The Decisive Battle: The Top of the School編 ④
放課後「屋上の決闘」のはずでしたが、学級活動が続きます。学級委員が決まらないと始まりませんからね。
HR2
ホームルーム2時間目は普通『学級組織』ということになる。安達が呼びかける。
「まず、学級委員、自薦他薦問わないが誰かいるか?」
早速武田が元気よく手を挙げる。
「ロー、広尾くんがいいと思います。友達思いでけっして裏切らない男です」
クヨクヨと放課後の決闘のことを思い悩んでいた広尾がハッとして顔をあげる。
「いやいや、そうだけど、でも、そんな友達思いだなんて、はは」
武田の子分と言われている峰が援護する。
「広尾くん以外いないと思います。なにしろつきあいがいいんです」
小学校1年以来、学級委員をずっと続けている広尾はそれには異存がないとしても、彼らは言質をとろうとしている。広尾が放課後、屋上に行くしかない状況を確定させるための推薦であることは間違いない。
周囲はそんな雰囲気を充分感じながらも、広尾の学級委員には異論がないようだ。特に女子、大ファンを広言する神奈川や間瀬あたりはすでにハチマキをしめて応援しようというような目つきになっている。間瀬が手を挙げ、安達に向かって訴える。
「学級委員は広尾くんにやってほしいです。頭はいいし、優しいし、責任感はあるし、正義感もあるし、イケメンだし…キャッ!」
「はははは、ありがとう。間瀬さん。そう、僕は友達を大事にするよ。友達はね。はは」
広尾が何だか奥歯にものが挟まったような物言いで礼を述べた。武田がさらに声をあげる。
「フラはどう思う?」
またしても突然名前を出された富良野だが、例によって動じることもない。
「いいと思う。やりたい人がやるのが平和だ。ついでに女子は間瀬さんがやったらいい」
「えっ!私?…えええっ?そう?でも、いいのかしら?私なんかで」
「『私なんか』というのは言ってはいけない、と学年主任のジマさんが1年の時、言っていた」
富良野と間瀬のやりとりを聞いていた安達が口を挟む。
「プラは学級委員やらないか?」
「やりません。もちろん」
富良野は即答である。しかもなぜか倒置法で。
「それから、なぜ『プラ』なんでしょうか?僕は『ふらの』です。『ふら』というのも公認したつもりはないんですが」
「うん、理由はあるが、俺は『プラ』のほうがいいと思うな」
「…どうでもいいです。学級委員は広尾くんで。僕たちの仲間、代表、真のリーダー広尾くんで」
突然、眠りから覚めたように安楽城が発言する。
「ローくんとプラくんとタケさんが屋上で勝負して決めるのはどうでしょう?」
全員が凍り付き、安楽城を見る。何を言い出すかわからない恐ろしい女である。広尾が言う。
「勝負?僕とプラとタケちゃんで?投票とかじゃなくて?」
「すいません。ちょっと言ってみただけです。取り消します」
武田が富良野と広尾、安楽城を見渡し、ニヤニヤしながら言う。
「プラの学級委員か!面白そうだなぁ!俺もプラに一票!」
「いつの間にか君たちは僕のことをプラということで統一したようだが、まぁ、いいや。それはおいといて、どう考えても無理がある。頭はよくないし、優しくないし、責任感はないし、正義感もない。イケメンかどうかは主観によるが、何より人望が…特に女子からの人気が絶望的にない」
富良野の言葉に女子が一斉に頷く。残酷である。安達が苦笑いを隠さない。
「じゃあ、どうだろう。学級委員は広尾と間瀬でいいか?」
安達が全員に問いかけると、ほとんどの生徒が拍手をし、間瀬がうれしそうに頷いた。男子は若干投げやりで、武田は少しだけ惜しい!という笑顔である。なぜか安楽城だけが不満そうな顔になっている。隣に座っている女子が安楽城にそっと話しかけ、二人でコソコソと喋る。
「アンラッキ、どうしたの?まさか富良野を学級委員にしたかった?」
「全然。プラがもっと困れば面白いと思ってたら、すんなり決まっちゃったし。それから…」
「それから?」
「謙遜かもしれないけど、プラ、自分のこと悪く言い過ぎだよね」
「…学級委員やりたくないから、じゃないの?何でアンラッキが怒ってんの?」
「…さぁ、なんででしょう?」
安達が時計を見て、全員を見回し、話しかけた。
「もう時間はそんなにないが、残りの専門委員を決められるだけ、決めていこう。じゃあ生活委員と保健委員…それから」
2時間目が終わって、休み時間に安達は広尾を教壇付近に呼んだ。
「ロー、今日放課後、少し時間あるか?話がしたいんだが」
「あ、大丈夫と言うか…」
後ろから武田がヒョイヒョイとやってきて、会話に口を挟む。
「アディ、ローは今日の放課後、俺と付き合う用事があるんだ。1時間くらいで済むけど」
安達が訝しそうに武田を見る。
「タケ、ローを脅してるんじゃないだろうな」
「そんな、プラも一緒ですよ。三人で仲良く遊ぶんです」
「ふむ。プラが一緒か」
安達がそれなら…というふうに納得しかけるのを見て、広尾が逆に抗議する。
「先生、何でプラの名前で安心するんですか。それから僕はローじゃなくて広尾です」
安達が笑って、広尾をなだめる。
「悪かった。プラもそうだけど、広尾も信頼してるよ。特に問題はないんだな」
広尾が口ごもる。彼の中で計算がはじかれている。ここで安達に放課後の決闘について告げるのは得なのか、損なのか。するとさらに後ろから富良野がやってきた。
「ロー、大丈夫だ。ここはタケちゃんを信じろ。僕もつきあう」
そのお前がそれほど信用できないんだよ、と言いたかったが広尾はあきらめた。
「アディ先生、問題ないです。3人でちょっと打ち合わせしたいことがあるだけです。1時間したら職員室へ行きますね」
「うん、頼む。…それからその後、タケとプラにも話があるから、順番に一人ずつ来い」
「へっ?」「…僕と話ですか?」
武田と富良野が目を瞬かせた。
「それから…アンラッキ!」
安達が教室の前へ呼びつけ、安楽城が「は~い」とのんきな返事をして、駆けつける。
「アンラッキちゃんも放課後に話をしたいな」
「私と話…先生、独身でしたっけ?うふふ」
安達が薄く笑って、手を振った。
「違うよ、…もう。クラスの話に決まってるだろ。誤解を招く言い方をしないこと」
「冗談ですよ。でも私もちょっと用事があるので、後回しでいいですか?」
「何だ。アンラッキもか」
武田と富良野、広尾がそろって安楽城を見る。
「はい、私もそこの3人と打ち合わせをちょっと」
広尾が驚いて、安楽城を見つめる。
「アンラッキ、どういうこと…」
安楽城がしれっと背の高い富良野の方を向き、超絶可愛い、しかし不幸を呼び寄せる笑顔で言う。
「あれ、私、立会人に指名されたんじゃなかったかな」
今回もスペクタクルな展開になりませんでした。次回こそ不良同士の血で血を洗う決闘を書きたいと思います。