第三章【7】
「で、ゲーム内容はなんなのよ。まだ聞いてないわ」
「『運命の裁断』は早押しのクイズバトルです。正面の鏡を見てもらうと分かると思うんですが、ギロチンの刃には三本の縄がついていましてそれが全て切れると負け。なので相手より早くクイズに正解して、相手の縄を全て切ってしまえば勝ちということになります」
「なるほど。じゃあ答えを知ってても先に答えなかったら負けちゃうのね」
「ただし間違えてしまうと自分の縄が切られるので要注意ですよ。手元にボタンがあるのでクイズの正解が分かったら押してくださいね」
ゲームルールは分かった。でもどうにも心配なことがある。
「……なぁ、さっきみたいに急に変な邪魔が入ったりしないよな?」
強風とか鉄球とか。その類のやつ。
「はい、今回は大丈夫ですよ」
今回は、が引っかかるが、今無いならまぁ良いだろう。
「あと……ギロチンって本当に落ちてくるわけじゃないよな? 飾りだよな?」
「うふふ、どうでしょう?」
言葉を濁された。鈍色の刃を見ているとつい嫌な想像ばかりしてしまう。現状、嫌な予感がビンビンするが流石に死ぬことはないだろう。ないと思いたい。無いよね? ね?
ズズン。
俺の不安な思考をかき消したのは断頭台を揺らす振動だった。
「な……!?」
「なによこいつら!」
振動の正体はすぐに分かった。ズタ袋をかぶり大斧を携えた体長二メートルを超える筋骨隆々の大男が二人、俺と茉姫の断頭台の横に現れたのだ。
「………………」
鏡越しだが、はっきりとその存在を横に感じる。ブタのような牛のような荒い呼吸音が耳まで届き、その大男の不気味さをより一層際立たせた。
「わーおっきい人……ぉお?」
「乃愛ちゃん、しー。ですよ」
「お、おい。白雪。これ本当に大丈夫なゲームなんだよな」
「はい、大丈夫ですよ~。彼らは縄を切る係なので妨害はしてきませんから」
「さ、さっさと始めましょ! 要はクイズに勝てば良いのよ! そう! それだけなんだから!」
「そ、そそ、そのとおりだな! 茉姫、負けを認めるなら今のうちだぞ!」
「こ、こっちのセリフよ! ざこ蒼斗!」
茉姫め、さてはどちゃくそビビってるな。へへ、俺もだけどな!
周辺が暗くなり、俺と茉姫のところだけがスポットライトで照らされる。
いよいよクイズバトルの始まりだ。
『第一問』
機械音声のナレーションが流れる。
ぐっと耳に意識を集中させる。絶対に茉姫よりも早く答えて、年上の威厳というものを見せつけてやろう。
『最後の女王と呼ばれたクレオパトラ7世フィロパトルですが、クレオパトラとはギリシア語でどういう意味か答えなさい』
「父親の栄光!」
ピンポーン! という軽快な音と共に声を上げたのは、茉姫だった。
『正解です』
管楽器のファンファーレが鳴り響く。
「いぇーい! 楽勝!」
「ふざけんな! こんなの答えられるわけないだろ!」
「なぁに? おバカな蒼斗にはこの程度の教養もないのかしら、ざぁこざぁこ♪」
枷が付けられた状態の茉姫に煽られてもなんとも思わないが、流石に茉姫との知識勝負ではこちらの勝ち目が薄すぎる。
「なんとかしないと……いっ!?」
茉姫の正解を受け、動いたのは俺の隣に立つ大男だった。
ブホォと大きく息を吐き、重量感のある大斧を軽々と持ち上げる。それを叩きつけるように地面に向かって振り下ろした。
「ひぃっ!」
ドズン! という音と振動で身体が跳ね上がる。そしてギロチンの刃を支える縄が一本、千切れ飛んでいった。
「た、頼むからもっと子供向きの問題にしてくれ!」
「あはは、アオ兄ぃざこざこだ~」
「必死に負けまいとするアオ君も可愛いです」
なんとでも言え! こちとら自分の首がかかってるんじゃ!
「かしこまりました。蒼斗様にも答えるチャンスがほんの少しでもあるよう、キッズ向けの問題にしますね」
柏木さんマジ天使! 言い方はアレだけど!
『第二問』
「っしゃぁああ!! こおおおおおい!!」
無駄に気合いだけ入れて、恐怖心を少しでも打ち消す。俺は出来る子!
『落花生、ガチョウ、時計を載せたトラックが走っています。トラックが急カーブを曲がるときに落としたものは何でしょう?』
なんだこの青果物と生物と精密機器を一緒に運ぶ積載内容がとっちらかった意味不明なトラックは……。まぁいい「何かを落とした」という一点を考えてみよう。まずは軽いものが怪しいと見るべきだ。カーブの遠心力で吹き飛びやすいのは間違いない。この中で一番軽いのは落花生……と言いたいところだが、落花生を出荷する場合、キロごとに袋詰めされているのが普通と考えたら時計が一番軽いに違いない。なら時計か……? いや、あまりにも脈絡がなさすぎる。ガチョウは飛べるのだからむしろガチョウのほうがカーブの際に飛び出してしまうという可能性が高い気がする。まてまてまて! 今すごく大事なことを見落としてないか。もう一度、言葉をしっかり読み解いてみるんだ。落ちる、落とす、つまり……落下。らっか、らっかせい。つまり落花生が正解ということか! うおおお! 冴えてる! 冴えてるぞ俺!! ん、でも待てよ、そう考えるとガチョウは……そうか! ダウン、羽毛か! くっそぉ! ここにきて第二の可能性が出てきてしまうとは。天才すぎる自分が憎い。だとすると時計にも何か意味があるような気がしてくるから不思議だ。時計は英語でウォッチ。ウォッチる。ヲチる、落ちる。これもありよりのあり! ぬううう! これでは正解が絞り込めない。だが悩んでいる暇はない。茉姫に先に答えられてしまっては俺の天才的な発想も思考も何の意味もなさないのだ。総合的に一番正解率が高そうな答えは……。