The Decisive Battle: The Top of the School編 ⑧
ローとタケちゃんが準備室で担任と話す場面、第1章とつなげてみました。ローの賢さとタケちゃんの優しさがでたらいいと思ったんですが…何かわけわかんなくなりました。物語をつくることキャラクターをつくることは難しいですね。
ロー2
理科準備室までの廊下を4人で歩く。プラが「アンラッキの脅迫が一番、質が悪い」とか「あの2番手の3年生あたりだったら、アンラッキ一人でボコボコにしていたはずだ」とか言わなくてもいいことを言って、アンラッキに膝蹴りや手刀を入れられながら歩いている。
それにタケちゃんが笑いながら同意したり突っ込んだりして前を歩いている姿を見て、僕はなんだか今までにない期待感を持ちつつあった。この1年は特別な1年になるのかもしれない…。
理科準備室のドアをノックする。
「安達先生、広尾です」
アディが中から返事をする。
「開いてるよ。入りなさい」
4人でぞろぞろ、教室の半分弱ほどの大きさしかない準備室に入ろうとすると、アディが止めた。
「あっ、ごめん。4人揃って来たのか。じゃあ、広尾だけ残れ。あと3人は椅子持って出てって、廊下で待ってなさい」
タケちゃんとアンラッキがブーブー言って、プラはジトッとした目でアディを見ながら外に出て行った。
「広尾…ロー、まずは学級委員引き受けてくれてありがとな」
「いえ…。大丈夫です。できるだけ頑張ります」
「うん、それで屋上の決闘はどうなった?」
「ええっ、知ってたんですか?」
唖然としてアディを見る。アディがニヤリと笑って言う。
「3時間目の休み時間にプラから聞いてたよ」
「よく放っておきましたね」
「いや、心配してたよ。ただ、プラが『やばくなりそうだったら、ローがすぐ職員室に行くんで待機しててください』っていうからな」
僕が口を開けたままアディを見ていると、申し訳なさそうに続ける。
「悪かった。でも大丈夫だったんだろう。『自分たちで解決できなかったら、お願いする。たぶん暴力沙汰にはならない。』ってプラが請け合うからさ。…大丈夫じゃなかったの?」
少し考える。プラは京田先輩が少しやられるくらいは想定内だったはずだ。だとしたら、ここはとぼけておこう。
「大丈夫でした。プラが何かうまく言いくるめて、タケちゃんが負けたことにするかわり、今後3年生はタケちゃんに関わらない…ってことに収まりました」
「おおっ、さすが天才プラだなあ。思った以上にうまくやってくれたな」
「僕はタケちゃんが『自分の負け』ってことにするのを簡単に納得したのが意外でしたが」
アディがうんうんと頷く。
「そこに着眼するところがローの鋭いとこだ。タケは見かけよりずっと思慮深い人間なんだな」
「それにしても、プラは先生に報告していたんですね」
「アンラッキがついてくることになって、責任感じてたみたいだな。どうしても怪我はさせられないと言ってた」
「アンラッキ…安楽城さんがなぜついてきたのか、今でもよく分からないというか、…謎の行動が多い人ですね」
僕が首を傾げると、アディは僕を見つめてニヤリと笑った。
「でも可愛いだろ?」
「それには同意しますが…いえ、別にどうでもいいことですけどね」
「心配だったみたいだぞ」
ドキッとした。アンラッキが僕を心配して…?
アディは笑いながら、話題を変える。
「まあ、いいや。これから1年間、うまくクラスの舵取りをしてくれ。頼むぞ」
「それは先生の仕事では…」
僕が呆れて言うと、アディはしれっと答える。
「俺はそうやってお前を育てるんだ。感謝は今年度の終わりでいいぞ」
「…」
「お前はたいがい正しい。そして効率的だ。だけどな、ロー。間違ったことや非効率的なこと、それから…あんまり教師の立場から言いにくいが、悪いことの中にも大切なことってあるもんだぞ。お前はこの1年でそれをいやというほど、学ぶであろう」
「予言ですか…」
「フフフフ、期待だよ。自分から一歩踏み出すことを恐れるな。間違ってもいいから、ワクワクすることを選択しろ」
「先生…、よくわからないです」
「タケやアンラッキのような非効率的、非生産的な人間が何を喜ぶか、幸せと思うか、それも指針だな。タケが前のめりになったらドキドキ、アンラッキがやる気になったらウキウキだよ」
アディは若干タケちゃんやアンラッキの悪口を絡めながら、わかりにくく説明してくれる。
「難しいですね」
「迷ったら、自分の胸の鼓動を聞け。そしてプラに話をしてみろ。プラが言ったことの中から、お前がワクワクできることを学級の方針や作戦や陰謀にしていけばいいさ」
「陰謀…」
よくわからないまま、僕はあいさつをして準備室を出た。
タケ2
ローが出てきて言った。
「次、タケちゃんだってさ」
「あいよ」
こんなふうに呼び出されるときはたいがいお説教だけど、まだ屋上のことは知られてないはずだろうし、さて、何を言われるのかね。するといきなりアディが言う。
「決闘は勝ったのか?」
あれっ?ローが話したのか?どこで漏れたんだろう?
「あれだけ教室であからさまにやりとりしてたら、俺の耳に入るよ。ローじゃない」
心の声がこぼれたのかな。
「先生さ。でも…」
「うん、知ってる。暴力沙汰にならず、平和な解決ができた…とローが言ってたが、違うのか?」
「いいえ、その通りです。まったくもって平和な一日でした」
ローがそう言ってるなら、そういうことにしておくのがいいね。
「プラが『タケちゃんは3年生とのくだらない抗争にうんざりしてる。』って言ってたからな。いい方向にいくといいな」
プラはよくわかってるんだよな。そう、俺はうんざりなんだ。喧嘩は得意だけど、陰険な駆け引きとか派閥がどうとか、何代目総番とか…なんかめんどくさい話が多くなって、どうにかしてほしかったんだ。プラは恩人だな。
「プラとアンラッキとローのお陰ですよ。本年度はクラスのために大人しくしてます。安心してください」
「お前がそういうことを言ってくれるとは感動的だが…でも、そうじゃないな」
「へっ?」
「調子に乗ってどんどん物事進めるのはお前の欠点だが、同時にかけがえのない美点でもある。大人しくなんかしてたら、お前はお前じゃないだろう」
アディの言葉に俺はわざとらしく言葉を崩した。
「わかったよ、アディ!どんどん調子に乗って暴れるよ!ワハハハハハ」
「…やり過ぎ注意だけどな。自分の頭で考えて、これは人のためクラスのためって思ったらどんどんやってくれ」
「自分のためだけっていうので、今まできたから、難しいっすね」
それだけじゃないけどね。でも誰かのためっていうのはなかなか難しいことだとも思う。
「ローが頷いたら『やってもいいこと』アンラッキが笑顔になったら『周りの幸せ』、それからプラのために何かやってくれたら…それはたぶん『いいこと』でいいぞ」
アディ、プラのこと大好きなんかな。わかったような、わかんないような。
とりあえず決闘のことはごまかせたし、アディの期待も何となくわかったし、この面談がお説教ではなかったことに安堵して、俺は準備室を出ようとする。アディが呼び止めた。
「先にアンラッキ、最後にプラと話すからそう言ってくれ」
「了解でーす」
次回は章の最終話、アンラッキちゃんとプラの面談です。起承転結つかない話ですなあ。