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復讐を終えた私は、愛する人と……

「グユン!一体どういうつもりなの!?」

「グユン兄さん!こんなのあんまりよ!あたし達これからカジノに行くつもりだったのに……!」

「カジノだと。一体どこにそんな金がある」

「私達には、爵位を買えるくらいの大金を持っているの!もっと増やさなければ!」

「これだけ元手があるんですもの!億万長者も夢ではないわ!」

「ある程度の身分がなければ。カジノなど……出入りできるはずがない……」

「公爵夫人の肩書は本当に便利ね!シンヘズイ公爵夫人を名乗れば、どんな場所でも出入りを許されるのだから!」


 私が怒りを押し殺し黙って聞いていれば……。女狐は自白剤を飲まされたのかと疑うほど饒舌に、カジノへ出入りしていると話し始めた。

 私は横目でブルズメイカー様を見る。彼が小さく嘘は言っていないと意味を込めて頷くので、女狐がドレスアップして向かっていた場所は社交場ではなく。カジノであるとわかる。


「なぜ、シンヘズイ公爵夫人を名乗るんだ。叔母上には関係ないだろう」

「関係しかないわ!私は正真正銘、シンヘズイ公爵夫人よ!この子も公爵令嬢なの!」

「シンヘズイには公爵令嬢がいたはずだ」

「ああ、あの娘?本当の母親みたいに接してくるのがうざったいから。満足な食事も与えず、自由を奪い。監禁して、衰弱死させてやろうと思ったのに……。とってもしぶとくてね。あと少しって所まで来るのに5年も掛かったわ。最後の最後に邪魔されて、殺せなかったけれど」

「ほんっと、あの女。マジむかつくわ!今にも死にそうな状態だったのに、婚約者の姿を見た途端。大声で騒ぎ出すんですもの!髪を引っ張って止めようとしたのに、窓から転落死したのよ。窓からの転落死じゃ自殺と認定されて保険金が降りないじゃない!衰弱死なら、闇医者に嘘の診断書を書かせて。病気をでっちあげられたのに!」


 よくもまぁ本人の前で自分の罪を告白できるなと思ってたのだが、どうやら彼女たちはカメリアム・シンヘズイが窓から落ちて転落死したと思っているらしい。私は今もこうして生きているのだけれど。


 シンヘズイ夫人として社交場に姿を見せていたなら、私が王城で暮らしているとすぐわかるはずだわ。カジノでプレイヤー同士が世間話に花を咲かせることなど滅多にない。この女たちは、カジノで一攫千金を夢見て。保険金を受け取るためにお父様を殺害したと言うの?


「シンヘズイ公爵は亡くなっている。カジノで遊び呆ける為の軍資金は、シンヘズイ公爵の保険金から賄ったのか」

「グユン兄さんったら。あたし達は遊び呆けているんじゃなくて、仕事をしているのよ!カジノってね、凄いの。1000円が1億円になるのよ!」

「いいから答えろ!」

「嫌だわ。私達が大金を手にしたのが羨ましいからって、怒鳴りつけることないじゃない。シンヘズイ公爵は、とっても素敵な殿方だったわ。優しくて、私達のような平民にも温情を掛けてくださった。まさかその温情に揚げ足取られて、死ぬことになるなんて思わなかったでしょうけどね!」


 醜い悪魔の笑い声が響けば、もう我慢できなかった。

 ニコニコと笑顔を浮かべていたブルズメイカー様でさえも。眉を顰める恐ろしい供述を聞いて、最初に行動を起こしたのは、意外な人物だ。


『あら、意外だわ。坊やが真っ先に怒り出すと思ったのに』


 キャロリエンヌが驚くのも無理はない。

 バキバキバキ、と。

 恐ろしい音を響かせて壁に穴を開けたのは、先程まで肩で息をしていたイエロオークだった。


「黙って、聞いていれば……!ふざけるな……!お前が、カメリアムの父上を……。私欲のために、殺害したのか……!!」

「仮面で顔を隠す卑怯者に責められた所で痛くも痒くもないけど?」

「それの何がいけないの?お金だって喜んでいるわ!シンヘズイ公爵の元で使うことなくしまっておくよりも、パーッと使った方がいいに決まっているでしょ!?私達は経済を回しているの!子どもには理解できないでしょうけれどね!」

「馬鹿にするな……!」

「イエロ、抑えて」

「しかし、ブルズメイカー様!」

「レッドとシンヘズイ公爵令嬢が黙っているんだから。関係ないお前が、我慢できずに手を出すべきではないよ」

「関係ないなど……っ!カメリアムは俺の恩人だ……!カメリアムが傷つき、辛い経験したのなら!俺だって……っ。黙ってはいられない……!」


 ブルズメイカー様とイエロオークが私の名前を出したことで、ノルンに抱かれている私が誰であるかを理解したらしい。女狐と娘は、腹を抱えて私を指差した。


「あはは!誰かと思ったら!馬子にも衣装ってこのことね!」

「死んだはずなのに生きているなんて思わなかったわ!まぁでも、これで今度こそ。貴方を病人に仕立て上げて、保険金をふんだくれるわね!さぁ、お義母様と帰りましょう!」


 誰がお母様だ。みすぼらしい女は目を爛々と輝かせて私が手を取るのは当然と言わんばかりの態度で手を伸ばす。

 その手に私が囚われないように。ノルンは強く私を抱きしめ一喝する。


「我が第二王子の婚約者であるリアムに、貴様のようなみすぼらしい存在が触れられると。本気で思っているのか!?」

「みすぼらしい!?無礼なのはどっちよ!あたしと母さんは公爵令嬢と公爵夫人!王子であるあんたと対等に会話できる身分よ!」

「シンヘズイの名を騙るな犯罪者め!貴様のような卑怯者が、リアムの家族を名乗る資格などない……!」

「兄上。絶対にカメリアムを離すな。彼女に何かあれば……俺が……」

「一人の女を争っている間に、死人が出そうだね」

「笑い事ではない。ブルズメイカー様の前で嘘偽りない自供をしたのだ。これ以上の対話は無駄かと」

「無駄かどうかはシンヘズイ公爵令嬢が決めることだ。なにか言いたいことはない?なければこのまま僕が処分を言い渡すけれど」

「ワイゲン警備隊長」

「なんだ」

「この女どもを拘束して」


 まさか私が彼に声を掛けるとは思っていなかったのだろう。彼は眉を顰めながら、私の告白が全て真実だと知った彼は無言で女狐共を拘束してくれる。


『リアム、代わりにやってあげましょうか?』


 キャロリエンヌが耳元で囁く声が聞こえるが、私は首を振った。

 もしも私に何かあれば、イエロオークやノルンがどうにかしてくれるだろう。


「離せ!離しなさい!」

「私は公爵夫人よ!」

「ノルン。何があっても、私の腰に手を回して。離さないでいて欲しいの」

「それは、構わぬが……。大丈夫なのか……?


 殺したいほど憎い女を前にして、正常な判断などできるわけがない。

 私はノルンに一言断って立ち上がると、ふたりの女を器用に片手で一人ずつ拘束しているワイゲイ警備隊長の前にノルンに背中から抱きしめられたままやってきた。


 私とノルンの間には身長差がある。

 私がこれから女狐達に行う復讐が、よく見えることだろう。


「──口を開けば、どうしようもないことばかり浮かんでは消えていくから。貴方達と同じように、暴力で訴えかけることにするわ」

『まぁ。素敵な方法を思いついたのね』


 キャロリエンヌは私の憎悪に共鳴するようにやってきた黒い影達に命令した。私よりももっと美味しい餌があると。私の身体を乗っ取ろうと集まってきていた悪意の塊達は、ワイゲン警備隊長に拘束された女狐共の元へと纏わり付き──みるみるうちに彼女たちは黒い影に覆われていく。


「ぎゃあ!?」

「な、なに!?なんなの!?」

「聞こえるでしょう。死者の声が。醜い憎悪の感情は、貴方達と相性がいいのよ。性根が腐った貴方達のような人間は、死に至れば。この世に未練を残して成仏できずに彷徨う怨霊となって、永遠の時を生きるのよ」

「いやああ!」

「やめっ。やめてぇ!」

「貴方達は私がやめてと言って、素直に暴力を振るうのをやめてくれた?」

「ぐあ……っ!」


 私は黒い靄に覆われて表情が読み取れない女狐の腹部にピンヒールを押し付けると、勢いよく足で踏みつけた。

 痛くて苦しくて辛い目にあっても。

 助けてとどんなに叫んでも。この女は私を加害し続けた。消して許されることではないだろう。

 だから。全く同じ苦しみを味合わわせることはできないかもしれないけれど。もう二度と誰かを加害する気にはなれないほど、憔悴して。死にたいと思っても死ねない苦しみを味わって貰わなければ。


「苦しくてつらくて、助けてくださいと懇願しても。誰も助けてくれなかったわ。私は貴方たちのお陰で闇の魔力に目覚めたの。とても光栄なことだわ。だから、私の魔力を目覚めさせてくれたお礼に、貴方達にもたくさんの悪霊を取り憑かせて、死にたいと思っても死ねない地獄を味あわせてあげる」

「いやぁ!いやあぁ!」

「辛いでしょう?苦しいでしょう。死者の怨念を聞くのは、とっても辛いことなのよ。貴方たちも、生涯を掛けてその辛さを体感するといいわ。あなた達が反省したその時は、ノルンに悪霊達を払って貰いましょう。私の体を狙う悪霊たちは、光の魔力を持つノルンにしか浄化できないの」

「たすけ!助けてください!」

「悪かった!謝るから!だから!」

「──私は貴方達に父を奪われ、5年間自由を奪われた!その場しのぎの命乞いで考えを改めるほど、安くはないわ!」


 一生を掛けて償えと。女狐から足を離して娘の方へ狙いを定める。助け出される直前に髪を引っ張られた恨みがあるので、私も同じように髪を力いっぱい引っ張ってから足蹴にしてやった。


 少しやりすぎたかしら。


 目視できるだけでも数十匹の悪霊に取り憑かれた女狐とその娘からノルンと共に距離を取れば、ブルズメイカー様は笑顔で手を叩く。どうやら即興の復讐劇はお気に召したようだ。


『素敵よ、リアム。流石は悪女の名を受け継ぎし私の後継者。素晴らしい復讐劇だったわ!』

「か弱い蕾の公爵令嬢が、可憐に花開く姿は、とても美しいね。レッドが丁寧に世話をしてあげたからこそ、美しい花を咲かせたんだ。枯れないように気をつけて」

「無論だ。リアムは我が伴侶として、永遠に美しい花を咲かせ続けるのだからな」

「その花が悪の華ではないことを祈っているよ。さあ、後のことは大人に任せて。子どもは帰る時間だ」


 犯罪の自供を第一王子と警備隊長の前でしたのだ。私が悪霊を取り憑かせて一生苦しめと呪いを掛けた所で、このまま無罪放免とはいかないだろう。


 私は19歳、ノルンは20歳。イエロオークは16歳だ。子どもと呼べる年ではないのだが、ブルズメイカー様は22歳。ワイゲン警備隊長の年齢は知らないが、ブルズメイカー様の右腕とも呼べるような顔をしている辺り、歳は近いのだろう。


「リアム。もう戻ろう。このような者たちと同じ空気を吸っているだけでも、不愉快だろう」

「顔色が、悪い……。早く部屋で休んだ方が……」

「……そう、ね。後の処遇は、ブルズメイカー様にお任せしますわ……」


 私はノルンに抱き上げられ、イエロオークと共に部屋を後にした。

 女狐はワイゲン警備隊長の身内だ。ブルズメイカー様がどのような処遇を言い渡すのかはわからないけれど。

 悪びれもなく犯罪を自供したのを目撃しているのだから、適切な処遇を下して欲しいものだ。


「私の事情に……王家を巻き込んでしまったわ……」

「リアムは我の婚約者。王家の人間になる身だ。あの者たちは王家に喧嘩を売ったのだから、兄者が適切な処置を下すだろう」

「……ブルズメイカー様は、しっかりとした方だ……。そう、心配することはない……」


 イエロオークもあまりブルズメイカー様と関わりがないと言っていたが、太鼓判を押している。私は小さく頷き、目を閉じた。


『これからは。なんの憂いもなく。リアムは穏やかに暮らせそうね……。よかった。本当に……。これでもう、わたくしの役目は……』


 意識が薄れる寸前、キャロリエンヌの優しい声が聞こえた。

 わたくしの役目は?一体何を言っているのだろう。

 このままずっと、私を見守っていてくれるのではないの?


「イエロオーク。我はリアムを愛している。リアム……我の伴侶として……迎え入れることを、許してくれるか」

「……カメリアムは、兄上のものだ……。横から攫おうなどとは、最初から思っていない……。だが……。彼女が兄上を想って泣くようなことがあれば。その時は……。俺も、黙ってはいない……」

「当然だ。そのようなことになれば、遠慮なくリアムを気に掛けよ。我は負けるつもりもなければ、リアムを悲しませるようなことは二度としないと決めているが──人生、何があるかなど。わかったものではないからな」


 ノルンとイエロオークの穏やかに言い争う声が聞こえる。

 私はその物騒な内容と、キャロリエンヌが消えるかもしれない恐怖に怯えながら。ノルンの腕の中で意識を手放した。

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