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警備隊長からの告白

「すまなかった」


 ワイゲン警備隊長は、ノルンの部屋に姿を見せて。わざわざ私に謝罪をしにきた。叔母の言葉を信じ、嘘だと疑って掛かったことの謝罪のようだ。


 ブルズメイカー様の前で、嘘をつける人間はこの世に存在しない。

 女狐と娘の自供がワイゲン警備隊長の考えを改めさせる為には、随分と効果的だったようだ。

 彼は静かに頭を下げるので、私は言ってやった。


「本当に心から悪いと思っているならば、床に腰をおろして、頭を下げてくださらない?」

「わかった」


 王城に住まう男たちは素直でいい男ばかりだ。私の命令に従ったワイゲン警備隊長は床に腰をおろし深々と頭を下げたので、私は遠慮なく彼の背中に腰をおろした。


「な……」

「謝罪は受け入れますわ。その代わり、しばらく貴方を人間椅子として利用させて頂きますわね」

「色仕掛けはやめたのか」

「私、言ったはずですけれど。あなたが最後だと」

「これが貴様の、悪女としての振舞い方か」

「なにか問題でも?」

「問題しかない」


 恨んでいたはずではなかったのかと、下からくぐもった声が聞こえるので、私はキャロリエンヌを真似て鼻で笑い飛ばしてやった。彼が加害者ではないことくらい、自分が一番よく理解している。あの女狐と同じ血が通っただけの男だ。彼は口こそ悪いが、少なくとも暴力を振るような相手ではない。もしもの可能性を考慮して、こうして手足の自由を奪っているけれど。


「貴様は悪女としての立ち振舞に執着しているようだが。サディストなのか?」

「いいえ。私はどちらかといえばマゾヒストだったわ。喜んではいなかったけれど。虐げられる人生が当然だと思い、ずっと黙って耐えていた。私は、もう二度とあのときのような経験はしたくないの」

「被害を受けたくないから、加害する立場になるのか」

「そうよ」

「腕っぷしを強くすればいいだけの話だろう」

「頭の中が筋肉でできている殿方とは、冷静な話ができなくて困りますわ」

「品のない公爵令嬢とは話が合わないようで。平民として申し訳ない」

「あら。まるでご自身が、お上品な平民であると言いたいように聞こえますけれど」

「貴様よりは礼儀を重んじている」


 まぁ、自信満々ですこと。

 昔の私だったら傷ついて、公爵令嬢として不出来であると隅っこで俯いていた所だ。もう、俯いたりはしないけれど。


 最近、キャロリエンヌは姿を見せる機会が少なくなった。私が呼んでも、出てきたり出てこなかったり。ふらりと姿を見せても、すぐにいなくなってしまう。


 私はキャロリエンヌだったらどう返すかしらと考えるのが癖になりつつあった。

 それがいいのか悪いのかすら、私には判断がつかないけれど。


「婚約者がいる身で、男の背に腰を下ろすなど。はしたないと思わないのか」

「裸になるならいざ知れず。腰を下ろしただけで卑猥だと叫ばれては堪りませんわ」

「度が過ぎると叫ばれるぞ」

「私、相手は選んでおりますの」

「私は何も言わない相手だと思われているのか……」

「何も言わない、ではなく。私に好意を持っていないとわかっているから肌を触れ合わせられますのよ。これがイエロオークやブルズメイカー様でしたら、ご辞退申し上げますわ。襲われてしまいますもの」

「舐められたものだな」

「……っ!」


 ワイゲン警備隊長は背中に腰を下ろしていた私を無理矢理床に落とすべく、勢いよく上半身をピンと伸ばし、元の状態にもどそうとした。背中を丸めた状態で上に乗っていた私はバランスを崩して横から床に転がり落ちる寸前。彼の逞しい腕に抱き留められ床に押し倒される。


 いつもならばころころと美しい妖艶な声を響かせて楽しそうに笑うキャロリエンヌの声は聞こえない。

 ワイゲン警備隊長に押し倒された私は、今にも唇が触れ合えそうな至近距離でお互いを見つめ合い。目を細めた。


「私もその気になれば、いくらでも貴様に手を出せる」

「あら、嫌だ。欲情しておりますの?私の貧相な体に?」

「そうだ」

「ふふ。これはとんだ伏兵が現れたものですわ……」

「貴様が第二王子の婚約者でなければ、今頃唇を奪い私のものにしている」

「そうですの。それは安心致しましたわ。私、近々ノルンと婚姻しますの。どうぞ、その欲情は他の女性にお向けになって?」

「貴様に言われるまでもない」


 ワイゲン警備隊長は私のことが好きなのだろうか。それとも、好意を。抱いていなくても私を抱けると宣言したかったのかしら。きっと後者ね。ちっぽけな男のプライドをひけらかしたかっただけだわ。


「婚姻の義に呼ばないでくれ。貴様の美しい姿を直視したら、攫ってしまいそうだ」

「まぁ。私が恋の噂が耐えない恋多き女であったならば。今頃身体の関係を持って二股を掛けていた所だわ」

「貴様の場合は五股だろう」

「一人多く数えないでくださいませ」

「気づいていないならばいい」


 ブルズメイカー様は冗談で私を口説こうとしていたはずなので、そもそも数に入れるべきではなのだが……。3人の王子とワイゲン警備隊長で4人のはずだ。最後の一人は誰かしら。私が色仕掛けをしていないのに、恋に落ちた殿方がいるようだわ。


「類は友を呼ぶとはよく言いますけれど……。あなたとブルズメイカー様の仲が何故良さそうなのかは、よく理解できましたわ」

「口説き方が同じだから仲良くなったわけではない」

「ふふふ。自覚している時点でなんの弁解にもなっていませんわ。さぁ、そろそろノルンが帰って来ましてよ。大目玉を喰らいたくなければ、私の上から退いてくださらない?」


 私は余裕そうな態度を取ってはいるが、内心焦っていた。このまま襲われたらどうしようかと。最悪の場合は魔力を使ってあの日のように悪霊を取り憑かせればいいだけなのだけれど。

 私が一瞬上の空になったタイミングを見計らっていたのだろう。ワイゲン警備隊長は私の頬に唇を下ろすと、私の耳元で囁いた。


「今はこれで勘弁してやる。第二王子に飽きたら、私の元へ来い。貴様に誘われたならば、いつでも相手をしてやろう」

「私は貧相な身体を見せびらかす、悪女ですわよ」

「構わない」

「まぁ、それは──」

「──ヘユナン・ワイゲン警備隊長……っ!リアムから離れろ……!」


 ああ、うるさいのがやってきた。私が両耳を塞げば、ノルンはワイゲン警備隊長に怒鳴り散らしながら床に横たわる私を回収する。

 ワイゲン警備隊長は何事もなかったかのように白々しい態度を取ったまま、挨拶をして部屋から出ていった。

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