えないから!?」

「ぷーくすくす。親に売られる子供って憐れね。私はパパとママにすっごく愛されているから絶対にそんな事ありえないけど、でもコイツなら売られて当たり前かも」

「茉姫ちゃん、あまり酷いこと言っては駄目ですよ。ですが、わたくしこういったシチュエーションはとても萌えます、きゅんきゅんします」

「乃愛はお兄ちゃんができたら何でもいいや」

 

 三人がやいのやいの野次を飛ばしてくる。

 そこ、黙ってて今大事な話してるから!

 

「残念ですが本当です。こちら、現在の天城宅……蒼斗様のご自宅になります」

 

 柏木さんが差し出したタブレットPCには、複数の大型の重機にリアルタイムで破壊され蹂躙されている我が家が映し出されていた。

 見ず知らずの別の家だと思いたかったが、すっかり削り取られた屋根から見える部屋はどうみても今朝まで居た俺の自室で間違いない。

 

「お、俺の部屋が……」

「ちなみに蒼斗様のご両親ですが、一年ほどかけて世界百カ国ほどを回る世界一周旅行をされるんだそうです。もう今頃は空の上かと。おや、搭乗前のラウンジからの写真が送られてきていましたよ。どうぞ」

 

 連絡先でも交換していたのか、タブレットにはド派手なアロハシャツに身を包んだ両親が、今まで見たこと無いくらいの満面の笑みを浮かべて写っていた。

 しかも手にはシャンパングラス。高級そうなソファーに深々と腰掛けて実に楽しそうだ。

 

「親父ぃ……お袋ぉ……」

「跡地にはそのままタワーマンションを建設。帰国後はそちらに住んで余生を過ごされるそうで。まだ若いのに親孝行ができて良かったですね」

 

 にっこりと優しいメイドスマイルを浮かべる柏木さん。

 それが決め手となり、俺はガックリと肩を落とした。

 

 理不尽な目にあっても抵抗して頑張って帰ろうとしていた自宅は瓦礫となり、きっと助けてくれると思っていた両親には金で売り飛ばされた憐れな子羊。

 それが俺だった。

 

「さぁ茉姫様、白雪様、乃愛様。準備は整いましたのでこちらを蒼斗様に付けてください」

「え? いつの間に私たちのペットになったの?」

「たぶん心が折れたんだと思います」

「今のうちにやっちゃえ! ってことだね!」

 

「「「えいっ」」」

 

 ガチャリ。

 という音がしてハッと我にかえる。

 首にはヒヤリと冷たい感触があり、それが首輪のようなものだと理解するのに数秒を要した。

 

 俺は少女たちに首輪をはめられたのだ。

 

「ちょっ! お前ら! 何やってくれてんの!?」

「ふふーん、これは私たちのペットである証なのよ。光栄に思いなさい」

 

 ついに目的を成し遂げて得意げな茉姫。

 

「あぁ、首輪。すごく素敵です……」

 

 今までにないくらい恍惚とした表情で首輪をそっと撫でる白雪。

 

「わーい! 乃愛のお兄ちゃんだ! 遊ぼう!」

 

 俺に力いっぱい抱きついてぴょんぴょんと飛び跳ねている乃愛。

 

「おめでとうございます。心よりお慶び申し上げます」

 

 メイドらしくたっぷりとした丁寧なお辞儀をする柏木さん。

 

「あ、あああぁ……」

 

 帰ろうにももう家はなく、逃げようにも行く当てがなく。

 首輪を付けられ人としての尊厳までも失ってしまった俺、天城蒼斗。

 

「そういえば手と足のやつはもう外してもいいのよね。柏木」

「はい、かしこまりました」

「え~わたくしはもうちょっと見ていたかったです。あ、また付ければ良いんでした」

「乃愛もそれつけてみたいな~」

 

 俺をずっと縛り付けていた手枷と足枷が柏木さんによって外される。

 ようやく自由の身となったはずなのにおかしいな。前よりずっと不自由になってる気がする。

 

「は~お腹すいたわ。早くお茶にしましょ」

「男の子ってケーキ食べるのかしら。それともお肉とかの方がいいの?」

「お茶したら遊んでもらおうっと!」

 

 三人が俺を置いて部屋を出ていく。

 自由に動けるようになった俺がこのまま逃げ出すとは微塵も思っていないらしい。

 

 信用しているのか、それとも抜けているのか。

 どうやら俺には外すことの出来ない別の枷がかけられてしまったようだ。主に衣食住の致命的な欠如によって。

 

「ふ……そうだな。仕方ないからしばらく世話になってやるか」

 

 精一杯の強がりを吐き捨て、俺は三人のメスガキお嬢様たちのペットになった。

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