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さあ、悔い改めなさい

 自らの過ちに、早く気づいてくれたらいいのだけれど。


「またやられに来たのかよ!お前も懲りねーな!」

「第三王子のくせに、仮面で顔隠して社交場に顔出すとか恥ずかしくねーのかよ!」

「人間以下の存在が社交場に顔出すな!大人しく引きこもってろ!」


 もっとこうしてほしかった、助けてほしかったと。心の奥底で機嫌が良さそうなノルンに願っているなど知りもしない彼は、聞こえてきた声に眉を潜める。貴族たちが多数集まっているからだろう。私がはじめてイエロオークの姿を確認したときよりはひかえめではあるが、公爵令息を筆頭に合計3人の少年たちが蹲るイエロオークを囲んでいた。


「ノルン、」

「駄目だ、リアム」

「どうして止めるんですの!私は言ったはずです。彼を助けたいと。私のお願いを聞いてくださる代わりに、私はあなたが命じるがままに身体を磨き上げ。好みではないドレスを身に纏いましたわ。ノルンは私に言いましたわね。手の届かないところに行くのは許さない、と。ならば着いていらっしゃい。私と添い遂げたいのならば、私から離れることは許しませんわ!」


 これではどちらが王族なのかわかったものではない。実際、貴族の仲では王族になんて口の聞き方をするのかと眉をひそめるものや、王女などいただろうかと首を傾げるものまで現れ始めている。騒ぎになると面倒なことになると思ったのだろう。ノルンは私をエスコートする体制を取ると、不満そうに口を噛み締めてイエロオークの元へ歩き出した。


「ぅ……」

「またこいつ、律儀に仮面なんてつけて顔を隠してやがるぜ!」

「仮面で顔を隠せば、堂々と高貴なる人間の集まりに顔出せるんだもんな!そりゃ仮面くらいつけるだろ!」

「今日もその仮面を破壊して、醜い顔を露出してやるよ!」

「俺……は……」

「なんだよ?聞こえねーぞ!」

「俺は……第三王子、だ……」

「はは!なんだよ今更。オークの王子なんざ、お前しかいねーだろ!」


 私がノルンと顔を見合わせ、止めに入ろうとした時のことだ。私の言葉に心えお揺れ動かす何かを感じたのか、イエロオークは私が口を出す必要もなく一人でクソガキ共に立ち向かっていく。

「お前達よりも、ずっと……俺の方が、偉い……。俺は、いつでも……。その気になれば。お前たちを……殺害できる……」

「は?何いってんだよ。トチ狂ったのか!?」

「オークが力強いなんてことは誰だって知ってる常識だろ!?ばかにすんじゃねーよ!」

「今まで俺は、良かれと思い……温情を、掛けてやっていたが──もう、温情を掛けるのは……。黙って、耐えるのも。やめよう」


 イエロオークは呆気に取られる少年たちの横を通り立ち上がると、テーブルの上に置かれていたワインボトルを手に取って土の上に叩きつけた。ガシャンと音がしてワインボトルの中身と破片が土の上に転がっていく。そこでやっと会場にいる人々は、イエロオークがついに行動に起こしたと認識する。


「俺は第三王子、イエロオーク・ゴーノーツだ。公爵令息風情が。俺を加害するなど。許されるべきことではない。このワインボトルのように……。頭をかち割られたいなら、止めはしない……。今まで通り、俺を加害し続ければいい……」

「ひぃ!」

「な、なんだよ!お前が第三王子だってことはみんな知っている!それでもお前を助けなかったのは、お前がオークだからだろ!?」

「そ、そうだ!第三王子なんてお飾りの肩書だ!お前を加害しても、誰も何止めなかった!」

「俺たちは悪くない……!」


 クソガキ達はピーチクパーチクと騒ぎ立てる。あるものは青白い顔で、またあるものは真っ赤な顔で。

 どんな理由があったとしても、何も言われないことをいいことに第三王子を加害し続けたクソガキ達の負けだ。


「まぁ、自分の行いを認めず責任逃れをするなど……。公爵令息の風上にも置けない方ですこと」

「お前……!」

「我の婚約者をお前、だと?なんと口の聞き方がなっていない公爵令息なのだ。教養がなければ当然、善悪の区別もつかぬだろうな」

「第二王子ノルドレッド様……。まさか、本当に!?婚約者だったのかよ……!」

「酷いですわ。私、ノルンの婚約者を騙る女狐と勘違いされていたみたいですの……」

「なんだと?我の婚約者はカメリアム・シンへズイただ一人である!我の婚約者が生涯、変わることなどない!リアム以外の娘が我の婚約者と名乗るならば、我の前へ姿をみせよ!直々に引導を渡してくれる!」


 ノルンはちゃっかり私が婚約者であることを宣言すると、腕に絡みついた私の腰を抱き寄せた。この場でノルンの腕にしがみつくことや、婚約者であると大々的に宣言されることは避けたかったが……。私達が何者であるかをクソガキ共に知らしめる為には、とても重要な儀式だ。


『第二王子の婚約者であるのに、男を誑かす悪女として有名になるための基礎でもあるわ。こうしてリア厶が第二王子の婚約者であるとはっきり宣言し、周知することにより……。リアムは王城で知らぬものはいない存在となるのよ。いいことだわ』


 声を上げた当人であるイエロオークは、仮面をつけたままなのでどんな顔色をしているかがよくわからない。ただ、仮面に開いた2つの穴から見えるイエロオークの瞳は、いつものしょんぼりとした表情ではなく。私達を微笑ましそうに見つめているような気がする。


 ほのぼのとしている場合ではないのよ。


 イエロオークは、私達の関係が険悪であったことを知っている。彼はノルンと話し合い心を通わせたのだと勘違いしているのだ。私達は話し合ってなどいなければ、仲のいいふりをしているだけなのだけれど。


「第三王子に対する暴行、暴言に加え。第二王子を怒らせた……。まさか、このまま無罪放免などとは思っていないですわよね?」

「な、なんでだよ!?お前は関係ねーだろ!?」

「しゃしゃり出てくんなよ!俺たちが化け物退治してやってたんだ!今まで何も言わなかったくせに!見て見ぬふりしてたのになんで今更っ。俺たちが怒られなきゃいけねーんだよ!」

「今まで散々第三王子の向かって悪行の限りを尽くしてきたのですから、報いを受けるのは当然のことですわ。イエロオークがそれを望まないのでしたら、無罪放免もあり得るかとは思いますけれど……」

「なあ!お前だって虐げられることみ喜びを感じていたよな!?」

「そうだ!ずっと抵抗しなかったくせに!今更気が変わったとかなんとかでちゃぶ台ひっくり返される俺たちの身になれよ!」


 クソガキ共は今まで黙ってじっと被害を受けていたイエロオークが悪いとこの期に及んでもまだ責任逃れをしようとしている。その姿が醜く、私はどうしようかと思った。彼らの必死な様子にイエロオークの気が変わったらと思うと、穏やかではいられない。


「……社会的な制裁を受けるよりも、俺に加害される道を選ぶのか……」

「なんでだよ!お前が俺たちを許せばいいだけの話だろ!?」

「シンヘズイ嬢のお陰でよく理解できた。……俺は……、許してはいけない人間を許し続けていたんだな……」


 私が眉を顰めながら、ノルンと共にクソガキ共を見下していたからだろう。目線を落として力なく肩を落としたイエロオークは、ついにクソガキ共へ究極の二択を叩きつけた。


「お前たちが選び取る選択肢は2つに一つだ。オークとして、手加減なしの一撃で死に至るか……。素直に俺へ許しを請い、社会的な制裁を受けることを選ぶ。それ以外の選択肢など、お前たちには存在しない……」

「いやだ!なんでそんなの選ばきゃなんねーんだよ……!」

「た、大変申し訳ございません……!」

「親父!?」


 イエロオークが冷たく選択を迫れば、ランクが呼んできたらしい加害者の両親達がバタバタと駆けつけて土下座を始めた。綺麗に3人、大の大人が雁首揃えて土下座を披露したのだ。その姿は圧巻の一言に尽きる。


「ど、どうか命だけはお許しくださいイエロオーク様……!息子には言って聞かせますので!」

「どうか!どうか!お願い致します……!」


 貴重な跡取り息子の首をはねられては堪らないと、大人たちはイエロオークに懇願した。つい先程までイエロオークを痛めつける息子たちを見て見ぬふりして止めなかった大人たちが、声を上げた途端に謝罪してくる姿を目の当たりにしたのだ。イエロオークにも思うことがあるらしく、一歩後ろに下がって絶句していた。


「お前たちは、庇護されるべき人間だったのか……。お前たちのようなものに恐れ慄いた俺が、馬鹿だった……」


 所詮は人の子。絶対に反撃されないとわかっていたからこそ。イエロオークを加害しただけで、自分たちが加害される側に回るのならプライドなどかなぐり捨てて許しを請う。所詮加害する側の人間など、この程度の人間なのだ。群れなければまともに意見さえも言えない奴ら。ひれ伏す価値もない。


「イエロオーク。どうするのだ。被害者はお前なのだから、処遇はお前が決めると良い」

「……二度と俺の前に顔を見せるな……。兄上や、シンヘズイ嬢に逆恨みすることも許さない……。それさえ守れば、生きるも死ぬも好きにしてくれ……」

「あ、ありがたき幸せ!」

「イエロオーク様バンザイ!」

「なんでだよ親父!?なんで化け物王子なんかに頭を下げて命乞いなんてしてんだよ!?」

「黙っていろ!イエロオーク様の温情に感謝するべき場面だぞ!?死にたいのか!」


 クソガキ共はピーチクパーチク喚いていたけれど、父親に怒鳴られ、時には暴力を振るわれると泣きべそをかきながら静かになった。


 ざわついていた社交場もしーんと静まり返っている。逆上したクソガキ共がイエロオークの仮面に手を伸ばすようなことがなくてよかった。そのお陰で、貴族たちがパニックに陥ることはなさそうだ。


「一体何事ですか!?」


 クソガキ共がそれぞれの家族に引き取られてその場をあとにすれば、送れてキャロリエンヌの色仕掛け攻撃にまんまと引っかかって顔を赤らめていた近衛隊団長がやってきた。キャロリエンヌはくすくすと笑いながら舌舐めずりをしている。よほどこの男がお気に入りらしい。


「ワイゲイ団長。事情は俺から説明しよう……。兄上、シンヘズイ公爵令嬢。君たちの勇気に感謝する……。お二人は、このあとの社交も楽しんでくれ……」


 ワイゲイ?


 イエロオークが呼んだ名前を、私はどこかで聞いたようなことがある気がして。違和感を感じながら、ノルンと共に近衛隊隊長を伴いその場をあとにしたイエロオークの後ろ姿を見送った。


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