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第三王子を誑かし、

「身体が緑色だから、なんだと言うんですの?肌を露出しなければ、普通の人間と何ら変わりはないですわ。オークのお母様と我が国の国王と交わって生まれたあなたは、完全なるオークではないのですから。自分がオークだからと。必要以上に卑下する必要はありませんのよ」

「……これは……。手を握っているのが、シンヘズイ嬢だからで……。他の奴らならば、こうはいかない……」

「私だから、ですの?まるで愛の告白みたいですわね」

「な……っ。君は、兄上の婚約者だ……。横恋慕など……。勝算のない想いを抱く資格は、俺に存在しない……」

「ほら。またそうして自分を卑下する!悪い癖ですわ。今すぐに直すのは難しいかもしれませんけれど。必要以上に自身を卑下する必要はありませんの。これからゆっくりと改善していきましょうね」

「……兄上が羨ましいな……」


 私のような素晴らしい婚約者がいるなんて、と。イエロオークはノルンを羨ましがっていた。当の本人は私を都合のいい抱きまくら扱いしかしてこないし、最近私が婚約者で良かったと感じているかどうかはすら怪しいというのに。


 この場は私のようなできた女と婚約できるように頑張れと勇気づけるべきかしら。それとも、私を諦める必要はないのよと色仕掛けするべきか。

 ランクがいなければ後者の態度を取っても二人だけの秘密にできたけれど。ランクは私がイエロオークに粉をかけたと知れば、律儀にノルンへ報告するだろう。そうなれば私は部屋に閉じ込められて、二度とノルンの私室から出れなくなってしまう危険性がある。


 私とイエロオークが近くに並び立っているだけでも、浮気を疑って私を抱きまくらとして利用するくらいですもの。ノルンよりもイエロオークがよかったなどと誘うものなら、何が起こるかは想像に難くない。


「あら。イエロオークだって、望めばなんでも手に入りますわよ。あなただってこの国の王子ですもの。今こうして全てを投げ売り、諦めていることの方が異常ですのよ」

「いや……。俺には資格が……」

「二度目ですわ。資格がないと勝手に思い込んでいるだけですの。あなたが理解できるまで、何度だっていいますわ。イエロオークはこの国の第三王子。あなたより権力を持つ強い存在は、国王と王妃。二人のお兄様だけでしてよ」


 家族と一括りにするべきなのだろうが、流石に一括りにできなかった。オークとの混血であるイエロオークは、王城の敷地内で暮らすことは許されているけれど、王城で家族と暮らすことは許されていないからだ。手を重ね合わせた状態で彼の気持ちが揺らげば、私の命に関わる。


 せっかくイエロオークが心の扉を少しだけ開き、私と触れ合うことを許してくださったのに……。私の些細な言動で全てを無に帰すわけには行きませんもの。イエロオークが家族についてどう思っているかは、もっと仲良くなってから聞くことにしよう。


「父上と兄上には……逆立ちしたって勝てないが……。その他の人間より、俺は……強い、のか……」

「ええ。そうですわ。黙って虐げられる必要はありませんの。抵抗しても何ら問題はないんですのよ。悪いのは第三王子に手を上げたクソガキ共。イエロオークは、無礼だと声を荒らげても咎められることなどありませんわ。大声で怒鳴った所で、命に関わることはないでしょう?」

「鼓膜が……破れてしまう可能性は……ゼロではないはずだ」

「パーセンテージで表すならば、それほど高い確率ではなくてよ?手を出せば、殺めてしまうかもしれないから、行動できないと諦めるくらいならば。鼓膜を破るくらいの気持ちで騒げばいいだけですわ」


 命は取り戻せないが、治癒魔法を使えば鼓膜を元通り再生させるのは不可能ではないだろう。人間を加害して取り返しの付かないことになったたどうすればいいのかと怯える少年のアドバイスとは到底思えぬ発言をした私は、すっかりキャロリエンヌのとんでも理論──悪女理論が板に付きつつあった。


「それはどうかと思うが……」

「これではいつまで経っても行動できませんわ!いいですの?こうした出来事は思い切りが大事ですの!やると言ったらやる!やらないと決めたらやらない!イエロオークは、生涯虐げられたまま生き続けたいと本気で考えておりますの!?」

「い、嫌だ……」


 イエロオークは諦めていた。どうせ口にした所で、誰もイエロオークを第三王子であると認めてくれない。怒りに任せて暴力に徹しようものなら、人を殺めてしまう。本当は第三王子として、みんなからそこにいるこを許されるようになりたいと願う気持ちから目を背けてきたのだ。


 自分の殻に閉じこもっていたイエロオークは、私と手を取り合うことによって。未来へ向けて歩き出そうとしていた。


「俺も……普通の、暮らしがしてみたい……。誰にも虐げられることのない、穏やかな暮らしを……」

「そうと決まれば!あのクソガキと決別しますわよ!公爵令息とその取り巻きは、茶会や夜会で顔を合わせますの?」

「そう、だな……公の場には、大抵いる……」

「でしたら、イエロオークの出席する茶会や夜会には、私にも声を掛けてくださいませ。第二王子の婚約者として出席しますわ!」

「兄上は社交嫌いで有名だ……シンヘズイ嬢が公の場に姿が見せないことも、兄上と同じく社交が得意ではない、と……」

「確かに、私はあの女狐とその娘に虐げられてからは人間が恐ろしくて堪りませんでしたわ。公の場に顔を出せるほどの見た目はしていませんでした。そもそも6年前までは、ノルンとも顔を合わせることができなかったんですの。社交などできるはずがありませんわ。ノルンは私が公の場に姿を見せていない時でも、公の場に姿を表して女性に囲まれていたのではないんですの?」

「……そのようなことは……」


 どうやら私の認識とは相違があるらしい。イエロオークはどんなに虐げられようが、加害されようがよほどのことがない限りは公の場に出ているらしい。それが第三王子として生きることを許している国王への恩返しだと信じているから。


 私はてっきりノルンが婚約者不在のまま第二王子として公の場に出席し、女性をとっかえひっかえしているとばかり思っていたのだけれど……イエロオークによると、特別なことがない限り公の場にノルンは出てきていなかったらしい。多くて年に2回。ノルンが公の場に出てくることは殆どないので、令嬢達が色めき立つことはあっても、ノルンは適当にあしらっていたようだ。


 でも。あの女は。私に言ったわ。ノルドレッド様に話しかけてもらった。抱きしめて貰ったと。頻繁に。


 私が事実を知る機会などないとバカにして。嘘をついていたとでも言うのかしら。私を傷つける為だけに、嘘を……。


「……シンヘズイ嬢……、顔色が……」

「……いえ。きっと気の所為ですわ。私は元気いっぱいですの。次あのクソガキが現れそうな公の場はいつかしら。私、ノルンを引き摺ってでも参加致しますわ!」

「……来月、王族に近いものが親睦を深める茶会が開催されるが……。兄上はシンヘズイ嬢の出席を許さないだろう……」

「どうしてですの?」

「……兄上は、君のことをとても大切に思っている」

「……私を大切に思っているならば、私が嫌だと言っているのに。私室から一歩も出さないように抱きしめてくるようなこと、するわけがありませんわ」

「大切だからこそ、不安なのだろう……。シンヘズイ嬢は、とても魅力的な女性だ……。兄上はきっと、自分の見えない所で。自分以外の男と会話するのが許せないんだ……」


 私は男心がよくわからない。

 イエロオークの言葉を真に受けるならば、女狐とその娘に監禁されていた私はノルンにとって都合がいい状況だったように聞こえるけれど。


 ノルンが、自分以外の男と関わりを持たないように私室へ閉じ込めようとしているならば。やはりノルンは敵だ。私の自由を奪う敵。敵に大事だと。お前のためを思ってなど言われたって、素直に受け止められるはずもない。


「私を魅力的と称するのは、イエロオークだけですわ」

「……兄上は、口にしないのか……」

「私とノルンは、婚約者としての関係が破綻しておりますの。私の両親が生きている頃は……思いを通じあわせて……最も信頼しあえる者同士だと自負しておりましたわ。けれど、今となっては……。私はもう、ノルンを信じることはできそうにありませんの。ノルンが私をどう思っているのかすらも、よくわかりませんわ」

「……それは……よく、話し合った方がいい。俺と話すよりも……最優先で……」

「いいえ。今はイエロオークと交流を深めることが最優先ですわ!」

「──リアム!どこだ!リアム!!」


 噂をすればなんとやら。

 イエロオークから手を離して窓の外を見れば、ノルンが私の名を叫びながら怒鳴っている声が聞こえる。その表情までは距離があって窺い知ることはできないけれど、まるで人攫いに攫われた子どもを探すようにも聞こえる必死な声を上げて私を探すノルンは、王城内の人にとって迷惑でしかないだろう。


『愛されているわね?』


 イエロオークと手を重ね合わせている間は、姿を見せていなかったキャロリエンヌが私の耳元でくすくすと笑う声を聞きながら。私はランクに退室を促され、見張り塔から外へ出ることになった。


「シンヘズイ公爵令嬢」

「リアムでいいと言いましたわ」

「……兄上が言っていた……。その名で呼んでいいのは、兄上だけだと……」

「ノルンが勝手にそう言っているだけですわ」

「愛称で呼ぶべきではない。兄上が可哀想だ……」

「私はイエロオークの味方ですの。にイエロオークは私よりもノルンの味方をするんですのね。あんまりですわ。ノルンはイエロオークを救うわけでもなく、見てみぬふりをしていますのに。手を差し伸べた私よりも扱いがいいなど、納得が行きません」

「……兄上は、俺の家族だ。兄上はそう思ってはいないかもしれないが……。仲違いするようなことは避けたい。だから……。もう、ここへは……」

「嫌ですわ」


 イエロオークは私がこうして見張り塔に顔を出すのを嫌がっていた。初対面の際にノルンが浮気を疑い、大騒ぎしていたことを気にしているのだろう。

 確かに険悪な雰囲気になり、現在は私が一方的に無視をしている形になっている。


「シンヘズイ公爵令嬢。これは、兄上と君の関係がこれ以上悪化しない為にも、必要なことなんだ」

「イエロオークと私がこうして会うことに、ノルンとの関係性が壊れるかどうかは関係ありませんわ。イエロオークは私が嫌いですの?」

「……嫌いなど……。ありえない。その逆だ。俺は……好ましいと思っている……」

「その言葉を待っていましたわ。また、ノルンの目を盗んで顔を出しますわね!」


 イエロオークは私とノルンの関係性が壊れるのを危惧しているようだが、私が言い逃げすれば、それ以上背中へ声を掛けてくることはなかった。


 私とランクは揃って見張り塔の急な階段を降り、外へ出た。

 ノインの叫び声はどんどんと近づいてくる。私はランクと共に、その方向へゆっくりと歩み始めた。


 ノルンは、浮気を疑えるような立場なのだろうか。私と彼は婚約者している。両親が生きていた時からずっと。私の意思に関係なく破棄されていた場合を除いてだが。


 家柄と本人の意志を考慮し、総合的に判断した結果大人が決めた婚約。

 婚約した当初は婚姻するならばノルンがいいと理想の王子様像を押し付けて舞い上がっていたけれど。彼は白馬に乗った王子様のように、助けてはくれなかった。


 彼は王子様だけれど、私はお姫様ではない。


 お姫様ではないから王子様の愛される資格はないし、ノルンだって抱きまくらとして私を扱うことはあっても好きだ愛していると耳元で囁くことはない。私と彼が愛し合い、ともに歩もうと決めたのは6年以上も前のことだ。


『リアムの行動を制限する男は捨てる。生存戦略の一環ね。坊やの醜い言い分が見物だわ』


 ノルンと必ず結婚しなければならない訳では無い。私は自由なのだ。誰にも縛られることなく生きていく。

 けれど、もし。もしも、ノルンが昔のように私へ愛を囁き、慈しみ。尊重してくれるのならば、その時は──

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